人形の家

齋藤雅彦

小説

996文字

日本人形、とりわけお菊人形なんかは何となく不気味、怖いと敬遠する者が多いが余は嫌いではない。どちらかといえば好きだ。

 早朝、旅番組で、人形を供養する神社が紹介されていた。大量のお菊人形が並べられた境内をカメラがゆっくりと移動していく。ふと、なぜだろう、やや大きめな一体が余の目にとまった。余は、すかさず静止画面にしてじっくり見てみた。その人形は、明らかにほかの人形と違っていた。見た目が可愛らしいだけでなく、生き生きとしていてかつ、憂いがあった。余は、この人形を生で見てみたいと思った。で、その神社に行くことにした。

 むかしながらの幸せは、消費文明にはかなわない。金がなくても幸せにはなれる。幸せなんてものは原始時代から存在していたのだ。余は幸せなどいらぬ。快楽があればよい。余は金がある。暇もある。金と暇があればどこでもすぐ行ける。これすなわち快楽。

 目当ての人形は、あった。お馴染みのおかっぱ頭。少し髪がはねている。陽にあせた赤い着物。複雑な刺繍が施されている。下がり眉、二重まぶた、密集した長いまつげ、やや丸みのある鼻、小さく薄いおちょぼ口、ふっくらとした頬、小さなあご、うつむき加減で、憂いを帯びた表情。色は人形のように白い。ああ人形だった。

 いつまでながめていたのかわからない。あたりはすっかり暗くなっていて、風が冷たかった。人形に、「さようなら」と言って神社を出た。タクシーに乗り、老舗だという割烹に向かった。

 暖簾をくぐると、あの人形がいた。

「ミツタ様ですね。お待ちしておりました」

 言葉を失っている余を座敷に案内すると、人形そっくりな娘は一礼して退き、おしぼりと茶を盆にのせ、戻ってきた。

 おしぼりで目元をぬぐい(涙ぐんでいたわけではない)、娘をまじまじと見た。おかっぱ頭、赤い、複雑な刺繍の入った着物。完コピだった。

「君はまるで人形のようだね」

 食事を終え、煙草をくゆらせながら、余は娘に言った。

「よく言われます」

「そういうの、流行ってるのかい? コスプレみたいだ」

「小さいころから、ずっとこれです」

 娘は笑いながら言った。

「何年生?」

「学校には行ってません。いま十七歳です。……ミツタさんは、お仕事は、何をされてるんですか?」

「作家だ」

「どんなものを書くんですか?」

「いろいろ書くけど、主に怪奇小説かな。……じゃ、会計を」

「お代はけっこうです。人形からお金はとれません」

 余は人形になっていた。   

2020年11月12日公開

© 2020 齋藤雅彦

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