見ず知らずの餞

西向 小次郎

小説

2,149文字

「これからキサマの進む道は、おいらの知らねぇ道だ。きぃつけて行けよ」

 

「寝言だと思って。日本は資本主義国家ではなくなりました。…おもいやり国家に成り下がったのです。反論を認めます」

穴空端治郎は、地域相談センターなる場所を訪れていた。どうも自分が少し時代に取り残されたような気がしたからである。

はじめ、何をどう相談するか考えても分からなかった穴空は、その場所の相談員をどうやって褒めようかと苦慮したことを告げた。

「あの、おたくさん、偉いことしとるで、ほんまに。金にならんやろ?でもなぁ、いや、助かるわな。暇そうにしててくれて、ほんまに、来て良かったわ」

その返答が先程の話となった時には、やっぱりお堅い窓口と、コロッと考えを改めた。

「相談センターを運営しておりますが、穴空さんは中々の優等生ですよ。なーんて、ええ、正直言いまして、私にもよく分かりません。寧ろ、私は聞きたい方です」

相談員は自らを御堂と名乗った。

「おもいやり国家でっか?ワシには全くそうは思えんのじゃが?ほら、テレビ点けても、芸能人だけちゃいまっか?べらべらと、楽しそうにようしゃべりよるのは。贅沢な話や」

私が誰かって?

まあ、話を見守りましょう。

「時期にお金では買えないものが分かるようになりますよ。穴空さん。あなたのおっしゃる話、私もそう思います。かと言って、穴空さんが芸能人になれる訳でも無いんで、余計にそうみえるのかも分かりませんよ。んと、アレ、マッチ。マッチも自由が無いとかなんとかで、やめたらしいじゃないですか。信じられます?芸能人で安泰な筈のマッチがですよ?どうせなら徹子の部屋に行ってくれたら、私たちも似たような役の宣伝になったのにねぇ。ヒガシがヘソ曲げるわけですよ」

マッチが近藤真彦で、ヒガシは東山ほにゃららなところまでは穴空にも分かった。

「少年隊かいな。アレは特別羨ましくもないな。もっと芝居せんと、宝の持ち腐れや。顔出さへん意味が分からん」

相談員の御堂もそれに頷く。

「あそこの事務所は後輩たちが一番苦労してますね。本当に居なくなっちゃって。歌と芝居があったら、歌だったように思うけど。なんとなく隙間が出来て、どうなるのでしょうね」

穴空は自分が気になるようになって、本当に他人のことまで気になりだしたことを少し話した。お堅いと思いつつ、おもいやり国家という言葉に惹かれたのは、そのためだった。

「ロボットが居たで。あの仕事、ワシもしたいわ。受付やろ。あれ、あーゆうん方がワシ得意やわ」

御堂は穴空の話が具体的になったのが分かると、時計に目をやった。

「穴空さん、穴空さんは男性でしょう?なんやかんやと、男性は男性らしい仕事、みたいな偏見というのはありますよね。おそらくですけど、穴空さんは時代の先に考えが行ってしまっているんですよ。ロボットの代わりに受付って、まだそこまで時代が進んでませんからね」

まあ、そう言われると、穴空は見透かされるような気持ちになったが、同じ時計に目をやり、食い下がった。

「せっかく来たんでな、他に客もおらんし、ええやろ。ロボット談議や」

このへん、穴空らしいというか、そう思って、御堂は椅子に座り直した。

「ロボットですか?そーですねー、例えば、どんな?」

「そやな。例えば、御堂はんがロボットだったら、ワシこんな話さへんで」

「それは、ロボットだから話さないのですか?…だとしたら、勿体無いですよ。ロボットと長話出来るなんて馬鹿な話は、今しかないかもしれません。時代が停滞気味に思えるかもしれませんが、逆ですよ。こういった環境にいる私も幾分一人で考えることに限界を感じました。先程も言いましたが、理由は…やはり、コワイから、とか、怖そう、なんですよ。なかなかその椅子に座る方はいないです。怒りませんとか、書いておくべきでしょうか?…いや、本当に」「書いた方がええな、オモロいから」

いわゆる、食い気味で穴空は答えた。

「なんなら褒めますとか、な。久しぶりやで、褒められるとか。なんで起きなあかんねんで目覚ますやろ。一発で起きろなんて無茶な話やで。毎日毎日、しゃーなしで、手摺り使うて起きとるで、めっさ偉いっちゅー話やろ。子供もおれへんのに、朝はよ起きて、しんどいわ」

御堂はノートを捲って穴空の話を箇条書きにし出した。

「…例えば、ですけど、、それの対応策がありそうに思いますか?」

それらが分かればここには来ないだろうことや、やはり”お・か・た・い”というフレーズが斜に構える穴空の顳顬から溢れた。

「ほんまに、日本て、アカンくなっとるんちゃうんか?なあ、御堂はん」

「穴空さん。つまらない話ですが、結局質問に対しての回答。これだったりするんですよ。こんなところですから言いますけどね。取って喰う程の値打ちが日本に無いと思えば、アカンくなりまへんで。それでも、存分にお考えを巡らすのはいいことですよ。質問に対しての回答、どうです?」

「簡単にいいよるわ、御堂はん。……ワシの予想やとな、これからの引きこもりは独立を意識させな引っ張り出されへんようになるなぁ。でも、きっついやろ。せや、引きこもりのテクニックが流行りよるやろな。長話考えたりしてな。流行るで」

「穴空さんは転職をお考えで?」

「そやなぁ、

 

2021年5月5日公開

© 2021 西向 小次郎

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