うちのお父さんはあがり症で小心者だ。家族にとって重大な問題をはなしあうために、僕まで駆りだされた。とうのほんにんたち、兄貴とかれのおんなたちはだれも出席しないのだけれど。
お父さんは車を運転しながら器用なのかそうでもないのか、たばこをすぱすぱと吸う。そのだいすきなたばこすらも、ほぼひとのまえでは吸わないで、家と一人になれるときだけ吸っているとほんにんはいっている。お父さんは稼いでいるが、お母さんの尻にしかれ、こづかいはかなりすくないらしく、一日に五本しかそのだいすきなマルボロライトを吸っていないのだ。二十歳になったらたばこを吸うのは僕のささやかな夢でもある。
「亮、今日、なんとかなるかな」
「なんとかって?」
「まるく収まるかってことだよ」
「さあ」
僕はじぶんの機嫌がそんなによくないことをしった。きょうは日曜日。学校が休みの日くらい家にいさせてくれよ。だらだらするのが僕のすくないたのしみなのだから。
「亮……お父さんを安心させること言ってくれよ」
やはりお父さんは小心者だ。
「刃傷沙汰にはならないから安心しなよ」
「……余計不安になってきた……」
いまでは日本中にあるファミレスのなかでも安価な部類のチェーン店の駐車場に、お父さんは車をとめる。いつも下手なのに、きょうはよけいに下手で、何回もハンドルをきりかえして、バックでいれた。
いちおう、僕の家が問題の真んなかなので、お父さんははやめに会議の舞台であるここにきた。緑色のエプロンの店員さんにお父さんは「後でくるのでたくさんひとが座れる席に通してください」という。どうせあっても禁煙席にすわるのだろうが、いまどきファミレスは全席禁煙だ。
ファミレスの壁にかかっている絵画のコピーや、天井にもかかれた絵を僕はながめた。お父さんはハンカチで額をふいている。お父さんはSEなのでそのへんに理解を示してくれて、スマホだけではなく、僕も兄貴もじぶんのパソコンを所持している。steamで買ったばかりのゲームをやりたいと僕はぼんやりとおもう。
お父さんはほかにだれもきていないのでドリンクバーをたのむのも億劫なのか、僕に頻繁に水をとりにいかせて、そればかりをのみ、しまいには腹をくだして、もち歩いているきゅうな腹痛にきく、くすりを水なし一錠嚥下した。
僕はそのあいだ、店内やお父さんをときおりみながら、Twitterでどうでもいいことをつぶやく。最近では○○なう、とつぶやくひともすくない。僕も昔はおっさんぶって、平日の昼間からルービーなう!と嘘ツイートをしたものだ。
そしてそろい合わせたように中年のおとこたちが、店内をみわたしお父さんをみつけるとやってきた。きょうのはなしあいに参加する四家族の父親達がそろう。僕も含め総勢五人だ。
「こんにちは」
みなそれぞれに挨拶する。三人ともお父さんがじぜんにおしえていたのか、僕を兄貴だと勘違いはしなかった。禿頭の腹がでている樋川さんいがいは表情がかたい。ご近所さんでもあるかれがすわると同時に店員さんがジョッキにはいったビールをもってくる。
「運転大丈夫なんですか?」
喉から白けた声がでた。田舎なので歩きでファミレスまでくるひとはすくない。
「カカカ。近くのスーパーで女房に買い物させとるからな。わしがいくら飲んでも運転手役はいるんやでえ」
僕達がすんでいるのは昔は新興住宅地だったので、よそから引っ越してきたひともおおい。
「そうですか」
「皆さんも何か頼みますか? 私もドリンクバーと何か軽いものを頼みます」
「……」
オールバックでジャージ姿の北村さんと、お父さんとおなじくYシャツ姿の加島さんもソファのような席にすわり、メニューをながめてすぐにパスタとドリンクバーをたのむことにきめたようだ。樋川さんはそのときにビールをおかわりした。このファミレスはビールも業界のなかでかなりやすいほうだと、まえにコンビニにおいてあった、五百円の貧乏特集のペーパーバックに書いてあった。
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