デコレーションケーキ同盟

谷田七重

小説

1,025文字

こんな女の子になりたかった系の掌編です。

 彼女はしたたか酔っ払っていて、おれが用意しておいた冷蔵庫のクリスマスケーキをまるごと食洗機にぶち込んで腹を抱えて笑った、笑いすぎて目には涙も滲んでいた。そのままの勢いで食洗機を回そうとするものだからさすがに焦ってなだめて、でもおれはおれでなぜだか爽快な気分でいったん噴き出してしまうと、もう笑いを抑えることができなかった。ふたりして大笑いした、誰かと一緒にここまで笑ったことはないってくらい、おれたちは悶えながら爆笑した。べつに変なクスリをやってるわけじゃない、強いて言えば、彼女は頭痛がするたびになぜだか総合感冒薬のルルA錠を飲む習慣があって、カバンにいつだって、ルルA錠を入れたお守りのようなピルケースを忍ばせていた、その程度だ、かわいいもんだ。
 笑い疲れてベッドに突っ伏して、彼女はそのまま眠ってしまった。おれは食洗機に手を突っ込んで、こびりついたクリームやふにゃふにゃのスポンジ生地を取りのぞき、指を舐めるついでにイチゴを頬張ってみた。うまかった。ふと、むかし読んだつまらないコラムの一節を思い出した。
 
 デコレーションケーキというものは、誰かと楽しい時間を分かちあい、笑顔を交わすためにあるものだ。あなたは見たことがないだろうか、帰宅ラッシュの電車の中で、ホールケーキの箱を押しつぶされまいとやわらかく、守るようにして抱えている人を。私はそんな人を見かけると、思わず心の中で応援してしまう。
 
 おれと彼女はたしかに楽しい時間を分かちあい、笑顔を交わした、狂躁のなかで。へっぽこコラムニストなんかよりも、彼女のほうがよっぽど気が利いている。おれのチンケな人生を完膚なきまでぶち壊してくれるのは、彼女しかいない。
 彼女を揺り起こしてプロポーズしたくなった、少なくともおまえは、家事にかまけて、洗濯物のために絶えず空模様を気にしたり、栄養バランスを考えた食事をこしらえたり、家計簿を毎晩つけたり、そんなつまらない女になり下がることはないだろう、そうだろう? 
 寝顔の額にキスすると、彼女は眠ったまま小さく「ん」と声をもらした。承諾だ。踊ろう、パーティーしよう、ぶちかまそう。
 婚姻というよりは同盟だ、今日は同盟記念日だ、おれが病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、おまえはロケットランチャーをぶっ放してくれ、おれの過去も未来も焼け野原にして、まぶしく楽しくはしゃいでいてくれ、いいだろう?
 彼女のくったりとした手をもてあそびながら、おれは返事を待ち続けた。

2021年7月26日公開

© 2021 谷田七重

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