第五章 第三節 救いを求め

暗黒竜の渇望(第20話)

西向小次郎・らんた

小説

1,629文字

草原を一頭の馬が駆け巡る。アルトゥスであった。
羊皮紙の地図に印がついてある場に向かっていった。そこは山を抜けペルシャ帝国
の中にあった。山を上り下っていく。難行であった。何度も崖から落ちそうになった
。下山できるころになった時はすでに冬となっていた。あと一歩遅かったら凍死して
いただろう。
その地図の印はミスラと言う名の神を祭る寺院の中にあった。
―ミスラ神 それは終末の世に救済をもたらすアフラの僕(ヤサダ)
私は神官に事情を話し、説明を聞いた。
ミスラの持っているものは剣ではなく、杖であること。竜の血を引いた人間が杖を
引き抜くことが出来ること。そしてその杖は持ち主の意思によって剣になることの3
つが主要な説明であった。
だが剣を引き抜くことは神官に止められた。
「そなたは正義の心はもっていようとも、力も意思も弱い。ここで修養するがよかろ
う。かつて数年前にもそなたのような剣士が尋ねてきた。アフラの加護を受けたのに
も関わらず、復讐心だけで暗黒の竜に戦いを挑んだ勇者じゃ」
「その勇者様とは今は一体?」
竜を殺したが、自分も傷を負って死んだのじゃよ。もともとは小さな王国の王子じゃ
った。だが復讐の心だけでは倒すことは出来ぬ。逆に闇の誘惑に取り込まれてしまう
。そこでアフラだけではなく、友愛と救済の教えであるミスラの教えを勇者は学んだ
のじゃ。
そういうと神官は衣服の袋から透明な小さな水晶を持ち出し、呪文を唱えた。する
とみるみる水晶が黒くなっていく。
(なんてことじゃ。魔と交わっている。いや、だからミスラの杖は引き抜けるのかも

しれぬ。しかし、本人にそれを言うのはあまりに酷じゃ。神官長としてそれはできぬ
……)
「そなたこのままでは闇に堕ちてしまうじゃろ」淡々と述べる神官。
「そんな!なんですって!」
「だからこそ、この杖は人間であって人間でないものにしか引き抜けない。じゃが、
正しい心の持ち主しか抜けんよう封印がされておる。そなたミスラの試練を受けるつ
もりはあるかの?」
「もちろんです。わが部族と民族の復興のために」
「ならばまず、そなたの前に試練を受けた勇者の手紙を読むがいい。そしてその心を
受け継ぐことじゃ。試練はそれからじゃ」
俺は1年半も寺院で修養した。
まずスキタイ族は文字を持たなかったので文字を修得した。石版に文字を加工する
のはアルトゥスにとって外国語であったたため苦難の連続あった。次に神官らから武
術を修得した。戦国の世であったため暗殺術も中には含まれていた。神官らはこうし
て異端や敵対者を殺していたのだった。ゾロアスター教神官がマギ(魔術師=学者)
といわれるゆえんである。
さらにゾロアスター教の基礎理念を勉強し、いよいよその勇者が書いた羊皮紙を見
ることとなった。
その羊皮紙に書かれている内容は壮絶であった。
退廃にふけっていた王国の隙をついて闇の竜に国が倒されたこと、王国の民族が東
方に移動したこと、村を作った野にもかかわらず闇のものどもに攻められたこと。そ
れを撃退したのに追放されたことであった。そこで光の力を手にしたのにも関わらず
光の力を復讐の道具として使ったこと、それを悔やんだこと、それを悔い改め再び王
政復古のためたった1人で闇の竜に立ち向かう決意で文章は終っていた。最後にこう
記述を残して……。
「我死せり後、この危機が再び訪れたときに危機に対応すべきものが読むべし。カー
グ14歳」
なんとカーグは今年で30歳となるアルトゥスの半分以下の年齢であった。子どもが
こんな悲壮な運命を背負って戦っていたなんて―
驚きと自分の人生の後悔を改めて思った。
絶望に立ち向かった14歳―! 俺は中年になってまで子ども帰りをして何をやってい
るのだろうか。
……それ以来剣術と文字の修得、異教であったゾロアスター教とアフラの教え、そ
してミスラの教えを学んだ。月日は経ち、季節は繰り返し、さらに季節は春となって
いた。

神官の許しが降り、いよいよミスラ像の杖を引き抜く時が来た。最大の試練の時だ
った。

2020年12月6日公開

作品集『暗黒竜の渇望』第20話 (全39話)

© 2020 西向小次郎・らんた

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