太陽のようなもの

諏訪靖彦

小説

1,025文字

1000字のショートショートです。2日目。

 

サーッと小さな音をたてて砂浜が太陽に向かって移動する。実際には砂浜の表面を覆う比重の少ない砂やガラスの欠片が動いているに過ぎないが、俺の目には砂浜自体が動いているように見えた。太陽に向かって動いている、というのも大げさな例えだ。天体としての太陽は俺の後ろに居座っていて、ついさっきまで砂浜の湖面に向かって俺の身体を何倍にも引き伸ばした影を作っていたから、俺が太陽に向かって砂浜が移動していると感じたのは、湖面の先に空からゆっくり降りてきた太陽と形容したくなる眩い光を放つ物体に向かって吸い込まれていくる思ったからだ。

そう感じたのは彼女もいっしょだった、と思う。俺と向かい合って立つ涼し気な薄水色のノースリーブを着た恋人の、ついさっき俺に向かって別れの言葉を口にしたばかりの元恋人の、受け入れる言葉を返していないため人称の定まらない彼女の、足元の砂がサーッと湖面に向かって流れていき、彼女は足を取られ砂浜に尻もちをついた。俺は彼女を起き上がらせるため手を伸ばす。払い除けられるのではないかと一抹の不安を感じてはいたが、俺の手を掴んでくれた彼女の表情がいつもの、俺に別れを切り出す前の、柔らかな笑みだったのを見て安堵した瞬間、耳を劈く轟音が聞こえた。実際に轟音と知覚出来たのは一瞬で、彼女の後ろで垂直に泡立つ湖面と、太陽と形容した物体から放射状に放たれた光が俺の視界全体に広がり、キーンと耳鳴りがして聴覚を失った。それが音によるものだと理解する時間は十分にあって、思考の外にある感覚というものは時間の流れが異なるものであるのだから、十分な時間をもってそう感じることができた。

彼女から別れを切り出される予感はあった。八〇年一緒にいると、日々の生活の些細な出来事から彼女の心が自分から離れてしまったと感じることがあったし、そのときがいつなのか怯えながら暮らしていた。関係を清算するタイミングは引き金になるものを内から探しても中々見つからないもので、ましてや自己の正当性を求めるとより困難であるわけだから、やはり外圧によって押した出してしまうのが一番楽な方法なんだろう。だからこのタイミングで彼女から別れたいと言われる予感はあった。

 

Jアラートが鳴りすさぶなか、一〇〇年前の遺恨を清算するため放たれたミサイルが大気圏の外から何の抵抗にもならない雲を突き抜け降りてきて、核爆発を起こした瞬間に、俺が思ったのはそんなことだ。

 

(了)

2021年7月8日公開

© 2021 諏訪靖彦

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

SF ホラー

"太陽のようなもの"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る