半魔たちや魔たちの断末魔がこの天空にも聞こえる。そして元々人間だった魔の決
死の声も…。
白きローブを纏い、艶かしい白き肌と白き長髪、金の瞳を持つ者が玉座に座る。帝
釈天であった。
「また光と正義の名の下に破壊と死が生まれたな。のう、広目天よ。彼は我ら鬼と何
が違うだろうか」
「はっ。また阿修羅族の力を借りて闇を征伐したものと思われます。この目でしかと
確かめてございます」
「おぬしはもともと千里眼を持つ鬼(ヤクシャ)じゃからの……」
額に角を抱き、皮膚が緑色の広目天がそこにはいた。
「血がさわぐの。狩りに出るとするか……」
―よくみておれ。我々一族の誇らしき真の姿。
そういうと天空の空気が一瞬よどんだ。
「はああああああああああああああああああ!」
インドラの咆哮が響き渡る。
インドラの体から雷を含む黒き霧が光輝く天界に生じた。空気が積乱雲のごとくゆ
っくり渦巻くようにして闇の煙として集まっていく。闇は集結してとうとうインドラ
の姿は見えなくなった。
闇の煙はインドラを中心に渦巻きながらやがて鎧として具現化していく―
鎧があたかもインドラの体の一部のように姿を現す。それは全身暗黒の素材で出来
た鎧であった。それだけではなかった。鎧から筋が浮かび上がり、やがてインドラの
衣服のみならず己の血肉と一体となっていく。皮膚と鎧が融合し、どくどくと脈打つ
。
兜と面頬も生じ、己の体と同調していった。
同調した鎧とともに筋肉が流れ、膨れながら成長していく。天空城に似つかわしく
ない骨と肉の鈍い音が谺した。
額の皮膚かがぶちりと裂けた。まず三つ目となる眼が一つ生じた。三つの眼は赤き
色に染まる。鋭利な黒の角が、闇の兜の左右の割れ目をすり抜け赤き血を絡めながら
生えてくる。同じく面頬の中央部の隙間から牙が次々と伸びていくのが見える。それ
はまぎれもなく鬼族の象徴。やがて面頬は兜と同調し、己の一部となった。
次に闇の煙が凝縮し、突然手に三叉矛が現れた。闇一色に染まった鬼にふさわしき
毒々しき三叉矛の色。
変化が終るとそこには角を頂く長身の赤き目をもった暗黒の戦士がいた。
「それでははじめるとするか。阿修羅狩りを」
声がぐぐもっていた。体躯の変化により声帯も変化していたのであった。
そこには天空の支配者としての凛々しい姿はそこにはなかった。
「充分お楽しみください。インドラ様。」
「留守はたのんだぞ。夜叉王たる四天王達よ。それと天空城の主権代理は破壊神シヴ
ァ……いや魔王サルワにゆだねる」
「はっ」
「ギリメカラ!」
そういうと魔法陣を空に描き、闇の象を召喚する。象に乗るやいなや下界へ消えて
いった。三日月のような笑みを浮かべた広目天を残して。
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