作品解説

暗黒竜の渇望(第39話)

西向小次郎・らんた

小説

4,104文字

この作品は古代ペルシャの宗教であるゾロアスター教をもとに書いたドラゴン小説で
す。闇と光の戦いを照らし合わせて書かれたものですが、完全にイコールではなく「
空想世界のゾロアスター教」として解釈していただけたら幸いです。
1.古代ペルシャの宗教ゾロアスター教とは?
この宗教は始祖ゾロアスター(ザラスシュトラ)によって本格的にペルシャ全土に
伝わった宗教で、最後の審判は善悪二元論など後のユダヤ教やキリスト教にも大きく
影響を及ぼす偉大な宗教でした。サーサーン朝ペルシャ帝国がイスラム帝国の侵入に
よって滅ぼされ、一神教のイスラム教にほぼ全土が信仰を変えることになりましたが
、いまでもイランでは信仰されている宗教です。拝火教という漢字がある通り、火を
神聖視し、光を信仰する宗教です。
2.アフラマズダと阿修羅の関係

物語の最後に出てくる三面六臂のアフラ神とはみなさんが想像するとおり、日本で
言う阿修羅のことです。
物語では「別の世界で追放された光の神」とあります。
これは主に仏教説話を基にして書いたものあります。その昔、阿修羅王はインドラ
に舎旨と呼ばれる娘を嫁がせようとしたところ陵辱されてしまったのです。正義を守
る天帝阿修羅とその一族は残虐非道なインドラに怒り狂い力の神であったインドラ側
に戦いを挑みます。しかし、インドラ神は力の神でありいくらやっても阿修羅は勝て
ませんでした。天は荒廃し、死者た多数出て、残虐を極めました。これを修羅場(し
ゅらじょう)といい、のちの「修羅場」の語源となりました。それどころか陵辱され
たはずの舎旨はインドラを本気で愛してしまったのです。
こうしてとうとうインドラ側が完全に勝ち、とう利天と呼ばれる天空の城から阿修
羅は追放され、天帝の地位を剥奪されます。
ヒンズー教と仏教では争いを続けさせ戦いの魔神となった阿修羅こそが悪だとした
のです。しかし仏教は後に八部衆の1人として仏の教えを知り、仏教を守護する役目
を負います。興福寺の阿修羅像とは表向きは「仏の教えを始めて聞き、うれしさを表
現している姿」であるとされています。とても戦いと血に飢えた神には見えません。
物語では光明神で最高神である本来のアフラマズダにはないこうしたインド側の神で
ある阿修羅の悲しみを反映させることにしたのです。
この話が造られた背景にはこういったものもありました。阿修羅王はゾロアスター
教の最高神アスラ=マズダのことであり、光の神であったということは前出しました
。アーリア族は民族移動時にペルシャ側に進んだ民族とインド亜大陸側に進んだから
時に宗教対立があったのです。インドではそれがイラン側で信仰されている神アフラ
をやがて「悪魔(アスラ)」としたのです。善悪・光闇と二元対立する思考形態や天
空を支配し、悪や違反者には罰則を加えるというアフラの神々は命豊かなインドでは
受け容れることは出来なかったのです。
逆にイラン側はインド側の神テーヴァ(天)を「ダエーワ」(悪魔)としました。テ
ーヴァ(天)側の呪法や暴風神などの信仰が受け容れられなかったのです。これはそ
のままギリシャに伝わり「ダエモン」に、そして英語の「デーモン」「デビル」となり
ました。ですから後に日本にも帝釈天として伝わる神であるインドラ神もゾロアスタ
ー教では7大ダエーワ(大魔)の1柱の神として「ヴェンディダート」(魔除書の意
)と言う本にに記載されているのです。
ところで、みなさんは阿修羅王は実は大日如来の化身であるかもしれないという学
説はご存知でしょうか?大日如来とは密教の最高神です。 密教とは空海が唐の時代
に伝えた仏教です。インド末期においてはヒンズー教から迫害されていました。この
ためヒンズー教の呪術などを取り入れ、復興を果たそうとしたのですが、仏陀ですら
『阿修羅』とされるほど衰退していました。西遊記で有名な玄奘はこの時代の経典を
持ち帰り、さらに空海はそれを日本にもたらします。
実は大日如来の僕は明王が多く、明王は鬼である夜叉族、阿修羅族の出身が多いこ
とからも大日如来の側面がうかがえるのです。 金剛夜叉明王なんて言うのは明王の
特色を現している明王であると思います。
東大寺の大仏、大日如来と興福寺の阿修羅は同じ仏という説を今回は取り入れてい
ます。これは迫害されていたインド仏教側が逆に今まで鬼や悪魔とされていた神々を
武勇の神として復興させ、迫害から仏教を守ってくれという願いでもあったようです

阿修羅王=大日如来説が本当かどうかは学説的には議論の最中であるそうです。で
も、ゾロアスター教の神が一旦悪魔として落とされたにも関わらず密教においてひそ
かに復権がなされたというのは魅力的でありまませんか?だからこそ、興福寺の阿修
羅像はあんなおだやかな顔つきの少年像なのではないでしょうか。

3.ミスラと弥勒
ミスラという神は古い阿修羅族の神であり、ゾロアスター教の主神アフラマズダと
同一にされていましたが、時代が移るにつれて裁きの神と契約を祝福する中級の神で
あり、天使でもある「ヤサダ」という位置に落ち着きます。この神は光明神でもあり
、武勇の神でもあり、友情や友愛の神でもあり、やがては世を救済する神にまでなっ
たのです。
インドに伝わったときにはなぜか「阿修羅族」とはされず、マイトレーヤという神
になりました。この神様が仏教に伝わったときに弥勒菩薩となったのです。弥勒は仏
陀の入滅後56億7千万年後の未来に姿を現し、多くの人々を救済することになってい
ます。作品には主人公の心を祝福し、救済し、武勇を復活させるのはそういう神様だ
からなのです。
4.鬼としての帝釈天
皆さんは雪山童子というお話をご存知だろうか。雪山童子は釈尊の前世にあたる人
物で求道者だった。衆生利益のために修行を重ねていたのだが、そんな雪山童子の姿
に疑問を持っている神がいた。帝釈天であった。求道者は多少の困難が生じると逃げ
てしまうではないかといつも考えていた帝釈天は雪山童子に試練を与えるべく見るも
恐ろしい羅刹に姿を変え、雪山童子が修行している近所の山で有名な仏の説法を大き
な声で説いた。
雪山童子は恐ろしい羅刹に近づき、もっと説法を聞かせてくれと願ったが羅刹はも
う餓死寸前で食うものがないという。「私が食べるものを持っていきます、続きを聞
かせてください」と願ったが羅刹は「私が食うものは人間の血肉なのだ」と言った
。「それならばすべての説法を聞き終えたあとに私をお食べください」と雪山童子は
言ったという。すべての説法を終えた羅刹(帝釈天)はさっそく雪山童子の血肉を求
めた。雪山童子はこのようなすばらしい説法を記録に残したいという願いを羅刹に言
って羅刹は了承した。羅刹の説法を書き終えると崖から雪山童子は身を投げたという
。羅刹は帝釈天の姿に戻り、雪山童子を空中で掬い上げ、認めたという。しかし、こ
の話は帝釈天という存在がさらにいやらしい存在に見えないだろうか。少なくとも私
にはそう思える。
まだある。仏教に帰依した鬼神らで12の方角と時間を守り、かつ薬師如来の12
の大願を守る十二夜叉神将の1人に因達羅(インダラ)大将として巳の時と方角を守
る大役を担っている。夜叉神将という名前の通り、鬼である。
まだある。三尸の虫(または「しょうけら」という妖怪)が庚申の日に寝ている間
に天帝こと帝釈天に人間の悪事を報告し、報告を受けた人間は寿命を減らされるので
す。このため庚申講といい、庚申の日は三尸の虫が出ないように徹夜するという習慣
が江戸時代には確立しました。このように帝釈天として仏教に帰依してからも恐怖の
天帝という性格は引き継いでいます。なお、しょうけらを退治するのは青面金剛夜叉
明王という鬼神です。この「青」は釈迦の前世に関連しています。そうです、実は雪
山童子なのです。
阿修羅族の娘を強姦したことといい、十二夜叉神将の1人であることといい、雪山
童子の説話の事を総合的に判断し、私は「帝釈天の正体こそ恐怖で支配する天空の鬼
王なのではないか」という結論に筆者は至りました。そこで本作でも帝釈天は配下の
四天王と共に鬼という設定となっています。
なおインドラは日本では牛頭天王という病魔神とも習合します。後に改心し、逆に
病魔を退治する神となり祇園神社の主神となります。この物語のインドラの角は牛頭
天王の角の姿を参考にしています。
5. ザリチュとタルウィという大魔について

ザリチュとは「ヴェンディダート」では「渇き」を意味する大魔で、タルウィは「
熱」を意味する大魔です。この2つの魔は常に並び証されており、植物を滅ぼす悪神
であり、毒草の創造者でもあるのです。本来は友人であって師弟と言う関係ではあり
ません。
ゾロアスター教ではザリチュもタルウィも具体的な姿の解説はありません。そこを
利用して今回ザリチュが世の中すべてに絶望した子を暗黒の闇に誘惑し、光の側に滅
ぼされ一旦失った友人「タルウィ」として復活させ、闇の竜に変えさせるという設定
にしたのです。
6.アーサー王伝説スキタイ起源説
「ナルト叙事詩」を見ると、アーサー王物語のかなりの部分は騎馬民族であるスキ
タイ族とかなり似ている部分が多いという。竜を信仰するという部分にも共通点が多
い。そこで第二部の主人公をアルトゥスとし、アーサー王の起源となった人物として
活躍させることにしたのです。ただし、スキタイ人はゾロアスター教もミスラも信仰
はしておりません。ここは空想の部分です。
アーサー王は赤竜の旗を徴とし、自らも「アーサー・ペンドラゴン」と名乗ります
。ペンドラゴンとは竜の頭という意味ですが、転じて王権、王の王という意味になり
ます。ケルトの王アーサー王はウェールズでは国旗であり、民族の象徴であり、アー
サー王の象徴でもあり、国土を守護する竜でもあります。今回、アルトゥスという遊
牧民族の名は、そう、ケルトの王アーサー王の事だったのです。赤竜として遊牧民族
を守る物語としたのにはそういった背景からヒントを得たものです。なお、緑の騎士
「ガウ」とはもちろんアーサー王物語に登場する「ガウェイン」の事です。

2020年12月7日公開

作品集『暗黒竜の渇望』最新話 (全39話)

© 2020 西向小次郎・らんた

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

ファンタジー

"作品解説"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る