インフルエンス

齋藤雅彦

小説

677文字

生家の近所を散策していると、小さなジャズバーがあった。ジャズがそれほど好きというわけでもなかったが、ドアを開けた。動画配信サービスで見たラ・ラ・ランドの影響を無意識に受けていたのかもしれない。

 客の年齢層は高かった。だいたいみんな六〇がらみ。六〇年代、七〇年代に青春を過ごした世代。せまい店内に加齢臭が立ち込めている。テーブルに案内された。相席である。総白髪の巨漢が、こちらに頓着することなく、一眼レフをステージに向けている。隣のテーブルでは、夫婦らしきがジャズそっちのけで言い合いをしている。夫らしきが妻のよくない点を述べ、妻らしきがすかさず言い返す。妻らしきは脊髄反射的に言い返しているだけだから説得力がまったくないのだが、妻らしきのほうが優位だ。一対一の関係では、話の通じないほうが勝ちなのだ。

 こうした夫婦は鳩同様、平和で豊かな世のなかの象徴だ。貧しくて豊かになる展望のない世のなかでは、夫婦は協力し合うしかないからパートナーに対する不満を口にしたりはしない。不満を口にするということは少なくとも食べることには困らない世のなかに生きている証拠。協力なんてものは負の産物でしかない。

 肩を揺すられて目を覚ました。ライブは終わっていた。客はわたし一人になっていた。肩を揺すった店主らしきにひとこと、すみません、と言ってから財布を取り出して金を払い、外に出た。店にいた客たちが、こちらに笑顔を向けて立っていた。わたしを待っていたのだ。わたしは黙ってうなずき、彼らのあとにしたがった。行き先はおそらく教会だろう。教会を舞台にした映画がいま、ヒットしているのだ。

2020年11月12日公開

© 2020 齋藤雅彦

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