絶叫フェスティバル2021

島田梟

小説

4,148文字

まだ10月なのに、年末年始の話が入ってます。

自由を奪われた人間はどうするか?叫ぶしかない!という感じで書きました。ちょっと前に心が叫びたがっているとか何とかありましたが、ああいう感じでもあるかと。実は良く知らないんですけど。

『昭和の名脇役 あばら恭次郎氏死去! 葬儀は家族でしめやかに!』

朝一番に見たYoo-hoo!ニュースでなぜか目を引いたのがこれだった!

目の持ち主である大村祐希は21歳! ドラマはほとんど見ない! 昭和も興味がない!にもかかわらず、彼はそのニュースが気になって仕方がなかった!

それもそのはず、顔写真が父親にそっくりだったからだ! 鼻の脂切った感じ、妙に上の方から生えている眉毛! 父だ!

祐希は記事の続きを読んだ!

『あばら恭次郎氏は1975年に『ヨット少年 青春大脱走!』で俳優デビュー! 主人公のヨット少年を追跡する間の抜けた警察官役が人気を博し、その後も映画・ドラマで主人公の脇を固める剽軽な役柄を演じた! 晩年は陶芸を始め、個展も開いていたが、来場者に茶碗を割られる事件が発生してからは制作を断念! 享年76歳! 葬儀は近親者のみで執り行う!』

記事の文章は短かった! たったこれだけか!と思った裕希はネットであばら恭次郎の情報集めを始めた!

ようやくまとった分量の記事を見つけて、読もうとした矢先に邪魔が入った! 自分の箸が、テーブルの向こう側から転がってきたのである! それはまるで坂道を転がる死体のようだった!

「朝からスマホをぐりぐりするな!」

祐希と同棲中の彼女、西条美恵は朝からスマホをぐりぐりする男が嫌いだった! 昔はぐりぐりする男ではなかったのに!

祐希ははっとしてスマホの画面を見る! 醜い自分の指紋、指紋、指紋! 欲望が黒い画面を汚し、そこに映る彼自身の顔もまた不細工!

「ごめん、ミーちゃん! 約束破っちゃった!」

「何回破れば気が済むの!」

と言って美恵が突きだしたのは100円玉貯金箱! 彼の財布から100円玉が消える!

「違うんだよ! 親父にそっくりの人が死んだらしくて!」

「お父さんに!」

祐希は袖で画面を拭いて美恵に見せた!

「本当だ!」

「だからびっくりしちゃって!」

「ていうか、ゆう君に似てる!」

「えっ!」

「ゆう君にめちゃくちゃ似てる!」

祐希はショックを受けた! 美恵からすれば、父親とあばら恭次郎と自分は全部同じってことか!

「でもこの人、昭和だぜ!」

「だから何! あなたも親が昭和でしょ!」

「親は昭和だけど、俺は平成だ!」

「もう昭和生まれでいっちゃえば!」

美恵はドスン!と自分の席に座った!

「はやく、ごはん! お腹すき過ぎた!」

箸の用意は美恵が担当、食事の用意は祐希が担当! もし職務を忘れたら最後、彼の財布から500円玉が消える!

祐希は白米とおかずを続々と電子レンジに投入する! 機械の脇で温めた食事の数々! カップルはそれを黙々と食べる! うまいともまずいとも言わずに!

「今日はどうですか、大村祐希さん! 仕事、探せそうですか!」

「出た、レポーター口調!」

「ごまかすな!」

祐希は首尾よくごまかせたことが一度もなかった! 彼はこのことで、ひどい自己嫌悪に陥ることがある!

「仕事なんてすぐ見つかる! 心配するな!」

「ゆう君だから心配してる! ヒモの素質ありそう!」

美恵の可愛い口から「ヒモ」という言葉が出て、祐希は嫌な気分になった!

「辞めてまだ10日! ニート10日目!」

「貯金は!」

「2万円ちょっと!」

「ほぼゼロだし!」

美恵は大げさにテーブルを叩く! バン! バン! 本気ではないが、彼を追いこむには十分だ!

「食べたらさっさとハロワに行く!」

「俺、何に向いてるかな!」

「さあね! 土木じゃない! ちょっと前までやってた土木!」

祐希は胃が弱い! 消化に時間をかけたかったが、美恵がそれを許さない! ヒゲを剃って、前歯を磨いて、髪の毛は好きなように遊ばせて、準備万端!

「待って!」

美恵が呼び止める! 祐希はキスを期待する!

「スマホ没収! 遊ぶから!」

「ミーちゃん、それおかしいよ!」

「いってらっしゃい!!!!!!!」

送りだされた祐希はまず近場の自販機に向かう! 罰金の穴埋めに釣り銭を拾いたかった! だが100円玉はない! 代わりに10円玉はある! 自販機漁りを10回も繰り返していられない! 彼は目的地まで下を向いて歩く! びっくりするほど何もない!

「金くらい落としとけよ!」

祐希が言うと、周囲の歩行者が彼を見る! 口の動きがはっきりと見えているではないか! 彼は謝って手で覆ったが、ポケットには手を伸ばさない! まだその時ではない!

ハローワークは空いていると思っていたが、彼の考えは甘かった! 著しい混雑で、お互いに距離を取れていない! 祐希はパンツの出来損ないで口を覆った!

失業者の群れは思い思いの方角に救いを求める! そばを走る通勤電車がうるさい! 走り去るとますます静かに感じた! ドアが開錠されるのはまだか! 祐希は暇をつぶす自由すらも奪われていた! スマホを持たない自分が不憫でならない!

しばらくして職員がドアに寄ってきた! そして隙間から顔を出す!

「おはようございます!」

ハローワークの本日の営業が開始された!

祐希は窓口に直行!

拒絶のビニールカーテンが空調の風で揺れる!

「すみません、仕事ありますか!」

「ありません!」

彼は外に出た! 家に帰りたかったが、すぐには帰れない! きっと箸が舞う!

こんな時、あばら恭次郎ならどうする! と言っても、祐希は彼のことを何も知らなかった! しかしあばらは昭和の俳優だ! きっと若いころはアウトローだったに違いない!祐希は繁華街まで歩いた! あとさき考えずに奢侈の限りを尽くせ!

朝の繁華街は閑散としていた! 元気なのはカラスだけ! どこもかしこも店内は暗い! 日の出から営業している店が場違いで浮いている! 女の子がいるかどうかも怪しい!

カア! カア! これは祐希の下手な鳴きまねだ! 強面の男が睨んできたが、恐くはなかった! 電子タバコを吸うチンピラはいない! いてたまるか!

繁華街を通り抜けた彼は金の亡者と化していた! 金がなければ何もできない! 盗みはさすがに昭和でもアウトだ! だが恋人からお小遣いを頂くのはセーフだ! 彼は土下座のイメージトレーニングをしながら、家に戻った!

しかしここで予期せぬアクシデントが彼を襲う! 美恵は出社日のため、部屋は空だった! それを思いだすのに、彼はインターホンを3回押した! 鍵は中に忘れた! 何時間ものあいだ、どこで何をすれば良いのか! 恋人に頼れないなら、友だちに頼る! これしかない! 持つべきものは友だちだ!

一番近い友だちの家でも3駅分は歩くことになるが、構わなかった!

2駅超えたところで昼になった! どこかで食べようにも、シャッターが降りている! そもそも金がない! 景色に慰みを求めるのも難しい! みすぼらしい街路樹! 遊具の少ない公園! そして顔の下半分がない人間たち! いったい何を考えているのか! 苛立ちを馬力に変換し、彼は先を急ぐ!

友だちのアパートは貧相だった! だが贅沢は言っていられない! 彼はインターホンを鳴らして待つ! 足の震えが止まらない! 手で押さえたら、手も震える!

「宅配じゃねえのかよ!」

友だちは祐希の額にハンコを押そうとした!

「やめろ!」

じゃれ合いながら部屋に滑り込み、広いところを見つけ、大の字になる! 同棲部屋のこと等どうでも良くなってきた!

「泊めてくれ!」

「じゃあ有り金全部出せ!」

「山賊かよ! 金なんかねえよ!」

「人質用にスマホよこせ! 踏み倒したら売る!」

「スマホもねえ!」

「人間辞めたのかよ!」

「人間はやる! でも美恵に盗られた!」

「だっせえなあ!」

友だちは部屋の隅にダンボールを広げた!

「ここで寝るならいいぞ!」

立場が弱い祐希は感謝するしかなかった! 彼は媚びを売った! 男に媚びを売るのは屈辱以外の何物でもない! しかしダンボールに挟まれて一夜を過ごすと、アウトローになった気がして興奮した! 翌朝祐希はちゃっかり食事を頂いてから、さらに別の友だちの家を目指して歩きだした。無賃宿めぐりの始まりである! 美恵は大いに困るだろう! もう仕事のことは良いから戻ってきて!と言うに違いない! 愉快だった!

彼は、部屋から部屋へとさまよい歩き、根無し草の生活を送った! 最初はすぐにやめるつもりだったが、感覚が麻痺してきたのか、定住を嫌悪するようになった! 美恵のことは、思いだしても口しか浮かんでこない! 最後の言葉が「いってらっしゃい」だったのは残念だ!

祐希がそんな生活を始めてから、どれほどの年月が経ったのだろうか!

彼は路上生活をしていた! 度重なる無賃宿めぐりで煙たがられ、誰も泊めてくれなくなったのである! 彼の足取りは重くなり、傘を杖にしないとすぐ転びそうになる! 相変わらず下を向いていたが、現金を期待しているわけではない! 見たいものがないだけだ! 人の顔にも興味がなくなった! どれもこれも見分けがつかない!

人目をつかないところを渡り歩く! それが彼の日課になっていた! だがその日は物思いに沈んでいたせいか、人が集まる区域に迷い込んでしまった! すっかり夜も更けているのに、みんなお祭り騒ぎで浮かれている!

「やっと終わるー!」

「フォーーーーーーーーーー!」

「消えろ、2021年!」

「フォーーーーーーーーーー!」

「こんにちは、2022年!」

長い間眠っていた祐希の頭が覚醒した! そうか、ハッピーニューイヤーか! 祐希には10年に思えた時間だったが、実際は数か月だった!

新しい年が始まる! そう考えるだけで彼は本来の活力を取り戻した! 傘を捨て、ボロを捨てた! ずっと使ってきた出来損ないのパンツもはぎ取った! 肉体全体、いや魂までもが自由の空気に包まれた!

「10! 9! 8! 7! 6!」

祐希も参加した!

「5! 4! 3! 2! 1!」

0!!!!!!

古き年に別れを告げるため、あちこちで歓声が上がる! しかし、歓声は唾液を必然的に伴う! 唾液、不潔な唾液! 前から汚かったが、最近はそれに輪をかけて汚くなった! 浮かれ騒ぐ人々は出来損ないのパンツを捨て去り、思う存分まき散らす! 祐希も例外ではない! 美恵に似た誰かを見つけた彼は、どさくさに紛れて話しかける! 至近距離で! 彼女の顔は恐怖で強張り、あわててパンツを引き上げる! 次の瞬間、彼は群衆に取り押さえられ、罵声を浴びせられる! 露出された口を間近に見たのは久々だった! 祐希も負けじと怒鳴り返した!

「みんな仲間だ! みんな友だちだ!」

大村祐希は2021年の過酷な経験を潜り抜けた結果、ネガティブでポジティブになった! 素晴らしいことだ!

 

〈了!〉

2021年10月2日公開

© 2021 島田梟

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