くずかごから酒場まで(11・完)

くずかごから酒場まで(第11話)

アサミ・ラムジフスキー

小説

3,303文字

偽史の誘惑 あとがきにかえて

アサミ・ラムジフスキー

 

歴史は物語です。あらためて言うまでもないことですが、いまいちど確認しておきたいと思います。ちりばめられた無数の事実から任意の事件のみをピックアップし編纂した結果を、ぼくたちは歴史と呼んできました。そしてそれを真実として信じ込まされてきました。逆にいえば、その編集の際にこぼれ落ちた無数の事実も存在するはずです。

ぼくたちが学校教育のなかで用いてきた教科書に織田信長やフランシスコ・ザビエルや東條英機は登場しても、ぼくの祖父や曾祖父は登場しません。あなたの遠い祖先も、おそらく登場していないでしょう。物語は、ありとあらゆる事実を保存できるだけの容量をもっていないからです。それを記述しようと思ったら、教科書はどれほどの厚みを必要とするでしょうか。広辞苑よりも現代用語の基礎知識よりもタウンページよりもずっと分厚くなくてはならないはずです。

たとえば童話の桃太郎の話。日本で育った者なら誰もが知るこの話において、主要な登場キャラクターはおじいさん、おばあさん、桃太郎、犬、猿、キジ、そして鬼たちだけです。しかし、その世界にほかの生命体が存在しないとはふつう考えません。物語の裏舞台では犬に恋人がいたかもしれないし、猿に子どもがいたかもしれないし、キジに大きな夢があったかもしれません。鬼討伐メンバーに選ばれなかった猫やトンボやヤンバルクイナたちにも、それぞれの生活があるでしょう。そもそも鬼の存在する世界なのですから、ドラゴンやフェニックスといった架空の生物がいたって驚くことはありません。たかだか吉備団子だけで危険な鬼退治についていくというのも不自然な話で、もしかすると恋人や家族を鬼に殺されたその怨みこそが真のモチベーションだったということもありえるのではないでしょうか。あるいは、鬼も悪の根源ではなく、別の黒幕がいるということも考えられるでしょう。その黒幕が時の統治者であったとすれば、これは途端にハードボイルドサスペンスの世界になります。陰謀が陰謀を呼び疑惑が疑惑を呼ぶ、スリルとショックの一大エンタテインメントです。そういえば、石森章太郎が描いた仮面ライダーの原作ではショッカーの黒幕は日本政府でしたっけ。

2013年3月20日公開

作品集『くずかごから酒場まで』最終話 (全11話)

くずかごから酒場まで

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© 2013 アサミ・ラムジフスキー

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