親衛隊 SS

応募作品

千本松由季

小説

5,674文字

合評会2021年9月応募作品。あんまり下らないから出すのやめようと思ったのですが、前と前の前がシリアスだったからいいか。

テーマは「ホロコースト」。

ヒトラーを護衛する親衛隊 SS(エスエス)。

制服フェチ、警察フェチ、第二次世界大戦フェチにはたまらない内容となっております。

新人警察官と、制服フェチでカリスマユーチューバーとの出会いと、うまくいくまで。

SSシンボルマーク

 

一 新人警察官募集

 

「ここはな、見た目のいいやつが集められてんだ」

立花は、雄山時正(ときまさ)のすぐ側にある、でかい看板を指差した。『新人警察官募集』。いきなり渋谷のど真ん中に配属された理由ってそれだったのか? 時正は、自分が培ってきた剣道や英会話の能力が認められたと解釈していた。

「俺らは歩く広告塔ってやつだ。見てくれいいだろ。君もそうだろ。俺もそうだし」

立花が笑う。白い歯が清々しい。確かにこの交番には美男美女が多い。巡査部長なんて本物の俳優みたいだ。

時正は地元の大学を卒業し、東京都の警察学校に入った。立花は高卒であるから、時正より年下である。しかし、今日が警察官初日の時正にとって、立花は先輩である。立花は時正のことを雄山と呼び、時正は立花を立花さんと呼ぶ。

 

時正は交番の前に立って街頭監視を行っている。田舎者の彼は、いつまで経っても人混みは苦手だった。何処を見ていいのか分からない。人と人の隙間に、道を渡った向こうのガードレールに、ずっと座った男がいる。やけに身なりがいい。この暑いのに軽い夏のスーツ。ずっとスマホを手にしている。時折カメラのシャッターを切っているようだ。

立花に男のことを告げると、彼は時正に職質して来い、と言う。初日から職務質問か、と焦ったがやるしかない。制帽を被った時正の額から汗が流れる。立花は後ろにいるから心配すんな、と言う。時正はほんとに彼が付いて来るか、後ろを一度振り返った。警察学校では、ナンパする時みたいに軽く声を掛けろ、と習ったが、残念ながら時正にはナンパの経験がなかった。竹刀の良く似合う爽やかな剣道部の部長であった彼は、上級生からも同級生からも下級生からも告られたが、時正の中学も高校も男子校だった。法学部に進学してからも、なんだかなぜだか女性には縁がなかった。

 

二 職務質問

 

立花は後ろに隠れ、時正の動静をうかがった。

「こんにちは。暑いですね。こんな所でなにしてらっしゃるのかな、と思って」

平常心で声を掛ける時正に、立花は安堵した。男はスマホから顔を上げて時正を見る。

「さっきから写真撮っておられたでしょう? なに撮ったか見せてくれませんか?」

立花は新人の直球に感心した。男がスマホを時正に差し出す。

二十枚以上撮られた写真は、みな交番の前に立っている時正の姿だった。立花が時正の後ろから出て来た。

「駄目ですよ、青史(せいじ)さん。交番の前でお巡りさんの写真撮っちゃ」

「なんで?」

「清史さんだってこっそり写真撮られたら嫌でしょう?」

彼は写真を消していく。

「一枚ぐらい持っててもいいでしょう?」

「それは雄山に聞いてください」

 

そこに、三人の男子高校生が現れた。

「青史さんでしょう? サインお願いできますか?」

三人は、それぞれカバンに入っていたノートを差し出す。男はサインをしてあげる。へんてこなUFOみたいなサイン。UFOに人が吸い込まれて行くみたいな。

青史が嬉しそうに三人と話している。

「その制服可愛いね。何処の?」

シャツの袖に、凝ったエンブレムが付いている。

「静岡の方」

「随分遠くまで来たね。男子校?」

「共学です」

「女の子はどんなの?」

「シャツは同じで、下はチェックのミニ」

周りに人だかりができる。後ろで「あ、あの人、カリスマユーチューバーの……」という声がした。

女子高生二人が人をかき分けて、無理やり青史に近寄って来る。

「青史さん、今度、私達のパンツも撮ってね。お巡りさんがいない時」

そう言って、けらけら笑っている。これでは職質にならない。

「雄山、ほら、身分証」

青史は時正に身分証を渡したが、それを覗き込む輩がいるので、立花達は彼を交番に連れて行く。

 

三 ウィキペディア

 

交番へ入ると、今までなんかの書類になんかを書き込んでいた俳優顔の巡査部長が顔を上げた。

「なんだ、また君か」

青史が写真を撮っても、巡査部長に嫌がる様子はない。代わり立花が注意する。

「駄目でしょ、交番内で写真撮っちゃ」

時正は運転免許証から氏名、生年月日、住所、を書き留めていく。島田青史。三十歳。時正より七つ上だ。住んでるのはこのすぐ近くだ。時正は初めての職質に合格点を貰った。立花によると、青史はあちこちで職質をされているらしい。社会のどこにも属さない、彼の怪しさのせいだ。

忙しい渋谷の夜がやっと明けて、時正は寮に帰った。布団に入って疲れた足を伸ばすと、ふと青史のことを思い出す。彼の白い肌。スマホを持つ、あの手。時正の田舎では、男はみんな外に出て、真っ黒になるまで働いている。

眠れなくて諦めて、時正はパソコンを起動させた。島田青史と入れると、ウィキペディアが出てきた。膨大な情報。読み始めたら止まらなくなった。

 

「歴史学博士。専門は服装史。主な著書は十ヵ国語に翻訳されている」。おかしいな、そんな風には見えなかったけどな、と時正は彼の不審な姿を思い浮かべた。「島田は制服フェチとして知られ、古今東西で最も美しく、完成されたものは、ヒトラーの親衛隊 SS(エスエス)の制服であるとしている」。あ、だから警察官の写真を撮りたいんだ、と気付いた時正は、彼のスマホに自分の写真が一枚残っているのを思い出した。「島田は『学校では教えてくれない歴史』というユーチューブを始め、高校生を中心に大人気となる」。どんなのかな、っと思ってちょっと覗いてみた。

チョークを握る白い手がアップになったところで、時正の大事なものが頭をもたげてくるのを感じた。これが所謂、疲れた時に勃起するという、疲れマラという現象かな、もう寝た方がいいかな、っと思ったところで、驚愕の動画が目に入った。

 

四 盗撮映像

 

それは毎回、授業の後で流されるようだ。島田が学校名を言って、女子のスカートの中や、胸の谷間を盗撮している。エスカレーターや電車の中で。これってどう見ても犯罪だろう、と時正は狼狽えた。ウィキペディアのその先を読んでみた。「島田は日本全国制服人気ランキングと称し、男女の制服を盗撮したビデオを放映した。警察は島田を呼び出して事情を聞いたが、単に制服を紹介しただけでは面白くない、これらはプロのモデルを使って撮影したやらせであると主張。グラビアアイドルの水着より猥褻度は低いと反論した」。ここで時正の目がぱっちり覚めてしまった。おまけに疲れマラはもっと元気になってしまった。「全国にはびこる盗撮犯を煽る恐れがあるとする警察と、制服を盗撮に使われた学校側が、島田の行為を刑法百七十五条、わいせつ物頒布等の罪に当たるとして、争う姿勢を見せた」。時正は途中をすっ飛ばして、最後のところを読んでみた。

 

「ファンの高校生一万人がネットで島田を擁護する署名活動をした。ビデオに出演したモデルのうち二人がアイドルデビューし、盗撮して欲しい女子高校生が殺到した。制服が使われた学校に入学希望者が爆発的に増加した。最後に検察が、ビデオを芸術性が高いとして不起訴処分にしたことで、この騒動に終止符を打った。その後、島田は盗撮写真集を幾度か発行し、成功したと言われている」。

時正は馬鹿馬鹿しくなって読むのを止めた。でもやっぱり眠れなくて『学校では教えてくれない歴史』を漫然と観始めた。男子生徒が出て来る。そこは電車の中で、尻がアップになって、それから生徒は前を触られる。これのどこが芸術なのだろう? 時正はそこのところですっかり眠ってしまった。

 

五 ザイアンス効果

 

ザイアンス効果とは、何度も会っている人に次第に好感をもつ、という人間の心理である。青史はそれを時正に仕掛けようとした。青史は数日おきに交番に行った。ある日、街頭監視をしている時正が、外国人観光客と会話をしているのに出くわした。

「Do you see that white building? You can turn right over there and you’ll see it. Very easy, you won’t miss.(あそこの白いビルを右に曲がるとすぐ見えますよ)」

観光客が消えたあと、青史が時正に近付く。

「すいません。東急ハンズってどこですか?」

時正は彼を見ると途端に目付きが悪くなる。

「貴方、渋谷に住んでるんでしょう? 知らないわけないでしょう?」

「お巡りさんはもっと都民に親切にしなくちゃ」

青史は女が着るような、カラフルなプリントシャツを着ていて、それがよく似合う。時正の田舎で、男があんな格好をしていたら笑われるだろう。

 

まだ遠くに青史の派手な後ろ姿が見える。高校生に囲まれている。また、あの変なUFOのサインをしてあげているのだろうか。光に包まれた人がUFOの中に吸い込まれて行く。UFOには出口があるのだろうか?

電話番をしていた立花がそれを見ていた。

「青史さん、よっぽど雄山のことが気に入ったんだな」

「俺のこと馬鹿にしてるんですよ」

電話が鳴った。立花は去り際に言った。

「惚れるなよ。あいつはややっこしい男だから」

それはよく知っている。だが、時正は次第に例のユーチューブの虜になっていった。かなりの時間を費やして観た。学校で教えてくれない歴史の裏側には大分詳しくなった。女子高生がどんなパンツを穿いているかにも詳しくなった。夕べは、米国ペンタゴンが正式発表で、UFOの存在を否定しなかったことについて熱く語っていた。

 

青史は一枚だけ残った時正の写真を、しばしば見詰めていた。警察官の制服を着た時正に妄想をたくましくした。彼はそろそろザイアンス効果が出てきたとみた。軽い調子で時正をお茶に誘った。

「休憩の時お茶飲みに行きましょうよ」

「警察官は休憩中でも交番にいます」

青史は、それじゃあ家に遊びに来いと言って、無理やり時正の手に名刺を握らせて去って行く。時正は他の警官に見付からないように、それを急いでポケットにねじ込んだ。あとで見たら名刺は、なんだか気持ちの悪いピンク色をしていて、あの変なUFOが描いてあった。

 

六 親衛隊 SS

“Adolf Hitler” SS  22.11.1938

 

夏の夜に雨がびしゃびしゃ降っていた。青史は風呂上がりにバスローブを着て、一九三六年のベルリンオリンピックの記録映画を観ていた。ナチスの大プロパガンダである。

客が来たことを告げるブザーが鳴った。青史は予定のない来訪者を防犯カメラ越しに見た。知らない若い男。暫く躊躇っていると、男がカメラに向かって敬礼する。青史は夢ではないのか、と疑って、エントランスのドアを開けた。制服でない時正を見たのは初めてだ。青史は彼を中へ招き入れた。片方の頬が痣になって腫れ上がっている。

「中学生にやられた。職質中に。図体のでかいやつ。……寮に帰るの恥ずかしくて」

時正には警察関係以外の知り合いがいない。

「病院に行ったのか?」

「ああ。明日一日休みをもらった」

時正は少し甘えるような声を出した。青史は狂喜した。遂にザイアンス効果が表れたのだ。

ベルリンオリンピック。巨大な競技場いっぱいの観衆がヒトラーに、右手を上げたあの独特な敬礼をしている。異様な光景だ。

二人の男は同じカウチに座った。離れているのにお互いの体温を感じる。

アメリカの黒人選手、ジェシー・オーエンスが金メダルを獲る度にヒトラーの機嫌が悪くなる。

時正の頭からさっきの職質のことが離れない。頬が痛む。隙を見せたんだ。大失態だ。

 

フィルムはなぜか、ナチの秘密警察ゲシュタポの歴史になる。それから、ヒトラーを警護する親衛隊 SSの回顧録になる。

さっきの職質のことも忘れ、青史が隣にいるのも忘れ、時正は次第に映像に引き込まれていった。

ヒトラーに選ばれた、美しい青年達。アウシュビッツの看守に仕立て上げられ、第二次世界大戦の終結時にアメリカ軍に射殺される。ナチに洗脳されたSS隊員もまた、ホロコーストの悲しい犠牲者なのかも知れない。

確かに彼等の制服は美しい。悲しいまでに。SSの字が記された鉄のヘルメット。真っ黒な長いコートに、白い幅広のベルト。たすき掛けにされた細いベルト。縫い付けられた、様々な意味深いシンボルマーク。

 

フィルムが終わって我に返った時正は、この男は、いつもこんなのを一人で観ているのだろうか、と怪しんだ。部屋を見回した。壁に掛かった大きな写真。青史のユーチューブによると、それはロシア最後の皇族、革命で全員惨殺される前のロマノフ家の写真である。セーラー服を着たプリンセス・アナスタシア。死んだ時、彼女はまだ十七歳だった。

 

青史が擦り寄ってくる。

「俺、セーラー服好きなんだけど」

時正の腿に憧れの白い手が乗っている。それが愛撫するように動く。

「あれって、もともと海軍の制服だろ?」

「セーラー服は海上自衛隊です」

「へー、今でもあるんだ。それ、知らなかったな。いいなー」

青史は目を細める。

「君、なんで警察官になったの?」

「それは、都民の安心安全を守るため」

時正は敬礼をする。そうしたら青史に鼻で笑われた。時正は彼を横目で睨む。

「可笑しいですか?」

すると感極まった時正が、バスローブの隙間から出ている青史のいかがわしい白い胸に顔を埋める。

「おやおや」

青史は天にも昇る心地になって彼を抱いた。時正は震える声を出した。

「俺、自信なくなった」

青史は彼をカウチに押し倒して、前の下のところに触った。時正は甘い声で囁いた。

「そんなことをすると逮捕するぞ」

「なんの容疑で?」

 

その時、時正の携帯がうるさく鳴って、彼が飛び起きる。

「はい、場所分かりました。直ちに向かいます」

「行っちゃうの?」

「男が爆弾持ってビルに立て籠もったって」

時正は大急ぎで靴を履く。

「早く周りの人を避難させないと」

「君達っていつもこうなの?」

青史は去って行く時正の背にそう問い掛けると、またカウチに座った。元気なままの彼の可哀そうなそこのところをなんとかしないと。彼は携帯に残る時正の写真を探した。

2021年8月11日公開

© 2021 千本松由季

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