咎の園 恋の罪(2)

咎の園(第6話)

山本ハイジ

小説

19,607文字

R18/エログロ

 舞台をおりて、原稿を客たちに捧げる。それから、広間をどうオリエンタルに飾ってもこの像が邪魔しているなと思いつつ、サテュロスの陰茎に吸茎をしてから客たちと交わった。しかし断りを入れて、長引きすぎないうちに広間を出ていく。
 これからデートの約束があるのだ。大浴場へ向かい、入浴を済ませ、裸で自室に入るとベッドの上には使用人が奴隷たちの衣装保管部屋から取ってきてくれた、俺の戦利品が広がっている。透明のカバーがかけられ、俺の名前の記されたタグがついているヴィヴィアンの真っ赤なワンピース。胸元がやや開いていて、裾が薄い豹柄のそれは今から会う客がくれたもの。ほかにハンドバッグ、箱に入ったパンプスも用意されていた。
 ベッドの下の引き出しを開けて、身支度をはじめる。黒のレザーのコルセットを締めて、Tバックのショーツを穿いた。その上からワンピースを着て、化粧をし、頭をどうしようかと悩んだ。悩んだ末、長い黒髪のと迷ったがシルバーのボブのかつらをかぶった。
 丈の長い黒の靴下を脚にまとわせ、パンプスを履いて化粧品をしまったバッグを持つと、片手で携帯電話を使い客と連絡を取りながらエントランスへおりる。エデンを出ると少し冷たい風が、ワンピースの裾をはためかせる。背中に翼を有した青年の像のあいだを通り、門前で待っていた車に乗り込めば、ほとんど明け方に近い夜のなか、街に向かって使用人が車を走らせた。

 

 二十四時間営業しているバーで、中年に達しつつも筋肉質で若々しい男の客と会った。しかし忙しさからか、表情はやややつれて見える。カクテルを飲みながらカウンターの下で遊戯をはじめると、すぐに生き生きとしたが。
 時間帯を考えると、客――高田さまは趣味を満喫することができないのではないかと思ったが、幸いにもスツールを一脚あいだに置いた隣で一人、疲れた様子の女が飲んでいた。歓談しつつ高田さまの腿を撫であげ、スラックスのポケットに手を入れる。――ただでさえ派手で目立つうえに、俺の声が明らかに男のものだからか、女は怪訝そうな視線をちらちら向けてきた。
 ポケットの底には穴が開いており、そのまま下着の中に手を潜り込ませれば、高田さまの陰茎をじかに刺激することができる。高田さまも俺の脚を撫で、スカートの中に手を入れてくる。あまり激しく手を動かすと、さらに女から訝られるかも知れない。会話の声量をあげて、下品な話をしてみれば女の視線に心なしか刺々しさを感じた。あくまでさわやかな笑顔を張りつけて接客してくるバーテンダーは、なにを思っているのか察せられない。
 早々とカクテルを飲み干した女が去ると、高田さまは悪戯っぽい笑みを浮かべた。いつもならもっと人がいるところで、バレるんじゃないかという緊張を感じながらポケットに手を入れ、周りの反応を見る。それで、高田さまは楽しむのだ。……高田さまは下着の中を濡らすと、俺の手をポケットに突っ込ませたまま会計を済ませ、バーを出る。閑散とした、まだ人通りの少ない早朝の街を時折下半身を弄り合いながら歩いた。
 今度はホテルに入り、この子供のような悪戯好きの性質を持っている客とおまけ程度に戯れてから、一緒に入浴し、同衾した。起きて、身支度をし直すと、十分に高田さまと別れの挨拶を交わす。
 もう、高田さまのスケジュールに空きはない。「影次くんの催しの映像、絶対買うよ」「引退は残念だけれど、それが君の快楽のためならしかたない」と、言ってくれた。エデンに帰り、自室でかつらとワンピースだけ脱ぐと、ビーズのチョーカーをつけて、レースのロンググローブをはめた。出かけるときに迷った、前髪を横一列にそろえてある長い黒髪のかつらをかぶり、原稿を持つと広間へおりる。少し、遅くなってしまった。
「……ああ、あなたほど綺麗な男の人、ほかにいないわ」
 穏やかなピアノの曲が流れているなか、前座がはじまっている。舞台の上で、少女と美男子が座って寄り添っていた。男女のラブロマンス劇のつもりらしい。……クリーム色のパフスリーブのワンピースを着て、亜麻色の髪を三つ編みにした少女が、相手が有する絹のような質感の灰色の長髪――アフガン・ハウンドの美しい被毛――を撫でながら、表情はうっとりとしているが、棒読み気味の台詞で語りかけている。
 少女がそっと、相手の細長い口吻に幼い顔を寄せた。べろりと出た鮮やかなピンクの舌に小さな舌を合わせ、濃厚な接吻をして見せる。体高が一メートル近くはある相手の舌は、少女の口には――いや、少女にかぎらず人間には――大きすぎて、舌を絡ませながら唇を重ねるような接吻は無理だ。舌を舐め合ったり、少女が相手の舌を吸って飲み込もうとしているようだったり、相手が少女の舌や唇どころか顔中に舌を這わせはじめたりする様は、もはや接吻と呼んでいいのかわからない。
「好きよ、好き……抱いて!」
 唾液で顔が光沢を帯びはじめてきたところで少女が座ったまま後退り、ワンピースの裾をまくった。純白のショーツを脱いで、大きく脚を開いて見せる。白い内股に烙印があるのを一瞬だけ、確認できた。黒子姿の使用人が舞台にあがり、情交を手伝いにくる。
 真っ赤で、グロテスクな陰茎が使用人の手で膣へと挿入されるところで、目を逸らした。ホテルで色々と飲食してきたからさほど空腹感はないが、供されている生ハムやパスタを少しつまみつつ、客たちと適当に雑談する。……アフガン・ハウンドの容姿は優美だが、所詮犬だ。犬に恋をしている少女の様子は滑稽にしか映らない。それと、今宵から語る内容とこの前座の情景がどことなく通じているような気がして、いたたまれない。
 そのうち演技じみた喘ぎ声が静まり、BGMもとまって、舞台から少女と犬がおりる。アフガン・ハウンドが黒子の使用人に引かれ、俺と話しつつ前座を見ていた飼い主である客のもとへ渡された。よく調教した愛犬の頭を、人のよさそうな顔をした客は薬指の第一関節から先が欠けている右手で撫でる。アフガン・ハウンドはつぶらな目を心地よさそうに細め、尻尾を振った。
 舞台に椅子が置かれれば、原稿を手にあがる。観客たちと、おとなしく伏せをしている犬に頭をさげ、Tバックをずらすと椅子に座った。
「……私は――ご褒美だなんて、彼女はそんなこと望まないでしょう。と、旦那さまの命令が下品な意味にしか受け取れず、異議を申し立てました。すると旦那さまは――なに、肉体的なことではないよ。お前と彼女は仲がよかっただろう? 講習で疲れ、傷つくであろう彼女をお前が心で癒してやりなさい。精神崩壊してしまったら、エデンでは使い物にならなくなってしまうからね。
 無理難題だと思いました。しかし命令には従うしかありません。それに加えて、私も伊織と近くにいても心は離れているなんて状態、嫌でした。今後、伊織がエデンの奴隷になれたら、お客さまが兄妹セットでご指名してくださる場合もあるでしょう。私たちの交わりが見世物に供されることもあるでしょう。内心、私を憎悪している思い人を抱くだなんて、つらいです。……今思うと、それはそれで楽しかったかも知れませんが。
 ふと、伊織がエデンの奴隷になれなかったら……? と考え、鳴りを潜めていた猟奇趣味が胸をざわつかせるのを感じ、慌ててそんなことになったら悲しいと改めました。それからご褒美を与えるのは日々の朝か夜、暇ができたら頼むという命令を聞き、自室で寝て起きて、お客さまのお相手をしていたらあっと言う間に夜です。入浴を済ませ、ショーツ一枚だけ穿いた上から総レースのガウンを着て、伊織の部屋へ向かいます。……一緒に生活する以上、もうなにも隠せないとわかりつつ、ガウンの前はしっかり閉じました。
 講習中、と彫られたプレートがさがっているドアの前に立つと、絶大な不安とほんのわずかの愚かな期待が渦巻きます。彼女は私をペテン師の子分だと、拒絶するだろうか。それとも、疲弊しきっているであろう彼女は最後の頼りとして、いまだ姿を見せない思い人である私を愚かしくも信じ、求めてくれるだろうか。ああ、とにかく優しくしよう。そうすればなんとかなる、はず……。
 ノックをし、自分でも情けなく感じるほどの小さな声量で呼びかけました。反応はありません。声だけではなくノックも弱々しすぎて耳に届いていないのか、またはたんに寝ているのか。寝ていたら帰ろう。……勇気を出してノブを握り、できるかぎり音を立てないようそっーと、ドアを開けました。
 室内の明かりが漏れてくると後悔がわいてきましたが、もう入るしかありません。伊織はベッドの上で上体を起こしていました。さっきまで横になっていたが慌てて起きたという有様で、髪が乱れています。すでにエデンの奴隷らしくコルセット姿のはずですが、布団を引きあげていて体は見えません。
 いざ顔を合わせると、なんて声をかけたらいいものか困り、黙ってしまいました。彼女もなにも発さず、呆けたようになっていました。ああ、強姦しにきたわけではないことをとりあえず伝えなければと思った瞬間、彼女が急に垂れ目を見開きます。――なによ、出てってよ。と、低く落とした声が発されました。
 一緒に会食やお出かけをしていたときに聞いていたやわらかな調子の声からかけ離れた、恐ろしく冷たい声でした。当然、絶大な不安のほうが当たってしまい、一気に絶望感に襲われます。私がなにも返せず、弱々しくしているのを見てか、彼女は小刻みに震えながら――あんたも変態共の仲間だったんでしょ! 出てって! 出てけよ! と、礼儀正しく優しかったはずの彼女からは想像もできないほどの激昂を起こしました。
 胸を覆っている布団を押さえながら、彼女は枕を引っ掴み、私へ向けて投げます。それを手で防ぐと、私は一言――ごめん、とだけ言って、すごすご退散しました。後ろ手に閉めたドア越しに、慟哭が聞こえてきます。……彼女が受けたものより弱いでしょうけれど、ただただショックでした。
 傷つき、私に失望し、そのまま死んでしまった小夜子をなぜか思い出し、忘れかけつつもそれはしっかりトラウマとして私に刻まれていたようです。自室に戻り、私はヘマをしてお客さまや使用人に怒られたとき以上に落ち込みました。もう、この恋が成就することはないだろうとあきらめます。ベッドに転がり沈んでいるとノックの音が響き、返事をする間もなくドアが開きました。タオル地のガウン姿の旦那さまが室内に入ってきます。リアルタイムに先程までの様子を見ていたのでしょうか。
 ――伊織のオークションの映像をこれから見ようと思うんだが、お前も一緒にどうだ? と、誘ってくれます。それを見てエロチックな気分にはとてもなれそうにない心境でしたが、父親に慰めてもらえれば少しは晴れるかも知れないと思い、うなずきました。ベッドをおりて、旦那さまの部屋へ連れ立ちます。
 部屋に入ると旦那さま自らがDVDをセットして、サイドテーブルに用意されていたグラスにワインを注いでくださいました。一緒にグラスを持ってベッドに座り、ワインを飲みながらテレビ画面を眺めます。……そそる映像ではありましたが痛々しく、よけいに滅入ってしまいました。
 直接見た、エントランスで伊織が戸惑っているところから映像は収録されています。部屋に連れていかれ、使用人たちに手早く服を脱がされ、彼女は泣きわめいていました。――なにっ!? なんなのっ!? と繰り返す彼女を使用人たちは押さえ込み、装飾のない水色のブラジャーとショーツから透けた嫌らしいランジェリーに着がえさせて、涙と鼻水で濡れた顔を拭うと化粧を施します。そのまま彼女は部屋を出され、今度は広間に連れていかれました。
 あとの内容はほぼ、笹沼夫人が私に語った通りです。かわいらしくはあるのですが彫りが浅くて地味な印象もあった彼女の顔は化粧でだいぶ華やかになり、娼婦の身なりがなかなか様になっていました。が、涙ぐみ、瞳は不安げに揺れ動き、透けたベビードールの胸元を必死に隠しています。リボンで飾られたショーツも布が薄く、かすかに陰毛が透けて見えていましたが、彼女はそこまで気が廻っていないようでした。
 彼女は恐慌を起こしてしまう可能性があるからでしょうか、使用人たちがそばにずっとついています。ここからは小型カメラではなく、使用人が撮った映像のようで彼女とその周囲ばかり映されていたので、少し離れたところにいるらしい旦那さまの姿は見えませんが、声が響きました。――私の娘、伊織です。みなさま、存分にお楽しみください。それが合図のようにお客さまの一人が彼女に近寄り、胸の前の自傷痕が目立つ腕を払うと乳房を鷲掴みました。彼女は悲鳴をあげてお客さまを手で押し、広間のドアへ振り向いて逃げようとしましたが当然、すぐに使用人たちに捕まってしまいます。
 怖面の使用人たちに怒鳴られ、すくみあがってしまった彼女は乳房を鷲掴んだお客さまに――なんだい、まんこは処女じゃないんだろう。かわいこぶってるんじゃないよ。と、笑われながらショーツ越しに股間を擦られていました。そしてほかのお客さまがやってくると――不格好な尻をしているな、と目につくであろうむっちりとした尻から太腿を撫でられます。
 彼女はうつむいて、ただ震えていました。画面に笹沼夫人が映り――まあ、これも魅力なんじゃないか? 触り心地がよい。と、彼女の尻に触れます。彼女はそのときは顔をあげて、訝しげに男装の麗人に視線を向けていました。
 普段、安易に手を出したら捕まる危険性のある外界の子の新鮮さに惹かれてか、それからわらわらとお客さまたちが集まり彼女にねちっこく悪戯をしていきます。確かに、めずらしいでしょうね。ほかの奴隷や、一応外界から来たはずの私でも品定めの宴前の自室で着がえさせられるシーンなんて省かれているでしょうが、彼女はわざわざ保存されているくらいですからね。……お客さまの一人が――君の兄は少年にしてひどい雌(ビッ)犬(チ)だったぞ、と彼女の肌をくすぐりながら話しているのが聞こえてきて、彼女から叫ぶように言われたあんたも変態共の仲間だったんでしょ! という台詞が生々しく浮かんできました。兄、という単語に反応したのか彼女の両肩が小さく跳ねます。この瞬間、彼女は私に失望したのでしょうか……。
 テレビからではなく、隣から旦那さまの声が聞こえてきました。――あきらめず、一生懸命声をかけつづけてやりなさい。彼女の支えはお前にしかなれないんだよ、という慰めはこのときだと表層的にしか私の耳に届かず、ワインを飲み干すと音を立ててグラスをサイドテーブルに置き、ベッドに倒れます。――もう、眠いです。と言うと旦那さまはため息を吐きつつ自分のグラスを置いて、テレビを消しました。ちょうど伊織が広間から出され、部屋に戻されるところでした。
 照明を落とし、ベッドに入ってくる旦那さまに、私は少しでもこの憂鬱を紛らそうと――抱いてください、とねだりました。旦那さまは――眠いんじゃなかったのか? と笑いつつ、私のショーツに手をかけます。ひとりよがりな償いもしたかったので――乱暴にしてください、と付け足しました。
 希望通りにしてくださいました。諸悪の根源にただ突き込まれるだけの、苦痛しか与えられぬ性交をおえてから目を覚ますと、陽光射すベッドの上に私一人しかいません。サイドテーブルには途中まで見たオークションのDVDと、もう一枚、講習と記されたシールがケースに貼られたDVDが置かれてありました。……痛みと睡眠である程度精神が回復すれば、やはり興味を抑えられないところがあり、つと手を伸ばします。
 まずはつづきを見ました。初物オークションの様子が短めに編集されて、収められていました。お客さまたちは悪戯で満足してしまったのか、入札は多くはなく、夫人が大声で提示した七十万で価格がとまりました。通常ならオークションの進行役を自ら務める旦那さまの隣で、エデンに昇る奴隷が自分の初物の価値はどんなものだろうかと一喜一憂している表情が見られるのですがね。つづいて糞のオークションがはじまりましたが、それは飛ばしました。それから映像が切りかわり、伊織の部屋が映されます。
 またここからは、至るところにいろんな角度で仕掛けられている小型カメラの映像です。手枷と足枷に拘束されてベッドの上で泣き、使用人に避妊薬だと思われる錠剤を無理やり飲まされてからショーツを奪われわめく彼女を見ていたら、陰茎が立ちました。自分に心底呆れつつ官能に任せて陰茎に触れましたが、思い直して後ろを使うことにします。使用人が盥から浣腸器を取り出すシーンになると、排泄がおわって後ろをほぐされるところまで映像を飛ばしてから……私、汚穢趣味はそれほどないもので。見るだけなら擦りつけるなどは嫌いではないのですがね……乱暴にされてひりつく肛門に指を挿入しました。ローションに塗れた彼女の後ろを凌辱する使用人の手の動きに合わせて、指を動かします。
 使用人が去ると、美男子がベッドにあがってきました。話で聞くのと、映像で見るのとではやはり官能に働きかけてくれるものが違います。夫人の装備している凶器で最後の純潔を傷つけられ、断末魔をあげる彼女を見ながら私は達しました。快楽に溺れながら、ふと、映像の中の彼女が着ているベビードールとおそろいのものが猛烈に欲しくなりました。手淫を楽しんでいる今、彼女と一体化した気持ちになってより快楽の度合いをあげるため、着たいのです。……それから、次々と訪れるお客さまたちに犯され、ベビードールを裂かれ、白い肌を汚される凄惨なシーンがつづきました。彼女は悲鳴をあげる気力さえ失ったのか、精巧にできたラブドールのようになっていました。
 二回目のドライオーガズムを味わってから、映像をとめます。そうゆっくりもできませんし、なにより昨日の彼女の様子も気になるからです。つづきはまた余暇に見ることにして、講習のDVDをセットし、サイドテーブルに置かれていた煙草に火を点けました。
 映像は、目を覚ました彼女が旦那さまと使用人……彼女の講習の担当は私の時と同じく、戸渡さんのようです……からエデンについての説明を受けているところからはじまりました。予想、想像、妄想すらできなかったであろう、告げられたあんまりな真実と自分の今後の運命が現実的に感じられないのか、彼女はなにも言葉を発さず、ただぼんやりとした表情を浮かべています。
 シーンが変わり、彼女は汚らしい布切れと化したベビードールを肌に張りつかせた姿から、裸身に鮮やかなブルーのエナメルのアンダーバストコルセットを締めた姿でベッドの縁に腰かけていました。入浴は済ませたようです。性別で分けられてなどいない大浴場で彼女が戸惑ったり、コルセットで腰を締めあげられて苦悶したりする様子は収録されていないのかと残念に感じましたが、いや、別で保存されているかも知れないと期待を新たにしました。片手で両乳房を押さえ、もう片手は股間に置いて、床を見つめている彼女の前に戸渡さんが立ちます。
 ――今更、隠さない。と、戸渡さんが彼女の両手を払いました。かわいらしい乳首と、こんもりとした繁みが露わになります。そして戸渡さんは昔私を講習したときと同じように、スラックスから唐突に陰茎を取り出しました。――これを、手と口で愛撫してください。
 そう命令されても、彼女はうつむけていた顔をあげて陰茎を怪訝そうに見ているだけで、なかなか動きません。戸渡さんが彼女の手を取り、陰茎に触れさせます。が、彼女は掴まれた手を一生懸命引こうとしています。
 戸渡さんが彼女の頬を軽く叩き、ドスのきいた声で怒鳴りました。すると、かわいそうに彼女はびくついて、それからようやく陰茎に絡ませた細い指をそっと上下に動かしました。戸渡さんが声色をやや穏やかにして――上手にできたら、コルセットを緩めてあげます。……私の時と同じく、ナイフを突きつけられ脅されながら、彼女は命令通り口も使いはじめました。
 それは、もたもたとしたヘタな性技で、かわいかったです。ああ、彼女はやはり男性経験などほとんどなかったのだ。私は吸っていた煙草を灰皿に揉み消し、今度は男の快楽を味わおうと半立ちの陰茎を握りました。
 しかし見ているだけの私は彼女をかわいく感じますが、戸渡さんは当然、どうアドバイスしても一向にうまくやれない彼女にいらだっています。また声を荒らげ――今まで彼氏の一人もいなかったんですか? 私はあなたのお兄さんの講習も担当しましたが、彼のほうが上手でしたよ! と、床を蹴って彼女を脅かします。あまり、私の名を挙げないでくれ……と思いつつ、私は拙く動く彼女の指と唇で、ベッドのシーツに精水を散らしました。
 戸渡さんの陰茎が大きく張り、やっと放出するまでの短くはないあいだ、戸渡さんは片手で腰に吊ってある重い鞭を抜き、床を打ったりしていました。そして、彼女が口内に放たれた精水を飲み込めず吐き出してしまう失敗を犯すと、戸渡さんは彼女に後ろを向かせ、豊満な尻を鞭打ちました。尻肉が揺れ、悲痛に満ちたなんとも色っぽい悲鳴があがり、すぐに白い肌は真っ赤に染まります。
 興奮しつつも、私は自分が講習で戸渡さんのあの鞭に罰せられたのは汚穢遊戯の訓練に入ってからだったな……と思い出し、はたして彼女はこんな調子で講習を乗り切れるのかと心配になりました。きっと、あのお尻は青痣だらけになってしまうことでしょう。
 それから彼女は、輪姦で傷ついているであろう女陰と肛門に軟膏を塗り込められてから、後ろを拡張してくれるショーツを穿かされました。そのまま、コルセットを緩めてもらった様子なく、舌使いの訓練のシーンはつづきます。彼女が戸渡さんの手や足を延々と舐めさせられているのを、早送りを使って断片的に見ました。
 ほかは嫌がる彼女に戸渡さんが無理やり舌を絡ませる深い接吻をしたり、見ていてちょっと笑ってしまいましたが、陰茎に巻きつけたスパゲッティを食べさせたりしていました。彼女、口元をスパゲッティのケチャップで真っ赤にしながら、とうとう泣き出してしまいました。
 ……やはり、伊織はエデンの奴隷なんて無理なんじゃないのか。と、思ってしまいます。私の場合は常識もなにもない退廃した悪童へ仕立てられてから、ここには快楽のみに釣られて来ましたが、彼女は当然そうじゃないのです。ここには、健全な幸せを求めてやってきたはずです。快楽なんて卑しいご褒美で、彼女は癒されない。彼女はエデンで、頼れるものがない。
 旦那さまが言っていたような純情なご褒美、私じゃ彼女に渡せないし、私じゃ彼女の頼りにもなれないな……と、あとで使用人が片づけてくれるであろうシーツの、手淫で放った精水の染みをなんとなく眺めつつ考えていたらまた落ち込んできました。彼女と同じく外界から来たはずなのに、私は堕落しすぎている。
 外界、外界……テレビから響く彼女の泣き声と戸渡さんの怒鳴る声を聞きながら、外界という言葉を頭の中で繰り返します。そして、しばらくそうしていたら、はっとしました。
 夜になると私はまた勇気を出して、伊織の部屋へ向かいました。彼女はベッドで布団に包まり、倒れています。私を横目に見ながら――なんの用? と、刺々しい口調で聞いてきました。
 私は――お父さん……旦那さまに、君の様子を見て、話を聞いてやりなさいと言われている。と、応答します。彼女は――あんたと話すことなんてなんもないわ。と、低く、やや荒げた声で答えました。冷たく、拒絶的ではありましたが、ヘタなことを言わないかぎり激昂を起こす気配はありません。もう、ヒステリーを起こす気力さえ残っていないのでしょう。
 改めて、外界できちんと常識を育てられた子にはエデンはつらいのだと思いました。……私は今朝思いついたことを実行してみようと、できるかぎり感情を込めて言いました。――俺も、本当は嫌なんだ。こんなところ」
 観客たちの一部がざわついたので、俺は苦笑を向けて言った。
「もちろん、嘘ですよ。……そのまま言葉をつづけました。――騙して、君までここの住人にしてしまったことは本当にすまないと思っている。などと伝え、彼女の反応をうかがいます。彼女は、なにも返事をしてくれません。彼女の心に波紋を起こせたことを祈りながら、部屋を出ました。
 それから私はほぼ毎日、外界の心を忘れていない振りをしながら伊織の部屋に通いました。伊織まで失いたくない、これは彼女を救うためなんだと思うことで罪悪感を抑えつつ、映像で享楽はしっかりと得つつ……自分もエデンには騙されて連れてこられた存在なのだ、君と同じ境遇なのだとアピールしました。まあ、別にこの辺は嘘じゃありませんしね。
 その甲斐あってか、彼女は少しずつ普通に私と口をきいてくれるようになりました。ある日の夜、部屋を訪ねてドアをノックすると、ちょうど彼女が手で胸の前を押さえながら廊下からやってきます。乳房を隠している手は自傷癖が再発しているのか、ひっかき傷だらけでしたが私はそれにはとくに触れないようにしていました。私のそばまで来ると、彼女は急に――ここって、どこまで監視されているの? と聞いてきます。
 ――どこまでって? と返しながらドアを開けてあげます。彼女は――あまりうろちょろするなって怒られた。と、眉をひそめて言いつつ部屋に入りました。私も彼女につづいて部屋に入りながら――カメラのないところがないな、と正直に答えます。彼女はベッドに腰かけて――なら、ここも当然見られているわけね。と、部屋の中を見廻す素振りをしてから、ため息を吐きました。――こっそりコルセット外したら、あとですごく怒られたし。
 普段は奴隷の一挙一動なんてそこまで見張られてはいないでしょうが、まだ講習中の上にこんな調子の彼女に対する監視は厳しいようです。私は自分の講習の時はどうだったかな……と思い出しつつ言いました――外から来た君に対してはとくに神経質になっていると思う。俺も最初は……そのとき子供だったけど、つねに見張られてた。
 そのまま言葉をつづけます――つらいだろうけれど、とりあえずは使用人たちの言いつけに従って、エデンと同調したほうがいい。と言うと、彼女の目つきが険しくなったので、私は念のため声を小さくして――フリでいいんだ、淫売になったフリで。と付言しました。さらに――すれば監視もいつかは緩くなる。と、足します。
 黙っている彼女の体の至るところにある青痣に目を遣り――痛いだろう? あの鞭。君には傷ついて欲しくない。それに……講習を乗り切れないと、死ぬほどつらいだろうけれどとりあえずはエデンで過ごさないと、本当に恐ろしいことになるんだ。
 私のこの説得は、少々危険ですが彼女に“とりあえず”の希望を漠然と感じさせる目的がありました。その希望は、タイミングを見ていつかはっきりと口にするつもりでした。エデンにとってあまりよろしくないことでしょうけれど、私が彼女の支えになるにはこれしかないなと思い至っていたのです……。
 それから、彼女は私の話に出てきた“外から来た”と“本当に恐ろしいこと”という部分に引っかかりを覚えたのか、色々と質問をしてきました。すべて答えてあげます。ついで、すでに説明を受けているであろう事柄も含めてエデンについて丁寧に教えてあげました。恐ろしいこと、この情報は私が彼女を騙していたことに対するさりげない弁明になります。そんな会話をしているうちに、ふとあることを思いつき、彼女に寄りました。
 両手で自分の肩を抱いたまま身を硬くする彼女の、ブルーのコルセットに手を伸ばします。――それ、ここの制服みたいなもんなんだけどさ、苦しいだろう? 少しのあいだ外して、休ませてあげるよ。と、バスクに触れました。彼女は――部屋は監視されてるんでしょう? と不安げに聞いてきましたが、私は――大丈夫、俺が勝手にやったことだから。怒られるのは俺だよ。と、笑って見せます。
 内心、これは私が彼女にあげる“ご褒美”だから、そう咎められることはないだろうと安心していました。屈んで、彼女からかすかに香る柑橘系のソープのにおいを楽しみながら、バスクを外します。彼女はほっと息を吐いて、強制的に伸ばされていた背筋を曲げました。お腹がコルセットの締めつけで赤くなっています。それからの日々、こんなふうに彼女に配慮をし、エデンについて質問されたら答えるようにしました。
 しばらくして、伊織の性交講習がはじまったことを映像で知りました。ようやく輪姦の傷が癒えた様子の女陰から、ディルドショーツで拡がった後ろを丹念に愛撫され、貫かれる映像は私を思春期の少年の気持ちにします。
 執拗に陰核を舌でなぶられながら、膣を掻き廻されてはさすがの彼女も堪らないらしく、気を遣っている様子がありました。白い肌を紅潮させ、下肢を震わせつつも口に手を当てて嬌声を必死に押し殺す、そんな奥ゆかしい乱れ方です。このいじらしい所作、お客さまのお相手をするときに真似してみようと思いました。
 しかし、やはり彼女は快楽なんて卑しいもの求めていないようです。罰が怖くないのか、私の言ったことが伝わっていないのか……彼女は気持ちよいはずの愛撫も、もうさほど痛みは伴わないはずの膣か肛門を使った性交も、舌使いの訓練のとき以上の嫌悪と抵抗を見せていました。戸渡さんが彼女を強引に抱きながら――あなたのその清純さは最初のうちは受けるかも知れませんがね。ですがきっとそれはすぐに飽きられるし、思い通りにならない、自分の快楽に従順に奉仕してくれないあなたにお客さまはいらいらします。快楽って、エゴイストなんですよ。と、怒鳴っていました。
 この期間、彼女の部屋を訪ねると、彼女は犯されていることをはっきりと言いはしませんでしたが――もう嫌だ! 家に帰りたい! などと、よく私にヒステリーを起こしながら叫びます。家、というのは天使の家のことなのか、彼女の無い実家のことなのかはわかりませんが。鬱積しているものを吐いて、ある意味、私に甘えてくれていました。
 私は、自分の性交講習は楽しんでいました。エデンにこんな清純なかわいい子はいないなと思いながら、泣いたりわめいたりする彼女を優しく慰めます。私は彼女の背中をさすってあげたり、彼女は私に寄りかかったりと、結構触れ合えました。まだ彼女、乳房は手か布団で堅固に覆っていましたが。
 ――いっそ死にたい、リンボとかいうところに堕ちたい! と彼女が漏らしたとき、私はつい声を荒げて――そんなこと言わないでくれ! と、本気で言いました。彼女は肩をびくっと震わせてから――ああ、あなたもあんなことさせられているのよね。男なのに……と、力なく呟きます。
 それから、伊織の性交講習は攻撃の訓練に入りました。ペニスバンドの扱いはたどたどしかったのですが、鞭さばきは意外とうまくてドキッとしました。戸渡さんの尻を打つとき、心なしか彼女の表情に憎悪の色が見えます。……そして、少し日が経ってから、彼女を訪れると様子が変でした。布団に包まって横になったまま、一言も発しません。
 ――どうしたの? 具合でも悪い? と聞くと、やや間を置いてから――あなたもあんなことさせられているの? と、布団の中からくぐもった声が聞こえてきます。そのときはなんのことなのかわかりませんでした。あとで彼女の映像を楽しむ際に、私は自分の講習でいちばん苦労した訓練は攻撃の訓練とほぼ同時にはじまったことを思い出しました。
 性交講習で後ろを使う前にする浣腸シーンですら飛ばしていた私ですが、そのときは怖々としながらも、彼女の口内が糞尿に犯されているのを見ました。もう、今後のことを考えたら目を背けていても仕様がないことです。しかし伊織の汚穢の様子を、私の口であまり詳細に描写することはちょっと……ご容赦ください。やはり、好きな女の子が漏らすところは衝撃的すぎました。
 でも泣きながら、噎せながらスプーンを使って食べているところは憐憫とわずかの興奮を覚えます。それから私は汚穢や食糞趣味のお客さまのお相手をするときは、少しでも感度を高められるようにするために彼女のその情景を頭に浮かべました。
 しばらくのあいだ、会いに行っても彼女は布団の中で――ここは異常だ、などと外界からしたら今更であろうことを呟くばかりで、私もこればかりはなんて声をかけたらいいものかわからず、ろくに言葉も交わせません。どう慰めようか悩んでいましたが、その方法はある日の朝部屋を訪ねると、彼女が示してくれました。
 突然、彼女は片手で胸を押さえつつベッドから起きあがり――ケータイを貸して、と私にもう片手を差し出します。彼女、私物は当然すべて捨てられています。それをひどく嘆いていたことがありました。私は驚いて――エデンの客層は前に話したはずだ。どこに連絡しようがなんにもならない、と言うと、彼女は――友達に電話したいだけ。よけいなことは絶対に言わないから、と。
 伊織には仲のよい校友がいた、ということを思い出しました。彼女が携帯電話でなにをしようがたいしたことにはならないと思いますが、彼女自身は大変なことになってしまうかも知れない不安から躊躇してしまいます。……が、すがるような視線に同情して、結局は携帯を彼女の手の平に載せました。彼女は――ごめんね。またあなたが怒られるかも……と、潤んだ目を細めて微笑みました。
 知らない番号に応答してくれるのかという心配がありましたが、部屋から出て待っていると、そのうち話し声がドア越しに聞こえてきます。話している内容まではわかりませんが――ごめんね――元気だった? などという彼女の言葉が耳に入ります。ややあってドアが開き――ありがとう、と携帯電話を返してくれます。彼女、涙ぐんでいました。
 そのとき、廊下から戸渡さんがやってきましたが、とくになにも言われませんでした。
 友達に電話は前から彼女が考えていた行動かも知れませんが、排泄物を口に入れるという外界ではありえない、非人間的な行為を強いられている今、人間的な外界と連絡をしたい気持ちが強まったのか、それとも、最期に友達の声が聞きたくなったのか……と、ふと想像を巡らせ、怖くなりました。彼女はいつか戸渡さんの陰茎に噛みつきでもして、故意にリンボに堕ちるという自殺をしてしまうんじゃないかという懸念を私は覚えていたのです。希望をそろそろ口にするべきか、と考えました。
 また少し日が経ってから、彼女を初めて抱いた記念の夜、懸念は幸いにも杞憂でおわっていたことがわかりました。伊織の訓練は最初からもたもたとしていましたが、汚穢の講習に入ってとうとうにっちもさっちもいかなくなった彼女に戸渡さんが私の時と同じく、リンボを見せたようです。実際の辺獄の光景に心底恐怖し、青ざめて戦慄している彼女を慰めてあげました。奇形と化していたり、腹をふくらませていたりする奴隷たちのなかには見覚えのある顔もあったことでしょう。
 ――もう、あたし、どうしたらいい? と、死にも行き場をなくし……第一、リンボに堕ちたら死よりむごいことになる可能性があります……嘆く彼女を見て、ここだと思いました。そっと、彼女の耳元に口を寄せて――だから、耐えてくれ。今に。ずっと俺一人だったけれど、君がようやく得れた唯一の仲間なんだ。と、囁き、小さくしている声をさらに小さくしてから――……勇気が出たよ。だから、いつか隙を見て一緒に逃げよう。こんな地獄のようなところから。と、嘘の希望を与えました。
 そのまま大胆に彼女を抱き締めてみます。内心、これは彼女を救うためなんだと自分に言いながら、彼女の長い黒髪を撫でます。彼女、乳房を覆っていた両手を私の背中に廻してくれました。そのまま、深く口づけをしてみます。彼女、舌を絡め返してくれました。腰かけていたベッドに二人して倒れます。
 ついに彼女は、私を信じることで楽園という名の地獄で少しでも救いを感じようと、私を受け入れてくれたのです。部屋のカメラの存在を忘れて。……思いのほか早くに訪れた機会に感動しながら、まずは彼女のコルセットを外し、私は着ていたガウンを脱ぎました。そして、伊織のやわらかい体を愛撫し、白い肌を賞味します。とくにやわらかそうなお尻から太腿はあまり触ったら嫌がるだろうと思って、我慢しました。
 もううすら湿った彼女のショーツを取り払うと、ディルドで拡がった後ろが目につき、興味がわきましたが抑えて、ちゃんと正道に指と舌を使いました。一回達させて十分潤してから、正常位でつながります。好き放題動かず、様子を見ながら突きつつ陰核もくすぐり、胸も愛撫し、紅潮した顔に時折キスして、愛の言葉を囁きます。養ってきた技術を駆使して、奉仕するように彼女を抱きました。……正直に申します。この記念すべき夜に、私はやや失望感を覚えていました。
 講習で伊織を何度も抱いている戸渡さんに羨ましさを感じていました。が、実際に抱いてみたらどうでしょう。伊織が被虐されているところを見て、感情移入しながら手淫していたときのほうが気持ちよかったのです。快楽はエゴイスト、という言葉を頭に浮かべつつ、避妊薬を飲まされているとは思いますが膣から陰茎を抜いて、少し時間を要してしまった放出を彼女のお腹の上にしました。
 いや、しかしもちろん、感動はありましたよ。恋した相手と情を交わせたのですから。彼女の体に撒き散らした精水を丁寧に拭いながら、抱いているときに伝えましたがもう一度――ずっと好きだった、と告白しました。彼女は放心しているみたいになっていましたが――うん、としっかりうなずいてくれます。それから、一緒に寝ました。腕の中の体温に感じる愛しさ、なんとも言えない多幸感。お客さまを抱いたり、または抱かれたりでは得られなかった感情です。
 それに快楽との釣り合いは……なんか、うまくいかないものなのですね、その辺。
 こうして私たちが恋人同士になってから、伊織は乳房を隠そうとしなくなりました。私の前や講習中だけでなく、部屋の外ででもです。
 そこに、彼女の静かな決意を感じます。やはり彼女は強い人です。講習も受動的に、とりあえずは抵抗をしなくなっていました。コルセットも私の場合より時間はかかりましたが、慣れてフルクローズできるようになっていました。ウエストが細くなって、下半身の豊満さがより強調されます。
 恋人同士になりましたから、彼女を訪ねれば体を重ねることがありました。時折、妙に擦り寄ってきてくれたりして、彼女からそういう雰囲気を作ってくれます。
 ついで、彼女自らが手と口を使って動かなければならないたぐいの性技をそれとなく教えてあげたりしました。この辺は私が講習したと言っても過言ではありません。……結局、ご褒美は下品なものになってしまったなとふと思いましたが、私の手の中で安らかそうな表情を浮かべている彼女を見たら、そんなふうに思っては悪いなと改めました。伊織は私を愛していて、それで求めてくれるのです。講習中、別に愛もなにもなく、ただ欲のみで淫靡なご褒美を貪った私の場合に比べたら、ずっと純情です。
 愛の行為をおえると、ベッドの中で彼女はよくエデンからの脱走の話をします。それは適当に合わせていました。
 そして、色々な性技にまだ不安を残しつつも講習最終日がやってきます。私は勤めをおえた深夜に、伊織の仕上げの様子を収めた映像を楽しみました。ガータータイツとコルセットを身に着け、ショーツは穿いておらずディルドを尻から尻尾のように生やした姿の彼女が、首輪の鎖を戸渡さんに引かれて四つ足で廊下を歩いていました。表情はこわばっていましたが、しっかりとした四足歩行です。途中、彼女は犬の鳴き声の真似をすることを強いられたりしながら、鎖を引っ張られ厨房へ向かっていきました。
 そこで待っていた使用人たちに、彼女はディルドを抜かれて輪姦されます。おとなしく受け入れ、使用人の陰茎が顔の前に突きつけられれば手と口を使い、尿を浴び、浣腸された牛乳を皿に出して飲み干す……そんな伊織の姿に私は異様な美しさを感じました。そう、古風なサドマゾ小説に出てくる、愛を希望にして被虐に耐える女性を連想したのです。体を張る女性の健気さ、潔さ、強さ、美しさ……。エデン脱出についてはぐらかしつづけるつもりの私を信じて、彼女は講習を乗り越えました。
 昼過ぎの余暇に、休んでいる彼女を十分いたわってあげました。そして、すぐに水揚げの日です。お客さまである笹沼ご一家は私と旦那さまも快楽のお供をするようにご指名してきました。私と伊織は着る衣装を指定されていて、私は自室でサテン地の真っ赤なコルセットを締めて同色のショーツを穿きながら、ある心配を感じていました。毛などない、綺麗すぎる自分の体を触らせてはいますが、やはり外界の常識に照らし合わせられたら、私のこの着飾った姿を見て、彼女は引いてしまうのではないか? と。
 そんな不安を覚えつつ化粧をして、前髪を横一列にそろえた長い黒髪のかつらをかぶり、用意されていた黒いヴェールで頭を飾りました。ヴェールには真紅の薔薇が咲いています。部屋を出て、三階へ向かうと私とおそろいの、しかしコルセットとショーツ、ヴェールの薔薇は青色の格好をした伊織が自分の部屋の前で待っていました。旦那さまもいます。彼女は私を見ると目を見張り、やや間を置いてから――なんか、あたしより美人じゃない? と、笑いました。
 ずれた反応に呆れると同時に、ほっとします。間近で彼女の華やいだ姿を眺めて、ふとある疑問点に気がつきました。旦那さまに押されたはずの烙印はどこでしょう? 旦那さまが――じゃ、行くよ。と私たちを促し、彼女が私に後ろを向けた瞬間、目に入りました。右の尻たぶで薔薇が赤々としているのが。
 笹沼ご一家をお待たせしている旦那さまの部屋へ連れ立つ途中、色々と話しかけてくる旦那さまに向ける彼女の目は冷たかったです。いちばん恨むべき、諸悪の根源ですからね。旦那さまが苦笑しつつ――お客さまにはそんな目つきをしないように、と言いながら自室のドアを開けます。レザーのフェティッシュなデザインのワンピースを着て、持っている鞭を弄んでいる夫人と、学校の品格のよさがわかるようなブレザーの制服を着崩し、髪を金になるまで脱色してすっかり不良になったご子息がテーブルについていました。夫君は純白のふわふわしたベビードールをまとった体を縄で縛られて、夫人の足下に転がっています。
 夫人が――まあ、かわいらしい花嫁たちね。と、ヴェールをかぶった私と伊織を見て、微笑んでから――伊織ちゃん、お久しぶり。と、彼女に声をかけました。彼女は笹沼ご一家、とくに夫君よりも旦那さまの耽美なコレクションに気を取られていたのか、室内に這わせていた様子の視線を慌てて夫人に向けます。が、女の姿の夫人を見てもすぐには思い出せなかったようで、彼女がはっとするまで少し間があきました。
 そして遊戯は――あたしは影次と遊んでいるから、まずはあなたたちで伊織ちゃんを賞味しなさい。と、夫人が旦那さまとご子息を指し示しながら言いました。彼女は旦那さまと聞くと一瞬表情を歪めはしましたが、抵抗せずにおとなしくベッドへ連れていかれました。私は夫人の隣の空いた椅子に腰をおろします。
 お茶の給仕のために控えていた使用人がカメラを廻しはじめました。彼女の体位は後背位で、まず旦那さまが口を、ご子息が女陰を物にします。父と兄が私の妹を共有している光景を眺めつつ、夫人と手遊びをしました。私たちが互いの股ぐらに手を伸ばし合い、楽しんでいる最中、夫君が芋虫のような動きで物欲しげに私の足下に擦り寄ってきたので、タイツで包んだ爪先を口の中へ押し込んであげました。
 夫人の素晴らしい性技と、ベッドの上で繰り広げられている家族劇の視覚的効果で恥ずかしながらすぐに放出してしまいそうになります。しかし、寸前で夫人は意地悪にも私の迸りをとめてしまいました。歓待している立場である私は指をとめるわけにはいきません。夫人の熱い水流を感じて、私はつい不満げな表情を浮かべてしまったようです。それを察したらしい夫人が――あとに取っておきなさい。ところで女の勘だけど、あなたと伊織ちゃんてもう恋人同士だったりする? と。正直に答えました。
 彼女はご子息の太い陰茎に容赦なくえぐられ、遠慮なく中に放出されても四つん這いの姿勢を崩しません。吸茎も、自分からはなかなか動かない受け身すぎるものでしたが、憎いはずの旦那さまの精水を吐き出さずちゃんと飲みくだしました。旦那さまとご子息が位置を交替します。……すべてがおわり、陰茎をしまった親子がベッドをおりると彼女は体を楽にしようとしました。が、夫人が――ダメよ、そのままの姿勢で今度はこちらのお兄さんとの交わりを見せて。と、持っていた鞭で私を指しながら命令します。
 しゃぶらせていた足を夫君から離して席を立ち、言われた通りにしている彼女のもとへ向かいました。旦那さまとご子息がテーブルについて観賞側に廻ります。ご子息は退屈そうに紅茶をすすり、旦那さまは夫人と歓談しはじめました。二人分の精水がたまっている、やや緩くなった女陰に挿入します。
 彼女は健気に私を締めつけてくれました。しかし、夫人の手に敵いません。でも私は精神的に快楽を感じていました。講習の仕上げよりは楽であろうこの初仕事ですが、伊織は今どんな表情を浮かべているのだろう? と取れかかっているヴェールで覆われた後頭部を見ながら、想像してみました。そして視線をすべらせ、ふっくらしたお尻に私のために咲かせた薔薇でとめて、腰を掴み抽送をはじめます。夫人の手で高まり、とめられてくすぶっていたものが燃えあがっていきました。
 薔薇を見ていたものだから、旦那さまと楽しく話していたはずの夫人が立ちあがり、鞭を構えて私に近寄ってきていたことに気がつきませんでした。――手伝ってあげるわ、という言葉のすぐあと、空を切るような音がしたのとほぼ同時に尻に痛みを感じ、小さく悲鳴をあげてしまいます。それから、夫人が絶妙な加減で鞭を振るってくれました。最初の一撃にはただびっくりしましたが、獰猛さに欠けた優しすぎる膣で扱いている陰茎に鞭の刺激による快楽が段々と加わっていきます。思わず漏らしてしまう喘ぎ声は、伊織の耳にはただの苦鳴に聞こえたことでしょう。
 そのまま、抑えられず私も中に放出してしまいました。ああ、やはり俺はこんなふうにしなければ満足できないのだなと思いながら。……では、この辺で。催しも残すところあと二回になりました。次回は彼女とのエデンでの生活、そしてそれが破綻する事件が起きるまでを語ります。もう近年の出来事ですね」
 語りながら彼女のことを色々と思い出し、情を催して椅子のディルドを無意識に締めつけていた。立ちあがってディルドを抜き、舞台をおりて観客たちに原稿を捧げる一連の動作をする。身も捧げる。
 倒された体を起こすと、犬好きの客が愛犬を連れてやってくるのが見えた。客がにこにこ笑いつつ、犬を指して言う。
「久々にこいつを慰めてくれないか?」
「はい」
 再び床に倒れ、アフガン・ハウンドの体の下に潜り込む。グローブを外した手で刺激して、飛び出してきた赤い陰茎に舌を伸ばす。犬相手でも客にするのと変わらぬ態度で丹念に吸茎をしていると、独り言を言うような調子の飼い主の声が耳に入ってきた。
「伊織ちゃんも居ればな……」
 聞こえていない振りをする。犬特有の亀頭球が大きくふくらみ、勃起して二十センチ以上には達した陰茎から放出される透明の前立腺液と白濁したもので、人工の髪が汚れた。

2015年7月10日公開

作品集『咎の園』第6話 (全9話)

© 2015 山本ハイジ

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