くずかごから酒場まで(9)

くずかごから酒場まで(第9話)

アサミ・ラムジフスキー

小説

6,419文字

つまりは象徴 楽園の探し方

ジョン・D・ボッツ

須賀美晴=訳

 

シンボライズの欲求――わたしはこの十年あまり住石彰の研究をしてきたが、彼の広汎に渡る活動はこの一言で表せるという結論に達しようとしている。表面的な出現形式の差異にとらわれるあまり、住石は捉え所のない稀代のペテン師、もしくは奇人として扱われがちだが、実のところしっかりと一本の筋がとおっているようにわたしには思えるのだ。住石は才人だが奇人・変人ではない。自身をシンボライズすることで個性を打ち出そうというアプローチは、実のところカテゴライズと根を同じくするものである。差別化と分類の差は、視点をどこに置くかだけだ。そしてカテゴライズという行為には、きわめて庶民的な「わかりやすさ」を求める感覚が寄り添っている。書店の棚の分類は便利ではあるが、カテゴリが増えるたびに大事なものがこぼれて落ちていくのだ。そのこぼれ落ちた部分にこそ意味や真理や価値を見出そうとする人々こそが、住石に惹かれてきた人々だというのは、なかなかにユニークな現象である。

住石のキャリアにおける最初のシンボライズは、アイドル歌手としてデビューした直後のロゴマークに見られる。「AKILA」の三文字をカリグラフィックに配置し、中央の「I」をバイオリンの形状に模したそのロゴは、アイドル期の住石のオフィシャルな印刷物には必ずプリントされていた。レコードジャケットはもちろん、コンサートパンフレットからノベルティグッズまで、住石の写真がなくともロゴの存在しないものはなかった。宣材写真がロゴのみだった時期もあった。まさに、ロゴこそが彼の顔であり名前であり記号だった。典型的で効果的なブランディングである。現在でこそ珍しくないこの手法だが、当時のアイドルとしてはきわめて意識的なものと考えられる。

もっとも、この時期のイメージ戦略にどの程度本人の意志や志向が反映されていたかはわからない。年端もいかないティーンアイドルがいきなり抜群のセルフプロデュース能力を発揮できたとは考えづらい。仮に彼にそれだけのポテンシャルがあったところで、日本的なビジネス構造の中では実績もない若造にはなかなか発言権は付与されないはずだ。一方で住石のメディア対応のスタイルは初期から徹底していた。巧妙に話をはぐらかしたり、冗談とも本気ともつかないようなことを答えたりといった特有の飄々としたスタンスは、アイドル期からまったく変わっていない。それがスタッフからの指示で紡ぎ出したアキラ像であったのか、自分自身の内側から表出された理想像であったのか、あるいは深く考えず素直に振る舞っていたら自然とそうなってしまっただけなのかは、やはりこれも不明だ。初期の彼を象徴するバイオリン弾き語りというスタイルすら、やらされたものだと答えている資料と自分で提案したと答えている資料とがある。どこまでが戦略でどこまでが本音だったのか、住石本人以外に明確に線引きをできる人間はこの世に存在しないだろう。

2013年3月18日公開

作品集『くずかごから酒場まで』第9話 (全11話)

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© 2013 アサミ・ラムジフスキー

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