ことばのあやたち ~その1~

斗田翡翠

2,392文字

物語にならない、言葉の断片を集めてみました。

「くじら」

くじらに寄りかかって眠る恋人。

恋人を抱きしめるくじら。

僕は、ベテルギウスから、それを眺めている。

 

 

「冬」

晴れた日の午前、

誰もいない公園のベンチで、眠る旅人がいる。

 

――一枚の枯葉に起こされる。

かさついた指先で、枯葉をなぞる。

死んだばかりの若い枯葉だ。

まだ黄緑がかっている。

 

枯葉は風に乗って、何処かへ消えていった。

旅人もいつの間にか、何処かへ消えていった。

 

 

「椿の花」

水底に、小さな日陰ができる。

役目もなく。

理由もなく。

椿の花は、水中を流れていく。

 

 

「階段」

寒気。右手の震え。涙。過呼吸。

ふいに、虫の死骸を見つける。

全身の震え。吐き気。青白い風の音。

 

 

「短歌5首」

 

トランプが行った居酒屋・ゴルフ場報じるべきは訪日の理由わけ

 

ポップパスボールが小指を離る時タックルを浴び見えぬ歓声

 

前日のワラビーズ戦のキックパス練習試合で怒鳴る指導者

 

ヒゲづらとふたり深夜の洗濯屋チーズドリアをリツイートする

 

コンビニで二人で選んだつくね(タレ)湯気の向こうに君の赤い頬

 

 

 

「老猫」

激戦地の寺の塀を、

気紛れに歩いて、

老猫は何処かへ消えた。

 

 

「オクラ」

宇宙の全てを内包している。

 

 

「夜の浜辺でくじら座を見る」

夜の浜辺で、

くじら座を見る。

良いサイドスローは、

頭がぶれないもんだよ。

そう教えてくれたノリくんとともに、

二人乗りの自転車で、浜辺に行く。

 

夜の浜辺で、

くじら座を見る。

コンビニで、カップ焼きそばを食べる。

ふやけたキャベツと肉の破片が、車止めにこびりつく。

途切れることのないモスキート音と、

大人のしかめっ面。

 

夜の浜辺で、

くじら座を見る。

あれが、くじら座。

あの星が光ったり消えたりするのは、

空とぶくじらの燃料が、無くなるからなんだよ。

ノリくんは教えてくれた。

 

夜の浜辺で、

くじら座を見る。

帰宅してから、親にひどく叱られた。

その後すぐに中学受験の塾に入れさせられて、

ノリくんとは、あれから一度も会っていない。

 

大人になった今でも、

くじら座の星明りは、夜空で明滅している。

 

 

「青酸ガス」

青酸ガスの箱に入る。

外の世界で、何が起きているのだろう。

猫は知る由もない。

 

 

「顔」

どうして写真を撮られる時にわざわざ笑わなきゃいけないんだろう

 

 

「文学になりえるもの」

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中学3年生の姉と、小学2年生の弟の二人兄弟です。

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長男を出品します。

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単身者様、未婚のカップルの方はお断りさせていただきます。

 

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男性、25歳です。

中古につき、細かなキズ、シミ、クスミ、使用感等がある場合がございます。

しかし、動作に支障はございません。

 

――この先どんなに社会が変化しても、文学になりえるもの。

それは、血縁と、身体の代替不可能性だろう。

 

 

「風」

なにも風速計だけではない。

旗、

桜の花、

女性の長い髪、

そういうもののおかげで、

我々は風の存在に気付かされる。

そういうことをどんどん突き詰めていくと、

きっと我々は、文学や芸術にたどりつくんじゃないか。

 

 

「教室」

本質が実存に先立つのが、教師。

実存が本質に先立つのが、生徒。

 

 

「同級生の死」

美しい人が死ぬのは、飴細工が折れるのに似ている。

 

60歳くらいの同窓会で、

中学の時と同じようにゲラゲラ笑ってる、

おばちゃんになったあの人を見たかった。

 

生きてさえいれば、すべての可能性は0%にはならない。

 

 

「副都心線の乗客」

みんな死んだ顔でスマホを覗いている

みんな死んだ顔で眠っている

みんな死んだ顔で生きている

みんな死んだ

 

 

「無題」

たとえば、「蛙飛び込む水の音」も、

お寺の鐘も、神社の鈴も、

その後の、鳥の鳴き声や風の音を認識するための装置なんじゃないか。

寺社仏閣は、レジャーランドではない。

 

 

「野いちご」

縄文人は、適応障害を起こしたりしたんだろうか。

どんなに文明社会が進んでいったとしても、

結局は野いちごを摘んで食べたり誰かと抱きしめあったり、

鳥のさえずりを聞いたり日光浴をしたり、

死者に対して花を供えたり、

そういうこと以上のものって、ないんじゃないだろうか。

 

 

「つらいなら学校へ行かなくてもいい」

つらいなら学校へ行かなくてもいい。

逃げてもいいんだよ。

君が学べる場所は、学校以外にもあるから。

 

--そう言う芸能人は、誰に対しても責任を取らない。

 

 

「ポトス」

若い枝に霧を吹きかけると、気持ちよさそうにしている。

水をやると、翌朝、葉が伸びている。

それだけでよい、

それだけでよい。

 

 

「特別」

特別なものを食べ、

特別なものを着て、

特別な場所を訪れる、

そうすることでしか、アイデンティティが保たれないならば、

 

普通のものを食べたり、

普通のものを着たり、

普通の場所を訪れたりすることが、

もう一切できなくなってしまうんじゃないか。

 

 

「指」

人体で、最も哀しい場所なのかしら。

 

 

「文学」

もう、こうするしか、道はない。

2019年12月28日公開

© 2019 斗田翡翠

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