第八章 第二節 闇の中へ

暗黒竜の渇望(第31話)

西向小次郎・らんた

小説

1,586文字

―ぐはっ!まぶしい!
ヴィシャップを化身としていたため、光線のダメージは母体であるアジ・ダハーカ
をも襲った。ぜぜい、ぜい。三頭三口が悪態をつく。体中が光の筋による攻撃をあび
、闇色が溶けて灰色になっている。細かい傷があちこちついていた。
ヴィシャップが消滅する直前に化身である契約を無理やり解除したため命を共に落
とすことは免れた。身体と魔力への負担は相当なものであったが。
―まあ、よい。命を落とすことは免れた。そんなことより、逃げ帰った裏切り者ども
は抹殺せねば―
このころのアルボルズ山の闇の洞窟は騒がしかった。次々闇から出てきた魔の者ど
もで溢れかえっていたためだ。アルメニアから帰ってきたのだ。魔だけでない、半魔
もいた。安堵の声や悲鳴、子や親を探す声であふれかえっていた。
そんな光景に冷酷なおどろおどろしい声が響く
―そなた達を守る盟約はそなた達の主の死によって消えた。魔にあるまじき裏切り
者には死あるのみ。
闇からゼリー状に浮かび上がった姿は翼を持つ三口、三頭、六眼の暗黒竜。
それぞれの口の口腔に赤き光を充満させ、瘴気が充満させる。
悲鳴と阿鼻叫喚が洞窟に響き渡る。
しかし、すぐに三口から巨大な光が放たれ、洞窟ごと全てを吹き飛ばした。魔も半
魔も赤き光と共に消えていった。遠くにいたものも爆発の余波を浴び、肉片となった

遠くには光が見える。洞窟の側面どころか天井の一部まで抉り取られた跡があった
。山の一部をもえぐり取り光は天空まで届いていたのだった。

もちろん、深き洞窟に光は差し込むことはないが……。
静まり返る洞窟。
三頭、三口の顎が魔の肉片を貪り食う。肉を堪能していくうちに己の肉体が回復し
ていく。魔の血や肉体は魔の者にとっては能力や魔力を与える薬にもなるのだ。ゆえ
に、魔物にとって己の骸を放置されるのは屈辱であり、逆に強き者の一部となるのは
たとえ死という苦痛を味わったとしても光栄であるのだ。新たな強き命の一部となる
からである。
食事を終え、己の肉体は元の暗黒色に戻り、肉体の傷も癒え、魔力も得た。
そこに突然皮肉めいたぐぐもった笑い声が聞こえた。散った鱗を拾う暗黒の武者が
後ろにいた。
「食事はお済ですか?王子殿」
「ふっ、遊びでこの魔界に来よった者に指図を受けるつもりはないわ。天帝インドラ
。そなたにふさわしきは闇ではなく、光であろう。そなたは味方などではなく、敵だ
わ」
「仲間割れしている場合か馬鹿者!その客人は我がまねいた」
声が洞窟内に響き渡る。
そこには暗黒の大蛇アンラマンユがいた。
「多忙のとこすまぬの。わしにとっては天空の主とかはどうでもよい。強きものが魔
の世を支配してくれればそれでよい」
「このままでは魔は光の剣により滅ぼされます。私は光の者でもあるゆえ、滅ぼされ
ることはありません。我にアルトゥス討伐を命じください」
「よかろう。早速とりかかってくれ。我らが滅びに向かう前に」
「はっ」
そういうと暗黒の戦士は闇に消えた。
「父上!なにゆえ天空の力を借りるのです。あやつに忠誠心などないことはわかって
いるはず!隙あればいつでも天空の善見城から攻め入ることも可能なのですぞ!なぜ
あやつが父の力を借りた大魔なのです!」
「我々はインドの神ごときに滅ぼされるほど軟じゃないわ」
一喝する王。
「いいか息子よ。利用できるものは何であっても利用する。力ある者こそが魔の正義
。違うか?万一滅びを甘受するときは、その時よ。最後の審判を受けるときだ」

「最もそのまえに、最終兵器としてお前と融合して立ち向かうがな。その時はおそら
く光も闇もない。ただの無の空間に戻るだけよ。暗黒と同じだけかもしれんがな。無
と闇は親和性がある。ならばもう一度闇を作ればよいだけのこと」
―父は子すら道具としか見ていなかった。しかし、それが魔として本来あるべき姿な
のだろう。三口、三頭、六眼の魔は身震いと歓喜と憎悪を同時に味わった。

2020年12月6日公開

作品集『暗黒竜の渇望』第31話 (全39話)

© 2020 西向小次郎・らんた

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