待ち合わせ

齋藤雅彦

小説

837文字

待ち合わせの場所に指定されたのは、妻の実家のある町の海の近くのカフェだった。

 駅の階段を下り、バス停に向かう途中、妻とよく似た女性がイケメンと腕を組んで歩いているなと思って見ていたら妻だった。向こうがわたしに気づいた様子はなかった。女装してサングラスをかけていたから無理もない。

 戦国時代の宣教師の記録によると、当時の日本人女性は処女性、貞淑さをまったく重んじなかったそうだ──いまでも変わらんか──また家族に無断で外出し、何日も家に帰らないなんてのもごく当たり前のことで、とがめられることはなかった。

 処女性を重んじないのはべつに驚くにはあたらない。寿命の短い時代、格差のない小規模なコミュニティおいては、さっさと子どもを産んでもらわなきゃならないわけだから処女を守る必然性がない。守られてちゃあかえって困る。貞淑さを重んじないのは誰が父親なのかわからなくしておいたほうがより多くの援助、保護が受けられるからである。隣の家の子どもも自分の子どもかもしれないと思ったら、困っているのを看過したりはできないだろう。当時の子どもはまさに、地域の宝だったのだ。

 どちらも繁殖戦略として理にかなっている。

 無断で何日も外出してとがめられることがなかったというのも繁殖戦略である。同じコミュニティの住民とばかり交配していると世代を重ねるうち血が濃くなり、種が弱ってしまうから、自然の知恵として、新しい血を入れるためにコミュニティ外の男性と性交渉することは黙認されていたのだろう。

 どんな戦略をとるにせよ、繁殖の主導権を握っているのはいまもむかしも女性であることに違いはない。多くの男性は、自分でパートナーを選んでいるつもりでいるが、実は女性に選ばれているだけなのだ。

 女にモテたいと思うなら、ロマンチックな幻想は捨てることだ。

 かく言うわたしは無論、つまらぬこだわりを持たないからモテモテである。女だけでなく男にもモテてしまう。

 バスを降りてしばらく歩くと、テラス席で、彼がわたしに手を振るのが見えた。

2020年11月12日公開

© 2020 齋藤雅彦

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