レモン

谷田七重

小説

514文字

レモンサワーはお好きですか。詩だか散文だかわからないのですが短い文章です。

 彼女の右手からは、いつだって新鮮なレモンの香りがした。
 彼女は毎日ひとつ上等なレモンを買ってきては、それを半分に切って、ハンドジューサーで果汁をあますところなく搾り取る、苦味をふくんだ皮のすれすれまで。
 そうして、冷凍庫に押しこんでおいたふたつのグラスにふんだんに氷を入れ、キンミヤの焼酎を注ぎ、レモン果汁をきっちり半分ずつ加えて、炭酸水は申し訳程度。
 レモンサワーを呑みながら、僕らはこぼれるような笑みとともに食卓を囲んだ。
 
 いつからか僕の帰りが遅くなってからも、眠っている彼女の右手はレモンの香りだ。
 レモンサワーをふたりぶん呑んだからだ、酔っぱらって眠ってしまったんだ。
 レモンの香りを右手にまといながら眠る彼女がいちばん好きだ、僕のことを心で追いながらひとり晩酌して、いじけるかあきらめるかして、いつのまにか眠ってしまった、そんな彼女がいちばん好きだ。
 僕はついさっきまで会っていた女の体臭を脱ぎ捨てようと、シャワーを浴びる。そうしてベッドに潜りこみ、かぼそく訴えて抗議してくるほのかな、でも爽やかな匂いのたゆたいに甘えて、今日も目をつむる。
 冷凍庫の冷暗の奥に、僕のぶんのグラスがひとつだけ、しずかに眠りつづけているのを想像しながら。

2021年7月10日公開

© 2021 谷田七重

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