鬼哭蒐集(誤字にあらず)
亡霊の未練や嘆きを蒐集する。
・題名由来
壱「因循固陋」
↓
いんじゅんこそく【因循姑息】
古い習慣ややり方にとらわれて改めようとせず、その場しのぎに終始するさま。
「因循」は因より循したがう意から、しきたりにとらわれて改めようとしないこと。
「姑息」は姑しばらく息をつく意から、一時の間に合わせのこと。
×
がんめい-ころう【頑迷固陋】
頑固で視野が狭く、道理をわきまえないさま。また、自分の考えに固執して柔軟でなく、正しい判断ができないさま。頭が古くかたくななさま。
「頑迷」はかたくなで道理に暗いこと。「迷」は「冥」と書くこともある。
「固陋」はかたくなで見識が狭いこと。また、頑固で古いものに固執すること。
・後日談
手取「それにしても、【赦す】だなんて大吉クンも惨いことを言うのだね」
赫哭(……菴……)
手取「とぼけないでよ。白々しい」
手取「君からの断罪を得られなかったから、ミジャノメサマも鬼哭になってしまったというのに」
手取「君もソレをわかっていたうえで、あんなことを言ったんだろう?」
赫哭(……蠕梧t蜈医↓遶九◆縺)
手取「へえ。永久にその罪悪感を抱えていろ、ということかい」
手取「なんともまぁ……。死に際に呪詛や罵声でも吐かれた方がミジャノメサマにとっては救いだっただろうに」
手取「これが君なりの復讐、か」
手取「……まあ、そのおかげでボクの蒐集品がひとつ増えたんだ。感謝こそすれ、責めはしないさ」
・単語
鬼哭……亡霊の嘆き。大元の亡霊の魂が黄泉に逝ったり、消滅したりしても、強い念となった嘆きは消えない。
あったかもしれない一幕。
↓
東雲「さながら、染みついた古い血痕のようですね」
手取「はぁ、これだから素人は。鬼哭をそんなものに例えないでくれよ。彼らは芸術的なまでに麗しいのだから」
東雲「麗しい? 鬼哭が? 悍ましいの間違いでしょう」
手取「わかってない、君は全くわかってないよ! 人間の想いは死に際にこそ輝くのさ。さながら、散りゆく桜のように、花火のように。そして、死してなお残る鮮やかな嘆き。これを芸術と、麗しいと言わずとして何という!!」
東雲「人の死に際の想いなど、そのように綺麗なシロモノじゃありませんよ……」
手取「へぇ? ずいぶんと実感がこもっているじゃないか」
部屋には残留思念が僅かに沈殿していた。
なんでも屋たる手取は、依頼をこなすべく床に、正確にはそこにこびりついている残留思念に触れた。
「よほど、衝撃的な事があったんだろうね。二十年前なのに、思念とそれに付随する記憶が鮮やかだ」
そう呟いた手取は術を行使し、残された思念の記憶を映す。
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老人は宛がわれた部屋で独り、思案に暮れていた。
かれこれ、もう数時間はこうして腕を組み迷っている。
迷いもしよう、なにしろ若き命の未来がかかっているのだ。
目の前には紙が二枚。
いずれも文字が書いてある。
さて、どちらを選ぶべきか。
再び思考の海に沈みかけたとき、その広々とした和室に一人の男が現れた。
彼は入室の作法を守りつつも、逸る気持ちを抑えきれぬようだ。
さらにいえば、今が幸せの頂きであるかのように喜色を顔に浮かべている。
そうして、彼は部屋に鎮座していた老人へ報告する。
「高祖父様! 先ほど妻が無事に出産を終えたとの知らせが」
「おお、そうか!」
報告を聞いた老人も、つられるように目尻を下げ、頬を緩める。
そして、慌てたように二枚の紙を手に取る。
「名前の候補を二つまでに絞ったのだがな……『謙多郎』と『響ノ介』で迷っておって、これがまた中々に甲乙つけがたい」
「高祖父様の名付けならば、どちらでも間違いはないでしょう」
「しかしな……うむむ、強いて言えば、『響ノ介』は陰陽配列の均衡が欠点か」
そう言って、名前候補が書かれた紙をそれぞれ交互に見る老人。
老人は玄孫への情が確かにあるのだ、と男に信じさせるのには、その言動で十分だった。
したがって、男は何の気負いもなく告げた。
「……候補が二つあるのならば、両方を名付けられては如何でしょうか」
「寿限無の真似事か? おぬしが冗談を言うとは珍しい」
「いえ……高祖父様」
「どうした?」
「生まれてきたのは双子です」
「なんだと」
「双子の男児が生まれたのです」
――双子は心中した男女の生まれ変わりだ、と言う迷信は既に廃れている。
この家は役目のこともあり、少々保守的すぎるが、そんな前時代的な迷信を信じるほどではない。
なにより、当主の座を退いて久しいとはいえ、実権を握っている目の前の老人『無限命数』が双子を擁護するならば、親族からの反発は抑え込めるだろう。
――などと、男は考えていたが、それはあくまで男の信じたいことでしかなかった。
「片方、殺せ」
「なっ!?」
老人の放った非道な言葉に、男は衝撃を受けて言葉を失う。
いや、老人にとっては、先程の言葉など非道でもなんでもないのだろう。
それが、当然の理であるとでも言うかのように。
「何を呆けておる。聞こえなかったか? 双子の片方を……そうだな、後から生まれた方を殺せ。なに、死産だったことにすればいい。産婆がいたとはいえ、自然出産だ。片方死んでいてもおかしくはない」
老人が何事かをつらつらと話しているのも、男の耳にはろくに入ってこなかった。
ただ、絶望が男の目の前を暗くするばかりである。
先ほどまで、なるほどたしかに男は幸せの頂きにいたことだろう。
ただ、なにごとも頂上に至れば、後は下り坂だ。
それを、転げ落ちるか緩やかに下るかの違いしかないのだ。
東雲「ここが、座敷牢です」
手取「なるほど、ここが」
東雲「……」
手取「この辺りだけ埃が積もっている。足跡すらない」
「それに、ほら。あちこちに蜘蛛の巣もある」
「他の場所は綺麗に掃除されているのに、おかしいね?」
東雲「貴方、わかっていて言っているんでしょう」
手取「はは、バレたか。……皆、よっぽど此処に近づきたくないのだね」
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「東雲家当主を誑かした女狐だと常々思っておったが……」
「……」
「真に狐狗狸の類だとは思わなんだ」
「私は人間です。何をもって、私を虐げるのですか」
「双子を産んだ、それだけで十分であろう」
「また時代錯誤なことを」
「だまれ、畜生腹の女! 嗚呼、忌々しい」
僕は父のことが苦手だった。幼少期から長男として厳しく躾けられたからだ。子供のころに抱いた恐怖が今でも残っているのだろう。そんな父から逃げるようにして、卒業後すぐに僕は上京した。幸い就職先も見つかり、出会いにも恵まれて妻と知り合う事ができた。妻と結婚して数年後に妻の妊娠が発覚し、二人で我が子の誕生を心待ちにしていた。あの頃が僕の人生の中で一番幸せだった。
妻が帰らぬ人となったあの日のことは、あまりに混乱していたせいでよく覚えていない。
医者は丁寧に説明してくれたが、僕の頭には入ってこなかった。目の前の現実を否定したくて堪らなかった。子どもの容態が悪いので、予定日より前だが帝王切開とやらで子どもをとり上げた。しかし、その帝王切開で切った腹からの出血が止まらず、妻が……亡くなったのだと。
帝王切開前に僕はその同意書に署名したらしいが、その記憶が無い。「妻の命か子供の命か」なんて、そんな残酷な選択は僕にはできない。きっと、妻なら子どもを選ぶだろうと、その選択をしたのだと思う。
妻との死別を嘆き哀しみはすれど、後悔はない。無垢な笑顔を僕に向ける我が子を抱き上げる。「綾」と名付けた我が子。この子への愛しさを思えば、この暗闇の中に放り出されたような寄る辺なさの中でも生きていける、生きていかなくてはならないと思えた。
しかし、そんな思いだけではどうにもならないこともある。例えば、自分が働いている間、誰が綾の面倒を見る? 日中は育児施設に預けるにしても、残業がある僕では迎えに行けない。それどころか、日々の家事も僕では禄にできないだろう。
そのような理由で、僕は実家に帰った。情けないけれど、男手ひとつで綾を育てるのは難しいとの判断だった。僕は今まで、家事を妻に任せきりだったことを後悔した。
最初は「どの面下げて帰ってきた」などと罵倒してきた父であったが、僕が真摯に頼みこむと渋々ながらも迎え入れてくれた。上京してからも連絡をしていた母の援護も大きい。
家業を継がなかった僕に対して、父の態度は厳しい。母曰く、あれでも僕が帰ってきたことを喜んでいるというが、僕にはとても信じられなかった。
そして、意外なことに父は綾の面倒をよくみてくれた。それどころか、綾をかなり可愛がっているようだった。そして、そんな父に綾もよく懐いた。僕よりも懐いているようで複雑な心境にもなった時もあるくらいだ。
飄々とした性格。 つかみどころがない。
○本質欲求 蒐集欲 ○魂魄刻印←(先天的・生託的) 【蒐集】 ○血誓刻印←(後天的・人為的) 【衒】
○魂魄刻印/解放 「鬼哭啾啾」 ○血誓刻印/展開 「衒鬼」
○伝庸術法(伝統×凡庸) <降霊術(凶)> 悪霊を降ろす。 <神降術(歪)> 対象への信仰心が足りなくても、神降しできる裏技。 <口寄術(橋)> 代弁する。 <口寄術(鏡)> その想いに同調し、理解する。 隠し立ては不可能。 ただし、自己は保持できる。 <口寄術(饗)> 完全に成りきる。 例え、自己を忘れても、失うことだけは避けねばならない。 忘れたものは思い出せる。消失したわけではないのだから。 ○固有術法 <蒐集式強制契約術> 自らの蒐集品とした意思を持つモノと強制的に契約を結べる。 ○特性 <依代体質(極)> 神から残留思念まで、あらゆる霊体を自らに宿らせることができる。なお、契約していない霊体を宿らせる場合、双方の承諾が必要。
癖のない黒髪のおかっぱ頭。 目を閉じているかのような細目。 あまり見えないが、紫眼。 ここぞというときに開眼。 とても長身。かつ、筋肉質。
石川県出身。
渦中にありながら傍観者。 (一応、主人公)
厳格で、機械のように無感動。 ただ東雲家の腐敗を嘆いてはいるようだ。
青龍→清流→きよながれ→キヨナガ→キヨナガ様
嫉妬深い。執念深い。
白い鱗に緑眼が特徴の大蛇。 なによりも特徴的なのは、額に第三の目がある。 霊感のある人にしか見えない。 昔は、霊感の有無にかかわらず、姿を現したり姿を消したりできたが、今は無理。
洪水の多い土地を守る役目を持つ土地神だった。 しかし、堤防なども発達し、徐々に神社は寂れ忘れ去られていく。 そんななか、(友達がいないと父親に心配をかけるからと)友達と遊んでいるように帰りを遅くするため、大吉が神社へよく訪れるようになる。 そして、父親の風邪が早く治るようにと大吉がミジャノメサマの神社で祈ったことで、信仰が成立する。
神は人々の信仰が力となり、人々に忘れ去られると消える。 大吉が10代のときに、近所のおばあさんが亡くなり、唯一の信仰者になった大吉にミジャノメサマはより執着する。 最初は、大吉に信仰を広めるように言い含めるが、そのうち信仰してくれるのは大吉だけでも良いと思うようになる。
とてもおおらかで心が広い。滅多に怒ることはないが、怒りだすと怖い面も持ってる。 常に空気を呼んで行動することができ、明るい雰囲気が非常にすき。 子供っぽい。喜怒哀楽の感情の振れ幅が大きい。
つり目だが、眠たげな目なので、つり目だとわかりにくい。 赫眼。(おそらく、目だけ色素が薄いアルビノ?) 黒髪短髪。ぼさぼさ。寝ぐせがいつもある。 中肉中背。
忌み子として殺されそうになったとき、母親に助けられる。 直後、父親に連れられて、実家から逃亡。 そして、父親は親友に大吉を託し、力尽きる。父親は致死性呪詛を受けていたのだ。 その後、父の友が養父となるが……。
5歳のとき、近所の神社で祭られているミジャノメサマと会う。 20歳のとき、養父に自らの生い立ちを話してもらう。 翌日、養父が呪殺される。 大吉を守るため、怨霊を取り込んで鎮めてきたミジャノメサマは、荒魂に堕ちつつあった。 また、荒魂になる前に悪い芽は摘もう、と顕太朗率いる東雲家が封じようとしてきた。 最近、大吉が双子の兄と仲がいい様子を見て、嫉妬するミジャノメサマ。 実父と養父を呪殺した犯人は東雲家だと大吉に告げる。 それは本当だったが、父親呪殺は顕太朗が主犯だと嘘をつく。 あの兄がそんなことするはずない、と必死に否定する大吉にミジャノメサマは、十年以上守ってくれた神より最近会ったばかりの人を信用するのか、と問う。 そして、東雲家が憎いだろう、と唆された大吉は、ミジャノメサマの力を用いて、復讐する。 一般人も巻き添えにして。
大量呪殺の犯人が実弟の大吉であると知った、謙多郎と闘いになる。 その中で、ミジャノメサマからもらった大吉のお守りが落ち、謙多郎に踏みつぶされて破れる。 それによって、大吉の危機を知ったミジャノメサマが乱入。 ミジャノメサマの言動から謙多郎が、「おまえが、大吉を唆したんだな!!」と激怒。 だが、顕太朗からミジャノメサマを庇って大吉が瀕死に。 顕太朗が驚きから硬直している隙に、ミジャノメサマが顕太朗を殺す。 ミジャノメサマが駆け付けた時には大吉は虫の息。助かるのは絶望的。 最期に「何故、庇った?」とミジャノメサマが聞くと、大吉が「唯一の友達を助けることは、なにもおかしなことじゃないだろ」と答える。 ミジャノメサマが謝りながら、顕太朗は父親呪殺に関わっていないのだと、自らの嘘を明かす。 すると、大吉は「そっか、そうかぁ……」と言いながら涙を流し、「それでも……ミジャノメサマの過ちを赦すよ」と言ったのを最後にこときれる。 それからややあって、大吉の死によりミジャノメサマへの最後の信仰が失われ、人々からミジャノメサマが完全に忘れ去られたことで、ミジャノメサマもまた消失してゆく。 それらの終わりを見届けた手取は、新たに3つの鬼哭を蒐集品に加えたのだった……。
真面目で几帳面な性格。 やや神経質。
切れ長の目。つり目。涼しげな眼もと。黒瞳。 艶やかな黒髪。長髪を一纏めに結び、緩く背中へ流している。 長身痩躯。
名家の長男。 家柄、富、名声……それらに縛られるのはウンザリだが、持てる力は全て利用する。 実家のせいで引き離された双子の弟を気にかけている。
古くからの因習が続くこの界隈では、双子は忌み嫌われていた。 双子を産んだ母親は【畜生腹の女】との蔑称で呼ばれ、双子の弟は死産だったことにして殺されそうになる。 座敷牢に監禁された母が最期の力を振り絞って、弟を逃がす。 父親が弟を連れて実家を出奔し、母親は父親を誑かした女狐として嬲り殺される。 一方、顕太朗は次期当主として英才教育を受ける。 家守神であるキヨナガサマから前述の弟について教えられる。 そして、実家に不信感を持ち、その腐敗を知る。 一般人を守る家柄が本来の姿である、としてその是正を決意する。 そして、キヨナガサマと利害の一致から契約する。(その後、徐々に信頼関係を築く)
東雲顕太朗の母親、東雲仁奈子の怨恨を蒐集しようと訪れた【鬼哭蒐集家】手取 径(てどり けい)と会い、本編スタート。 東雲家に集う悪霊・怨霊を全て解決するから、そのかわりに仁奈子の【鬼哭】が欲しい、と言う手取に顕太朗は否を突き付ける。 東雲家に霊が集まるのはこちらでどうとでもできるから、別の条件を提示する、と。 その条件は、顕太朗が生き分かれた双子の弟を探すことだった――。
手取に依頼人が来る。
依頼人の妹の様子がおかしいと相談する。
祖父が亡くなってふさぎ込んでいた妹が元気になったと思ったら、
妄想癖を煩わせたのかもしれない……と。
「会話のような独り言が多いな」と思っていたが、
妹が「お兄ちゃんも書生さんに似てるね、よく見たら軍人さんにも」
と話したので、不審に思って詳しく話を聞いて事態が発覚。
妹にだけ見える『軍人さん』と『書生さん』
『軍人さん』は壮年の軍人で、精神論や根性論で厳しめに励ましてくれる。
部活で虐められていたときに、運動部らしく競技の上手さで圧倒し、見返してやれと発破をかけた。
部活の自主練を指導してくれる。
『書生さん』は青年の学生で、軍人さんより若いがよく似ていて兄弟なのかと考えられていた。
妹の苦手な国語や歴史を優しく教えてくれる。
おススメの本なども教えてくれるが、そのどれもが明治大正のものである。
軍人さんと書生さんは同時に現れない。
おおよそ午前に書生さん、午後に軍人さんが現れるそうだ。
「あんなこと(戦争)がなければ、
私 (書生さん)は あのよう (軍人さん)にならなくて済んだかもしれないね」
原因はお盆の時に茄子の牛だけなかったこと。
(迎え火もキュウリの馬も用意したのに、用意していた茄子が駄目になってしまった)
書生さんも軍人さんも祖父の若かりし頃の姿だった。
お盆なので、孫が心配なおじいちゃんが帰ってきちゃった話。
"いや、おかんがいうには、私は教会で洗礼もうけたプロテスタ――"へのコメント 0件