咎の園 序章・天使の家にて

咎の園(第1話)

山本ハイジ

小説

9,494文字

とある娼館にて、とある美しい男娼による病的な告白。R18/エログロ耽美
BCCKS版 http://bccks.jp/bcck/121918/info if設定外伝http://bccks.jp/bcck/128818/info 本編咎の園は自サイトからも読めます。

「私は乳児院で幼児になるまで育ってから天使の家へ預けられたらしいので、天使の家には気がついたらいたという感覚でした。ほかはどうだか知りませんが天使の家の居心地は、さほど悪いほうではなかったと思います。みんなが集まる居間や食堂は清潔に保たれていましたし、食事も質素すぎません。クリスマスにはケーキ、正月にはおせちが出ました。男部屋は散らかってはいましたが狭くはないし、高校生になれば個室が与えられます。私は高校生になる前に天使の家から出ることになりましたが。
 毎月わずかながらお小遣いがありました。年に二回、みんなでどこかへ遊びにいく行事もありました。あと規則は厳しくはなく、高校生ならアルバイトをしている人、許可を取って外泊する人もいました。優等生ならごくまれに、大学へ行かせてもらえる場合もあったようです。そして治安についてですが……まあ、たぶんこれもマシなほうだったかと。
 みんなのだいたいが、私のように最初から天使の家にいたわけではありません。家庭になんらかの理由でいられなくなったから、連れられてきた子供です。集団生活テストを受けて、結果のよかった子が天使の家に集められるようでした。しかし、親の記憶がある子はやはり情緒不安定なところがありました。男の子たちは乱暴で、年上の人たちは横暴です。軽い暴力、暴言、悪戯のたぐいは日常茶飯事でした。私もよく被害に遭いました。女の子たちのほとんどは身を案じて、男の子たちを避けていましたね。職員たちは冷淡で事務的な人が多く、ちょっとした悪戯は見過ごされていました。
 でも、職員たちはつねに、細長い棒のような鞭を携帯していました。重い暴力や女の子への性的な悪戯は、これで厳しく罰せられます。……で、鞭打ちは今夜の話のテーマである私の特殊な性癖の発端について関係してくるので、少し詳しくお話ししたいと思います。
 初めて見た鞭打ちの刑は印象的で、よく記憶しています。罰を受けたのは痩せぎすで、陰気な目つきをした男の子でした。天使の家に来たばかりの彼は黙ってうつむいていることが多い、無害な子でした。そして男の子たちは、そんな子をいじめるのが大好きです。彼はいつもおとなしく小突かれていましたが、何ヶ月か経ったある日、突然激昂して相手を殴ってしまいました。運悪く、彼の指の骨ばった関節は相手の鼻を強打したらしく、相手は鼻血を出して倒れてしまいました。
 彼は親に捨てられて、最初は現実感のなさから呆然と日々を送っていたのでしょうけれど、施設生活が長くなるにつれて精神的に不安定になっていったのでしょうね。騒ぎに駆けつけてきた職員たちは、怪我をした子を医務室へ連れていってから、現場にいなかった子供たちを集めて居間に戻ってきました。
 職員たちが彼を押さえつけます。職員の一人が彼の罪を全員に説明すると、彼の衣服を下着一枚だけ残して剥いでしまいました。私たちは職員たちに言われるがまま、様子をかこんで見ていました。鞭が振りおろされます。鞭は、彼の背中の中心に命中しました。鋭い音でした。……そのあとも鞭打ちの刑は数回見たことがありますが、職員たちは刑の執行中だけなにかに取りつかれたように豹変するのです。
 顔を歪めて……笑っているようにも見えました……人の痛みを知れと怒鳴りながら、職員たちは彼の全身を打ちました。あばらの目立つ胸が叩かれると、彼は狂い泣きました。あらゆるところに赤い筋がつきます。公開処刑を眺めている周囲の表情はこわばっていました。彼より年下で、まだ小学校にさえ通っていなかった私にはそれはもう、大変な恐怖でした。
 ……それから彼は再びおとなしくなりました。恐れのあまりびくついていた感じでしたが、しばらくすると彼は安定してきて、友達を作れるまでになっていました。ここにいるみなさまならわかると思いますが、ある程度の苦痛や刺激はストレスから解放してくれます。
 鞭打ちの光景は当時の私の脳裏に焼きついて離れませんでした。多感な年頃に受けたトラウマは、のちの性癖に大きく影響します。……と、いってもこれはまだ小さなトラウマです。そろそろ本題に移りましょう。
 職員たちは冷たい人ばかりでしたが一人だけ、とても優しい先生がいました。つやのある白髪を撫でつけて、まるく肥った、子供がイメージするコックさんのような外見をした人でした。その人はみんなかわいがっていましたが、私と、私と仲のよかった女の子をとくに甘やかしてくれました。……私は精神的に安定しているのと、大変かわいい容姿をした男の子だったので、普通に女の子たちと交流できていたのです。
 同年齢の女の子たちのなかでいちばんかわいかった小夜子と、私はよく一緒に遊んでいました。当時は髪を二つ結びにして、つぶらな目をした子でした。女の子と仲良くしているものだから、男の子たちからは馬鹿にされました。それでも私は、下品な男の子たちより女の子のほうがよかったのです。……今思うと男の子たちは、たんに嫉妬していただけでしょう。
 男の子たちが外で元気に遊んでいるなか、私と小夜子が居間でままごと遊びなどをしていると、先生はふらりとやってきて――まるで女の子同士で遊んでいるみたいだね、と笑いました。そのときは恥ずかしくなりつつも、実際私は女の子に憧れているところがありました。自分が女の子だったら別に笑われないのに、と。
 先生は私たちの仲を取り持つようにかわいがってくれて、たまにこっそりお菓子をくれたりしました。天使の家の生活でいちばん穏やかな時間でした。それが壊れてしまったのは、私たちが思春期に至るまで育ってからです。
 近所の小学校に入学しましたが、学校生活では特別なことはたいして起こらなかったので出来事はほとんど省かせていただきます。人並みに勉強して、少ないながら友達も作りました。小夜子とも変わらず仲良しで……いえ、変わらず、とはいきませんでしたが一緒に下校したり、ふざけあったりしていました。
 授業に性教育が組み込まれはじめたころでしょうか、周囲の男の子たちに精通を経験する子が出てきたのは。天使の家で同室の男の子は朝下着を濡らして赤面する子もいれば、手淫の仕方をこっそり教えてくれる子もいました。私は好奇心に負けてトイレで自分の性器を弄り、快感を得られることを知りました。そのときはまだドライオーガズムで、精水はなかなか出ません。手淫の想像に使ったのはたまにボランティアで来る女子大生と、万引きの罪で鞭打ちの刑にあった家の女子高生と、小夜子です。
 成長した小夜子は性的魅力を備えつつありました。髪をおろし伸びるままにして、つぶらだった目の目尻は切れ込みがやや細長くなり、妖艶さを帯びてきていました。胸もうっすらとふくらみ、Tシャツの伸びた襟からたまに乳房が半分見えます。……私はもう、小夜子を異性として意識していました。そしてそれは小夜子も同じだったようです。
 小夜子は私に、度々おませな言動を取るようになっていました。下校中や、家で一緒に遊んでいるとき、芝居がかった様子で――私のことどう思ってるの? なんてふいに聞いてきたり、上目遣いに見てきたりします。日曜のお祈りの帰りに……ああ、家の敷地内には小さな礼拝堂がありました……小夜子が周りのみんなにからかわれるのも気にしないで、私の手を握ってきたときは慌てました。少女のほうが少女漫画かなにかの影響なのか、進んでいますね。
 そして、冬休みにみんなで茶屋街へ出かけたときのこと。茶屋街は天使の家からさほど遠くなく、行事時にはよく遊びに連れていかれたので飽きていましたが。高校生なら適当に用事を作って参加しない人もいました。でも京都ほどではありませんがそこそこ有名で、江戸時代の風情を残した綺麗な街です。
 レトロな雑貨屋を巡り、絵はがきや、金箔を使った小物などを見たあと、茶屋で抹茶を飲んでからそばの温泉宿に一泊します。その夜、みんなで大浴場に向かう途中、男女分かれる直前で私はつい小夜子の姿をさがしました。が、見つけられませんでした。……入浴をおえて廊下に出ると、小夜子がやってきます。女湯のほうからではありません。小夜子は宿の備品である浴衣を着て、髪を湿らせていました。
 なにか違和感を覚えて、まだデリカシーに欠けていた私は小夜子に風呂はどうしたのかと聞いてしまいました。小夜子は言葉を濁します。……それから小夜子は私の手を引いて、デートに誘ってくれました。男の子たちの口笛を背後に向かったのは、中庭に面した休憩所です。
 入浴しているあいだに、雪が降っていたようでした。窓から見える日本庭園がうっすら白く染まっています。私たちは長椅子に座って、その光景を眺めながらおしゃべりしました。会話の内容は記憶のかぎり――やあね、男どもはガキなんだから。影次(かげつぐ)くん、気にしなくていいのよ。
 私はうん、と相槌を打ちました。――でも最近は女もヤダ。あたしのこと男好きとか意地悪言うのよ。……あたし、もう影次くんさえいればいいや!
 浴衣の袖が引っ張られたかと思うと、ほんの一瞬だけ、唇になにかやわらかいものが触れました。シャンプーの香りと、すぐに体を離した小夜子の、ちらりと見えた胸の谷間。小夜子は一言二言、慌てた様子でなにか言うとそのまま去っていってしまいました。小夜子はこんなドラマを演じるためだけに私を呼んだのでしょうか。そのあと、私はトイレで陰茎を濡らしました。カウパーです。
 こうして私と小夜子は恋人の真似事をするようになりました。家に帰ってから私たちはいつも以上に一緒にいて、人目を忍んではキスを交わしました。かわいい思い出です。……ところで、一つだけ寂しく感じたことがありました。例の白髪で太っちょの先生とあまり関わらなくなっていたのです。
 基本、好かれている先生でしたが実は、一部思春期の女の子たちのあいだでは嫌われていました。遊んでいると先生がまざりにきてさりげなく体を触られる、セクハラ臭い、と噂が立っていたのです。小夜子もなにか心当たりがあったのか、先生を避けるようになりました。小夜子に嫌な思いをさせたくなかったので、私もそれに従っていました。当時は先生がそんな嫌らしいことしていたなんて、内心信じていませんでしたが。……今思い出すと私、結構脚を撫で廻されていたかも知れません。
 そろそろ、幼さゆえに私が招いてしまった崩壊の話をしたいと思います。単純な話です。ちょうど誰もいなかった家の図書室で、私と小夜子は戯れていました。小夜子がキスをせがんできます。小夜子が着ている部屋着のTシャツの襟は相変わらず伸びていました。唇を重ねます。ふっと獣欲がわきました。小夜子がヒステリーを起こした小動物のような声をあげて、私を突き飛ばします。
 私は、無意識に小夜子の胸を触っていたのです。小夜子が部屋を飛び出すと、自失している私のもとへ職員たちがやってきました。私はあっと言う間に捕らえられ、居間に連行されました。みんなが集められました。職員が私の恥辱的な罪を説明します。私は衣服を剥がされてしまいました。職員たちのなかに、もちろん先生もいます。先生は無表情で鞭を抜きました。
 一撃は、ぼんやりとしていた私の頭を冴えさせました。この恥知らず! と、職員の罵声が聞こえました。それから全身に切られるような痛みを与えられて、私はわめいたと思います。色々と体位を変えられて、視界から口元を手で押さえている小夜子の姿が見えたり隠れたりしました。……しばらくすると鋭かったはずの痛みは次第に麻痺してきたように感じられましたが、内股をとくに強く打たれて衝撃が復活した瞬間、私の意識はふわりと浮きました。苦痛に耐えられるようにと、脳がプレゼントしてくれた陶酔の境地でした。そこで刑の執行はおわります。
 私は勃起しました。が、すぐに萎えました。それからまた自失していましたが、夜になると現実に戻り、あまりの恥ずかしさに布団をかぶり縮こまっていました。鞭打ちの光景は周囲もショックを受けます。同室の男の子たちはありがたいことに、私を放っておいてくれました。そのうちみんな寝静まります。……私はひりひり痛む肌をさすっていました。
 なかなか寝つけずにいると、襖が細く開いて――影次くん、起きてるかい? 先生の優しい声でした。私を呼んでいます。身を起こし、男の子たちの眠りを覚まさせないよう注意しながら、一条の光を頼りに私は廊下へ出ました。久々にまともに見た先生。白髪がやや薄くなり、皺も深くなって老けていた事実に気がつきました。
 ――ごめんよ、痛かっただろう? と、先生が私の頭を撫でてくれます。私は我慢の限界に達して、先生のまるいお腹に泣きつきました。
 そのあと、六年生に進級する間近に小夜子が死にました。
 小夜子は私に、夢を見ていたのでしょう。私のことを王子さまかなにかだと思っていたのかも知れません。当時の私にそんなことは察せず、汚い欲望で乙女の幻想を凌辱してしまった。鞭で打たれた私以上に、小夜子は傷ついた。事件のあと小夜子は抜け殻のようになっていました。……明日から春休みという日、一人で下校していた小夜子は信号の色が見えなかったようです。
 仲直りする機会を永遠に失ってしまいました。葬儀がおわってから私は塞ぎ込み、小夜子が死んだのは自分のせいだと思いつめました。そして慰めてくれる先生に、錯乱した私はまた鞭で打ってくれ、罰してくれと頼みました。
 ……最初に語った彼の場合は一回の罰で改心し、立ち直ることもできたでしょう。しかし私は初恋の人を裏切り、殺してしまったのです。私の罪悪感はあまりにも永続的です。もう一度、あの鞭打ちの痛みと、それを越えた先にある陶酔に気を紛らわせなければどうにかなりそうでした。
 先生は当惑した様子を見せつつも、承諾してくれました。夜中に迎えにいくから起きてなさい、と。私は夜更け、布団の中にいると気分が沈んで寝つけなくなっていたので、それほど難しい約束ではありませんでした。やがて先生がやってきて、私は礼拝堂の裏手へと連れていかれました。
 天使の家はミッション系の施設ではありましたがそれは形だけで、礼拝堂は日曜日とクリスマスに使われる程度です。……それが真夜中に、ステンドグラスからほのかに明かりが感じられたのと、なにか物音が聞こえたような気がして不思議に思いましたが先生はなにも答えてくれません。私はさっさと鞭で打たれたかったので、深くは聞きませんでした。
 パジャマを脱ぐよう言われても、不審に感じませんでした。鞭打ちの受刑者は下着のみになるのが通例ですから。……優しい先生の手による私刑で、しかも外なのに。先生はひざまずいた私の背中を撫でてから、鞭を振るいました。
 叩かれているあいだ、私は小夜子のことを思い出していました。私と同じく最初から家にいて、一緒に育ってきた小夜子。見る見るうちに私の陰茎を立たせるほど成長した小夜子。無邪気に、女の子同士のようにままごと遊びをしていたころ。無邪気に、恋人同士のように戯れていたころ。――ああ、ごめんなさい。おっぱい触ってごめんなさい。小夜子はタイヤに潰されてしまいました。
 涙を流し、陶酔状態に達した途端、小さく声を漏らしてしまいました。苦鳴とは異なる声の響きに反応したのか、先生が鞭打ちをやめて私の体を起こし、心配そうに様子を見てきます。先生は私の股間を凝視しました。私は下着をぐっしょり濡らしていたのです。……精通していました。
 それからしばらくして私はまた不安定になりました。鞭が欲しい。麻薬のようです。先生に再度頼みにいきました。今度は、どこか嬉しそうに承諾してくれました。礼拝堂に向かいましたが裏手に廻らず、先生は扉に手をかけます。
 開錠して中へ入ると、電灯があるというのに蝋燭の灯火が揺らいでいました。煤けたステンドグラスの聖母がぼやけて見えて、不気味だったのを覚えています。鞭で肌を打つ音と、呻き声が響いていました。薄暗さに目が慣れてくると、それは職員たちであることがわかります。さながら聖職者たちの苦行のようでした。
 なにがなんだかわけがわからなくて呆然としている私を差し置いて、先生はその場にいた施設長……神経質そうな顔をしていて、職員たち以上にそっけない印象のある人でした……と会話をはじめます。施設長は――大丈夫なのか? 先生――この子なら平気です。今のうちにちょっと才能を伸ばしてやれば旦那さまも喜ぶでしょう。初物を盗ってはいけませんが。施設長――この子は条件も容姿もいい、確実に選ばれるだろうからな。小夜子は残念だった。
 私は首を傾げました。でも、周りの状況のほうが気になります。職員の一人が長椅子に手をついて、でっぷりとした尻を突き出していました。別の職員がその尻を打っています。打たれているほうはなにかをひたすら謝っていました。また別の職員は壁に張りつき、背中を打たせています。講壇に寄りかかり、胸を打たせている職員もいました。みんな没入していて、私の存在など気がついていないようでした。
 先生と施設長が話をおえます。私は衣類を下着も含めて脱がされてしまいました。先生の鞭は私の尻を重点的に打ってきます。先生が小夜子のことで私を罵りました。私は許しを請い、叫び、達しましたが精水を放出することはできませんでした。肛門に覚えた異物感が邪魔だったのです。施設長が、持っていたロザリオの十字架で弄っていたのでした。
 ……先生がこのことは誰にも言ってはいけないと、私に言い聞かせました。別に口どめされなくとも、口外する気はありません。小夜子が死んでから陰気になった私は、家でも学校でも孤立しつつあったからです。そしてなによりも自慰を告白するような後ろめたさがありました。私はもう、鞭の快楽の虜になっていたのです。鞭打ちの宴のあと、私は手淫で放出しました。
 それから家で重度の、社会に適合できない子から小夜子が死んだのはお前のせいだなどと言われたとき、私は再び宴に参加しました。……職員たちが鞭をちらつかせながらも、家を完全に粛正しないのはきっと、子供たちを鞭で打てる機会を失わないようにするためでしょうね。
 こうして私は、私のせいで死にそうな女性に愛執を抱くようになりました。その罪悪感を快楽に変換するのが大好きです。最後に、おまけを一つ。
 私はある日、先生の自室に呼ばれました。先生は一着のかわいらしいワンピースとかつらを用意していました。ワンピースは紺色で、丸襟とカフスの部分だけが白く、膝までのスカートはふんわりしていたと思います。先生が私にそれを着て欲しいと頼んできました。私は恥ずかしさから渋りましたが、そのうち根負けしました。男の子らしい青色のラインが入ったくるぶし丈の靴下を穿いていましたが、ワンピースに合わないからと脱がされました。先生が靴下のことはすっかり忘れていたな、と呟きます。
 ワンピースを着て、かつらをかぶった私を先生は洗面所へ連れていきます。鏡を見せてくれました。……我ながらかわいかったこと! 小夜子と同じ、長い黒髪に感動したことを覚えています。
 洗面所から引き返せば、先生が鞭を抜きました。私はスカートをまくり、尻を出して四つん這いになります。打たれながら、私は自分が小夜子になった妄想をしていました。――なんであたしが死ななきゃいけないの! 影次くんが死ねばよかったのに! ……非常に興奮しました。達して崩れると、先生がいきなり私の下着を剥ぎ、悪戯をします。後ろに指を捩じ込まれ、陰茎を愛撫されました。
 小夜子が凌辱されている気分になり、放出しました。先生は耐えられなくなったのかズボンの前を開けて、陰茎を私のスカートに包んで扱き、汚します。私は憧れていた女の子という性の疑似体験をしたのでした。……」
 原稿から視線を離すと、サテュロスと目が合った。鋭い形の目。今にも大声をあげて笑い出しそうな下品な口元。優美な巻き毛の長髪をもつ頭には、つのがはえていた。筋骨隆々とした上半身と、巨大な陰茎を立たせている山羊の下半身。女と美少年と酒を好む、そんな精霊の像の周囲で観客たちは手淫に耽っている。
「では、この辺で。次回は私がここ、人工楽園エデンに勤めるまでを語ります」
 立ちあがるとともに体内から、椅子と一体化していたディルドが抜けた。手の空いている客の拍手がまばらに響く。舞台をおりて、原稿をサテュロスの足元へ投げ出し、深々と客たちに頭をさげた。
「どうぞみなさま、私の人生を凌辱してください」
 男性は精水を、少ない女性はドレスをまくって腰を落とし、尿を原稿に振りかけた。手書きした文字が汚く滲んでいく。
「さぞかし君の小さなころは魅力的だっただろうなあ。そのころから会えていたらなあ」
 エデンに通いはじめたばかりの客が、原稿に糞を放りながら言った。もう判読すらできなくなっている。
「しかも引退してしまうなんて」
「……この催しがおわるまで、どうか愛玩してください」
 客たちが好き放題したあと、汚物の山ができた原稿を素足で踏んだ。屈んでサテュロスの石の陰茎に口づけて、吸茎をする。そのあいだ俺は客たちに色々と悪戯された。撫でる人、叩く人、入ってくる人。うっかり石にぶつけて、歯が欠けないようにする。たかぶった客がなにか罵声をあげた。この様子を、カメラを構えた旦那さまが広間の片隅で収めている。
 そのまま客たちが満足するまで身を捧げると、丑三つ時になってしまった。使用人たちがその場を手早く掃除して、俺の体もかんたんに清めてくれる。それから添い寝をする予定の旦那さまに、ベッドが汚れるかも知れないが気怠いから入浴は朝でもいいかと聞く。
 旦那さまは笑ってうなずいてくれた。広間を出て、途中階段の踊り場のポールに全裸で拘束されていた女奴隷を尻目に、三階右ウイングのいちばん奥にある旦那さまの部屋に向かった。廊下に並んでいる一枚の板チョコレートのようなドアとは違う、両開きの重厚なドアを開ける。
 メンズコルセットを外し、円形のベッドに腰かけた。解放感に息を吐きつつ、なんとなく目の前の棚を見る。樹脂で固めた様々な種類のカタツムリの殻が置かれていた。梅雨なら道端でよく見かける地味なものから、赤と黒のマーブル模様の派手なもの。ほかには乾燥させた褐色の薔薇、猿の髑髏、エロチックな写真集と画集。旦那さまの表のコレクションたち。
「サテュロスに口づけをするお前は、この絵画にそっくりだ」
 ダークグレーのスーツと、下着まで脱いだ旦那さまが隣に座り、俺が視線を向けていたほうからやや逸れた位置を指差した。指の先、壁にかけてある色彩がけばけばしい、南国の昆虫標本の横には木炭と鉛筆で描かれた絵があった。月夜、サテュロスの像に裸の少女が絡みついている絵だ。少女のそばには目隠しのキューピッド。
「旦那さま……」
「さあ、もう寝よう」
 照明を消して布団に一緒に包まり、肌を合わせる。旦那さまの老いながらも精悍な顔立ちを眺めつつ、俺は静かに泣いた。子供のころの、寝る前の憂鬱な気分を最近ぶり返していた。

2015年6月5日公開

作品集『咎の園』第1話 (全9話)

© 2015 山本ハイジ

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