祈り

谷田七重

833文字

眠りを見つめる自由詩

どうしてあんなにも時計が遅れているのと聞くと、

少女は「失われた時を刻むためよ」と答えた。

どうしてあんなにも時計が進んでいるのと聞くと、

少女は「失われた時を刻むためよ」と同じように答えた。

 

少女の部屋には、大小さまざまな時計があった。

私がつけている腕時計と見比べてみても、

ひとつとして正確な時間を示しているものはなかった。

 

少女は自分からは何も語らなかった。

夢見るような大きな瞳を虚空に向けて、

口元はかすかにやわらかく微笑んでいるようだった。

 

背に手を回しくちづけをしてみても、

少女はぼんやりと私をながめ、

あるかなきかの微笑を浮かべているだけだった。

 

 

ほどなくして私は眠りにおちた。

そうして夢をみた。

白昼夢のような夢だった。

夢のなかで少女は、白塗りの部屋に、白いワンピースを着て、横たわり眠っていた。

その体の下には、きらきら光る砂が散らばっていた。

そのそばに、ガラスのかけらや華奢な木片がいくつも転がっていたので、

きらきら光る砂は、砂時計の砂だとわかった。

 

時を刻むことをわすれた砂の上で、少女は安らかに眠っていた。

やはり口元は、かすかにやわらかく微笑んでいた。

少女は「永遠」の夢をみているのだと思った。

「永遠」という夢を。

そこにはいかなる時間の流れも、存在しないかのようだった。

 

目を覚ますと、少女も傍らで眠っていた。

この少女はきっと、眠っているときも起きているときも、

醒めない夢のなかにいるのだろうと思った。

誰ひとりとして、少女の心の中にまで入りこむことは、不可能のように思われた。

 

私はそっと起き上がり、静かに部屋を出た。

 

 

外は暮れかけていた。

家路につく人たちの群れにまざりながら、ちらと腕時計を見た。

そうして、休むことなく淘汰されてゆく時の流れに、ふたたび身をゆだねた。

2007年5月15日公開

© 2007 谷田七重

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