アブダクション

齋藤雅彦

小説

798文字

アンノーマルは部分に集中すると言われていますが、厳密には違います。全体を見る、部分に集中するという使い分けができないのです。
コンピュータの操作を教わることを例にすると、ノーマルは説明と、使うべきボタンに意識を向けますが、アンノーマルは使う必要のないボタンにまで意識を向けてしまいます。当然認知不可が高くなるため覚えが悪い、ということになるんですね。説明よりもボタンのほうに集中していたりすることもあります。
なぜこのようなことになってしまうのでしょうか。
そうですね。他者の視点を内在化できていないから。内在化できていないということは、改善もできない、ということなのです。

教室を出ると、それがいた。廊下全体から青白い光が浮かび上がったと思ったところで、わたしは意識を失った。
ひんやりとした空気。小鳥のさえずり。わたしは目を開けた。霧が立ち込めていた。久しぶりに目にする緑。
半身を起こすと、それが木の後ろから顔を出した。こちらの反応をうかがっているようだ。
わたしは裸になり、再び横になった。
近づいてきた。それがわたしのなかに入った。

助手席に荷物、後部席に息子を乗せ、林間学校の会場をナビで検索した。高速を使えば間に合うだろう。集合場所を間違えて、バスに乗れなかったのだ。
息子は、全体を見る、部分に集中するという使い分けができない。他者の視点の内在化もできない。学校行事に遅刻しているというのに、動揺している様子がまったく見られない。もう五年生になるのに、友だちは一人もいない。
渋滞にはまった。事故らしい。ふと気まぐれを起こし、窓に顔をくっつけている息子に声をかけた。
「このままママとドライブ行こうか」
すると息子は、無言でわたしを見返してから、前を向いた。わたしは身体をひねって、息子の、父親ゆずりの立ち耳を軽く引っ張った。息子は手の甲でわたしの指をはらいのけ、うつむいた。
ハンドルを切り、高速を降りた。

2020年11月12日公開

© 2020 齋藤雅彦

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