発見者

地獄に寄り道、曲がり角(第7話)

TURA

小説

3,230文字

僕の知らない場所で、僕のために捨てられた手紙。

僕は、街が一望出来る丘の上で、白い息を吐いた。周りには、綺麗に整地された芝生の上に、割に新しいアスレチックが立ち並んでいる。その一角で、欧州風デザインのベンチに座った祖父らしき老人が、小さな子供二人が駆け回るのを幸せそうに眺めていた。

更にこの上には本格的な遊具が設置され、休日は家族連れでごった返しているらしい。季節によってはその客を当てにして、移動販売のワゴン車が並んでいることもあった。皆、一様に生活に幸せそうだ。

幻影の背を追いかけて、こんなところにまで来た。陽炎を追いかけて、砂漠の真ん中に立った気分になった。迷子にはなりたくない。その一心で、どうかいてくれと願った。結局辿り着いた場所は、一体どこだったのか。

ぼくは、ぽつんと、幸せな彼らに取り囲まれた。この光景。僕はいつか、あの老人の様に、孫を持つんだろうか。迷走する今日のこの日を、若気の至りと一人笑う日が来るんだろうか。そうだ。もう、辞めればいい。そう思った。

街の方を眺めると、溶けかけた雪が道路脇に残り、その間を、車が走っていた。新しい年が、新しい街が、溶けかけた雪の中から、新芽のように顔を覗かせている。車か。そういえば、免許も取らなくちゃな。周りはとうに免許なんて取ってしまっている。心霊スポットや、オカルトカルチャーなんかにかまける僕を差し置いて。

思い返せば、今まで読点ばかり打ってきた。何も完結しないままに、途中やめにしてきたんだ。句点さえ打たなければ、続きがあるなら、陳腐な物語にせずに済む。そんな小狡い打算に則って、一つもピリオドを打ってこなかった。そうして溢れかえった句点が、黒い泡となって、喉から上がってくる。また、窒息してしまう。もういいじゃないか。ここらで、全ての遊びに終止符を打とう。

街を眺め下ろすと、焼け焦げたあの一軒家も、確かに見えた。ここはやはり、あの火災を観察するのにうってつけの場所だ。

本当は、魅力的な殺人鬼なんていない。どうせ、借金の返済に困り、やぶれかぶれで火を付けたんだ。そんな所だ。目を逸らすのに、十分なほど悲劇だ。幕引きには十分なクライマックスだ。

それでも、また、栞を持ち出すのは嫌だった。この出来事に栞を挟んで、思い出にしてしまう。いつか、続きが気になる。また、開かざるを得なくなる。ここで、終わりだ。こんなことをしていては、人生が台無しになる。馬鹿な遊びばかりやってきたんだ。きっちりと、終わらなければ。栞は捨てたんだから。

どう、終わろうか。何か、儀式が必要だな。僕はそう考えて、老人に話しを通し、子供たちとかくれんぼをすることにした。子供たちは、お年玉と親戚に会えた喜びで浮かれ切っており、僕の提案に快諾してくれた。

中心に広場のある、隠れる場所なんてほとんど無い公園だったけど、別に構わない。本当にしたかったのは、かくれんぼじゃない。

「みーつけた。」これが、言いたかった。遊びは、それでおしまい。幻の影を踏んで、それで終わりだ。

僕は、老人のそばで、カウントダウンを始めた。子供時代にケジメをつける、カウントダウン。

3.2.1.0!微笑む老人に視線を送り、僕は、子供たちを探し始めた。

揺れるブランコ、それに足跡。正直、子供たちの場所なんて、すぐに分かった。でも、それではあまりに大人気ないし味気ない。ゆっくりと、時間をかけてにじり寄っていくことにしよう。そうして僕は、全然、隠れようのない、子供さえ入れない隙間さえ、身を屈めて中を探し出した。

そのうち、滑り台やブランコらしきもの、そんな遊具が一緒くたになった、大きな複合遊具のそばまできた。大方、彼らはこの中に潜んでいるだろう。

「どこかなー?」

そう言って大袈裟に探し回ると、くすくすと笑い声が聞こえた。

僕は、跪き、複合遊具の地面からちょっと浮いた、箱形の部分の下をのぞきこんだ。……。何かあった。なんだろう。A4用紙ほどの大きさの、薄いビニール。引っ張り出してみた。ビニールの中には、一枚の手書きの手紙の様なものが入っていた。罫線で区切られた最上部を見ると、私を探すあなたへ。そう書いてある。僕は、呆然とした。裏返すと、同梱された、小さな乾燥剤が中で揺れる。僕は、子供たちを差し置いて、手紙を読み出した。

 

 

私を探すあなたへ。
僕は、部屋の窓から一番憎い、彼の部屋を眺めていました。誕生日プレゼントの双眼鏡を使って。異様に明るい月の明かりを頼って。そして、満身の憎悪を振り絞って。
僕のみている部屋の主には、3つの特徴がありました。運動が出来ました。外見に恵まれて、人を惹きつけました。そして、僕をいじめていました。
僕は、彼から受けた体と心の痛手を宿題の様に持ち帰り、耐えて冷まして縫って眠りにつくのでした。そう、明日もいじめられるために。
僕には、穴が空いていました。僕は時折、自分の穴の中に、入っていきました。穴の中には、何もありませんでした。
僕は、彼の反省を願いました。やがて彼の苦痛を願いました。遂に彼の死を願いました。
僕と彼は幼馴染でした。彼の両親は、か弱く何も出来ない僕を気にかけてくれました。僕は悩みました。
僕は夢想しました。彼が彼の父と母から生まれた様に、この夜とあの月から、彼を暗殺する幽霊が産まれたらいいのに。
僕はあいも変わらず双眼鏡を構えました。すると、彼の家の裏手の公園に、何かがいました。影の様に黒く、夜に溶け込みそれが何なのか分かりませんでした。
それは、片手にライターを持っていました。顔が見えないのに笑っているのが分かりました。そして彼の家に火をつけました。
知っているのは僕だけでした。見ているのは僕だけでした。助けられるのは僕だけでした。
家は燃え上がりました。一階の両親は助かりました。3階の彼は家と同じ様に焼け焦げました。
僕は見殺しにしました。僕は見捨てました。僕は独りになりました。
また、双眼鏡を構えました。両親が、焼け跡で泣いていました。僕はとうとう、自分を見捨てました。
双眼鏡を下に振ると、あの幽霊がライターを片手に笑っていました。僕の家にも火をつけました。
僕の家は燃えました。僕の部屋も燃えました。僕の体も燃えました。
彼の両親が、僕を助けに駆けつけようとしているのが見えました。
僕は、穴を目指して、駆けました。自分に空いた穴を目指して。

僕の残りの人生は、誰の救助も間に合わないのを、祈るばかりになりました。

亡霊の公園、秘密の穴より。

 

子供たちが痺れを切らして、方々から不満を言っているのは分かった。また手紙を裏返し、2度目を読み始める。これは、一体何だ。何が起こっているんだ。火災、死、手紙……。関係がないとは、もう思わない。偶然も、幻影も、もはや無意味な言葉になった。これほどの実像。

誰かが居る。僕の存在を察知して、僕を、どこかへ導こうとしている誰かが、この街にいる。強調線の彼だ。あの火災を起こし、痕跡を残した本を売った彼が、自分の元に、僕、もしくは僕と同じ条件を持った誰かを導こうとしている。痕跡となる本をばら撒き、放火をし、手紙を置いた。この手の混み方なら、手紙はここだけにあるわけじゃないだろう。あの火災が観察できる、いくつかの場所にあるんじゃないか。

痕跡の本だってそうだ。古本屋には、いや恐らく、県立図書館にも、もっと、たくさんあるはずだ。自分の元に導くために。なるほど。理解出来た。一つの重大な問題以外は。なぜ、そんなことをする。システムは分かる。動力源は何だ。目的は分かる。動機は何だ。なぜ、僕を呼ぶ。ラブコール?SOS?訳が分からない。

ただ、決まっていることは、これは、まだ終わらないということ。栞の次は、手紙。次は何が見つかるんだ。亡霊公園というのは何だろうな。

「何で探してくれないの?」

そう言って、帰宅を促す祖父の方へ、子供たちは、駆けていった。

僕は、去っていく子供達の背を眺めながら呟いた。

「みーつけた……。」

2022年5月9日公開

作品集『地獄に寄り道、曲がり角』第7話 (全9話)

© 2022 TURA

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