混詩 「一億判官」 2018.10.04

混詩集 (第3話)

Juan.B

1,125文字

※親愛なる「ふつーの日本人」どもへ捧ぐ

あー

淡々とした女性のアナウンス

酒を飲まされる飛行兵

あー

空母にちっちゃい戦闘機がぶつかって

日本人どもが涙する

あー

一億肉弾

ハンバーグかよ

あー

保守派の烈士は映像を見て陰茎を擦っていた

保守派の烈女は映像を見て股座を弄っていた

あー

学生の手紙が流れる

検閲された手紙が

あー

青年よお前は国のために死ねるか

およよおよよよ

 

死ねるかよバカ

青年が死ぬんじゃなくてお前らが青年を殺すんだろ

マンコから産まれた時点でそんな運命定められてたまるか

いや俺は帝王切開だがね

産まれた時に息してなかったんだぜ俺は

その時死んだ方が良かったな

 

お前らはでっかい兵器に学生をぶつけて勝手に涙する

ぶつけたのは誰か何故かは絶対に問わない

お前らは理不尽な力学に歯向かう弱者に勝手に涙する

その力学が誰の手によるか絶対に問わない

 

とにかく空母に学生がぶつかったんだから

とにかく空母に学生がぶつかったことに涙しろと

とにかく!

学生は敬礼して酒を飲んで戦闘機に乗って女に見送られて

爽やかに爽やかに朗らかに朗らかに青空の向こうに消えて行って

神風の有難さに打ち震えおおおおああああ

ツートントン打電して大いなる歴史の彼方へ

それで良いんだよ

な!

学生は絶対ぶつかって天皇陛下万歳って言って死ぬの

な!

お母さんとか怖いとか悲しいとか言っちゃダメ

な!

あっ米軍様がありがたくも特攻の瞬間のビデオを撮ってくださってました

ドーン

なんて凄いんだろう

人の意思ってのは

いやすめらみことは

ドーン

突撃ー!

鉄血勤王隊とひめゆりも

ああますらたけをがなでしこが飛び散った

それに比べて今の沖縄はどうだ君

君!

沖縄県民斯く戦えり県民に対し後世特別の御高配を賜らんことを

えっへん

言うこと聞かんと基地増やすぞ

 

若人よ君も立ち向かえ

憂国の士ならば!

なお・ただし・残念ながら・悪いが

天皇ヘーカと権力以外に

 

 

なあ

ちっちゃい奴が大きな奴に立ち向かうのが偉いなら

理不尽へ我慢の限界の末に立ち向かうのが最高なら

俺は偉いはずだよ

俺も褒めてくれよ

俺は日本に立ち向かってるんだぜ

俺が権力にぶつかったら最高に褒めてくれよ

赤とんぼが原子力空母撃沈したぐらいに喜んでくれ

お前らの判官贔屓は良く知ってるからよ

難波大助とかも褒めてくれ

あいつステッキ銃一つだったんだぜ偉いだろ

 

忠臣蔵に涙して

殺人犯には死刑だ死刑

一家心中現代の美談

見るべきものは自分より下

どうしていつも自分が義経や大石なのだと思える?

どうしていつも自分が頼朝や吉良でないと思える?

 

弱者に涙する

だが現実の弱者の腕が10°より上を向いてはならぬ

特攻隊に涙する

だがそれは絶対に帰還せず我々に向かわない時だけ

一億自称判官よ

俺の売るチケットは高いぞ

2018年10月4日公開

作品集『混詩集 』第3話 (全12話)

© 2018 Juan.B

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