一九九二

齋藤雅彦

小説

888文字

「鈴木君、こちら今日からいっしょに働いてもらうことになった柏木さん。よろしくね。じゃ」

「あ、はい」

「柏木のえるです。年は七〇になります。よろしくお願いします」

「どうも、店長の鈴木です。のえるさん……ハーフですか」

「いえ、純日本人です」

「すみません。失礼しました」

「ちなみに姉はじゅえるです」

「はー。お姉さんとは何歳違いで?」

「姉とはちょうど一〇歳離れています」

「てことは、八〇」

「はい」

「先見の明のあるご両親だったんですね。コンビニの仕事の経験は?」

「ゼロです」

「そうですか。わたしはだいぶ年下になりますが、仕事ですから、びしびし指導させていただきますよ」

「え~、それってパワハラじゃないですかぁ」

「えっ?」

「べつに平気だけどね」

「平気ですか」

「セクハラは困ります」

「しませんよそんなこと」

「そうかしら。いまの若い子はわからないからね~。熟女好きが多いっていうじゃないの」

「わたしはそういうんじゃないんで」

「あらそう。鈴木君は彼女いるの?」

「いませんけど」

「よかったらウチの娘どうかしら。出戻りだけど」

「娘さん、おいくつなんですか?」

「四七」

「だから熟女は興味ないですよ」

「あなた、娘の元ダンナにそっくりなのよね~。名字も同じ鈴木」

「だったらどのみちうまくいかないでしょう……おしゃべりはこれくらいにして、まず商品の陳列やってもらいますよ」

「てんちょ~」

「どうした」

「タブレットがぁ、壊れちゃいました」

「まいったな。予備ないのに」

「ちょっとわたしに見せてみて」

「いえ、大丈夫です」

「まあまあ遠慮しない。わたしね、こう見えて若いころはエンジニアとして大手企業で働いてたのよ……うーん。開けてみないとわからないわね。工具は?」

「ありませんよそんなもの」

「でしょうね。こんなのはヘアピン一本でえいえいえい。ちょちょいのちょい……ほらなおったわ。起動させてみて」

 わたしは半信半疑でボタンを押した。画面がスパークした。わたしは意識を失った。

 気がつくと、一九九二年にタイムスリップしていた。わたしはそこで、若かりしころののえるさんの娘と出会って恋に落ち、結婚した。こういう運命だったのだ。  

2020年11月12日公開

© 2020 齋藤雅彦

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