……の自転車のうしろに乗りなよ

吉川 敦

小説

2,161文字

ぼくとわたしとあたしとボクとワタクシとオレと僕と私と俺と自分と……のお話しです。

 

Corrupt Island Baby

<ぼく>

 

ぼくは新しい自転車を買ってもらった。ピカピカの青い自転車。みがきまくったよ。みんなに見せびらかすんだ。でも、誰にもうしろには乗せない。ぼくの大切なものだから。さて、お出かけしようかな、ぼくの自転車で。

 

<わたし>

 

わたしは、まいごに、なった。だから、まってる。かなしいけど、なかない。わたしは、なかない。わたしは、あたまが、かなしいけど、なかない。だから、まってる。わらわれても、まってる。たまらなく、さびしいけど、なかない。

 

<あたし>

 

あたし。分かる?今日さ、どこで待ち合わせだっけ?……ん、メモ?そんなことするわけないよ、すべて、あたまの中……容量が足りないって?……たしかにバカだけどね、それで、今日の待ち合わせは?……OK、りょうかい、それじゃ、またね。

 

<ボク>

 

ボクはアンドロイドと呼ばれている。ニックネームだ。ちゃんとした人間だよ。いろいろと小さな頃から手術して、ボクの身体の半分以上は他人のものだったり機械だったりする。普通に考えられるし、普通に歩けるんだけどさ。

 

<ワタクシ>

 

ワタクシは、そんな言い方をするとすぐに笑われてしまう。癖だから仕方ない。男女の区別がつかないらしい。どちらでもいいのに、と思う。ワタクシは、ワタクシでしかないのだから、勝手にさせてくれたら助かる。いや、そっとしておいて欲しい。

 

<オレ>

 

オレ。分かるよ、あそこだろ、えっと出てこないや、ちょっと待って……いつものところだわ、一応、スケジュール帳もっているから……柄でもないって?……いやいやいや、意外とマジメなんだから、なんか誤解してるだろ?まあ、いいわ、それじゃ。

 

<僕>

 

僕は人間観察が好きである。雑踏を眺めていると気持ちがいい。さすがにスクランブル交差点で立っているのは勇気がいる。だから、人が多い、この場所を選んだ。何を思って、みんなは歩いているんだろう。妄想するだけでも満足が得られる。

 

<私>

 

私には彼氏がいない。ここに来るのはナンパされるため。植え込みのコンクリートに座っていると、いろいろな男が声をかけてくる。なぜか、うまく返事ができない。勇気が出ない。好みのタイプも、たまにいるのに。なぜ、私はここにいるんだろ。

 

<俺>

 

俺の仕事は、ここで大道芸人をすること。ピエロだな。裏の顔は誰にも分からない。時々、場所によっては警察官に注意されたりする。そんなときもピエロなら便利だ。表の顔しか見えない。通り過ぎる人は喜んでくれる。それでいい。

 

<自分>

 

自分は自我の固まりだと思う。自己中心でしか物事を考えることが出来ない。それを理解するだけの頭脳は持ち合わせている。何も考えていない群衆を見ているとムズムズする。破壊の衝動だ。最高な気分になれるだろう。ここにいる人たちは虫けら未満。踏みつけても問題ないはず。破壊の念はいつしか具象化する。手が重い。自分だけの特権だ。奴等にそれを知らしめる、とっておきのやり方はひとつしかない。行動。そして実行。

 

<……>

 

ぼくは自転車で着いた。わたしが泣いていたので、ぼくは、わたしをうしろに乗せてあげる。あたしがそれを見て、ぼくをほめてくれた。わたしは、わらってる。あたし、ちょっと派手だよね……と、わたしの髪をなでちゃったよ、かわいんだもの。ボクは自転車につまづいた。あたしが心配してくれたけど、だいじょうぶ、そこは神経が通ってなくて痛くないところなんだ。ボクが立ち上がろうとしたら、目の前にワタクシがいた。ワタクシはボクの手をとり、ゆっくりと引っ張った。ボクは片目の視力がよくないから、ハッキリとわからないけど、ワタクシは男か女、どちらにも見える。ワタクシはボクに微笑む。オレは時間に間に合わないと気がすまない性格だけど、さすがにワタクシの姿には驚いた。一瞬、止まってしまって、オレはワタクシを見てしまう。ワタクシは慣れた顔つきで、オレの視線を交わして、ぼくの自転車を褒めた。カッコイイね。僕はそんな様子を眺めていた。ぼくとわたしとあたしとボクとワタクシとオレ。とても面白い瞬間だと思った。僕は、私に視線を移す。私は面倒になってきて、帰ろうかと思う。何をしているんだろ、私は。駅前のすみで、私はピエロの俺を見つけた。俺は私がいつもここに来ていることを知っている。私は俺に初めて気がついた。前からやっていたのかしら。俺は大きな輪を空中に放り投げた。自分は大きなカバンから爆薬を取り出すと、何も言わずに放り投げた。やっぱり最高だ。気持ちいい。今までやらなかったことを後悔している。ぼくとわたしとあたしとボクとワタクシとオレと僕と私と俺は、一瞬で血の海に溺れた。身動きもしない。自分は赤くなったピエロの仮面をかぶり、ポケットに入ったままのダイナマイトに火をつける。血の海に、ぼくとわたしとあたしとボクとワタクシとオレと僕と私と俺と自分が一体化していく。

 

 

 

 

BGM: Tame Impala – Alter ego

2021年10月16日公開

© 2021 吉川 敦

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