悪い仕事

天汁ちしる

小説

22,554文字

悪いとか良いとか関係ないです。これ、仕事ですから。

 

僕はその日、パソコンに向かい、椅子の背に凭れ、うたた寝をしていた。

インターホンの鳴る音がして僕は飛び起きた。ふらふらする頭で立ち上がり、インターホンに出た。

「お荷物でーす」

緑色の制服を着た配達員がモニターに映っていた。

僕は玄関に足を運び、ドアの鍵を開けて出た。

「こちらなんですが……」

配達員は透明なぷちぷちに包まれた大きなものを両手に抱えている。

「なんですかね、これ」

「いや、ちょっと……」

長さは大柄な配達員の背丈ほどもある。

大きな荷物を抱えて困った顔をしている配達員を放っておくわけにもいかず、僕はその荷物を受け取り、玄関の壁に立てかけた。重さもそれなりにはある。だいたい十キロから十五キロくらいだろうか。

「こちらにサインをお願いします」

僕は言われた箇所に堀とサインをした。

配達員はおざなりな挨拶をして玄関のドアを閉め、行ってしまった。

ドアの鍵を閉め、僕と荷物だけが残された。

これはなんだろうか。

ぷちぷちの側面に貼られた託送票には依頼主のところに僕の名前と住所。送り先のところに同上と書かれてある。こんなものを注文した覚えはないし、送った記憶もない。見覚えのない綺麗な筆跡で、文字だけでは男性とも女性ともつかない。

荷物を抱え、リビングへ移動した。

床に転がし、ベリベリと幅広の透明テープでとめられたぷちぷちを剥がしていく。すると、中からは藁半紙のような粗雑な紙で包まれた人型らしきものの輪郭が浮かび上がってきた。

藁半紙も剥ぎ取ると、下から肌色のものが見えた。

触ってみるとそれは冷たくぶよぶよとしていた。残りもべりべり毟り取っていくと、その姿形が現れた。

これは……。

ダッチワイフだった。よく雑誌の最後のページなんかに載っているあの本物そっくりとか書いてあるゴム製品。

ダッチワイフ……?

僕はとりあえず包装を全部剥がした。そして出た包装紙をゴミ袋に入れた。

床に横たわったその人形をじっと見下ろす。

よく出来ている。かなり精巧なつくりだ。中肉中背で胸と尻がやや大きい。ハーフっぽい顔立ちで、髪は金髪に近い栗色。股間にも同じような色の縮れ毛が生えている。夜に暗いなかで見たら本物の人間と見間違うことだろう。

高そうだ。こんなによく出来たダッチワイフ、出す人は出すだろう。数十万という値がついていてもおかしくない。

取り扱い説明書やそういった類いのものは一切ついていなかった。だから商品名も何も分からない。

僕はとりあえずその人形をローラと呼ぶことにした。テレビタレントの名前からもらった。遠目には似ていなくもない。

見ていると落ち着かなかったから、僕はクローゼットの中からアディダスの黒いTシャツとグレーのハーフパンツを出してきてローラに着せた。床に転がしておくのもかわいそうだったから、ソファに座らせた。

無表情な顔は天井の隅を見つめていて、両手はだらりと身体の両脇に垂れている。

僕は斜向かいに座って、ローラをじっくりと眺めた。

これはなんとかオプションというやつかもしれない。小学校の社会の授業で教わった悪徳商法。一方的に商品を送りつけて、後から代金を請求してくる。

受け取ってしまったし、梱包も解いてしまった。百万円でした、とか二百万円でーすとか言われたらどうしようか。

送り主も送り先も僕。

結論が出ない。いくら考えても答えらしきものは出ず、堂々巡りをしている。

放っておこう。こうやってここに転がしておけば特に害はない。インテリアの一種だと思えばいいのだ。

 

 

僕が従事しているのはろくでもない仕事だ。

本当にろくでもない。ろくでもない上にバカげている。会社から渡されたリストに載っている個人宅に電話をかけまくって、不動産投資をしてもらうという内容だ。

もちろん、そんな話に乗る人間などそうそういない。だが、数打ちゃ当たるとはよく言ったもので、二百件も三百件もかければ話に乗ってくれる人が一人くらいはいる。たいていが暇で孤独な老人だ。一件当たりの金額がデカいから、家や車を売っているようなものだ。月に一件でも十分に元は取れるし利益も出る。そうして得た顧客を我々は大事に繋ぎとめておく。何度も同じ人から金を引き出す。つまり儲かっていると錯覚させ、さらなる投資を引き出す。

給料も労働条件も悪くないが、こんなことをしているといつか地獄に落ちる。それは間違いない。だが、朝職場に着いてデスクに向かい、きっちり定時までやり終えるとまるで真っ当な仕事をしているような気になる。慣れてくると心も痛まなくなってくる。それでも悪いことをしていることに違いはない。

前の会社を辞めてしばらくぶらぶらしていた時に、大学時代の友人の迫田信治という男に声をかけられて始めた。

迫田は数字に強く、金に対する鋭い嗅覚を持っている。いかに楽をして儲けるかということに執心し、頭の中で常にその計算をしている。

感触を得た客は迫田に繋ぎ、迫田はそのうまい儲け話を客に信じ込ませる。

株式会社未来開発というのが会社の名前で、都内の雑居ビルの三階にオフィスを構えている。会社には僕の他にもう一人社員がいて、入間真理という三十半ばくらいのわりと美人系の女性だ。スタイルが良く、いつも黒のパンツスーツを着ている。僕と同じく迫田の学生時代の友人で、シングルマザー。小学校高学年の息子さんがいるらしい。経理事務的なことを主にやっていて、ホームページの管理や、ネットやSNSで広告を貼ったりもしている。

迫田はたまにオフィスに顔を出す程度で、いつもどこかへ出かけている。どこに行っているのかは知らないし、こっちからも聞かない。来ると自分のデスクに足をのせてスマホをいじり、鼻毛を抜いたり耳をほじくったりしている。

リストはいつも迫田がどこからだか手に入れてくる。何千人単位の個人情報が載ったリストだ。とても全部かけ切れるものではない。だがとにかく片っ端からかけまくる。前のリストが終わらないうちに次のリストが渡される。だからかける相手に困ったことはない。かける相手は無限に増えていき、僕はその膨大なストックを少しずつ削っていくために日々電話をかけ続ける。

 

その日も定時まできっちりとかけ続け、パソコンをシャットダウンしてタイムカードを押し、オフィスを出た。駅までの道を歩いている時に携帯に電話がかかってきて、画面を見ると奈保からだった。

「今日空いてる? ちょっと話あるんだけど」

付き合っているようないないような曖昧な関係だった。二ヶ月に一度くらいの頻度で会っていて、その時々によってセックスをしたりしなかったりする。

「いま帰り道で、もうすぐ駅着く」

「駅って?」

「T」

「ああ、そうじゃあ今私Iだから、来られる? ふくろう前」

「分かった。三十分くらいかかると思う」

「じゃあ、お願い」

Iまでだと山手線で十二、三分くらい。歩く時間も入れるとだいたい三十分という計算だった。

藤野奈保とは前の前の会社で知り合った。事務の派遣社員で来ていて、話をするうちに仲良くなり、仕事帰りにお酒を飲みに行ったりもするようになった。

強気で勝気な性格で、五つ年上の僕よりもよほどしっかりしている。派遣はやめて今は文具の大手メーカーで正社員として働いている。商品企画やプロモーションなどを担当しているらしい。

僕の仕事に関してははっきりとは言っていない。不動産関係のコンサルと言って誤魔化している。本当のことを言ってしまうと、すぐに辞めるように言われることは分かり切っているし、最悪の場合軽蔑され、関係を断たれてしまうかもしれない。

駅に着くと山手線内回りのホームに上がって三分程待ち、来た電車に乗り込んだ。帰宅ラッシュが始まっていて、車内はかなり込み合っていた。吊革に摑まれたらラッキーといった感じで、押しくらまんじゅう状態だった。僕は痴漢と疑われるのを避けるため、鞄を頭上に掲げるように両手で持ち、Iまでの時間をやり過ごした。

Iに着くと、スマホでふくろうまでの道順を検索し、北改札を出るのが一番いいと書いてあったからホームの端まで行って北改札を出て東口方面に進んだ。

ふくろうの前には多くの人が群れていて、その中にスマホをいじっている奈保の姿もあった。

「ごめん。お待たせ」

声をかけると奈保はスマホから顔を上げた。

「ちょっともう遅いー。六時過ぎてんじゃん」

腕時計を見ると、六時三分だった。電話をもらってから四十分ほどが経過していた。

「これでも急いだんだけどね」

憎まれ口を叩くのが慣例となっていた。

「まあ、いいや。焼き鳥でいい?」

待っている間に店の目星をつけていたようだ。

「いいねー。ちょうどビール飲みたかったとこだし」

「じゃあ、こっち」

先に立って歩き始め、僕はその後を追った。

東口を出てごちゃごちゃとした路地を入ったところにある小さな店だった。「焼き鳥串焼きゴロー」と店の看板にはある。中に入ると三組ほどのサラリーマン風の客がいるだけでがらんとしていた。僕と奈保は奥のカウンター席に着き、並んで焼き鳥を口にしながらビールを飲み始めた。

「で、話って?」

そう振ると、奈保は僕の目を見て小さくため息を吐いた。

「……実はさ、わたし結婚しようと思ってて」

頭の奥の方がカッと熱を帯び、言葉が出てこなくなった。

「会社の人なんだけど、奥さんと離婚してわたしと結婚するって言い出してて」

気持ちを落ち着けるために深呼吸をして、ビールを一口飲んだ。

「は?」

「去年の年末ぐらいから付き合ってて、昨日プロポーズされちゃった」

はにかみながら嬉しそうにそう話す奈保の顔を、僕は直視できなかった。

「子供も二人いるらしいんだけど、養育費とか家のローンのこととかで揉めてて、離婚協議中ってやつ」

子供? 家のローン?

「進くんには悪いことしちゃったかなって思ってて。これはちゃんと話しとかなきゃって」

進というのは僕の下の名前だ。堀進。偶然にしては出来過ぎた名前。

「鍋さんっていうんだよね。おでんの鍋とかの鍋」

へぇ、としか言いようがない。じゃあ、結婚したら「なべなほ」になるわけか。ずいぶんふざけた名前だ。

「いや、おめでとうって言いたいけど、ショックだね」

「ショック?」

「だってそうだろ。俺奈保ちゃんのこと好きだったんだよ」

すると、奈保はしばらく黙り込んだ。

「……そっか」

聞こえないくらいの小さな声だった。

「ほんとに結婚するの?」

また沈黙が降りる。迷っているということだろう。

「そういうやつは、またするよ。子供と奥さんを置いて家を出るようなやつはまた同じことを繰り返す」

心の中のざわつきをしずめるため、僕はそんなことを口にしていた。

「奥さんを捨てたように、奈保ちゃんのこともいつか捨てる。用済みになったら鼻をかんだティッシュみたいに捨てると思う」

「用済み?」

「そう。また別の好きな人ができて、奈保ちゃんのことは好きじゃなくなる」

自分がひどいことを、口にしてはいけないことを口にしていることは分かっていた。

「俺はそんなことはしない。今までみたいにこれからもずっと奈保ちゃんのことを好きでい続ける。だから、そんな奴と結婚なんて──」

「わたしの気持ちはどうなるの?」

「え?」

「わたしがその人のことを好きかどうかが本当の問題なんじゃない? だって捨てるとか捨てられるとかそういうことって私にもそういう可能性があるでしょ。だから、私の方が捨てるかもしれないんだし」

ああ、そうか。

「私はだから正直迷ってて、どうすればいいか分からない。鍋さんのことも好きだし、進君のことも好きなような気がするから。こんなこと言っていいのか分からないけど」

「じゃあ、結婚しない方がいいだろうね。そんなに迷ってるなら」

「え、でも鍋さんは奥さんと離婚するって言ってる」

僕は大きくかぶりを振った。

「それはそいつの問題だろ。奈保ちゃんは関係ないよ」

「え、でも私と結婚するために奥さんと……」

そんな会話を堂々巡りに二時間ほど続け、何の結論も出ないままお会計をして店を出た。

 

街の中をふらふらと歩き回り、道沿いにあった公園に入ってブランコで話の続きをした。その結果、また飲み直そうということになった。

「進くん家はどうかな? ここから近いし」

無論、ローラのことが頭に浮かぶ。

「いや、ちょっと散らかってるし……」

「それはいつものことでしょ。いいからいいから、そういうの気にしないし」

気にするも何も、あんなものを見られたら変態と思われて口も聞いてくれなくなる。

「いや、ちょっとダメなんだよ。今日は」

すると、奈保は僕の顔を不審そうに見据えた。

「あー、なんか隠してんな。ひょっとして女?」

女は女だが、人形だ。

「いや、そういうのじゃない」

「だったらなに?」

「……いや、とにかくダメなんだって」

「吐いちゃえよ。なに? 死体とかあんの?」

正直に話すしかなさそうだった。

僕は誤魔化すのを諦め、ローラが宅急便で送られてきたところから順を追って奈保に説明した。

「へぇ、気持わるー。呪われてんじゃないの、それ」

「呪いのダッチワイフ。AVでありそうだな」

奈保は一頻り笑うと、急に真顔になった。

「じゃ、行こ行こ。めっちゃ見たい、それ」

自分で買ったと疑われてはいないようだ。

「でも超リアルだから、覚悟しといて」

話は決まり、我々は公園を出て二十分ほど歩き、僕の家に着いた。

 

鍵を開けて玄関に足を踏み入れると、異臭がした。

「くっさー! なにこの臭い?」

奈保がそう言って鼻をつまむ。

あ、これは! と僕はその時思い当たった。──イカ臭さだ。イカ臭さが部屋中に充満している。

僕と奈保は靴を脱ぎ、部屋に上がった。そしてソファには全裸のローラが横たわっていた。Tシャツと短パンは床に脱ぎ捨てられている。

「なにこれ? ゴム臭?」

イカ臭さはローラから発せられていた。

奈保は鼻をくんくん言わせ、ローラを嗅ぎまわる。そして、股間辺りでその動きが停まった。

「ここ! ここ超臭い」

見ると、こげ茶色の陰毛がカピカピに白く固まっていた。

「あ、これヤってるな?」

振り返り、僕の顔を見る。

「ヤってない。マジで」

「じゃあ、嗅いでみ」

奈保にそう言われ、僕は顔を近づけてみた。

「…おっ、くっせー!」

鼻がもげるほどのイカ臭さだった。

「使用したよね?」

明らかに使用済みの臭いだ。言い逃れは出来そうにない。

「いや……、してない、してない」

「嘘吐け! あぁ、キモい」

奈保の眉間に皴が寄り、視線が僕の顔に突き刺さる。

「キモキモキモキモキモキモ、めっちゃキモーっ!」

そう言いながら奈保は後退り、靴をひっかけて部屋から逃げるように出ていった。

 

ローラを浴室に運び、ボディーソープで洗った。股の間には白濁したものがこびりついていて、指を突っ込んでそれらを搔き出しながら特に念入りに洗った。

ああ、もうダメだろう。奈保はその不倫野郎と結婚して僕のことを忘れてしまう。ダッチワイフ使用の罪で僕は奈保に捨てられ、変態キモ男となった。

風呂から出てタオルでローラの身体を拭きながら、僕は一頻り泣いた。

泣き終わると、僕はローラに服を着せ、床に並んで寝転がった。

状況から導き出される結論は一つだ。

誰かがこの部屋に侵入し、ローラのシャツと短パンを脱がせ、いたし、そのまま出ていった。

そいつはおそらく、ローラをここに送りつけてきたやつだ。しかも、合鍵を持っている。帰ってきたとき鍵はかかっていたからだ。

僕はそいつをつかまえなければならない。拷問にかけて何もかも白状させ、その動画を奈保に見せて、変態キモ男のレッテルを剥がさなければならない。

 

それから、僕は監視を始めた。

アマゾンで買った高性能監視カメラを部屋の隅に家具に紛れさせるように配置し、その映像を僕のスマホに送るよう設定した。

朝出勤中や職場に着いてからもその映像をチェックし、賊が部屋に侵入していないかを確認した。仕事中も気が気ではなく、しょっちゅうスマホを見ていた。

午前中は動きが見られず、お昼を挟んで午後も引き続き監視体制をとる。

おそらくそいつは実家暮らしか何かで、あの大きなダッチワイフを家に置いておけないからこっちに送りつけてきたのだろう。そして何らかの手段で手に入れた僕の自宅の合鍵を使い、日中の好きな時間にローラとヤりにくる。

卑劣で厚顔無恥なやつだ。度し難い身勝手さ。そのためにこっちは大切な人を失おうとしている。お前がヤリ逃げして部屋中イカ臭くなったために、変態キモ男の烙印を押され、生理的に無理という最低の地位にまで貶められた。

何が何でも捕まえなければならない。野放しにはさせておけない。真犯人を白日の下にさらけ出し、冤罪を晴らさなければならない。

午後になっても動きはなく、スマホをちらちら見ながら僕はいつもの仕事をずっと続けた。そして、もうすぐ四時というところで誰かが部屋の中に侵入してきたのが映し出された。

僕は、あっ、と思って斜め向かいのデスクでパソコンに何かを打ち込んでいた入間さんにお腹が痛くなったから帰ると告げ、急いでオフィスを出た。そして、通りを流していたタクシーを捕まえ、自宅の住所を告げた。

スマホを見ると、今まさに賊はローラといたしているところだった。角度的に尻と脚と背中しか見えていなくて、顔は見えない。まるで盗撮もののAVを観ているようだった。

「急いでください。とにかく急いで!」

だが、夕方になって道が込みだしてきていて、タクシーは遅々として進まない。

「いや、詰まってるねぇ。たぶん三十分くらいかな」

そんな悠長なことは言っていられない。

「家に泥棒が入ってるんです。早くしないと!」

「えっ、警察は呼んだ?」

住居不法侵入は成立するだろうが、犯人は何かを盗るわけではなく、ダッチワイフといたしていくだけだから、それはどんな罪になるのだろう? 器物破損かな。でもしかもあのダッチワイフは僕のではないし。もし、そいつのものだったらそれも成立しないわけだし。

「いや、ちょっと複雑な事情があって」

「はぁ、……まあ、じゃあ急ぐけど期待しないで」

そこからその胡麻塩頭の運転手は車の間をすり抜けるように車線変更を繰り返し、三十分と言っていた道のりを二十分で走破した。

五千円札一枚を置いて僕はタクシーを降り、自宅へ駆け込んだ。

だが、さきほどまで映像に映っていた賊の姿はそこにはもうなく、事を済ませて去っていった後だった。

強烈なイカ臭さだけが残されていて、あまりの悔しさに近くのゴミ箱を蹴った。

くそ! またやられた。

おそらくそいつは他人の家に侵入するというスリルと、ローラといたすという性欲とを同時に満たしているのだろう。気持ちは分からなくもないが、それでも自分がそれをやられると憤怒の感情しか湧き上がってこない。しかも、この後、その誰のか分からない男の精液を風呂場で洗い流すという屈辱が待っている。

あぁ、イカ臭い、イカ臭い、イカ臭ーい!

僕はローラを風呂場へ引っ張っていき、あの部分にシャンプーとリンスをしてそのまま空の湯船に押し込んだ。

風呂場を出て、リビングの床に転がっていたローラのTシャツと短パンを洗濯籠のなかに放り込む。

ソファにどっかりと腰を下ろすと、疲れが襲ってきた。

すんでのところで取り逃がした。とにかくそれが悔しくてたまらない。

やつもこの部屋のどこかに監視カメラを潜ませているのかもしれない。それで僕がいないことを確認したうえでヤリにきている。そうなると、ここで張り込むというのは意味がない。出かけた振りをしてどこか近くで張り込むのがよさそうだ。

あと、罠をしかけてやろう。このままではやられっぱなしだ。

部屋の棚の薬入れの中からメンソレータムを、冷蔵庫の中から辛子とワサビを出してきて風呂場へ行った。そして、ローラのあそこの奥の方にたっぷりとそれらを塗り込んだ。

これでやつは終わりだろう。あのデリケートな部分がメンソレータムとワサビと辛子によって強烈に刺激され、しばらくは使いものにならなくなる。悪くすると病院行きだ。

そうなってくると風呂場に置いておくのがもったいなくなってきて、タオルで身体を拭き、洗濯籠の中に放り込んであった服を着せ、リビングの床に寝転がらせた。

これは楽しみだ。奴が来て、ローラといたし、あそこの痛みに悶絶しているところをひっ捕らえる。あそこの腫れが動かぬ証拠というやつだ。言い逃れの余地はない。

僕は冷蔵庫から缶ビールを出してきた。

張り込み先はスタバがいいだろう。ここから歩いて五分くらいのところにある。ゆっくりコーヒーでも飲みながら気長に待つ。前払い制だからちょうどいい。すぐにダッシュで出られる。仕事は休むしかない。入間さんには悪いが、熱があってお腹が痛いとでも言っておけばいいだろう。

ビールを半分ほど飲んだところで、楽しくなってきた。

スマホで見た感じではさほどガタイも良さそうではなく、痩せてひょろっとした感じの奴だった。でも、なにか武器は欲しい。

ソファから立ち上がり、押し入れのなかを覗くと金属製の突っ張り棒があった。芯もそこそこ太くて頑丈そうで、これなら使えそうだった。その突っ張り棒を僕は玄関の傘立ての中に入れ、賊を捕獲するときに使うことにした。

これで準備は万端だ。あとは明日奴が来るのを待ち構えていればいい。

ビールを一缶飲み干すと、僕は冷凍庫にあった適当なもので夕飯を済ませ、風呂に入って寝た。興奮していた割にはあっさり眠ることができた。

夢の中で、僕はローラとセックスをしていた。だが、途中であそこの先が痛くなってきて、その痛みはだんだんエスカレートしていった。あわてて引き抜くと、先っぽには辛子とワサビがついていて真っ赤に腫れあがっていた。風呂場に駆け込んでシャワーとボディーソープで洗い流したが、それでも痛みは引かず、あそこは熟れたイチジクのように赤く爛れていた。

ああ、もうこれは一生使い物にならないかもしれない、と思ったところでスッと目が覚めた。痛みは消え、その残滓のようなものが感覚として頭の中に漂っていた。

寝る前にあんなことをしたから、こんな夢を見たのだろう。悪いことはするもんじゃない。それは自分に返ってくる。

トイレで用を足し、また布団の中に入った。

ああ、それにしても痛かった。あれはまさしく地獄だ。痛い痛い。ああ痛い。

その記憶の中の痛みを消そうと、僕は他のことを考えることにした。それは奈保のことだった。鍋というふざけた名前の不倫男と結婚しようとしている奈保。奥さんと別れるということを交換条件に、彼女に結婚を迫っている。

奈保はそいつとヤッているのだろうか?

ごつごつした体格の中年男と奈保が裸で身体を交えている映像が浮かんでくる。嫌だ、嫌だ。そんなことは考えたくない。そんなものは悪い想像でしかない。

なんとかして阻止しなければならない。そんなバカげたことを奈保にさせてはならないのだ。

 

 

僕はいつものようにスーツを着て八時前に自宅を出て、その足で近所のスタバへと向かった。

着くと普通のコーヒーと、サンドイッチとホットドッグを混ぜたような食べ物を注文した。そして、コンセント付きのカウンター席へと腰を下ろした。まだ席はまばらで、十人くらいの学生風の若者やサラリーマン、それに近所の主婦らしき人たちが間隔を空けて座り、それぞれの作業に没頭していた。

僕も鞄からノートパソコンを取り出し、画面を開いた。スマホで部屋の中の様子を確認したが、特に変化は見られない。充電プラグを差し込み、コンセントに繋げてその画面をずっと開きっ放しにしておくことにした。見落としてはいけないし、奴が入ってきたらすぐに動き出さなければならない。

九時を回ると、僕はオフィスに電話をかけ、入間さんに熱が三十八度出ていてお腹が刺されたように痛いのだといかにも苦しそうな声で伝えた。

「大丈夫ですか? 病院行った方がいいですよ」

「……ええ、これからタクシー呼んで行きます」

お大事にと言われて電話を切ると、僕はすぐに画面を切り替えた。大丈夫。まだ奴は来ていない。

罪悪感がなくもなかったが、それよりも奴に対する怒りの方が勝っていた。何より赦せないのが、奈保に誤解を与えたことだった。ダッチワイフと姦淫した変態という最悪の冤罪をなすりつけられ、ひょっとするともう二度と会ってくれないかもしれないのだ。

そう思うと居ても立っても居られず、奈保にラインを送っていた。

今、スタバで賊の監視中。

五分くらい待って既読がつき、返事がきた。

賊?

あいつだよ。ダッチワイフとヤッた変態野郎。

は? あんたじゃないの?

違うって。部屋にカメラつけて監視してるんだけど、昨日も来た。会社から帰ってる間に逃げちゃったけど。

え? マヂで?

マジマジ。で、今日有休取って近所のスタバでカメラの画像みながら張り込んでる。

へぇ、すごい。おもしろそう。

じゃあ、来なよ。お腹痛いとか言って早退して。もう、これ仕事どころじゃないって。

既読はついたが、しばらく間が空く。半ば勢いで、ダメもとだった。

そうしよっかな。なんか今日課長の機嫌悪くて居づらいし。

やはり興味はあるのだろう。

分かった。場所送るね。カウンター席の奥にいるから。

マップを送ると了解のキャラクタースタンプが送られてきて、とりあえず会話は終わった。

僕はスマホをカメラ画面に切り替え、部屋の中に異変がないことを確認すると、コーヒーを一口飲んだ。美味くも不味くもない。

スタバで普通のブラックコーヒーを頼む人の気が知れない、という記事を前に読んだことがある。──僕はいつもブラックコーヒーしか飲まない。なんとかフラペチーノだとか、なんとかマキアートなるものには一切興味がないし、一生飲まないと思う。僕はただスタバに場所を借りに来ているだけだ。美味くも不味くもない高いブラックコーヒーを飲みに来ているのではなく。静かなセンスのいい音楽の流れる店内で、ずっとそれぞれがそれぞれの作業に没頭しているというあの空間に身を置くために来ている。普通の飲食店や喫茶店だとそうはいかないだろう。あくまで何かを食べたり飲んだりするために来ていて、飲食には関係のないことをし続けるわけにはいかない。スタバに来る客の目的はおそらく二極化している。なんとかマキアートを飲みに来ている客と、そんなものはどうでもよくて集中して作業をしに来ている客とに。

一時間ほどすると、奈保が姿を見せた。鞄を置いて取っておいた隣の席に座ってもらうと、さっそくスマホの画面を見せる。

「うわっ、盗撮じゃん。ヤバっ」

「いや、これでも自分ん家だし」

「あ、これこないだのか」

奈保は床に横たわるローラを指差す。

「あそこに辛子とわさびとメンソレータムを塗り込んどいた。だからヤバいと思うよ」

すると彼女はあからさまに嫌な顔をした。

「え、キモ。そんなことしたんだ」

「悶絶してるとこをボコボコにしようと思って」

「普通に警察呼べばいいじゃん。住居不法侵入じゃない?」

まあ、たしかにそうだが。

「でも、自分の手で捕まえたいし、あのダッチワイフの謎も奴の口から吐かせたい」

「あぁ、なんで送ってきたとか。なんで堀くん家なのかとか?」

「そう」と、僕は頷いた。「なんか理由があると思うんだよね。それが知りたくて」

「まあ、たしかに。知りたいよね」

その後、奈保はカウンターでなんとかマキアートとなんとかフォカッチャを買ってきて美味しそうに食べたり飲んだりしていた。そして、交代でトイレに立ち、部屋の監視を続けた。

動きがあったのは、午後三時半を回った頃だった。

「あっ、来た!」と奈保が大きな声を上げ、慌ててスマホの画面を覗き込むと、あいつが来てローラの服を脱がせているところだった。

「よし、行こう!」

大急ぎでコーヒーカップや皿を片付け、我々はスタバを飛び出した。そして、自宅までの道を息を切らしながら走り、玄関の前に着くと二人でスマホの画面をまた確認した。

奴は自分の服も脱いで、ローラに馬乗りになっていた。

可能な限り音を立てないように鍵を差し込んでドアを開け、僕らは中に忍び込んだ。

傘立ての中の突っ張り棒を摑み、汗ばむ手でそれを握り締め、じりじりとリビングへ通じる廊下を進む。心臓が胸の中で痛いほど脈打ち、後ろを振り返ると奈保と目が合った。

僕は大きく頷き、目で彼女に決意を伝えた。

大声をあげながら、僕は部屋の中に突入した。

ローラに覆い被さっていた奴は驚き、振り返った。僕は突っ張り棒を振り上げ、そいつの背中めがけて思い切り振り下ろした。

奴は咄嗟に身体を反転させて逃れ、突っ張り棒はローラの身体でバウンドした。

二発目を狙おうと僕はまた棒を振り上げる。

すると、奴は僕に体当たりしてきた。腰のあたりにタックルをくらい、不意を打たれた僕は後ろに倒れ、その隙に奴は奈保の脇をすり抜けて玄関から逃げ出した。

起き上がり、僕は奴の後を追った。奈保も僕に続いて部屋を飛び出した。

マンションの階段を駆け下り、表の道に出て、駅とは反対方向へと折れる。奴は全裸で、五メートルほどの間隔を空けて僕らはその白い尻と背中を追っている。幸い人通りは少なく、まだ騒ぎにはなっていない。

痩せていて身軽な奴の足は速かった。住宅街の路地を何度も曲がってそのたびに姿を消され、それを何度か繰り返しているうちに完全に見失ってしまった。

「くっそー! どっかいった」

奈保が追いついてくると、僕はかぶりを振った。

「……隠れてんじゃない?」

建物の陰やエアコンの室外機の奥などを探し回ったが奴の姿はなかった。二人とも完全に息が上がっていて、それ以上どこにいるともしれない奴の行方を探す体力や気力は残っていなかった。

「ダメだ。いない」

「いないね。逃げちゃった」

奈保は力なく首を横に振る。

奴はどこかへ消えてしまった。

 

奈保が帰ると、僕はまたローラを風呂場へ引っ張り込み、精巧につくられたあそこを念入りに洗った。誰のものか分からない男の精子を洗い流し、ついでに自分もシャワーを浴びた。

風呂から上がるとローラを居間へ戻し、Tシャツと短パンを着せた。

冷蔵庫から缶ビールを出してきて飲み始める。

床に転がしたローラをソファから見下ろしながら、あいつはこれとヤっていたのかと思った。そういう経験はまだない。なんとかホールとかいうのも使ったことはないし、自慰はもっぱら自分の手で行ってきた。これも、形を変えた自慰ということになるのだろう。なにしろ人間が一人しかいなくて、片方は人形で、いわばものなのだから。

ビールを一缶飲み終えると僕は歯を磨いて寝ることにした。仕事をズル休みしたが、あいつを追いかけ回したせいで今日はひどく疲れていた。神経が張りつめていたのもある。スマホの画面を見ながら、奴がいつ現れるかとずっとドキドキしていた。緊張感から解放され、謎はますます深まり、結果眠くなった。

布団に入ると、ほどなく僕は眠りに落ちた。──夢の中にローラは出てこなかった。代わりに奈保が出てきて、僕らはまたスタバで奴の張り込みをしていた。奴が画面に現れたところで我々は自宅に駆け付け、僕がドアを開けて中に突入しようとしたところで何かに足を引っ掛けて派手に転び、床に転がったところをボコボコに殴られたり蹴られたりした。

そこで目が覚め、スマホを見るとまだ五時過ぎだった。

布団を出て、トイレで長い小便をして、手を洗うついでに水を飲んだ。

奴の顔は暗がりになっていて見えなかった。身体はデカくも小さくもなくて、やはり僕と同じくらいの背格好だった。

もう一度ベッドに入ったが眠れる気がしなくて、十五分くらい粘ったあともう起きてしまうことにした。

テレビを点けて朝のニュースを見ながらコーヒーを淹れ、パンを焼いてマーガリンを塗って食べた。ローラに変化はなく、テレビとソファの間の床に寝転がって天井を見上げていた。

星座占いで、山羊座は一位になっていた。仲間の助けを得られて、今日はなにをやってもうまくいく一日ということだった。ラッキーカラーは青。ラッキーアイテムはマスキングテープ。

七時半になるのを待って、僕は自宅を出た。

電車の中は相変わらず込んでいて、心地よかった。人がたくさんいるというのはなんだか落ち着く。僕も群衆の中の一人に過ぎず、個として認識されない。スイミーのように大きな魚の一部になった感じで、全体として意味を持つ。何かの役割を担わされるわけでもなく、大した責任もない。

職場に着くと、入間さんが既に来ていて仕事を始めていた。

「昨日はすみません。夕方くらいには熱下がってよくなりました」

「大丈夫ですか? 病院は?」

行けって言われてたんだっけ。

「軽い胃腸炎って診断でした。薬もらってそれ飲んだのが効いたみたいで」

「あぁ、よかった。心配しましたよ」

「すみません。ご心配おかけしました。今朝はもう平熱で、すっかりよくなってるから大丈夫です」

席に着いてパソコンを立ち上げる。メールを確認すると、また迫田から新しいリストが届いている。

「あ、社長午後に顔出すって言ってました」

「昨日は来たの?」

「来てません。あ、そういえば電話ありました。堀さんあてに」

「社長から?」

「ええ」と入間さんはパソコンを打つ手を止めずに答えた。「柴田さんの件って言ってましたけど、事情伝えて今日も出て来られるか分からないって言っておきましたけど」

「あ、そう。ヤベ。柴田さんね」

僕は急いで柴田の連絡先を探し、デスクトップに貼りつけてあるリストの中から探し出して電話をかけた。

プルルルという音がずっと鳴り続けているだけで、柴田が電話に出ることはなかった。

「あのおやじ、居留守使ってやがんな」

今週中に少なくとも五百万は振り込んでもらわなければならない。契約書にはしっかりと署名と捺印をもらっているし、払ってもらわないと契約不履行になる。

お昼すぎまでリストをこなしながら三十分置きくらいにかけ続けたが、柴田は一向に電話に出ない。途中から電源が入っていないか、電波の届かない場所に、になった。そして、近所のコンビニで買ってきたサンドイッチをデスクで食べていると、迫田が姿を見せた。

「堀ちゃん、大丈夫? 腹刺されたみたいに痛いんだって?」

眼鏡を外し、それを胸のポケットにしまい、椅子にどっかりと腰を下ろす。

「いや、もう大丈夫。昨日の夜にはよくなったから」

小麦色のよく灼けた肌に短く刈り上げた頭、黒いツルツルした素材のシャツに白のパンツと靴。胡散臭さのかたまりのような恰好はいつも通りだった。

「そう。ズル休みじゃないよね?」

「……いや、小学生じゃないんだし」

大きな黒目がちの目でじっと睨まれる。

「ま、いいや。で、昨日も電話した──」

「柴田さんとこだよね。なんか居留守使われちゃって、今朝から何回もかけてるんだけど出なくて」

すると迫田はテーブルに足を載せ、口の端を曲げて笑った。

「そりゃ出ないよ」

「え?」

僕は訊き返す。

「一家心中だってさ。昨日俺もかけてみて出なかったから家行ってみたら、パトカーすっごい来ててさ」

「へぇ。じゃあどうしよう」

「まあ、しょうがないんじゃない。一家全滅じゃどうしようもないよね」

僕は舌打ちをして、ため息を吐いた。

「こっちはいい迷惑だよね」

せっかく上手く進めていた話なのに。

「一家心中…。昭和かよ」

「まあ、いいや。もう済んだことだし」

同意を視線で求められ、僕は曖昧に頷いた。

午後の電話の成果は一件だけだった。蒲田の土地持ちのおばあちゃんが興味を示してくれて、良さそうな物件をいくつか自宅にファックスしておいた。

迫田は自分のデスクのパソコンを立ち上げることもなく、スマホを三十分ほどいじった後、ふらっとまた出ていったきり戻ってこなかった。

定時の五時になると僕はパソコンの電源を落とし、入間さんに挨拶をしてオフィスを出た。帰りに駅前のスーパーで餃子とビールを買い、自宅に着くとすぐに風呂場でシャワーを浴びた。

ローラは朝出た時のままの格好と位置で、床に転がっている。

餃子をレンジでチンしてテレビを点け、ビールを飲みながら食べる。

あれ? とその時気が付いた。今日は奴が来ていない。ローラから異臭はせず、服も脱がされていない。忙しくてスマホを見る時間もなかったが、ローラが無事ということはおそらく侵入もされていないだろう。

考えてみれば、気味が悪いものだ。自分の知らない間に他人が自分の部屋に自由に出入りしているのだ。やったことはないが、鍵の付け替えを検討した方がいいだろう。大家さんに一度相談してみるのもいいかもしれない。

ビールを飲み干し、餃子を平らげると、僕はそのまま一時間程テレビを観た。刑事もののドラマがやっていて、途中から筋が追えなくなってよく分からないままビルの屋上で犯人の独白が始まり、嫌気がさしてテレビを消した。

ベッドに潜り込むと、僕は自分がひどく疲れていたということに気づいた。目を閉じるとすぐに眠気が来て、半覚半眠のような状態になった。

目の端でローラがベッドにするりと滑り込んできたのが見えた。僕は身体をそちら側に向けようとしたが出来なかった。ローラは僕の股間をまさぐり、撫でさすり、性器を勃たせた。そして自らの性器へそれを導き入れ、ゆっくりと前後上下に腰を揺さぶった。

ローラの性器の中は温かく、吸い込まれるような心地良さがあった。だが、僕の身体は相変わらず微塵も動かない。ただ為されるがままだ。

やがて腰の奥ににぶい疼きを感じ、僕はローラの性器の中へ射精した。長い時間精液は出続け、僕の性器の中からしっかりと絞り取られた。

出尽くして何も出て来なくなるとローラは腰を浮かせ、性器を引き抜いた。

そして、僕は泥のように眠った。

 

朝起きるとローラが隣にいて、僕にこう声をかけた。

「おはよー。ローラだよ」

ダッチワイフではなく、生身の人間に見えた。

「あなたの精子の力で生き返ったんだ。ありがとー」

僕はどう返事していいか分からず、口をパクパクさせた。

「ちょっとシャワー浴びてくるねー」

ローラはベッドを出て、浴室へと消えていった。

枕の脇にあったスマホを手に取り、僕は奈保へラインを送った。

ダッチワイフが人間になってる。

スマホを見ている最中だったのかすぐに既読がつき、返事が来る。

んなわけないじゃん。バカじゃね。

だよな。んなわけないか。

浴室からはシャワーの音が聞こえてくる。

んなわけないよな。

僕はベッドから出て、浴室を覗きに行く。すると、摺りガラス越しに誰かがシャワーを浴びている姿が見え、じゃーじゃーびちゃびちゃという水の音がした。

 

昨晩、僕はローラというダッチワイフといたしました。

僕の精子の力でローラが生き返りました。

 

ファンタジーや。んなもん、ファンタジーや。

僕は浴室のドアを開けた。

「キャー。ちょっとなんなのー!」

ローラが膨れっ面で振り返り、シャワーをこっちに向けてきた。

「……ファンタジーや」

顎から胸のあたりにシャワーのお湯を浴びた。

「ちょっとー、閉めてよー」

金色の髪に茶色みがかった大きな目。

僕は浴室のドアを閉め、そこらへんにあったタオルで濡れたところを拭く。

「ローラや。……ほんまもんのローラや」

気が動顚すると、地の関西弁が出てくる。

「あぁ、もうあかん。狂ってもうた」

ローラはダッチワイフという無機物であることをやめ、浅黒い肌と大きなおっぱいと尻を持った〝ローラ〟という有機物になった。

あかん。もうあかん。終わりや。

こんなものが見えるようになってしまったからには、病院に行かなければならない。点滴とか注射とかしてもらって、薬も飲まなければいけない。

浴室のドアが開き、ローラが出てくる。

「んもう、覗かないでよ。このへんたい!」

本気ではなく、茶化した調子だ。

「いや、ちょっと……」

僕はローラの身体をまじまじと凝視する。

「タ・オ・ル!」

洗濯機の上にあったベージュ色のものを慌てて手渡した。

「……ローラ?」

「ローラだよ! ちょっと、疑ってる?」

分からない。ちょっと分からない。

「いや、ちゃうけど」

「じゃあ、なに?」

タオルを胸のところに巻きつけ、髪を掻き揚げる。

「ちょっと信じられへんくて」

「疑ってんじゃん。もー」

そう言って、ローラは笑った。

そしてその日から僕はローラと共に暮らし始めた。

気が向いたときにセックスをし、ハイボールを飲み、クラブへ行き、売人からドラッグを買い、二人で時折キメこんだ。

奈保とはあれ以来会っていないし、連絡も取っていない。なんとなく興味がなくなってしまった。

仕事は続けている。というより、楽しくなってきた。

調子のいいことを言って人を騙し、有り金を根こそぎ毟り取る。これが楽しくなくて何が楽しいだろうか。ヒット率も徐々に上がってきて、会社の売上もうなぎのぼりだった。入間さんもますます忙しくなり、我々の給料も増え、ボーナスもたっぷり出た。

あの侵入者には本当に感謝している。僕にローラの存在を気づかせてくれた。ローラとヤればヤるほど、あらゆることが上手く行きだした。

ローラはもう単なるダッチワイフではなく、僕にとっては人でしかなかった。だが、おかしなことに、僕以外の人からだとそれはダッチワイフにしか見えないようだ。一緒にどこかへ出かけていっても、失笑と好奇の目が容赦なく浴びせられた。しかし、僕からしてみればローラはどこまでもローラだった。豊かな胸と尻を持つ褐色の美人。

僕は死ぬまでずっとローラと一緒にいるつもりだった。人からどう見られようが、それはもう知ったことではなかった。勝手に笑えばいい。ローラは生きているのだ。その笑顔は常に僕に向けられていたし、二人で笑ったり泣いたりしていればよかった。

そして、一ヶ月程が経過したある日、藁半紙とプチプチと幅広のビニールテープが僕の携帯からアマゾンに注文されていた。嫌な予感がして、僕はローラにその理由を訊いた。

「他の人のところに行くの」

「え、なんで?」

「だって、飽きてきたんだもーん」

身も蓋もない理由だった。

「いや、行かないでほしい」

「そんなこと言われても、つまんないんだもーん」

僕は食い下がった。

「つまんなくないようにするからさ。なんか考えてさ、それやればいいわけだし」

「おじさんといても、つまんなーい」

ショックだった。そんなふうには見えていなかった。

「じゃあ、ちゃんと送ってね」

見るとリビングのテーブルの上には、きれいな字で書きこまれたヤマトの託送票と鍵が載っていた。見覚えのある字だった。

 

お届け先

〒○○3‐××62  090‐8××3‐×73×

東京都豊島区××町△△3872‐3 コーポ小川202号

加沼  翔太 様

ご依頼主

同上

 

まったく知らない人だったが、ここから割と近い。託送票はピンク色で発払いとなっている。これを運ぶとなると、一万円は下らないだろう。

一緒に置いてある鍵はおそらく合鍵で、忍びこめばまたローラに会えるということを意味している。

僕はその意味をしばらく考えた。でも、答えは出なかった。

 

翌日、アマゾンから荷物が届くと僕はそれらの資材を使ってローラをしっかりと梱包し、託送票を貼って近くのコンビニに持っていった。大型のやっかいな荷物にコンビニの若い女性店員はあからさまに嫌な顔をした。どこに置こうかと迷った末、コロナで封鎖されていたイートインコーナーの奥に持っていくように言われた。そして彼女が巻き尺で寸法を量り、電卓で計算して出した送料は予想をかなり下回るものだった。

現金で送料を支払い、コンビニを出ると、僕はスマホのカメラで撮っておいた託送票の写真を見て、住所をグーグル検索した。

ここから徒歩で十八分と出た。ちょっと遠いが歩けない距離ではない。

もう夕方だからローラはあのイートインコーナーの片隅で一晩過ごし、明日の朝には集荷され、倉庫に一旦収容された後発送される。この加沼という男のところに着くのはおそらく明日の午後か夜。加沼は梱包を開け、中を確かめるだろう。そして、その意味を考える。だが答えは出ず、ローラはそのまま置き去りにされる。鉢合わせるのはマズいから、行くのは明後日の日中だ。

 

 

僕は奴が帰って来るのを待っていた。

押入れの二段目に身体を押し込み、戸をごく僅かにあけて、その隙間から部屋の中を覗いている。

昼の十二時過ぎに侵入し、そこに僕はローラが部屋の床に置き去りにされているのを見つけた。

午後四時五分。まだ部屋の中に変化はない。

午後五時七分。大きな変化なし。

午後六時八分。陽が落ち、部屋の中は暗くなる。

午後八時一分。玄関の鍵を開ける音がした。待っていると、奴が姿を現した。

痩せぎすのひょろ長い体躯。頬はこけ、鼻は高く黒目がちの大きな目がぎょろりと深い眼窩から覗いている。

リモコンを取ってテレビを点け、コンビニの袋から取り出した弁当をテーブルで食べ始めた。発泡酒も袋の中から出し、飲む。テレビでは関西弁が飛び交うバラエティー番組がやっていて、スマホを片手に、それを見るとはなしに見ている。

弁当を食べ終わると茶色のソファに寝そべり、スマホをずっといじっていた。すぐ近くにローラがいて、そちらの方に視線を一度だけ向けた。

やがて起き上がり、ゴミを片付け、発泡酒を飲み切って空いた缶を台所に置きに行く。そして、代わりにまた冷蔵庫の中から缶ビールを取ってきた。

ソファに寝転び、時折ビールを飲みながらスマホをいじり続ける。そして、そのまま三十分程が経過すると、奴のいびきが聞こえてきた。

僕は押し入れから出ると部屋の電気を消し、ソファの陰に身を潜ませた。ローラの身体だけが闇の中で白く浮かび上がっている。

「……ローラ」

僕は息を殺して呼びかけた。

「ローラ」

返事がなかったからもう一度言った。

「……なに?」

首を曲げ、視線をこちらへ向ける。

「どうするつもり?」

「こんなとこまで追いかけてこないでよ」

「鍵置いてったくせに」

ローラはあきらかに誘っていた。ゲームの駆け引きのようなものだった。

「おじさんこそどうすんの」

「知らないよ。とにかく君が他の奴にヤられるのが堪えられないんだ」

すると、ローラは小さく笑った。

「あはは、嫉妬ってやつ? かわいーね」

「帰ってきてほしい」

「あはは、でもわたしダッチワイフだよ。ヤられるために作られたお人形」

「違う。ローラはローラだよ。そんなのじゃない」

ローラは肘を立てて上半身を起こし、闇の中で僕の目をじっと見た。

「わたしはダッチワイフなんだよ」

僕は黙ってかぶりを振った。

ローラは溜め息を吐き、また床に寝転がった。そこからそのまま動かなくなった。

二時間ほどが経過した。

そっと陰から出て床の上のローラに屈み込み、持ち上げた。そして、奴とソファの隙間に押し込んだ。

いびきがガガガッと鼻につっかえ、奴はむくっと上体を起こした。すると、蛇が脱皮するように服と下着を脱ぎ捨て、ローラの上にまたがる。

性器はこれ以上ないほど屹立していた。それ自体が意志と欲を持ち、脳と身体を突き動かしているようだ。

二人の身体が重なってひとつのものと化す。そのものはぬちゃぬちゃと音を立てながらソファの上で蠢いている。

僕は慌てて部屋から逃げ出した。それは考えうる限り最もおぞましいものの姿だった。人がものになり、ものが人になって、全体としてひとつのものとなっていた。

それはローラではなく、やはりダッチワイフだった。

 

翌朝、僕が出社するとまだオフィスの鍵が開いていなかった。つまり、入間さんが来ていなかった。こんなことはこれまでではじめてで、僕はちょっとびっくりしたが、風邪でもひいたのだろうと思って鍵を開けて中に入り、電気とパソコンの電源をつけて九時過ぎにはいつも通りの仕事を始めた。

いやに当たりの多い日で午前中に二件、午後には三件興味を示してくれる客がいて、希望条件を聞いてデータの中からそれっぽい物件を送ったり、契約の日取りまで決めた客もいた。三時過ぎには迫田に確認しなければならない案件が出てきて、携帯にかけてみたが繋がらなかった。呼び出し音すら鳴らず、この電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていない──というあのアナウンスが流れた。

四時過ぎにドアを強くノックする音がして、僕が椅子から立ち上がろうとした時にはすでに作業着姿の男が中に入り込んできていた。

「お前が電話をかけてきた野郎だな」

丸刈りのゴリラのように大柄な男に胸倉を摑まれ、ドスの効いた声でそう訊かれた。

「だったらなんだ」

親族だか友人だかがここの住所を突き止め、殴り込んできたのだろう。

「てめえのせいでよ、うちはひでえことになってんだよ。サラ金からも金借りてそれがもとで弟は一家心中。借金取りは押しかけて来るは弟と甥っ子や姪っ子は死んじまうわで、ほんとにひでえことになってんだよ」

「自業自得だな」

鼻の頭を殴られ、血の味と骨の折れた派手な痛みが走った。

「てめぇ、喧嘩売ってんのか。ぶっ殺すぞ」

男は続け様振りかぶっていた拳を僕の腹に叩き込み、息ができなくなった。

いつかはこういう日が来るんじゃないかと思っていた。

「お前さえいなければ……!」

今度は脇腹。あばらが折れる。

「お前さえ……!」

次は顔面。頬骨が砕ける。

「お前がぁ!」

首の頸動脈のあたり。僕の身体は力を失い、床に崩れ落ちる。

「おまぇぇぇぇ!」

頭をサッカーボールのように蹴飛ばされる。

意識が途絶えた。

 

目が覚めると、そこは車の後部座席だった。後ろ手に縛られ、足首も結束バンドのようなもので拘束されている。

運転席の背中と助手席が見えていて、運転しているのは女だった。栗色の髪の女。

車は動いていて、ラジオが聞こえていた。若い女性アナウンサーがリスナーからのお便りを読んでいるところで、ギターをはじめて買ったときの思い出のような内容だった。

オフィスでボコボコにされたところまでは覚えている。そこから先の記憶がない。

入間さんと迫田はいなかった。まるではかったかのようにタイミングよく。

あの二人はグルだったのだ。シングルマザーとかいう話もでたらめだろう。

こうなることは分かっていた。はじめから分かっていたのだ。

騙されていた。僕はあいつらに騙されていた。

我々はロールプレイをしていただけなのだ。役割の遂行。毎朝電車に乗り、出勤して雑談をして仕事を始める。僕が電話をかけている間、入間さんは忙しそうにパソコンで事務作業をしている。でも、実際にそんなにたくさん仕事があるわけはないから、入間さんもそういうふりをしていただけなのだろう。真面目な顔をして仕事とは関係のないブログ、チャットやらSNSを見ていただけのことだ。今日日そんなことは誰でもやっている。目くじらを立てるほどのことではない。つまり、我々はそれぞれのキャラクターを演じていたのだ。でも、どうやらもうそれも終わりのようだ。

体感ではそこから一時間ほど走ったあと、車は減速し、ガタガタする道を進んだ後に停車した。エンジンを切り、ドアを開けて女は車から出て、そのままどこかへ行ってしまった。

僕は自分が何もしてないのに気づいた。意志もなく、志向もない。つまり、生きたいとも何がしたいとも思っても考えてもいなくて、ただそこにいるだけ。まるで波間をただよう藻屑のように。

三時間ほどが経過した後、さきほどの女が背の高い男を伴って戻ってきた。そして後部座席のドアを開けた。

「なんだ、これ?」

「知らない。捨てるにも何曜日に出せばいいか分かんないし」

「何メール以上は粗大ごみとかいうのがあったよな。あれ、そういうシール貼って電話して引き取りに来てもらわなきゃいけないんじゃなかったっけ」

「どっか捨ててきちゃえばいいんじゃない。山とか沼とか埋立地とか」

おいおいおいおい。

「でも、ああいうのって結局見つかっちゃうんだよな。ほら、今って防犯カメラがどこにでもあるから」

「え、でもさ、これ犯罪じゃなくない?」

「いや、不法投棄だろ。こんなもん捨てたら」

その後もしばらくああでもないこうでもないと議論していたが結局結論は出ず、女が運転席、男が助手席に乗り込んで車は走り始めた。

男は窓を開けて煙草を吸いはじめ、ラジオからは森高千里の歌が聴こえてきていた。

「わたしがぁーおばさんーになーぁても」

森高千里に合わせて男が野太い声で歌う。

「おばさんになーぁたよ、だよな。これ」

「あれ、あの人何歳だっけ?」

男はスマホを取りだし、検索する。

「五十一。立派なおばさんだよな。あと十年もすりゃお婆さんか」

「いや、でも森高千里は森高千里だよ。おばさんでもお婆さんでもない。森高千里っていう生きもの」

「じゃあ、これは?」

男は右手で後ろを指す。

「え、これ?」

「なんだろな。ムズいよな」

車はかなりのスピードで走り続け、二人はその答えを頭の中で探し続ける。

 

 

いや、今ね銀行なんて金利はスズメの涙でいくら預けてても増えやしないでしょ。これはね、もうお金を遊ばせてるのと一緒なんですよ。ニートですよ。ニート。だからね、お金を尻を叩いて働かせなきゃいけないんですよ。お金に働いてもらって、自分で自分を増やしてもらう。これがね、投資というものの考え方なんです。

そこでいま熱いのが不動産です。もうすぐ東京オリンピックがあるでしょ。残念ながら今年は延期になっちゃいましたけど、来年にはコロナも収まって開催されますよ。で、いまそのおかげで首都圏の地価がとてもホットなんです。毎日どんどん上がってってます。だから今のうちに買っておいてオリンピックの時にピーク迎えますからそこで売り抜ければ、儲かるんですよ。こんな分かりやすい話ないですよ。でも、分かっちゃいても実際土地動かすとなると登記とかそういう面倒くさいのが分からなくて、二の足踏んじゃう人が大半なんです。

 

車が停まり、二人が降りる。

後部座席のドアが開き、ひんやりとした風が入ってくる。

「どうしよう」

「ていうか、どうしようもないよね」

「こっちはいい迷惑だよね。こんなもの押しつけられて」

「迷惑でしかないよ」

 

だから、そこらへんの面倒くさいことを代わりにやってあげるから、投資してみませんかっていうのが私の言いたいことなんです。もちろん手数料はかかりますよ。タダってわけにはいかないのが世の中です。これ悪徳業者だと最後の最後まで黙ってるんですよ。でもね、うちは明朗会計、清廉潔白なとこなので最初に言っておきます。これは法律で決まってて消費税と同じ十パーセントなんです。これだけは最初にいただく形になります。かかるお金はそれだけで、その代わりめんどくさいことは一切合財引き受けます。あとは放っておけば上がっていきますから、売り抜けるタイミングでお知らせしますので、そこでたんまりと儲けていただくという流れです。

 

二人は僕を車の中から引っ張り出した。そして女が足を持ち、男が上半身を持った。

「重いな。なんかさ、風呂敷とかなかったの?」

「風呂敷…。昭和かよ」

空には黒い木々の影と星々が無数に折り重なっている。

 

お金はね、とにかく働かせなきゃだめですよ。銀行とかタンスとかで寝かせたり遊ばせたりしてたらね、それは家でニート養ってるのと一緒なんです。──お金貯めるまでに長い間一生懸命働いてご苦労なさったでしょ。だからこれからはお金に働いてもらって、どんどんそれを増やしていかなきゃ。お子さんやお孫さんに残すお金も多い方がいいでしょ。もうそれは迷う余地はないですよ。十年、いや百年に一度の分かりやすいタイミングですよ。実際毎日上がってきていて、オリンピック終わるまで下がらないことは子供でも分かりますから。

 

「ここらへんでいいんじゃない」

「そうだな。じゃあ、そこでいいよ。その崖みたいになってるとこ」

身体が宙を舞い、着地した時には僕はもうその形をなくしていた。

 

 

[了]

2022年4月29日公開

© 2022 天汁ちしる

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