二度と行かない

光源のない走馬燈(第7話)

アサミ・ラムジフスキー

小説

2,301文字

おいしい飲食店を知っている知人がいることの、僥倖と奇禍。どんなに素晴らしい料理を出す店であっても、僕はあの人から紹介された店には一度しか行かない。

天賦の才。そう形容しても過言ではないだろう。

乾井さんに紹介される飲食店は百発百中でおいしかった。フレンチからラーメンから立ち飲み屋まで、どんなジャンルでも打率は変わらない。そのほとんどはグルメガイドに掲載されたこともないようなこぢんまりとした店で、住宅街の路地にひっそりと佇んでいた。外観もとても洒落ているとはいえないようなものばかりなのだが、こと味に関しては有名店顔負けだ。シンプルな一品料理も凝ったコース料理もみんな素晴らしかったし、お酒のチョイスも抜群だった。食べたことのなかった食材ともたくさん出会えた。ひとつ新しい店を教わるたびに、新しい大陸に到達したような心地だった。乾井さんと交流するようになってから、僕はかなり舌が肥えたような気がする。

そうした素晴らしい店たちを、乾井さんはなんと直感だけで引き当ててしまう。事前に調べるでもなく、アンテナを張り巡らせているでもなく、誰かから教わるでもなく、ただなんとなく籤を引くとそれとなく当たりが出てくるのだ。良い店をたくさん知っているという人は世にめずらしくないが、多くの人はあれこれ食べ歩いて取捨選択をすることによっておいしい店のリストを積み上げていく。乾井さんの場合は根本的に違った。なにせ、そもそも外れをまったく引かないのだ。確率という概念が無意味になるほど、当たりばかりが乾井さんのもとに吸い寄せられていった。もしかしたら乾井さんは、不味い店がこの世に存在するということを知らないのではないかとすら思う。

2015年7月9日公開

作品集『光源のない走馬燈』最終話 (全7話)

光源のない走馬燈

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© 2015 アサミ・ラムジフスキー

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