第九章 第一節 半魔

暗黒竜の渇望(第33話)

西向小次郎・らんた

小説

1,339文字

狼人、狐人、猫人、牛人、蛇人……さまざまな幼き武装兵は人間の里を避けながら
北へ向かっていた。そのリーダーにわずか4歳の上半身人間、下半身が黒の蛇である
半人半蛇の男の子がいた。袋を持ち、大事な石版をそこにしまっていた。
「滅んじゃったね。僕らの故郷」狼人ケイナが答える。8歳だ。
「女王は決死の戦いで死んでいったんだ」狐人リンダが厳しい表情で言う。女の子で
7歳。
「自分の事しか考えない魔は故郷に帰っちゃったけどね~」猫人ルネが茶々を入れる
。同じく7歳の女の子
「なあ、西南には牛人が集うミノスという場所があるぜ?なんておいら達は北に行く
の?」疲れる表情で答えたのは6歳の牛人レノン。
「本当に人と平和に過ごせるのかな……僕は……僕は……憎いという言葉以外……」
アジ・ラーフラが答えた。
「わかんないよ……」ケイナが答えた。
名目上のリーダーは石版を持つアジ・ラーフラだが、実質上のリーダーはケイナだ
った。狼の牙と爪を活かして、人間が飼っていた夜の牧場にいる子羊などを襲って食
べて飢えを凌ぐのがやっとだった。毛皮はアジ・ラーフラの毛布などにも使われた。
草原では騎馬隊に見つからないようにゆっくり歩き、騎馬隊が近づいたら地にふせ
た。
幸い半魔でも魔法は使えることが出来た。
といっても荷車に魔法をかけてゆっくり動き出すというものだが……いざとなった
ら荷車を置いて逃げた。彼らの嗅覚は人間の数百倍、視覚は数倍あったから容易だっ
た。
1年目の冬は黒き海を経由した。幸い、雪が降らない。
だがそこには信じられない光景が広がっていた。
「見て!騎馬隊が多数死んでるよ!それも丸こげだ!」
それは半魔達の目から見ても悲惨な光景であった。焦土の中に炭と貸した人間達、
病気で亡くなってそのまま腐っていく人。
魔にやられたのだ。

「ざまあみろ」牛人レノンが吐き捨てるように言う。
「そんなことよりこいつらの武器とか奪おうぜ!」ルネが現実的な提案をする。
使えるものは持ち去ることにした。剣や鎧はすでに持っていたがとぎ石などの剣を
維持する道具、焼け残ったテント、貴金属、篭手などである。
―憎いのに……人間が憎いのに僕はこいつらに同情してる……なぜ?上半身が人間だ
から?僕の父親ってだれなの?本当に母親を置いていって逃げたの?僕はこいつらの
血が流れてる……
「俺たちは半分人間なんだ。少しでもいいから弔おう」アジ・ラーフラが意外な提案
をした。
「何でまたそういう余計な事を」レノンが反対した。
「2日でいい。少しでいいんだ」
「優しい子だこと」あきれるルネ
「まあ、僕も人間に受け容れてもらうには悪くない提案だと思う。墓碑にはあの石碑
に書いてある言葉をそのまま入れて立ち去るぞ」
全員の埋葬は無理だったが、腐りかけていた死体から埋葬することにした。
2日どころか、1週間も埋葬作業を行なった。
だが遠くにいる騎馬隊をケイナが見つけたので早々にその場を立ち去った。
北にある森を越冬を兼ねて、まっすぐ北へ進んでいった。
季節が夏になるころ、人間がカザンという場所にたどり着いた。
ここが「母が行きなさい」と言ってくれた場所……?何もないじゃないか。アジ・
ラーフラは愕然とした。そこは小さな村が遠くに見え、あとは深き森が漠然とどこま
でも広がっていただけであった。

2020年12月6日公開

作品集『暗黒竜の渇望』第33話 (全39話)

© 2020 西向小次郎・らんた

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