咎の園 人工楽園にて(1)

咎の園(第2話)

山本ハイジ

小説

10,499文字

R18/エログロ

 目を覚ますと、カーテンからかすかに明かりが漏れている。旦那さまの部屋には窓があるから便利だ。まだ寝息を立てている旦那さまを起こさないよう気をつけながら、昨夜のコルセットを手に取り部屋を出た。
 並ぶドアの一枚から、使用人の一人が廊下に現れ鉢合わせる。使用人は唐突に陰茎を出して、吸茎を求めてきた。顔を近づけると、陰茎は先程まで奴隷の体内にあったのかほんのり大便臭い。含み、技を駆使すれば使用人はあっさり精水を放った。長引かなかったことに安堵する。
 トイレに寄り、備えつけの浣腸器で朝の洗浄を済ませ、一階左ウイングの大浴場へ向かった。脱衣場の床には衣類を入れた籠が一つ。黄金色の布に黒い龍が刺繍されたオリエンタルなコルセットには見覚えがあった。横に自分のレザーのコルセットを置いて、曇ったガラスドアを開ける。噴水に近寄ると、ニンフの彫刻の優美な線を描いている脚にもたれかかっている女性がいた。白く、つややかな頭部ですぐに誰だか気づく。
「おはようございます、瑞樹さん」
「おはよう」
 彼女は目を細め、微笑を向けてくれた。体を適当に流し、ついでに口をすすいでから、噴水に入る。彫刻に背を預け、彼女の隣で乳白色の湯に身を浸からせた。そのまま黙ってあたたまる。先に噴水からあがって、洗い場でシャンプーを泡立てた。毛髪のない彼女は俺より早く浴場を出た。
 一通り洗いおわり、脱衣場に戻る。彼女はコルセットを巻いて、姿見の前で化粧をしていた。濃いピンクのチークを頬だけではなく、乳首にも塗っている。笹沼夫人とそう変わらない年齢に達しつつ、ニンフと負けず劣らずの見事な肉体をつい見遣りながら体を拭いた。彼女は床に座ると大きく脚を開き、暗紅色の裂け目にチークを塗り込む。
 立ちあがり、チークをそばの化粧台に置いてから彼女は言った。
「ね、影次くん。コルセット締めてもらってもいい?」
 うなずいて、姿見のほうに寄る。彼女の尻に垂れている紐を掴み、引いた。具合も聞かず腰をしぼり、時折背中の紐の交差した部分に指をかけてたるみを直す。フルクローズすると、腿まで伸びた紐を結わえた。
「ありがとう」
 彼女も俺のコルセットを締めてくれた。それから首筋に張りつく髪を乾かしているあいだに、彼女は前が開いたロングのオーバースカートと、ガータータイツのみを穿いて脱衣場を出ていく。ドライヤーを置いて、俺は彼女と同じように化粧をした。
 旦那さまの部屋へ戻る途中、通りかかる広間の前。ドアが開放されていて、使用人たちが食器を載せた盆を持ち忙しく出入りしていた。階段をのぼり、部屋に入る。ガウンを肩にかけた旦那さまが揺り椅子に座って、煙草を吹かしていた。
「……おはようございます」
「おはよう。今日は一緒に朝食をとろう」
 サイドテーブルの上の重そうな灰皿に煙草が押しつけられる。
「その前に吸茎を頼むよ」
「はい」
 旦那さまの足下に屈み、陰茎を丁重に扱う。ゆらゆら揺れるなか、肘かけにすがりつきながら仕事をする。しばらくして旦那さまは放出した。また少しして、旦那さまは放尿した。すべて飲み込む。
 すっきりした旦那さまは俺に煙草を一本くれた。吸っているあいだ、旦那さまは身支度を整えていた。スーツを着た旦那さまと一緒に一階へおりて、広間にいく。
 サテュロスをあいだに挟むように、二卓の長テーブルが設置されていた。サンドイッチとピクルス、コーヒーと紅茶。泊まりで楽しんだ客たちがお気に入りの奴隷をはべらせて絨毯に座ったり、寝そべったりして飲食していた。瑞樹の姿もあった。長いこと瑞樹を愛玩している気弱そうな面相をした客が瑞樹の頭を撫でて、瑞樹は笑いながら胡瓜のピクルスをかじっている。俺は旦那さまに注文を聞いてから、ローストビーフのサンドイッチとパプリカのピクルスを皿に盛り、紅茶を取った。
 しかし食事中、昨夜の催しで原稿に糞を漏らした客――木口さまがやってきて快楽の相手に俺を指名してきた。旦那さまに一言断り、木口さまとともに二階の自室へと向かう。
 今度は木口さまの注文を聞いた。
「すまないねえ、一生懸命書いた原稿にうんこをつけてしまって……ぜひ罰してもらいたい」
 そして犯して欲しい、と付言した。
「私は同性の方が相手で男役だと、どうしても立たないので道具を使ってもよろしいでしょうか」
 木口さまはやや残念そうにしつつもガウンを脱いで、部屋の半分を占めているベッドにあがった。俺はベッドの下の引き出しから鞭と疑似の陰茎がついたゴムのショートパンツを取り、パンツを穿く。ベッドに乗って、四つん這いになった木口さまのあざだらけで皺々の尻肉を打ちはじめる。木口さまは痛みに慣れすぎて麻痺しているのか、興奮させるためには相当力を込めて打ちつづけなければならず、汗が垂れた。
 血が出るまで叩くと、ようやく木口さまは満足した。茶色いかすのついた不潔極まりない穴をほぐし、挿入する。打ち込みながら陰茎を刺激すれば木口さまは放出した。が、ほかにも色々なことを求めてきて、俺はなかなか解放されなかった。薄い髪を引っぱったり、顔を丹念に踏んだりと、責めるほうはどうにもつまらない。おわってから広間におりたが、旦那さまはもう出かけていた。
 そのあと客たちの相手をずっとした。昨夜の催しに参加した客は鞭打ちばかり求めてくる。二、三人にかこまれて鞭打たれながら「なんて嫌らしい人生を送ってきたんだろうね、君は!」などと罵られたとき、俺は一回だけ放出した。
 そして夜になると自室で引き出しから今宵の分の自伝を取り、内容をざっと確認する。それから催しに備えて色を直した。黒のサテンに同色のレースをかぶせたコルセットを締めて、レースがそろいのショーツを穿く。ショーツは尻の部分にO形の穴が開いていた。部屋から出て、トイレで浣腸と化粧直しをすると夕食の席へと赴く。
 テーブルの上の薄い肉切れは、元は綺麗に花の形に整えられていたらしい。今は箸で乱された花弁を適当に皿に盛り、客を取り巻いているハーレムに加わる。しばらく戯れていたが、広間の時計が二十一時半を告げると全員静かに舞台のほうを見た。前座がはじまるのだ。
 電子音ながらクラシックな曲調のBGMが流れ、おもむろに瑞樹が立ちあがる。コルセットを外し、スカート、タイツを脱いで彼女は舞台に向かった。次によれよれのシャツと薄汚れたジーンズを着て、口元が見えないくらいひげを伸ばしたホームレスと見紛いそうな姿の客――宮沢さまが舞台にのぼる。なにをするのかすぐにわかった。
 宮沢さまが、持っていた道具を広げる。パレットにチューブの絵の具をしぼり、混ぜて筆を直立不動の瑞樹に近づけた。脚から体の曲線に沿って、焦げ茶の線が走った。線は所々はねた。その線に今度は緑が重ねられ、骨盤の辺りに葉らしきものがついたところでなにを描いているのか悟る。薔薇の茎だ。はねたところは棘だろう。無毛の丘に押されている小さな薔薇の烙印の周りに、赤い大輪が咲いた。それから胸と、頭頂部にも開花する。
 瑞樹がゆっくりと踊るように廻って、宮沢さまの腕の素晴らしさを観客たちに示した。そのあいだに宮沢さまは画材をまとめて舞台から退く。入れかわりに、人形が着るようなデザインの黒いドレスをまとった少女が舞台にあがってきた。フリルで飾られた胸元は開いている。少女の烙印は鎖骨にあった。少女は瑞樹の足下にひざまずくと、薔薇の茎に舌をつけ、舐めあげていった。
 ペイントが溶けていく。少女は小さな手で瑞樹の腰を掴み、丘の周囲の薔薇を食す。エロチックな光景だ。しかし観客の一部は興味がわかないらしく、食事に集中していた。見世物が趣味に合わないだけか、瑞樹の姿のせいか。彼女の顔立ち自体はマネキンのように整っているのだが。
 瑞樹は膝をついて、少女に胸を舐めさせる。花弁にかこわれた乳首を噛まれると、瑞樹は短く鳴いて見せた。大きすぎず小さすぎない形よい乳房が唾液で延ばされた真紅の絵の具で、血を擦りつけたように汚れていく。そのまま少女の舌は茎をなぞり、瑞樹の首筋、顔を通った。そっと頬を両手で包み、頭の大輪を舐め廻す。
 ……やがてBGMはとまり、前座はおわった。瑞樹と少女が舞台からおりると、少女はハーレムの一つに、瑞樹はいつもの客のもとに戻った。客はなんだかおどおどした様子で瑞樹の頭をハンカチで拭いて、口づけた。
 二十三時。使用人たちが舞台に椅子を持ってきて、ディルドにオイルを塗る。俺は原稿を手に、舞台へあがった。増えたり、減ったりしている観客たちに頭をさげてから後ろを指でほぐし、椅子に座る。
「……もう家の児童たちと学校のクラスメイトは敬遠して、夜は先生たちにべったりなつき、私は退廃しました。子供たちに鞭の痕を見られてなにか聞かれても無視です。職員たちは物心のつかない幼児を風呂に入れる以外、肌を見せることはなかったと思います。
 私のお気に入りは女装して、尻を打たれることでした。先生が用意してくれたガータータイツを穿き、ワンピースを着て、下着はつけずに約週三回礼拝堂の長椅子に手をつきました。子供の私に夜更かしはつらい行為でしたが、昼に楽しいことはもうありません。日中は寝不足で頭をぼんやりさせて過ごすほうが楽でした。
 事務的な職員たちは、夜は優しいのです。鞭打ちながら私の性器を刺激して快楽をくれます。私は手や、両腿のあいだを使って恩返ししました。ローションを渡されて、ぬめらせてから……最初は戸惑ったりしましたが、すぐに慣れました。大人の射精を見るのはおもしろかったです。しかし、鞭を手渡されてしまうとどうしてもだめでした。恐れ多くて力が入らず、不満がらせてしまうのです。
 みんなから怖がられている体育会系な職員の一人が、礼拝堂では血が出るまで打たれたあと尻を犯してもらうのが好きとか、そんな秘密を知った私は児童たちに妙な優越感を覚えました。興奮した職員が鞭を捨てて、その職員の肛門に陰茎を捩じ込んだのを見たときは唖然としましたが。陰茎は女陰にのみ差し込むものだと当時の私は思っていたので。不安になりましたが、先生が私には入れないからと安心させてくれました。指で弄られるのは慣れて、好きになっていたのですが。
 で、ある真夏の夜でした。いつものように礼拝堂へ向かうと、熱気に包まれた宴を見物している紳士がいました。当時六十代の三屋清十郎さま、そう、旦那さまです。私は旦那さまをただの足長おじさんだと認識していたので、この方も鞭打ちを楽しむのかと驚きました。
 旦那さまは家に寄付をしたり、たまに訪問しては子供たちの様子を見にきたりしている方でした。なんでも、なんらかの企業の会長らしく、やる気のある児童は卒園したあと寮つきで雇って将来の世話をしてくださるとかで、高校生で頼るところのない人たちは必死に媚びを売っていたと思います」
 観客たちの一部が笑い声をあげた。
「……私含め小さな子たちは、将来なんか見えませんからね。無関心でした。先生と施設長が私を旦那さまの前へ連れていきます。先生は旦那さまに頭をさげて、施設長は――清十郎さん、この子が例の子です。私はたどたどしく、こんばんはと挨拶しました。旦那さまは優しく笑んで――こんばんは、君の話はよく聞いているよ。
 小首を傾げる私を、先生がさあ遊ぼうと引っ張っていきます。旦那さまと施設長はまざらず、私たちの様子を見ながらなにか話をしていました。先生は若干透ける黒地の、所々ピンクのリボンで飾られたベビードールを準備していて、私は裸になってからそれを着るとガータータイツを穿きました。長椅子に手をつきます。
 いつも通り尻から内股を打たれました。官能を生じさせられたところで、脚を開いて椅子に座り、先生が私の股間に顔を埋めます。施設長と旦那さまが見守るなか、私は口淫を受ける少女を演じました。旦那さまと目が合うと気恥ずかしさを感じつつも、吸茎の気持ちよさをすでに知っている私は先生の口の中に出してしまいました。先生が最後の一滴まで吸い尽くしながら、肛門をくすぐってくれます。
 それから私は打たれた痕がしみるのを我慢しながら、ローションで内股を十分に濡らしました。私は再び長椅子に手をつく格好になり、先生の小さな怒張を両腿で挟んで慰めます。先生は閉じた腿の隙間からすぐに陰茎を抜いて、私の尻に放ちました。ふと、先生の短くて早い陰茎なら受け入れてみてもいいかも知れないと思った瞬間、尻肉を掴まれました。先生の手ではありません。旦那さまの声が響きます――気持ちよさそうな穴だ、素晴らしい。
 それから旦那さまは、度々宴を見にいらっしゃいました。カメラを持ってきて様子を収めたり、施設長とお話ししたりしていました。私は旦那さまに人見知りしていましたが、優しい方ですからそのうち親しみを持てるようになりました。鞭で達するところや、女の子になりきっての淫行を見せつづけていたら羞恥心も薄れます。
 そして、旦那さまは私を食事に誘ってくれました。明日……正確には今日という時間でしたが、お昼においしいものを食べさせてあげる、と。夏休み中でしたし、なにより家と学校の行事以外で出かけることは皆無に近かったので、私は喜んでうなずきました。
 宴のあと寝て起きた私に、職員たちが子供用のスーツを着せて髪まで整えてくれます。旦那さまはお金もちらしいから、なにかすごいところに連れていってもらえるのかと期待に胸を弾ませました。児童たちの不可解そうな視線を尻目に家を出て、迎えにきた立派な車に乗り込みます。わざわざ、運転手の方がドアを開けてくれました。
 シートには旦那さまと、見知らぬ少女が座っていました。疑問を感じた私に旦那さまは――うちの娘だよ、と一言で説明します。同伴者がいるなんて聞いていませんが、とくに不快にもならず少女の隣に腰をおろしました。少女は大変な美少女でした。
 たぶん、私と同じくらいの年でしょうか。色の白い肌は不健康そうに見えるほどで、整いすぎた顔立ちはどこか人工物めいています。さらさらの髪はボブに切りそろえ、真紅のドレスをまとい、サテンのロンググローブをはめていました。年齢にふさわしくない服装でしょうが、不思議と少女には似合っています。目的地につくまでのあいだに、私は何度も少女の横顔に目を遣ってしまいました。少女は視線に気がつくとこちらを向いて、にっこり微笑んでくれます。
 車は栄えた駅前にある、高層ホテルの駐車場にとまりました。車をおりてホテル内に入ると、白くつややかな石で造られたエントランスホールを私はついきょろきょろ見廻しながら、旦那さまと少女について歩き、エレベーターに乗りました。やや時間をかけて、最上階に到着するとウエイターが私たちを出迎えてレストランに通してくれます。
 広々とした店内に、私たち以外の客はいませんでした。一面に広がった窓からは街が一望できます。きっと夜なら、もっと美しい景観なのでしょう。テーブル席について、しばらくしてから前菜が運ばれてきます。フォークを掴み、私は子供ながら緊張してしまいました。
 それに気づいた旦那さまが――誰もいないから、別に気にしなくてもいい。と、不道徳なことを仰りました。旦那さまの隣に座っている少女はグローブをはめたまま、フォークで野菜をぐさぐさ刺して口に運んでいます。季節の野菜に添えられたキャビアを何粒か、テーブルクロスに落としていました。旦那さまもグレーのスーツと同色の、男性なら食事中は脱ぐのが礼儀である中折れ帽子をかぶったままだったと思います。
 私は旦那さま以下、少女以上の器用さで食事をしました。前菜のキャビアは、当時の私には珍味すぎましたがメインのステーキはとても美味でした。家の食事はやはり一般家庭レベルです。一生懸命ナイフを動かし、夢中で食べている私に旦那さまが色々と話題を振ってきました。家の生活や学校のことなど、私の日常のことを聞いてきます。
 私は正直に好きな子が亡くなってからつまらない、登下校をともにする相手もいない今、とくに学校が億劫であることを伝えました。少女が口元にソースをつけて――がっこうってなに? と言います。旦那さまが紙ナプキンを取って、それを拭ってあげながら――退屈なものだよ。私は少女より、旦那さまのほうに驚きました。大人がそんなことを言うなんて。
 ウエイターがからになった皿をさげます。デザートがくるのを待っているあいだのことでした。旦那さま――影次くん。君には二つ、デザートを用意してあるんだよ。少女が紅茶を、口をすすぐような動作をしながら飲んでいました。幼児のような行動を取る少女にいいかげん幻滅しつつ、私は旦那さまにお礼を言おうとしました。
 少女がグローブを外して突然テーブルの下に潜り込み、向かいにいる私のもとへやってきます。呆然としているとスラックスと下着が強引におろされ、股間に舌の感触がしました。……旦那さまが椅子を引くようにすすめます。その通りにすると、少女が私の陰茎を手で掴み、唇に先端を挟んでいるのがよく見えました。
 品に欠けている少女は、性技には長けていました。小さな舌で裏筋の辺りを刺激しながら、小さな口で扱きあげてくれます。女の子と初めての性的な接触。いつもの倒錯した快楽とは違う、正道な快楽です。最初は戸惑い、なかなか反応できません。しかししばらくすると私は内股を痙攣させて、思わず悲鳴に近い鳴き声をあげてしまいました。口の中に放つと、少女は飲みくだしてくれます。
 少女が最後までしぼりとろうと手を動かしながら、私の尿道口にキスをしているときにようやく気づきました。グローブで隠されていた少女の二の腕には、薔薇の形をした烙印がありました。そう、少女は楽園の奴隷だったのです。……少女が自分の席に戻ったところで、タイミングを計らったようにウエイターがデザートを持ってきました。私は下半身を露出させたまま余韻に浸っていたので、慌てて着衣を直しました。デザートは甘酸っぱい、木苺のソルベでした。
 食べおわり、ふいにトイレへ行きたくなって席を立った私に、旦那さまが大きいほうか小さいほうかたずねてきました。小なら、少女の口で用を足していいとのことです。さすがにそれには恐怖を感じ、遠慮しました。……ホテルを出て、帰りの車の中、うつらうつらとしている少女を旦那さまは肩に寄りかからせて――すまないね、君のほうが行儀がよかったくらいだ。この娘はつまらない世間とは無縁の育ち方をしているのでね。君が望むのなら次はもっとおとなしい娘を連れてこよう。ところで影次くん、大人の女性は好きかい? ……。
 帰宅して、そのあと出された味気ない夕食を私はほとんど残してしまいました。職員たちはなにも注意しません。
 そして、毎年恒例の小旅行の行事が近かったのですが当日、私は具合が悪そうだから休んでもいいと言われました。確かに寝不足ではありましたが、別に参加できないほどではありません。でも甘えて、昼まで惰眠しました。それから残っている職員と淫行に耽ります。いつも通り、女装して。小夜子には申し訳ないのですが、私はそのとき脳裏に奴隷の少女を描いていました。
 夏休みがおわってから職員たちは行事だけではなく、だるければ学校まで休んでいいと言うようになりました。日中も私に優しくなった職員たちに、子供の単純さで甘えてしまいました。
 旦那さまは平日でもお出かけに誘ってくれます。連れていってもらった料亭では、和服を着た妖婦を私に供してくれました。好きなだけ胸を触らせてもらえました。それから旦那さまは私の様子を見て、デザートをあれこれと変えてもてなしてくれます。
 あるとき、旦那さまは少女を二人同行してきました。ホテルの最上階でかわいい女の子二人は、私にレズビアンを見せてくれます。ふざけあうようなキスをしながら互いの陰核をくすぐっている様を、ごちそうを食べながら眺めていたのですが大変官能をそそる光景でした。ふと、女装して彼女たちと戯れたらレズの疑似体験ができるかしらと思って、旦那さまにその旨を伝えると、旦那さまはおもしろい発想だと言って私の頭を撫でてくれました。
 やはり性倒錯は一度起こったら、もう元には戻らないようです。十分異性には慣れて、旦那さまとも打ち解けたので私は恥も感じず、外食に女の子の服を持っていくようになりました。その場で着がえて、少女と戯れます。旦那さまは微笑みながらカメラを構えていました。
 料亭の妖婦には鞭を握ってもらい、私は女物の浴衣を着ます。……こんなふうに旦那さまと楽しい一時を過ごしていましたが、一方で家の居心地の悪さは増していました。
 あれから気まずくなってしまった女の子たちと、乱暴な男の子たちはできるかぎり避けるようにしていましたが、どうしようもない接触のたび、みんな私に対する態度が明らかに刺々しくなっていました。当時は首を傾げるばかりでしたが、きっと不愉快だったのでしょう。ひいきされている私が。
 バレバレの仮病で学校休みやがって、宿題も先生にやってもらってんじゃないの? などと言われましたっけ。私物を隠されたり、小突かれたりしました。あとは高校生のおとなしくて地味な印象の女の子が、わざとらしくぶつかってきたりしました。――邪魔なんだけど、と暗い目で睨みながら。家に訪問するごとに私を露骨にかわいがる旦那さまを見て、嫉妬を覚えたのでしょう。旦那さまと私が頻繁にデートしていることも気づくでしょうし。
 そして事件は起こりました。悪童の一人に暴言を吐かれたのですが、家なら問題にされない程度のごくありふれた暴言でした。悪口を言われたことをなにげなく職員たちに伝えると翌日、その悪童はなんと鞭打ちの刑に処されてしまいました。
 児童たちの怒りは爆発したようです。夜、私は団結した男の子たちの手によって部屋から閉め出されてしまいました。腹が立ち、全員打ち据えてもらおうと職員たちを呼びにいきましたが、どういうわけか先生一人しかついてきてくれません。先生は細工されて開かない襖を弱々しく叩き、困ったような声色で男の子たちを注意しましたが、しばらくするとあきらめてしまいます。
 先生の部屋で、手を合わせて謝る先生に背中を向けて寝ました。それからすっかりすねた私は、鞭打ちの宴に長いこと参加しませんでした。旦那さまと遊ぶようになってから、礼拝堂へ行く回数は減っていましたし。
 もう私に快楽をくれるのは旦那さまだけです。デザートへ童貞を捧げることは許してくれず、それだけ不満でしたが。……職員たちは相変わらず私を甘やかして冬の小旅行も休ませてくれましたが、なぜかいじめはまったく解決してくれません。
 男部屋はいづらいことこの上ないので、夜はほとんど先生の部屋で過ごすようになりました。すると先生はしつこいくらい求めてくるので、しかたなく両腿を貸します。旦那さまがなかなか食事に誘ってくれない時期がありました。そのとき、私は一回だけしかたなく宴に参加しました。
 そして久々に会った旦那さまは、ついに切り出しました。――私の子供にならないかい? と。甘いカクテルを飲まされてほろ酔いになった私は、旦那さまからいただいたドレスを着て、奴隷の少女に鞭打たれながら二つ返事で答えました。まったく、嫌らしい手段です!」
 観客たちに笑みを向けて、冗談めかす。笑いが響くなか、いつの間に帰ってきていたのか隅に旦那さまの姿があった。
「……施設長にどこにいるのか、いえ、実在しているのかさえ信じられない親の代理になってもらって、旦那さまの子供になる手続きを済ませました。私が小学校を卒業するころ、私に嫌がらせをしてきたあの女子高生と、特筆すべき点のない、容姿もごく平凡な男子と、にきびを浅黒い顔いっぱいに広げた女子が旦那さまのもとへ雇われていきました。
 卒園するとき、もう二度と家の門をくぐりません、という内容の契約書にサインさせられるそうです。施設出身者でまともな生活ができるのは三割程度らしく、私たちは実に幸運なわけです。……私のお別れ会では、児童たちからいかにもうわべだけという感じの言葉を送られました。私も何年間もともに過ごしてきた、言わば家族のような児童たちになんの感慨も未練もなく、せいせいとした気持ちでした。
 学校の卒業式で、一応は交流があった子たちに対しても、なにも。あんな細工をされなくても、きっと私は養子縁組のお誘いにうなずいていたことでしょう。旦那さまが私を迎えにくる前日の夜、礼拝堂で職員たちと改めてお別れ会をしたとき、涙を滲ませながら鞭を振る先生を見て少ししんみりした程度です。
 職員たちに十分お礼をして、先生とは抱擁を交わしました。それからぐっすり寝て、ざっと身支度をすると少ない荷物片手に、旦那さまがくださる快楽を夢見ながら迎えの車に乗りました。……では、少し短いのですが切りがいいのでこの辺で。次回からまあまあ盛りあがってくるかと思います」
 過去のことだし、観客たちは笑いごとで済ましてくれるだろうが、旦那さまの信用に響くかも知れないことを考えて言わなかった。礼拝堂のお別れ会の様子を撮ろうとカメラを持った旦那さまに、先生が泣きついたのだ。――私はお金はいりませんから、かわりに影次くんの初物をください、と。
 どうやら知らないうちに、先生は俺に相当惚れ込んでいたらしい。先生は自分の陰茎の小ささを示して、処女の後ろに傷をつけてしまうことはないという安全性をアピールし、旦那さまは同情した。ウインナーが体内でほんの数回動いた。

2015年6月12日公開

作品集『咎の園』第2話 (全9話)

© 2015 山本ハイジ

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