学歴

齋藤雅彦

小説

1,222文字

娘の入学祝いに、義父から市松人形をもらった。いわゆるお菊人形というやつだ。「ふつうランドセルとか勉強机じゃない?」 と、主人に言ってみる。

「ランドセルやら勉強机やらはお前の実家で用意してくれたじゃないか」

「そうなんだけど。うちの実家だってとくべつ裕福なわけじゃないんだし、相談して決めてくれてもよかったでしょう」

「しょうがないだろ。親父はそういう奴なんだよ」

 わたしは、でも、と言いかけるが、黙ってしまう。

 入学して、娘の様子がおかしくなった。明るい子だったのに、あまり笑わなくなった。夜、たびたびうなされるようになった。明け方、むっくり起き上がり、壁に向かって話しかけていることもあった。

 ある日、娘にきいてみた。

「学校で嫌なこととかあるの?」

「ううん」

「そう?……なんか気になることとかない?」

「うーん……あのね」

「なあに?」

「おじいちゃんからもらった人形が怖いの」

 どうしたらいいのだろうか。せっかくいただいたものを押し入れにしまい込んでおくわけにもいかない。おはらいのようなことをしたほうがいいのだろうか。ネットでいろいろ検索してみる。

「ごめんください」

「陰陽師さんですか」

「はい」

「こちらです。上がってください」

「すみません。まず、前金で三万円、お願いします」

「ああ、はい」

「どうも。領収書です。……娘さんはいらっしゃいますか?」

「はい。いますけど」

「ちょっと娘さんとお話よろしいですか?」

「はあ……あの、人形は?」

「それは後で」

 しばらくして、娘は元の明るい子に戻った。むしろいままでよりはきはきとして活発になった。

「問題ないですね」

「おはらいは?」

「必要ありません。……娘さんにきいてみたらね、お菊人形にまつわる怖い話が、あの例のね、髪が伸びるやつ、あるでしょう。それをテレビで見てね。それからあの人形が怖くなったらしいんだな。……壁に向かって話しかけてた?……あれぐらいの年だったら寝ぼけることなんてよくありますよ。うなされる? 冷えると思って布団かけすぎなんじゃないですか? 小学校に入学して、新しい環境に対するストレスもあるんでしょう。軽い睡眠障害ですね。優秀な子どもほどストレスを感じるものなんですよ。乗り越えなきゃ成長できませんからね。親が手を出しすぎるのはよくないです。とにかくまあ、人形は、おじいちゃんがあなたが健康ですくすく育ってほしいって思いからプレゼントしてくれたんだよ。だから怖がる必要はないんだよ。どちらかって言ったら可愛がるべきなんだよって説明したら納得してくれました。

 お母さんは何でも一人で決めすぎなんじゃないですかね。もっとご主人と話し合われたほうが。……う~ん。本気でぶつかってみなければ、ご主人も本気になってくれませんよ。では」

「ありがとうございました。……あの」

「はい」

「カウンセラーになったほうがいいんじゃないですか?」

「ああ。カウンセラーにはなれません」

「どうして?」

「高卒なんで」

「あ……

「ではこれで」

2020年11月13日公開

© 2020 齋藤雅彦

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

純文学

"学歴"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る