齋藤雅彦

小説

982文字

ミス・漢方#3

嵐のなか、夜明けの産婦人科病棟でKが初乳を飲んでいるころ、Kの父は、京都で芸妓とはんなりしていました。

 Kが二歳の誕生日を迎えてからしばらくして、両親は離婚し、Kは父方の祖父母のもとに預けられました。Kが保育園を卒園するタイミングで、Kの父は再婚しました。小学校の入学式は、継母に連れられて行くことになりました。入学式の写真に写っている継母は、どう見ても不機嫌そうでした。

 Kの父はフリーで輸入歯科治療器具の営業をしていたため、家に帰るのは一年のうちほんの数日だけでした。そのためか、継母はKにつらくあたりました。Kの父との間に子どもができると、さらにつらくあたるようになりました。Kはずっとたえていましたが、高校二年の夏休み、女友だちが家に遊びに来たときにその女友だちの前で、「あんた、臭いのよね」と言われぷつんと切れ、胸ぐらをつかんで壁に後頭部をがんがん打ちつけるといういわゆる家庭内暴力を行ったため、実の母のもとで暮らすことになりました。さてこちらはこちらで継父がおり、きつい日々を過ごすことに。

 高校を卒業したKを待ち受けていたのはさらに過酷な……もうやめましょう。Kは優しい男でした。みなさんずっと気になっていたでしょうが、Kがこのような子ども時代を過ごすはめになったのはどう考えてもKの父のせいです。だがKが父をうらむことはありませんでした。いやKは誰もうらむことはなかった。

 地味めの女性に男性の好みをきくと、優しい人というこたえが返ってくることが多いが、優しい人というのは優しいぶん人一倍傷つきやすい。Kのように、あなたに優しくしてくれる人はそれだけいままで傷ついて生きてきたのだ。そんな人にあなたはお返しに何をしてあげられるのか。

 つい興奮してしまいました。本当に優しい人は見返りなど欲しません。

 感受性の強い人は、つらい環境下でよりストレスを感じやすいが、幸せな環境に置かれた場合、感受性の鈍い人よりも幸福感を感じやすく、マイナスに目を向けなくなるそうです。逆に感受性の鈍い人は幸せな環境に置かれても、自分の思い通りにならないことが少しでもあるとイラついたりしてしまうらしい。 

 Kはちょうど五八歳の誕生日に、糖尿病の合併症で息を引き取りました。Kの魂は無数の光となり、4Kにグレードアップし、転生しました。

 いまあなたの家にあるテレビは、Kの魂の一部なのです。

2020年12月4日公開

© 2020 齋藤雅彦

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