女の話はつまらない

齋藤雅彦

小説

2,148文字

「いま見ていただいた動画のAさん、効率の悪い無駄な動きばかりしていましたね。なぜこんな効率の悪い動きをするのでしょうか? はい、そうですね。脳に対する認知負荷が少なくてすむので、脳にとって心地よいからです。身体への負担は大きいですが、こういう人はすぐに他者に助けを求めるので結果的には他者より労働量は少ないということになります。

 このタイプは同じことの繰り返しを好みます。これも同様に認知負荷が少なくてすむからです。

 少し違います。記憶力がないのではなく、記憶を活用できないのです。衝動性や他者の心を理解する能力の低さが学習能力の壁となっています。そうですね。衝動性が他者の心を理解する能力の低さにつながってもいますし、他者の心を理解する能力の低さが衝動性につながってもいます。互いに影響を及ぼし合っているのです。

 衝動性が強いということは、集中力がないということでもあります。常に落ち着きがなく、じっとしていることができません」

 

 衝動的で他者の気持ちや立場を想像できないのでじっくり人の話がきけない。

 

「きくよりも早く別なことがしたいわけです。また、やるべきことより思いついたやりたいことを優先してしまうので、急がば回れができません。ものや人をじっくり観察する根気強さがないので、観察力はほとんどありません。したがって、たくさんものがあるなかから特定のものをさがし当てたりするのはきわめて困難な作業となります。

 普通の人は、仕事に関することは優先して忘れませんが、このタイプには優先順位という概念がないので忘れっぽいです。 何を優先すべきかの判断ができないので情報の取捨選択を瞬時に行うことができず、フリーズすることになります。したがって、一度に複数のことに注意を向けることができません。しょっちゅうものを失くします。社会の概念を形成することができないので公私の区別も曖昧です。仕事とプライベートの明確な線引きが存在しません。整理整頓のスキルは皆無です。スケジュールを立てて動くなどということはあり得ません。 

 空談はできます。緊張や物怖じをしないので、かつての世のなかでは大きく成功する例もあったようですが、いずれにしても、真のホスピタリティストを目指すみなさんには関係のないことですね」

 終了のチャイムが鳴った。コーヒーショップのバイトに応募し、合格してから三か月。こんなに長い研修が必要だとは。わたしはため息をついた。

「先週行った講義の、茶道、花道など、様式美、形式美は欠乏のなかで育つについてのレポートの提出をお願いします。提出のないかたは本日をもって脱落となりますのでご了承ください」

 研修センターの門を出ると、人生についてばかり考えていて、生活のことをまったく考えていない彼が待っていた。

「恥ずかしいから来ないでって言ったでしょ」

「誰も君のことなど気にしちゃいない。飯食って、ホテル行こう」

「そんなお金ない」

「競馬で七万勝ったんだ」

「ちゃんと前戯して。最近濡れにくいの」

 ホテルに直行し、フードメニューから、ピザとナポリタンを注文。ファミレスなんかよりずっと美味しい。女体盛りからの流れでクンニ、アナルもなめてくれる。アナルは少しくすぐったい。クリがひりひりする。彼がピザにタバスコをかけたからだ。

「記憶するから飽きる。記憶しなければ常に新鮮な刺激が味わえる。だから記憶力が低いほうが幸せなのだ。記憶の出し入れが下手というのでもいい」

 まどろみから覚めると、彼が外国語の本を読んでいる。

「ねえ、きいて」

 彼の胸に頭をのせる。

「きかない。女の話はつまらない」

「いつもきいてくれるじゃん」

「今日のデート代は俺が出している。だからきく義務は生じない」

「どうして女の話はつまらないの?」

 本をサイドボードに置いて、彼が語り始める。

「女は男より灰白質の量が多く、白質の量が少ない。男はその逆だ。灰白質はメモリー、白質はケーブルだと考えてくれ。女は白質が貧弱なぶん、暗記力は高いが情報編集能力が低い。だから中一程度の論理しか持たない。根源的な問いを自己に発しない。女の脳みそはマニュアル型なんだ。ゆえにべたなことしか言わない。自己客観化能力が発達しないからオチのない話をいつまでもだらだら続けることに抵抗がない。

 女は妊娠すると灰白質が刈り込まれる。育児に対する適応だ。灰白質が多いのは冗長性。これも適応だな。つまり減るからそのぶん多めに作られている。女のほうが灰白質が多くなるってことは女性ホルモンの作用なんだろう。てことは白質の増加は男性ホルモンによるものだ。

 女って子どもができると馬鹿になるだろ? 俺は女性起業家が妊娠出産をきっかけにあっさり会社をたたむケースが多いのはなぜかってずっと疑問に思っていたんだが、最近ようやく理解できた。マミーブレインっていうんだけど、灰白質が削られて子どものことしか考えられなくなるからなんだ。

 孤独を極端に恐れるようになるのもそのせいだ。育児には協力が必要だからね。前頭葉のはたらきが弱まるから情動脳が活性化するんだな。

 女はいいよな。子ども作ってさらに孫ができたらそれで自己実現できてしまう」

「ねえ、やっぱりきいて」

 半身を起こし、彼を見下ろした。

「できちゃったみたい」

2020年11月22日公開

© 2020 齋藤雅彦

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