古今都子一門

西向 小次郎

小説

3,237文字

古今都子五一五一番として師匠に弟子入り。
噺家としての道は開けるのか?

水湧亭みずわきてい師匠の処にでっちに入ってから一日で破門になったんだって?そいつはたまげたねぇ。一体、何をやったんだい?」

「へえ、ちょいとばかしお腹が痛ぇと言ったんですよ。朝の牛乳が良くなかったんでしょう。下手な話しも出来ねぇとなって、天気の話をさせていただいたわけです。そうしたらばですよ、もう天気の話しかいとなりましてね、ついつい朝の牛乳の話しをしまして、腹が痛ぇことを言った矢先に屁こいちまったんですよ。そんで、屁は良かったらしいんです。問題は牛乳でね、何を牛乳のせいにしているんだいとなりまして、もうカンカンに。どうしようもねぇとなって、こちらの方から御暇おいとまさせていただきました」

「失礼な話だねぇ」

「?いやあ、そんなわけないねぇ」

「いやあ、それでうちに来られてもねぇ」

「いやあ、どうかなぁ……」

「いやあ、そうは思わないよ私は」

「またでっちにって話だろう?」

「なるほど。で、古今都子一門に弟子入りということでいいね?」

古今都子掌底ここんとこしょうてい師匠に付くことになった。

ほらほら、早く支度をなさいよ。

其れはそれは、凄艶なこと。鋼索にあまりなし。迷妄つい浮かんだ手は、両足に宿るそれがない。放胆は二度。全くその通りにこもった。

「水湧亭の師匠の処は、気張りが凄いからねぇ。うちはねぇ、いいんだよ。のちのち寄席に出て、やってもらいさえすりゃあねぇ」「へえ」

「そいで、うちの御上さんには会ったのかい?」

「いいえ」

「おかしいねぇ。そいじゃ、どうやって入ってきたんだい?」「勝手が開いてたんで、そっから」「……物騒だねぇ」「沖縄じゃいつもそうやってました」「へえ」「辻褄が合わない。なんつって」「あんた、本当に水湧亭に居たんかい?」「一日だけ」「いーちんち、もってるね」「こいつぁ一本取られた」「こっちのせりふだよ」「おあとがよろしいようで」

「よろしくないよ!まったく、どう説明しようかねえ」「そいつぁー私にも分かりません」「当たり前だよ」「ざまあーみたまえのすっとこどっこいってえ話。赤胴の鎧は急転直下の大戦おおいくさ。相模再興の金星にようこそ。って豆炒ってなんぼ、挽いては照吉にして、五千一千の勝ちに準ず。我八幡の残り鐘、起死回生の青し御守り。千変万化、無類の書購入ですわ」

「五千一千はいいねえ。良し、決めたよ。おまえの名前は古今都子こいこいばんだよ」「こいこいばん?」「五一五一番こいこいばんって書くんだよ。便利だろう?」

古今都子五一五一番ここんとここいこいばんかあ。なるほど、それは良いお名前を授かりました。以後、大事にして使わせてもらいます」

「そうだよ、大事にしにぁいけないよ。そんじゃあよ、もういっぺん勝手から出て、表から入り直すってのはどうだい?」

「さすが師匠は頭が回る。行かせていただきますよ。勝手にね」

「勝手じゃあなくて、表口だよ」

「分かってますよ、へいへい」

ある意味都合のいい話し。勝手を出ればもとへとかえる。さては、南京玉すだれの調子が、聞こえてくるじゃあありませんか。

「さてさて、師匠、ちょっとお買い物に行ってきますよ」

うちの御上さんはねぇ、あたくしのことを師匠と言うんです。もちろん聞こえています。それでも、まだ弟子の準備が整ってねえでしょう。整ったとなれば、さあさあそういった音のお話。

「ぴんぽーん!ぴんぽーん!……なんだい、このうちにはチャイムがないのかい」

有っても口でいいますから。それと、大声も芸の一つ。電子音の始まりはなんでも、かの有名な大発明家エジソンの電球発明にあったと言われております。日本の竹を今のフィラメントにして灯りを燈しまして、焼き切れた音がはじまり。そう、ボっとね。

「なんだい、なんだい、聞こえてますよ。お買い物でしょう?行ってくりゃいいじゃあないの」

「勝手に行けないでしょ?」

「ああそうだ、勝手には行けないよ」

「ピンポーン、ピンポーン!」

「正解らしいよ、御上さん。誰だろうね?ちょいと見てきておくれ」

先程生まれた竹炭を、潰して潰して、練りに練ったのが墨のはじまり。いかんせん、割れ易いのが特徴。そいつを水にちょんちょんと浸して、ほれまた硯に擦り付け、頭を擦り肌を剥がし、流血の如き黒色の夢想墨汁とあいなります。

「ピンポーン、ピンポーン!」

「まあまあ、酷い声だねえ。おたくはどなた?」「あ!御上さん、弟子入りに来ました」「ぴょんぴょん元気のいいお弟子さんだこと、飛び入りのおつもりかい?」

「テレビのオレンジ色の人がこうやってました」「ああ、それで」「師匠に御目通し下さいますか?」「ひとまずぴょんぴょんはしないでくださいません?」「いやあ、突っ立ってると余計に変かなって」

「またまたなんだい、騒がしいねえ」

最近では、ぴえんなる言葉がありまして、若者の間では流行しているようです。

「これからお弟子に入るって?とりあえず、そのぴょんぴょんをおやめなさいよ」

「ぴえーん、えんえん」「ボケたつもりかい?面白くないねえ。面白くないとうちじゃあ、お弟子にしないよ。ここんとこがないと、ここんとこが。なあ、御上さん」「師匠、どこ触ってんだい!」

だもんでここからは、古今都子五一五一番の出番となります。どうぞ、御贔屓にしてくださいませ。

(拍手の音)

頭の方しか助けてあげないよ、と言われ。私も試行錯誤してやってまいりました。あれから、ひぃ、ふぅ、みぃ、で三十年。そいつに縁起の良い七を足して三十七、最後に一本、都合三十八年となりました。

寄席の入場券が二千円。一年に一度観ていただいたといたしましては、十年で二万円、そいつを三倍で六万円。残りの八回は一万六千円ですから、七万六千円ですか。ちっと足りねえですが、そうゆう師匠のお話でありました。

「よせやい、恥ずかしいだろう」

「なんだい、あんた恥ずかしいのがお好きだろう?」

願いましては、一番台。おっ、分かりやすいね。十八番台。つまりはなんだろうね。三十四番台。なるほどあるね。四十四番台。捨てたもんじゃあない。五十番台。お勉強は大事。八番台。別格か。七十三番台。それはその後。八十三番台。まさかのこの時。九十九番台。いってらっしゃい、見てらっしゃい。

何事かと思いのお客はないね。あたくしもって生まれた向上の運。これで守ってるは至極あきらか。順等の、順番にありんす。

しかし、精彩があっていいねえ。話しは最後まで聞いた方が良い。

「恥ずかしいのを待ってたんじゃ、恥ずかしくもなりようがねえでしょ」すこし、怨みの筋に入りやしょうか。

「それで、あの眼鏡、好きでもねえ女房をもったっちゅうことかい?」

「間違いないね。ボインボイン、ボインボインのリピート率が決め手の男だよ。そいつが今どこに居るか知ってるかい?いざ鎌倉もついしは、渋谷の帝、屋敷の離れだよ」

「塩でも盛ろうってか?」「お客さん、察しがいい。全くその通りにしようって話だ。五一五一番の谷。どっかで聞いた歌じゃねえかい?」

両腕に力瘤、そいでそいつを左右に振って、便乗ついでに乗り越しでい。

「先生、大先生!」

「先生でも大先生でもないよ、順番に」

だったらそれがどうなるのか見たいだろう、というのが人情。分かっているつもりで居ても、分かってねぇということなんでしょうか。こないだ迄の元気がどっかに行ってしまいやした。

「こいこい、つまらねえついでに、どうなるのか見せるんだぞ」

こうなってくると、師匠のお話はありがてえ。

一円玉の1の字がやたらとくだらなく見えます。

「そうそう、くだらねえのはいいなあ。みんなある程度の歳になりゃあ、くだらねえとは一旦考えるだろうさ。なにせ金の話に興味があるとなりゃ、そりゃそうなる。だからよ、もっとなんか欲しいやな」

それが難しいっとなった世の中。ちょっと前には灰皿もだいぶ減って、今度は駅中ゴミ箱も減少の気配。

噺家というからには、捻りをきかせなきゃならねえ。さあ、なんか浮かぶかどうか。

駅のゴミ箱で一番人気と言ったら、よく分からねえですが、役目を終えた殻が大半でしょう。今日は日が悪い様子。

 

2022年1月13日公開

© 2022 西向 小次郎

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