偽生

Tachibana

小説

30,401文字

絶望しているすべての人へ、大丈夫。これが道です。

 

私には、卑しい部分が多々、それはもう嫌というほどありました。

 例えば十歳にして既に、私は媚び諂うことができました。

 こうして振り返っていると、実に気持ちが悪く、そうしてまた私という人間のおぞましさを、認識させるものでした。

 しかし私は言葉を記さねばなりません。それこそが、私の清算への一歩です。

 

        1

 

 忘れようとも、忘れられません。

 小学三年生の夏、長期休み中に読書感想文が課せられていました。私は適当な本を読み、それなりの感想を書き、休み明け、他の生徒と同じくそれを提出しました。

 少し経ったある日、先生が昼休みに私の元へやってきました。用件は、私の感想文の添削をしたというものでした。余程酷い文章でもない限り、基本的に、提出しさえすれば良いと聞いていたわけですから、私はそんなに酷い出来だったのかと驚きました。

 しかし、そうではありませんでした。それどころか、先生曰く、内容がとても素晴らしいから、クラスの代表作として校内の掲示板に飾りたいとのことでした。そしてそのために、より完成度を上げて欲しいのだと言いました。

 私はひとまず、自分の作品がとてつもない駄作でなかったことに安堵しました。それから、先生の提案について吟味しました。

 そして、私は一瞬迷うそぶりを見せてから、最終的には先生の提案を受け入れたのでした(その迷うそぶりを見せるというのもまた、無意識的に行われていた、慎ましさを表現するための、儀式だったのです)。

 提案を受けたその晩、私は早速先生の助言通りに文章を訂正しようと、ペンを手にしました。そしていざ取り掛かろうかという時、そこではっきりと私に媚び諂いの気が起きました。

 私は過剰に、先生の助言を反映しようとしたのです。

 もう少し、心の動きを入れてみよう。先生にそう言われたことを思い出し、しかし私は、しつこいくらいに心情を述べました。

 もう少し、本の内容を取り入れようと言われたことを思い出し、明らかに無駄と思える部分まで入れました。

 明くる日、私は書き上げた感想文を再度、先生に提出しました。

 そして放課後になると、先生はとても機嫌が良さそうに、困った顔を浮かべて私の元へやってきました。そして私の過剰な感想文を取り出し、アドバイスを実践してくれて嬉しいけれど、少しやりすぎだねと、言いました。さらに加えて、これでは、私の良さが消えてしまっているとも言いました。狙い通りでした。私は見事に先生に従順であるということと、真摯に課題に取り組んでいるのだということを証明することができたようでした。

 先生はなおも愉快そうに、私に作文の訂正を細かく指示し、帰りには玄関まで送ってくれました。頑張ってねと、満面の笑顔を添えてもくれました。ただ依頼を引き受けただけで、先生がこれほどまで私に親切に接するとも思えません。やはり私の媚び諂いの、儀式の結果だと思いました。

 二度目の助言を受けて、私はその晩、今度は文章を完璧に仕上げました。先生の助言を程よく反映しつつ、オリジナリティが欠けないように配慮した、渾身の感想文でした。

 しかし、出来上がった内容を読み返していると、途中で気持ちが悪くなってしまい、見るのをやめてしまいました。

 当時の私には、媚び諂うという言葉は頭にありませんでしたが、文章全体から滲み出る、気味の悪い、いやらしさとでもいうべきものを肌で確かに感じていたのです。

 吐き気がする。感想文に対する私の想いはそれだけでした。しかしそんな私の想いとは裏腹に、先生は絶賛といった様子で、出会ってから今まででもっとも上機嫌に、私の頭を何度も撫でました。

 その学期、私の評価は最も良いものでした。

 私は完全に、先生に気に入られたようでした。

 先生は暇があれば、私に話しかけてくるようになりました。意図して、暇を作っているようにさえ見えました。

 授業外に私生活について質問されたり、問題を投げかけられることが増えました。ちょっとした頼み事をされる頻度も上がり、別に私でなくても事足りるであろうことにも、わざわざ指名されたのです。

 それらはまるで、私との関係を普段は見えないどこか奥の方へとアピールしているかのように思われました。

 私と先生の関係は、親子でも、兄弟でもなければ、無論師弟などでもありません。ただ、児童と先生です。しかしそのように考えていたのは、おそらく私の方だけだったように思います。先生はそれ以上の何かを、私との中に見出しているようでした。

 当時の私は、そんな先生の顔や言葉から、私が完成させてしまった、あの気持ちの悪い感想文のような雰囲気を、感じ取っていました。私は段々と、先生との距離を置きたいと考えるようになっていました。

 そんなある日の、昼休みのことです。

「よう」

 私に話しかけてきたのは、これまであまり話したことのない、澤田というクラスメートでした。彼は、不良だと言われていました。制服や髪型にはどこか作為的なだらしなさが感じられ、歩き方ひとつとっても異質でした。私とはまるで違う人種なのだと、常々思っていました。そんな彼にいきなり話しかけられ、私は酷く動揺しましたが、なんとかそれを押しとどめて、彼に向き合いました。

「どうしたの」

 彼は薄ら笑いを浮かべながら、私の肩に手を回してきました。声を潜めて、それから私に頼みごとがあるのだと言いました。

「お前、あいつのお気に入りじゃん」

「あいつ?」

「担任だよ」

 私は返答に困りました。そうだと言えば傲慢だと思われる。そうではないと言えば、面倒な奴だと思わる。私はそう考えました。だから黙ったまま、首を傾げました。澤田は僕の反応など最初からどうでもよかったとでもいうように、話をすすめようとしました。

「それで、頼みってのはな、あいつの嫌いなものを聞いてきてほしいんだ」

「嫌いなもの? 例えば」

「なんだっていい。食い物でも、人でも、とにかく何でもいいからあいつの嫌いな、いや大嫌いなものを聞いてきてくれないか」

 澤田はどうやら、悪事を働こうとしているのだと思いました。推測するまでもなく、わかったのです。澤田の顔には小学生にそぐわない悪辣なものが浮かび上がっていて、まるで鬼か悪魔かといった恐ろしさが滲んでいました。

 私は恐怖しました。嫌いなものを聞いてくる。そこだけを切り取れば、なんのことはない。小学生という枠を逸脱しない、相応のかわいらしい行為に思われます。しかし今回において、私の行為は、悪魔の手助けとなってしまう。

 逡巡の果てに、また、私に卑しい気持ちが芽生えました。私はただ、澤田に言われたことをするだけだと、自分に言い聞かせたのです。

「いいよ」

 私は頷きました。澤田は満足そうに笑いました。天真爛漫さとはかけ離れた、漫画や映画の中でみる悪の親玉のような、恐ろしく、不気味で、気持ちの悪い笑顔でした。しかし、いかにその笑顔が不快なものだろうとも、私の感想文や、先生が纏う気持ちの悪さとは一線を画したものでした。それどころか、明確な悪の気配だというのに、私には澤田の方が健全に思えるという、不思議な感覚を抱きました。そして当時の私の感覚は間違っていなかったと思います。

「そうか、助かる」

「じゃあ」

 私はそっと澤田の腕から逃れて、離れました。澤田は不思議そうな表情をしていました。おそらく、何も聞かずに私が承諾したことが疑問なのだと思いました。彼がそれ以上何かを言う前に、私はさっさとその場を立ち去りました。そして翌日、先生の嫌いなものを聞きだして、澤田にこっそりと伝えました。

 報告の時、また澤田は悪辣な笑顔を浮かべ、私に礼を述べると言うよりも、ほめたたえました。澤田はまたしても何か言いたげでしたが、私はそれをさせる前に逃亡しました。これきり、澤田と会話をすることはありませんでした。

 後日、先生は朝から大変に怒った様子で教室にやってきました。なんでも、職員室の机に大量の腐ったトマトが入れられていたらしいのです。私はすぐに澤田の仕業だと気が付きました。いえ、私どころかクラスの全員、先生までもが犯人は澤田だと思っていたでしょう。

 追及されると、澤田はすぐに白状しました。澤田の顔には反省も、後悔も、大人に対する恐れのようなものも一切なく、ただ愉快そうに笑っていました。

 正論をかざし怒り狂う先生と、悪事を働き愉快そうにする澤田。先生は気持ち悪く、澤田は不気味でした。ただ、それだけを思いました。あとは、心底どうでもいいと思っていました。私はここでも、本当に卑しかったのです。

 その日の放課後、私は先生に呼び出されました。そして、澤田に俺の嫌いなものを教えたのはお前かと、質問されました。私は正直にそうだと答えました。すると先生は神妙な面持ちでそうかと頷き、脅されていたんだろうと私に問いかけました。

 私は少し迷うそぶりを見せてから、頷きました。澤田が、不良だとされていることを考えながら。

 

        ※

 

 生を受けてから、数々の罪を犯してきた。その如何ともし難い積み上げられた罪は、日毎、僕にその精算を求めてきているのだと感じる。如何ともし難いというのに。

 近頃はますますひどくなって、その膨大な罪の意識が、毎夜、僕の心に溜まっていく。恐ろしかった。夜の闇よりもずっと深く重い闇が、僕の体を締め上げていた。

 僕が罪の意識を以前にもましてはっきりと感じるようになったのは、一年前から始まった幸福のためだ。毎日のように、僕には幸福が運ばれてくるようになり、その一方で逃れられない罪の意識が湧き上がってくるのだ。

 酒は好きだったが、バーや居酒屋だとかそういうところは嫌いだった。とすれば、家で飲むしかない。僕は、講義が終わるなりさっさと家に帰り、夜まで無為に過ごし、酒を飲んで眠るという生活を送っていた。

 ある夜、僕は酒に酔った勢いで散歩に出かけることにした。市内でも特に大きな公園を目的地にして、ふらふらと道を行った。

 途中、コンビニに立ち寄って酒をいくつか追加した。歩きながら、買った酒を次々に飲み干していった。公園についたころにはすっかり酔いが回っていた。頭も体も重く、操られた人形よろしく、だらしなく公園内を徘徊していた。

 朦朧とした中でとりあえず座りたいという願望だけがあり、僕はベンチを探した。あと少しでたどり着くという時、その手前の公園灯の下で僕は耐えきれずに嘔吐した。

 人がいるのかいないのか、前後を確認する余裕もなく、いたとしても恥を感じる正気も残っておらず、ただ嘔吐を繰り返した。

 しばらくしてようやく全部吐き切ったのか、嘔吐が止まった。口からは糸のように涎が滴り、地面につきそうだった。気分は全く晴れず、自らの吐物の上に寝転んでしまいたいとさえ思った。

「あの」

 背後から声がした。僕は振り返るのも億劫で、無視をした。そして涎に引かれるように倒れ込もうかという瞬間、視界の端に白いものが見えた。

「これ、どうぞ」

 何を差し出されたのかはわからなかった。しかし不快な甘みと酸味の香りしかなかったところへ、心地の良い香りがやってきた。

 僕は依然として言葉を発することはできなかったが、顔を白の方へ動かし、そこから徐々に腕、肩と視線を上げていった。

 そして、心配そうな顔をしている女と目が合った。僕は、しばらくその目に魅入られたように固まった。女も表情を崩さないまま、ただ僕を見つめていた。

 やがて、口元に柔らかい感触があった。心地の良い香りだけが広がり、僕は思わず、涙を流しそうになった。女は動かない俺を見かねてか、自ら手にしていた白いハンカチで俺の口を拭ったのだ。

「嫌なことでもあったんですね」

 そんなことはまるでなかった。しかし胸に悲しみが広がっていたのは確かだった。僕は一体どうしてしまったものかと、微睡の中で考えていた。

 口元を拭ってもらい、胸の気持ち悪さも収まってくると、とにかくまずは礼を言わなければならないと思った。

「ありがとうございます、すみません」

「いえいえ、それは差し上げます」

 彼女はにっこり笑って言った。僕は次に何を言えばいいのかまるで思いつかなかった。

「あの、とりあえず座りませんか」

 どこまでも情けないことに、彼女のその言葉に僕は安堵し、頷いた。僕たちは近くのベンチに座った。

「大丈夫ですか。落ち着きましたか?」

「はい。本当に、すみません。少し飲み過ぎてしまって、お恥ずかしい」

「そういう日もありますよね」

 彼女は落ち着いた様子で、この奇妙な状況に対して僕のような動揺もなさそうだった。或いは僕を見つけて一通りの動揺は済ませてしまったのだろうか。いずれにせよ、彼女はこの夜の一部であるかのように静かに、凛とした姿で僕の隣に座っていた。

「怖くなかったですか。こんな夜に、街灯に向かって吐いている男なんて。僕がいうのもなんですが、よく声をかけてくれましたね」

 彼女は少し、笑った。目を細めて、首を少し傾けた。

「驚きましたけど、あまりに苦しそうだったから」

「そう、ですか。すみません」

 ただひたすらに謝る他、仕様がなかった。助けてもらって、こうして会話をしていることも、全て彼女の優しさに甘えているのだと、そして初対面の女性に見透かされているような恐怖が、僕から謝罪以外の選択肢を奪ったのだった。

 僕と彼女の出会いは最悪だった。どこまでも情けない僕は、出会いのことを思い出すたびに、煩悶とする。彼女は愉快そうに、繰り返し出会いのことを言うけれども、僕は出来ることならもう思い出したくないのだった。

彼女も僕も一人暮らしであったため、同棲をするという決断は案外容易に下すことができた。情けない出会いかたではあったが、偶然大学が同じだったということもあって、それからも何度か会って言葉を交わしたりしているうち親密になり、気がつけば交際をしていた。

 情けないのは出会いの時ばかりではなかった。普段会う時の予定や、交際の申し出にしても、全て彼女からであった。僕は本当にどこまでも情けない。

「夜ご飯は何を食べようか」

 彼女はテレビを見ながら言った。僕は読んでいた本をテーブルに置いて、時計を見た。

「君は何を食べたいの」

「うーん、カレーかな」

「じゃあそうしよう。買い物は」

「あ、私が行ってくるからいいよ」

「そう? じゃあお願いするよ」

 彼女は鼻唄を響かせながら、買い物バッグを手に出て行った。僕は読書に戻ろうと本を手に取った時、ポケットに入れていた僕の携帯電話が鳴った。彼女だろうかと、携帯電話を取りだした。

 しかし電話の相手は彼女ではなく、同じ学部の鍵原という男だった。入学したばかりに知り合い、その時に連絡先を交換していた。

 僕はため息をつき、電話に出るかどうかを散々迷った挙句、出ることにした。出るまで何度もかかってくるような気がしたからだった。

「あ、久野君。よかった、出てくれて」

 電話越しに聞こえてくるその声に、僕は形容し難い感情を抱いた。少なくとも、前向きな感情でないことだけは確かだった。

「なにかあったの」

 何かなければ連絡を取り合うような仲ではないから、鍵原の身に何かが起こったことには違いなかった。あくまで話を円滑に進めるために、僕はそう聞いた。

「実は、またお金を」

 僕は人差し指と親指で鼻根をつまんだ。目を瞑ると奥の方に火花を散らしたような感覚があり、鍵原という男との記憶が流れるように思い出された。

「いくら」

「五千円、五千円なんだけれど」

 不幸な男の声だった。その縋り付くような鍵原の声は、聞いている僕の胸にざわめきをもたらした。激しく不快ではあったが、鍵原を憎みきれない自分があった。

「なんともならないんだな」

「ごめん。必ず返すから」

 鍵原に貸した金は、総額で数万円にのぼる。返済されなかったことはないが、このやりとりそのもので、僕には大きなマイナスがある。

「わかった。じゃあこれからいつもの場所へ」

 僕は言って、電話を切った。鍵原の声がしたような気がしたが、かまわなかった。

 僕は自分の財布を持ち、中を確認して、外へ出た。それから彼女に外へ出てくると連絡をして、待ち合わせ場所に向かった。

 自転車を走らせ、十分程度行ったところにある、シャッターの降りた店の裏、ぽっかりと開いた、取引の前例がいくつもありそうな一坪程度の空間が、

僕と鍵原が秘密裏に会うために利用している場所だった。

 鍵原はすでに到着しており、僕が現れると喜びと謝罪の混じった表情をしていた。哀れな顔だと思った。

「久野君、ごめんね、本当に」

「ほら」

 僕は財布から頼まれた金額分取り出し、差し出した。鍵原は目尻と口端を下げ、子を背負う親の如く重そうに、まるで地面に向かうような姿勢で、僕の方へと歩み寄り、差し出している札を受け取った。

「じゃあ、帰るから。返済の連絡、待ってる」

「ごめん、ごめん。本当に、君に迷惑を」

「急ぐから」

 僕は自転車に乗った。鍵原のことを振り返ることはなく、その場を後にした。

 彼女は僕よりも先に帰ってきていたようで、家に入ると、キッチンから料理をする音が聞こえてきた。

「ただいま」

 彼女は手を止め振り返った。

「あ、おかえり」

 笑顔でただ、それだけを言った。僕は料理ができるまで読書の続きをするためにリビングのソファに座り本を開いた。彼女は僕に何も言ってきてはくれなかった。むず痒い信頼だった。信頼されずに何があったのかを聞かれ、答えに窮してしまうのとどちらがマシか、それはわからなかった。

 僕は鍵原のことを考えた。彼がどうして人に借りなければならないほど金を必要としているのか、僕は知らない。なにも言わずに金を貸して欲しいと、初めて言われたあの日、僕は黙って金を貸した。それから何度も、僕は金を貸している。

 鍵原の傷ついた手や首筋、あれはもしかすると、僕に金を借りにくる理由と関係があるのかもしれない。しかし、僕にそのことを聞くつもりはない。貸した金は、返ってくる。ただ、それだけでいい。

 最初にどうして断らなかったのか。彼女はおそらく、僕の話を知ったら、そう聞いてくるに違いない。それについて僕は答えることができない。聞いて欲しいと思うのに、答えられないというジレンマがあった。

 答えてしまえばきっと、彼女は僕のことを嫌いになるだろう。小学生の頃、僕がわざわざ澤田に先生の嫌いなものを教えた時と同じような卑しい好奇心を知られたら、彼女は僕を軽蔑し、僕の元を離れていくだろう。

 僕は彼女を愛している。だから彼女だけはなんとしても失いたくなかった。だから僕は黙して、本を読むのだった。

 

        2

 

 中学生となった私は、先生という生き物に対し嫌悪のようなものを抱いていました。それが小学生の頃のあの体験が原因かと言われれば、確かにそれも一因ではあると思いますが、もっと単純に、中学で接することになった一人の先生が、自分を邪険に扱ってきたことが最大の原因でした。

 その頃、私はたくさんの友人を持ちました。クラスの人間はもちろん、他クラスの人間であっても、部活動や行事を通し交友を広げていました。人付き合いの才能があったのだとか、そんなことを言いたいわけではありません。それどころかむしろ、周りの友人らの方が社交性に優れており、私は何もしていませんでした。

 周りは私よりも社交的で、活発である。そのような意識もあって、私は小学生の時ほど自ら行動するということが少なくなりました。同時に『友人』や『先生と生徒』などの関係性を常に強く意識しながら動くようになり、いつしか、真面目すぎる一面があると友人らに言われるようになりました。

 彼らのようにハメを外すということも無縁で、グループの中にはいるものの、しかし一歩引いた立ち位置から彼らを見ているような感覚が、自他共にあったのです。そのせいか、私は気がつけばグループのリーダーと目されるようになりました。『久野のグループ』などと言う人間も多く、私は正直迷惑だと思っていました。なんとかそう呼ばれないようにと私が息を潜めれば潜めるほど、逆に、冷静沈着なグループの頭脳であるともてはやされ、ますます実力者であると見做されるようになってしまいました。

 脳ある鷹は爪を隠すと友人らは言うのですが、決してそうではなく、私はそもそも隠すべき能力そのものがなく、勘違いから生まれた、ただの一男子生徒でしかなかったのです。実際目覚しい学業成績があったわけでもありません。平均以上ではありましたが、それでも私より勉強のできる人間はいましたし、私より友人との結びつきを大切にするような、いわゆる良い奴なんて、さらにたくさんいたのです。

 しかしいくら私が否定しようとも、周りは謙遜としか捉えませんでした。本気で怒り正そうとするのは、どうにも間違った態度であるような気がして、結局、私はクラスの男子グループの顔役として存在しなければなりませんでした。

 そうしている内、一人の先生が、私に理不尽にあたるようになりました。

例えば、私を含め数人の男子生徒で私語をしていたときには、私だけが注意を受けました。また、言葉の端々から私に対する敵意のようなものが見え隠れしており、私はひどく不快に感じていました。

いえ、白状しましょう。私は恐れていました。まるで身に覚えがなかったからです。私語をしていたことは確かにこちらに非がありますが、そこで私だけが注意されるだとか、他にも嫌味をねちねちと言われるなど、弱い痛みを継続的に与えられるような、拷問じみたことをされるほどの悪事を働いたことは、決してなかったはずなのです。

 私は原因について考えました。そのせいで眠れなくなる日もありました。しかしいくら考えてみても、見当がつきませんでした。友人らにそれとなく聞いてみても、彼らは原因を真面目に考えることはなく、私が先生に嫌われていることをネタに会話をして盛り上がるだけであって、わからずじまいでした。

とにかく関わらないようにしよう。諦めて、そう決意した時でした。まったく思いがけず、偶然隣の席になっていた女子生徒から私は答えと思しきものをもらったのです。

「ボスだからじゃない?」

 ぶっきらぼうに女子生徒はそう言いました。

 私はそれこそが答えなのだと思いました。

 先生は不人気でした。生徒指導に厳しい。お堅い。面白くない。そういう評判の先生でした。お前らは勉強だけしていればいいんだ、なんて発言をしていたのを聞いたこともありました。だから、グループでちやほやされている私を憎んだのだと、考えました。

 答えを得た私は、途端に先生に対する嫌悪感を失いました。同情する気にはなりませんでしたが、どうでもいいと思うようになったのです。

 そして、私は周りの人間たちに対して怒りを覚えました。先生の理不尽を生み出したのは、周りの理不尽のせいだと思ったからです。

 彼らは責任を負いたくないのだ。何かという時便利な顔役に、私を置いておこうとしている。そうして実際に、私が理不尽を被った。見て見ぬふりをして、自分たちはのうのうと生活しているのだと思いました。

 先生からの理不尽のみならず、グループ外の人間からの評価にしても、まるで私が意思決定の全てを行える権力者であり、恐怖感や疎外感を与える元凶であるかのように扱われることもありました。

 そうした理不尽を思い返すと、私はいよいよどうしようもない激情に駆られ、友人らにどう復讐をしようか。私が顔役を降りるにはどうすれば良いのか。とにかく現状を変えたい。ただ、それだけを考えるようになったのです。

 中学校の中庭は、私の最も好きな場所でした。特に大木の影に設置されているベンチはお気に入りでした。そこでたまに昼寝などして、体や心を休めていたのです。

 しかし思いがけず理不尽の正体を知ってからというもの、お気に入りのベンチにあっても私の心は収まらず、友人らへの怒りは大きくなるばかりでした。行き交う生徒達の声や雀のさえずり、そんな些細な音にも苛立ち、脳内で友人らに対する暴力のイメージを浮かべたほどでした。

 それでも私はまだ友人らに怒りを見せることなく、先生からの嫌味にも耐えていました。数日経って、復讐しようなどという気はさすがに消えましたが、しかしふとしたときに、やはり仕返しをしなければ気がすまないとも思うのでした。

 煩悶としている中、ある日いつものように中庭に向かうと、ベンチに先客がいました。それは偶然にも、私に理不尽な答えをもたらした、あの女子生徒でした。私は引き返そうか迷いましたが、なんとなく近づくと、女子生徒が私に気がつき、手を挙げました。

「久野じゃん。どしたの」

「いや、よくここで昼寝してるんだ」

「そうなんだ。じゃあどうぞ」

 女子生徒は立ち上がって、私に座るよう促しました。

「いや、いいよ。隣に失礼するから」

 女子生徒は意外そうな顔をしつつも、私が腰掛けた後に、隣に座りました。

「本当にいいの?」

「いいよ、別に。ベンチは僕のものじゃないだろ」

「まあそうだけどね」

「皆の場所を独り占めするような悪人に、見えるか」

 彼女は少し間をおきました。私は唾を飲み込み、足の指先をもぞもぞと動かしていました。

「さあ。でも久野はボスだからね」

 茶化すような声でした。私は一瞬、怒りが湧いてきましたが、表にそれを出さないようにしました。

「違うよ、なんで僕がボスだ」

「みんなそう言ってる」

「もっとボスっぽい奴いるだろ」

「どうだろ。少なくとも私にはわからない。ねえ、聞きたかったんだけどさ。ボスって言われるの、どう?」

 彼女はどうやらわかりやすい人間のようで、その言葉が本当にただの好奇心から発したものであることは、容易に察することができました。そして、だからこそ、私はその問いに答えることができませんでした。

 もし僅かにでも彼女の言葉から皮肉めいたものを感じとっていたなら、私は今度こそ怒りをあらわにして、首を振り、謙遜でないと訴え、力いっぱいに否定をしたと思います。しかしながら、彼女の純粋な問いは胸の奥底を揺らし、私に怒る資格がないことを気づかせました。

 私は、ボスと呼ばれることを心のどこかで気持ちよく思っていたのです。

 見て見ぬふりを、していたのです。

 そして私の頭に蘇ってきたのは、小学生の頃の記憶でした。あの気持ちの悪い感想文。澤田とのやりとり。全てが鮮明に思い出され、私はとうとう怒りを完全に失ったのです。

「久野?」

 彼女は不思議そうに、私の顔をのぞいてきました。私は顔を合わせることもできませんでした。ただ、罪悪感と情けなさだけが私にはあったのです。

「ああ、いや。ボスじゃないからわからないわ」

「は、なに、それ」

 彼女は笑いました。

 とても、辛い時間でした。

 私はやっぱり、卑しい人間です。

 

        ※

 

 死にたい。僕はそう思っていた。彼女と出会う以前から、そんな願望が頭の中に浮かぶようになっていた。

 彼女と出会ってからも、その願望は浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返し、気分の沈む日が多かった。彼女と出会ったのも、元は、その沈んだ気分からだったといえる。

 彼女は僕のことを暗い人間だと承知している。聡明で人に敏感な彼女は、僕の悲惨な内面のことなど簡単に見抜き、優しく、恐れのない純粋な慈愛の気持ちで接してくれている。

 深夜、僕は彼女と二人で酒を飲んでいた。明日、彼女の講義はなかった。

「人は、嫌いだ」

 僕は言って、テーブルに並べられた彼女が作ってくれたつまみを食べ、酒を煽った。何杯目かはもう忘れていた。彼女にはさぞ、僕が自嘲的に見えているのだろうと想像した。

「そんなこと言わないの」

 彼女は赤くなった顔を左右に振った。力の抜けた様子から、それなりに酒が回っているようだった。

 酒を飲む時は、僕の方から誘うことがほとんどだった。気分が沈み、どうしようもなくなった時、僕は酒を飲み、彼女はそれに付き合ってくれた。だからいつも、酒の時間は鬱屈としたものであって、そこに本来あるはずの愉悦はなかった。

「君と、君にまつわる人間は別だよ」

「そりゃどうもとはならないなあ」

 彼女はつまみを口に運びながら、僕の肩をとんとんと叩いた。

「ならないか」

「これからもいろんな出会いがあるよ。きっと。だから、人を好きにならないと」

「義務」

「ううん。違うけれど、でも、人を好きなら世の中はもっと明るく見えるはずだよ」

 子供じみたことばかり言って困らせる僕に、一切機嫌の損ないを見せることもなく、笑顔で煌々とした言葉を発する。死にたい。僕の頭にまた願望がよぎった。

「僕にとって世の中は、最も嫌いなものさ」

 またそんなどうしようもない事を僕が言うと、彼女は珍しく酒を一気に飲み干した。解けた目で、手のあたりに視線を落とした。

「きっとね、『嫌い』じゃないと思うんだ君は。人も世の中も」

「どういうこと?」

「本当は『嫌い』じゃなくて『怖い』なんだよ」

 僕は彼女の言葉に驚きを隠せなかった。グラスを持つ僕の手が、にわかに震えはじめた。

「怖い、だって」

「うん。勝手に君のことを言うのは、とっても嫌なんだけどね、正直、私はそう思った」

 僕は返す言葉を持たず、酒を飲むことも忘れて、ただ黙り込んだ。

「本当は『怖い』のに『嫌い』って言うのは、君の社会性なんじゃないかな。普段、君が自分には皆無と言っている、社会性」

 言い終えた時、彼女は笑顔になった。励ましてくれるつもりだったらしい。

いつも、そうだった。酒を飲むときは、僕が絶望している時。僕のことをなんでも知っている彼女はそれもわかっていて、いつも優しく僕を励ますのだ。時に、僕が無気力で無為な時間を過ごすことすら受け入れ、支えてくれた。

 だから今回も励ますつもりだったに違いない。僕は彼女の笑顔を知っている。

 しかし励ますつもりの彼女とは裏腹に、僕の心は灰色に染まり、まるで巨大な鉛にでもなったかのように気分を引きずり込んでいった。

 彼女が酔い潰れ寝てしまった後、僕は一人飲み続けた。そうして、自らに残された選択肢がもはや死しか残されていないのだと思った。死にたいなどという以前に、僕はさっさと死ぬべきだったのだ。

 僕はなにも変わってはいないのだ。

 最愛の人間に自らの醜い正体に触れられた途端、筋違いな怒りを持って場を制そうなどと一瞬でもよぎってしまう、卑しい人間なのだ。

 これだけの無様を晒しておきながら、未だ謎の自尊心を捨てることもできず、まるで自分が空気を生み出し、場を設け、言葉を誘っていると奥底で考えている自分に、彼女に優越している部分もあるだろうと、見込んでいる自分に、本当に嫌気がさした。彼女の時間を貪り、あまつさえ憎もうとすらしてしまった。

 僕に、もはや生きる資格はなかった。

 また、罪を重ねた。これからも、いくつも僕は罪を重ねていくのだ。

 死のう。

 僕はキッチンに向かい、薬のビンを取り、中に入っていた大量の錠剤を全て取り出した。これで死ねるのか、そういう疑問が湧いたが、少なくともまともではいられなくなるだろうと思った。いや、最初からまともではない僕だから、醜い内心を剥き出しにするだけの、あるべき姿になるだけなのだと、そう思った。

 僕は錠剤を握り締めたまま、彼女の元に向かった。彼女の愛しい寝顔を見ながら、死のうと思った。

 しかしいくら経っても、僕は薬を飲めなかった。

 何度試みても、錠剤を口内に入れることすらできなかった。

 涙が流れた。いつ以来の涙だったか、忘れてしまった。

 僕は、死を諦めた。

 キッチンでビンに錠剤を戻した。一粒でも残すことのないように、確実な作業を行った。

 それから僕は寝室に向かった。部屋の扉を閉めて、机に向かい、僕のノートパソコンを起動した。

『私という人間』そう名付けたファイルを開いた。

 そうしてまた、告白を、書き連ねることにした。

 死ぬのなら、これを完成させて遺書として残してから、死ぬことにしよう。僕はそう決めたのだった。

 

        ※

 

 地元の高校へ進むことが決まり、あとは卒業を待つばかりで、中学もいよいよ終わりかという頃、私は一人の男子生徒とばかり遊んでいました。

 グループを抜けたというわけではありませんでした。思わぬところから自らの卑しさを指摘された私は、グループを抜けるなどと言うこともできず、彼らともうまく付き合っていました。

 しかし彼らといると思うところもあって、さらにクラス替えで大半のグループの人間と離れたことも影響し、以前ほどの距離感では接していませんでした。

 そんな折、同じクラスになった野島という男子生徒と、知り合いました。野島は校内でも一二を争う秀才で、会話をしていても新鮮な面白さがありました。席も隣でしたので、授業の合間のわずかな休み時間や昼食の時間、登下校などを共にし、放課後野島の家に遊びにいくこともありました。

当時私は、野島といることに安心感を覚えていました。彼の温厚な性格に影響されてか、しばしば僕に巻き起こる不快な感情も、姿を現すことがほとんどなくなっていきました。彼といると、良いことばかり私の身にやってくる。僕は彼を福の神か何かだと考えました。大袈裟かもしれませんが、本心でした。

 ある休日の午後、私はいつものように野島に招かれ、彼の家に遊びに行きました。そして私たちはいつものように、テレビゲームに興じていました。

 野島はテレビゲームをとても好んでおり、私は協力者や対戦相手を務めていました。野島は趣味も特技もゲームであるとよく口にするほど熱中しており、言うだけのことはあって腕前は相当なものでした。

 一方の私はというと、ゲームは好んでいましたが、野島ほど熱中しているわけではありませんでした。力不足ではないかと心配でしたが、彼はそこでも非常に温厚な性格で、私が失敗などしても一切怒ることなく、楽しそうにゲームをするのでした。

 それに、そもそもゲームは会話の片手間でした。僕たちはほとんど意識を互いに集中していたように思います。普段の学校生活、卒業後のこと、そういった話をしていました。野島は地元から離れた有名な進学校へと行くことが決まっていました。

「久野は、将来どんな人になりたいんだい」

 野島は唐突にそう尋ねてきました。

「いきなりだね。考えたこともないな」

 僕は苦笑しました。同時に、野島が自分に失望したのではないかという不安が胸をよぎりました。というのも、野島のような秀才は、常日頃から明確なビジョンを持って邁進しているのだろうと思っていたからです。そうした将来なるものへの考えを用意していない人間を、遠ざけようと考えるのではないかと私は焦りました。彼もあくまで人間ですから、グループの性質のようにどこか排他的な一面を備えているに違いないという考えが、私の根底にあったようです。

「ごめん。ただ、知りたくなってね」

「君は、どうなの」

 一丁前に、私は野島に聞き返しました。

「僕は、自由になりたい」

 私は野島の言葉の真意がわからず、首を傾げ説明を求めました。ちょうどよくゲームの対戦が終わり、野島は自らについて話し始めました。彼の深いところに触れたのは、これが最初で、最後でした。

 野島は家や勉強だとか、そういうものを全て捨てて、自由に生きたいのだと語りました。

 勉強に励みつつ、ゲームに興じ、私と遊び、彼のその優れたバランス感覚とでもいうべきものに私は尊敬の念すら抱いていたのですが、実際のところ、野島は満たされない渇きに苛まれていたようなのです。

 そして野島は、思いを寄せている女子生徒がいることを、私に明かしました。

 その女子生徒のことは私もある程度知っていました。

「告白するつもりは、ないのかい」

 私が尋ねると野島は否定とも肯定ともつかないそぶりを見せました。どうやら迷っているようでした。

「僕に、魅力があるだろうか」

 野島はそう言い、俯きました。私は彼を励まそうと、学力、性格、あらゆる面から彼を褒めました。

 私は自分自身のその行為によって、自分自身の気持ちを知りました。すなわち私は、野島に告白をして欲しいと思っているようなのでした。

「くすぐったいよ、久野」

 野島は照れたように笑い、私を制止しました。

「これでわかったかい」

「だが、やはり勇気が出ない」

 野島は再び俯きました。もう私はいかに告白させるか、そればかりを考えていました。彼が優れた人間であることは明白でした。人は心で恋をするのでしょうが、しかし心が邪魔をしているのです。野島ほどの男、そうはいない。私は確信を持っていました。

「卒業すれば、離れることになるんだぞ。機会はいましかないんじゃないか」

「そう、だけど」

「好きなんだろ」

「まあ、そう、だ」

「いくしかあるまいよ」

「やはり、そう思うか」

 私と野島は笑いました。決意に満ちた野島の目は、いまだに忘れることができません。

 野島の家で遊んだ三日後、野島は学校を休みました。

その時席は隣でありませんでしたが、離れたところにある彼の席が空白であるのを見ると、胸にざわめきが起こりました。

 野島へ何度か連絡をしましたが、一向に野島の反応はありませんでした。そのうち昼休みになりました。私は心を落ち着けようと、中庭に向かいました。

 いつものベンチで寝転がって本でも読もう、そう思っていたのですが、先客がいました。

「やあ、久野じゃん」

 ベンチに座っていた女子生徒は軽く手をあげ、お決まりの反応をしました。私は胸のざわめきが邪魔をして、それにうまく返すことができず、小さく頷きました。

「ま、座んなよ」

 彼女に招かれるがまま、私はゆっくり腰を下ろしました。胸のざわめきはどんどん大きくなっていきました。野島の顔が、浮かんで消えました。

「久野さ、将来の目標とかある」

 少しの沈黙の後、彼女はそう尋ねてきました。私は目を強く瞑りました。

「……考えたことも、ないよ」

「どんな職業につきたいとかもないの」

「ないよ、目標なんて。僕は、ただ歩いてるだけ」

「なにそれ、かっこいいのかな」

 彼女は笑いました。私はさらに強く目を瞑りました。

 今日の彼女は少しばかり、おかしな調子でした。その原因は何か考え、私はとにかく祈るような気持ちでした。

「久野とは、進路違うよね」

「・・・・・・そうだね」

「こうすることも、なくなる」

「ああ」

「・・・・・・残念?」

 彼女は小さく、そう尋ねてきました。私はいよいよ胸のざわめきによって、何も答えられなくなりました。ただ黙り込みました。そして彼女も、全くおかしな調子のままで、口を開くことはありませんでした。そして予鈴がなり、私たちは無言のまま教室に戻りました。

 皮肉にも、その瞬間が一番、互いに通じ合っていたように思いました。

 その日の放課後、私は野島の家に向かいました。とうとう返答がなかったので、埒があかないと思い、直接会おうと考えたのでした。

 インターホンを鳴らすと、家から野島が出てきました。彼の顔には泣きはらしたような痕が残っていました。野島はとてもゆっくりと、おぼつかない足取りで近づいてきて、私の前に立ちました。

「久野、不義理を、許してほしい」

「・・・・・・いや」

「ただ、僕は君を信じたいんだ。自らの不遇のみを恨みたい。だから、すまな

い」

 野島は言うと、またおぼつかない足取りで、家に戻って行きました。野島と会話をしたのは、これが最後でした。

「僕もだ。野島」

 彼の背中を思い浮かべて、私はそう呟きました。

 私はどうして野島に告白させてしまったのか、しばらくそればかりを考えていました。

 私は自尊心に動いたのではないか。彼への羨望と尊敬の裏で密かに大きくなった感情が、自尊心を揺さぶったのではないか、そう考えました。

 私は自分自身にも、彼女にも気がついていたのではないか。見知らぬふりをしたのではないか。否、そんなことはしていない。

 自問自答が続き、答えも出ぬまま、私は中学を卒業しました。

この出来事があってから、中庭に行くことは、一度もありませんでした。

 

        3

 

 自殺をしようとしたことに、彼女は一切気がついていないようだった。あの夜から数日が経過したが、僕も彼女も一切、何も変わらずに、いつものように生活していた。

 彼女が本当に何も気がついていないのか、その疑念を完全になくすことはできなかったが、気にしたところで、僕の行動を消すことはできない。そう言い聞かせて、彼女をなんとか信じることにした。

 数日経ったある日、大学の講義を終え、自宅に帰宅したところで鍵原から連絡を受けた。この間貸した金の返済をしたいとのことだった。僕は面倒だと思いながらも、鍵原と会うことにした。『いつもの場所に、三十分後』そう連絡した。

 少ししてから届いた鍵原の返信に、僕は驚いた。『今日は、場所を変えたいんだけれど、駄目かな』そのようなメッセージだった。それから、鍵原は駅近くのカフェで会いたいとも言ってきた。

 僕はその提案を断ろうと思ったが、あの鍵原がわざわざ場所を指定してくるなんて、何か特別な事情があるのかもしれないと考えた。もしかすると僕は鍵原に陥れられるのではないかと、危機感のようなものまで抱いた。

 しばらく迷ったが、結果、僕は鍵原の提案を受け入れることにした。鍵原の真意は見当もつかなかったが、僕は彼に陥れられる理由もないと思った。そんな不安を抱くのは、ただ僕の精神が異常なせいだと思った。今の僕は、愛しい彼女であっても、もしいつもと違う気配を少しでも見せたなら、酷く疑うに違いない。それが鍵原というほとんど何も知らない男に対してなら、尚更。

 僕は『了解』とだけ送った。それから支度をして、時間に間に合うよう家を出た。

 カフェに着くと、鍵原はすでに来ていた。僕は店員に待ち合わせであることを告げ通してもらった。鍵原は控えめに手を挙げてきたので、僕も返し、座った。

「ごめん、久野君。急に、来てもらって。場所も、いつもと、違うところに」

 鍵原は小声で、身をすくめて言った。

「どうしてまたここに」

 僕が聞くと、鍵原は視線を落とし、黙り込んだ。言おうか言わないか、迷っているように見えた。

「……まあ、いいや。注文を」

 鍵原は慌ててメニューを見て、コーヒーを1つ選んだ。僕は考えるのも面倒だったので同じものを頼むことにした。店員を呼び、コーヒーを2つ、僕が注文した。鍵原は、僕が店員と砂糖やミルクのやり取りをしている間も、何やらメニューをちらちらと見ていた。注文を終えると店員がメニューを下げると言い、鍵原は慌ててメニューを渡していた。落ち着きのない男だと思った。かくいう僕も、鍵原のことを言えないくらいに、内心、落ち着きを持たなかった。鍵原の真意への警戒と、慣れない場所への抵抗感とが僕をそうさせていた。

「それで、お金だけど」

「あ、うん・・・・・・」

 鍵原は茶封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。僕は受け取り、中を確認した。しっかり五千円入っていた。

「確かに」

 僕は帰ってもいいと思った。コーヒー代を置いて、店を出ようと思った。しかし鍵原の真意を知っておく必要がある気もした。僕がそうして迷っている間、鍵原もまた何かに迷っているようだった。

「・・・・・・来週はテストだけど、君、勉強はしてるの」

 僕は鍵原に向かって言った。鍵原は驚いた顔をして、それから大げさに二度頷いた。

「久野君は、どう」

「あまり」

 僕は首を横に振った。

「そっか、お互いしっかりできるといいね、頑張ろう」

 鍵原は笑顔を浮かべた。思えば、鍵原の笑顔を見るのは初めてだったような気がする。ほとんど苦笑と言っていい笑顔もどきは見たことがあったけれど、ここまで純粋な表情はなかった。

 やがて店員がコーヒーを運んできた。とうとう僕は帰るタイミングを失ったと思った。ひとまずこの一杯を飲み終わるまでは店にいなくてはならないだろう。鍵原は砂糖とミルクを入れ、かき混ぜた。彼の動きはいつものように弱々しく見えたけれど、ここがカフェのせいか、少しばかり優雅にも見えた。

 僕は本当の優雅も、その対極の存在をも見たことがないので、果たして鍵原が本当に優雅であるか断言はできなかったが、何か不思議な感覚に陥ったことは間違いがなかった。

 しばらく僕と鍵原は無言でコーヒーを啜った。僕はカフェの中に流れる音楽を聴きながら、窓の外の行き交う人々を見ていた。

「久野君と、コーヒーを飲みたかったんだ」

 その声を受け、僕は視線を鍵原の方へと戻した。音楽が聞こえなくなり、僕の心臓が脈打つ音が聞こえた気がした。

「なんだって」

「僕は欲張りだったんだ。ここのカフェに来たいということと、久野君とコーヒーを飲みたいということ、お話ししたいということ。欲張ってしまったんだ。ごめんね」

「・・・・・・どうして、僕と」

 鍵原と僕はただ金銭の貸し借りをしている関係であって、それ以上のことは何もない。だというのに、僕と話したいなどという意味がまるでわからなかった。

「君は、素敵な人だと思うから」

 鍵原の声にはこれまでにない力があった。そのせいか、僕の心は言葉のままを受け入れそうになった。本心であるわけがないのに。鍵原に、素敵と思われるようなことなんてこれまでに一つもないのに。

 僕はすぐに彼の勘違いに気が付き、正してやろうと思った。彼は勘違いしている。金を貸してくれたという一つの事実だけで、僕を信じようとしている。あまりに哀れだと思った。慈悲ではなくて、見ていられないと思った。

「それは違う。金を貸せば、素敵か」

「違うよ。でも僕は君にお金を貸してくれるように頼んだ。それは誰でもよかったわけじゃない。君にしか頼めないと思った。初めて知り合った時から、君を素敵だと思っていたから。助けてくれるんじゃないかと思ったから」

 僕の考えは外れていたらしかった。金を貸してやるから素敵なのではない、鍵原はそう言った。素敵な人だと思ったから、僕を頼ったと言っている。まるで覚えがなかった。鍵原との初対面の記憶は薄れていたし、その次にあったときにはもう金銭の貸し借りに発展した。一体いつ、何をしたというのだろう。僕は混乱した。

「おかしなことをしているとは、わかっていたんだ。素敵だと思う人に、頼って、迷惑をかけて。ずっと自分の行動を責めていた。でももう終わりにしたい。もう、君からお金を借りることはやめるよ」

 鍵原はまた、見たことのない顔になった。僕はすっかり混乱して、もはや音楽もコーヒーも何も感じなかった。ただ、鍵原の前から消えたい。そう思った。僕は財布からお金を取り出し、テーブルに置いた。

「帰る、すまない」

 鍵原にそう言って、僕は振り返らずに店を出た。

鬱陶しく思っていた街の喧騒も、今は自分の胸の音がかき消してしまっていた。僕はふらふらと、家路についた。

 自宅に着き、彼女からおかえりと言われた。僕は無言だった。彼女の出迎えに言葉を返さなかったのは、初めてのことだった。

 夜、僕は彼女を誘いまた酒を飲んだ。昼間のことを忘れたい一心だった。別に敵意を向けられたわけでもないのに、あるいはそうされた時よりも、僕は動揺していた。

 彼女は相変わらず陽気な笑顔を浮かべ、僕に色々と話しかけてくれていた。しかし僕は会話の内容がほとんど頭に入ってこなかった。段々と罪悪感だけが心に渦巻いていって、また、くだらない文句を言いたい気分になってしまった。

「ああ、夜は暗いなあ。まるで、僕の人生みたいだ」

 僕は口を無理やりつりあげ笑顔を作り、そう言った。

「またそんなこと言って」

 彼女は笑った。僕はひたすら申し訳ない気持ちになった。けれどどうしようもなかった。口から出さねば、内側で破裂して、どうにかなってしまいそうだった。

「僕の性分でね。言わずにはいられないんだ」

「知ってるよ」

 他意のまるで感じられない笑顔だった。僕はやはり彼女に敵わないのだと認識させられる。彼女はどうして、僕を選んだのだろう。一体どのようなところをみて、一緒にいることを決断したのだろう。死に際し、唯一未練があるとすれば、それに対する答えだった。

「僕は、僕が嫌いだ。とても、嫌いなんだ」

「知ってるよ」

「君のことは好きだよ。とても」

「それも知ってる」

 彼女は僕の背をさすりながら、何度も頷いてくれた。望む答えは一向に得られずとも、僕の心には幸福感が募った。

「君は意外と情熱的なところがあるよね」

 彼女は白くて細長い指でグラスの水滴をなぞりながらそう言った。

「情熱的」

「好きとか素敵とか、良く口にしてくれる。あまりそういう事を、口にしなさそうに見えて、意外と言ってくれるよね」

「伝えずにはいられないんだ。本心が、溢れる。幸せになってほしいんだ」

「ありがとう。私は、君ほどに好きとか、口にすることはできないけれど、覚えておいて。私も君が好きで、幸せを祈っていること」

「・・・・・・幸せ、か」

 彼女は僕の内面を素早く察知したのか、首を横に振った。

「みんな、幸せになる資格があるんだよ」

「・・・・・・それは、そうだね。間違いないと思う」

「君もね。君は、自分をみんなに含めないところがあるから言っておかないと」

「・・・・・・僕のことは、いいとして。例えば、人の幸せを奪った人にも、幸せになる資格があるんだろうか」

「あるよ」

 彼女は即座に頷いた。

「幸せを奪った人はね、同じようにいつか幸せを奪われる。そうしてまた、幸せになろうと努力する。どんな人も、いつかはそうやって幸せに向かって歩くの。気が付いた人は、幸せにまっすぐになれるの。それが善で、人は善に向かうんだと思う」

 彼女はいつもよりおしゃべりだった。口数のことではなくて、内心の言葉をさらけ出しているという意味でそう思った。僕は不安を覚えた。彼女の手を、強く握りしめた。

「どうしたの?」

 彼女はにっこり笑って、僕を見つめた。

「いや・・・・・・そんな考えを聞いたのは、初めてだったから」

「惚れ直した?」

 くすくすと笑う彼女に、僕は冗談でもなんでもなく、心から頷いた。いつもの彼女だった。おかしくなってしまったのではなくて、僕はただ知らなかったことを知っただけなんだと思った。夜明けの気配を感じ、僕は一転、安堵した。彼女の考えは、僕を救うのだと思った。

「照れるなあ」

「僕の人生、最大の幸福は君に出会えたことだ」

「うわ、恥ずかしいよ」

 僕は彼女を抱きしめた。心地の良い眠気がやってきて、僕は目を瞑った。鍵原のことなど、もう少しも考えていなかった。

 

       4

 

 グループにあれだけ苦しめられたというのに、高校に上がっても、私は数人の親しい友人たちと共にいました。一人になるという選択肢をとることができませんでした。それ以外に生きていく術を私は知らなかったのです。

 それでも変化がありました。私は、グループの中でリーダーと目されることがなくなったのです。そして、人の中にいるとはそういうことなのだと知りました。理不尽も幸福も、誰かの意思によって運ばれる。世の中、唯生きるということは不可能で、あるべき姿にされるのだ。私はそんなことを考えながら、人に埋もれて生活をしていました。

 楽ではありました。ほとんど何も考えずに、時が流れていったような気がします。勉強、部活、ただそれらを行い、友人らと会話していました。時折、私がまた目立つのではないかと危機を感じた時もありました。そんな時ほど、人を頼りました。誰かの身を、私の盾にしました。誰かの言葉に共感し、乗り、染まりました。私は、平穏を見つけた気がしました。私は本当にこういう人間なのだろうと、答えを見つけた奇妙な喜びがありました。

 高校にいたころは、恋愛についての話題が多くあがりました。

 ほとんどだったと言ってもいいかもしれません。よく行動を共にしていた水井という男もまた例外でなく、恋愛話を非常に好んでいました。彼自身、そういういわゆる浮いた話の中心になることが多かったのです。私は彼を、勉強も部活もでき、女子を受け入れる度量のある男だと認識していました。水井と話すたび、私の脳裏に忌まわしい記憶がよぎりましたが、何度も繰り返すうち、だんだんとそれも失われていきました。

 ある日私は、水井と一人の女子生徒と昼食をとっていました。その女子生徒は岡野といって、もともと水井と古い知り合いらしく、自然と私とも話すようになっていたのです。

「水井、あんたいつになったら告白するの」

 岡野がそんなことを言いました。水井は大げさに岡野に抗議し、二人は言い争いをしていました。私は一歩引いた心持ちで、二人の会話を聞いていました。まるで興味がなかったとは言いませんが、情熱を傾けられそうにないと考えていました。恋愛など自分とは無関係などこか遠いところにあるものだと思っていて、実感がなかったのです。ですから二人の様にとはいきませんでした。

「久野のつつましさを見習ったほうがいいよ」

 私は反応に困りました。つつましさなるものも、実感がなかったからです。それは小学生の時のような計算ではなくて、本当にわからなかったのです。

「本当はこいつもあるんだよ。なあ、久野。言ってみろ、聞いてやるから」

 さらに困ることに、水井はそんな無茶を言ってきました。

 好きな人など、いませんでした。

 私は生きることだけを考えて生きてきました。その結果、恋愛に触れる機会がなかったので必要ないものとさえ思っていました。しかし、私の人生が常に後悔と共にあるのは、もしかすると恋愛の欠如が原因であるような気を、この時初めて抱きました。私には、いえ人間には真に生きる上で、恋愛が必要かもしれないと考えるようになりました。

「いないんだよ。困らせないであげなよ」

 岡野は愛想のいい方ではありませんでしたが、気配りのできる人間でした。彼女は持ち前の気配りで、私をフォローしてくれました。私はそれに頷くだけでよかったのです。

「好きな人はいなくても、可愛いと思う人はいるだろ」

 水井は引き下がらず、私は誰か答えてしまおうと思いました。ノリ、というものでそれはグループひいてはクラスの中でも特に大事なものでした。私は目立たないように、適度にノる必要があり、今がそうだと思いました。考え抜いた末に、私は一人の女子生徒の名前を、悪事を白状する子供の様に気まずそうに告げました。

「ほら、いた。でもベタだな」

「へえ、あんたも」

 二人の反応に恥ずかしさを感じました。私が挙げた女子生徒は、いわゆるマドンナとか、高嶺の花とか、そのように評される人物でした。その場しのぎの答えでした。バレバレだと思い、そのことについて追及されるかと思いましたが、そんなことはありませんでした。代わりに私のことを見定めるようにあれこれと考えているようで、酷く気疲れました。

「まあとにかく、あんたは少し落ち着いた方がいいよ」

 私の心労を察してくれたのか、岡野はすぐに話題を水井に戻してくれました。意図の有無はともかくとして、助かったと思いました。

岡野に対して、私は尊敬の念を抱いていました。

 ともに過ごした時間は水井がもっとも長く、同性ということもあって、もちろん気の合うところは多くありました。しかし、印象的だったのは岡野の方だったのです。私には理解できない、何か別世界の人間の様に感じられ、興味が尽きませんでした。

 何よりも私が理解できなかったことは岡野の交友関係でした。彼女には、私にとっての水井の様に、常に行動を共にしている木口という女子生徒がいました。木口は物静かな岡野とは違い、誰にでも愛想が良く常に騒いでいるような人間でした。対極にある二人が、いつも一緒に居る理由がわからなかったのです。私と水井は似ているということはありませんでしたが、どこか通ずるところがありました。特に、ノリという部分において、私は水井のそれを瞬時に理解できたのです。周囲にもいいパートナーとさえ言われていました。

ですから、もしかすると岡野と木口の間にもそのような、外部からは理解しがたい共通の感覚があるのかもしれないと思い、私は岡野を理解するためにも、木口をよく観察していました。

 しかし一向に理由がわかりませんでした。時には逸脱して、岡野と木口は姉妹なのではないかとか馬鹿げた想像をしました。それほどまでに、岡野と木口の関係を理解するのは難しいことでした。

「人の関係は、数学の問題より難しいんだ」

 そう言って得意げな顔を浮かべていた水井に、小学生の頃の私ならば異議を唱えたでしょう。しかしもはや私は頷くしかありませんでした。

 理由は不明でも、岡野と仲がいいという事実もあって、いつの間にか私は木口とも話すようになっていました。木口はとにかく誰かと話したいと言う願望が強いのか、とてもおしゃべりでした。

 放課後、自習室で私が一人勉強をしていると木口がやってきました。私は正直、木口と一対一で話すことに抵抗がありました。彼女のノリは独特で、合わせるのが大変だったからです。とはいえ、私は自分のノリを持っておらず(失ったと言ってもいいかもしれません)そうなると木口についていくしかなかったのです。

「やあやあ、真面目だねえ。放課後残って自主学習ですか」

 反対に向けた椅子にまたがって、木口は言ってきました。

「宿題だ。真面目じゃない」

 私はこのころから、人に言い表されることを否定したい気持ちが芽生えていました。何か一つの形に収まるのが、怖かったからだと思います。柔軟性が欲しい。顔役として苦しめられ続けたことがトラウマになっているのだと、この時はそう思っていました。

「謙遜を。君は十分真面目だよ。私は明日の朝、沙希に見せてもらおうと思っているからね」

 沙希は岡野の名前でした。

「そう。ところで、木口は何をしているの」

「暇でうろちょろしていたら、久野を見つけてさ。話し相手になってもらおうかと」

「一応忙しい」

「あ、久野の宿題できたら見せてくれてもいいね」

 木口には会話をしようという気がないのだろうかと、私は疑問でした。一方的に言葉を並べるばかりで、どうにも私には彼女の相手は務まりそうにない、常にそう思っていました。次第に黒い感情が私の胸に溜まっていく気がしました。

 それでもしばらく木口の話を聞いていると、やがて木口の友人と思しき生徒が数人やってきました。名前と顔くらいしか知らなかったので、大変に気まずい空気が流れました。木口に対する抗議の気持ちが起こり、言おうと決めた時、木口が先に動きました。

「邪魔しちゃ悪いから、別のとこ行こうね」

 木口の言葉に従い、一行は出て行きました。私はすっかり拍子抜けしてしまいました。そして、木口という人間を見失ったのです。後には疲れだけが残りました。なんとか宿題を終わらせましたが、予定よりずっと時間がかかってしまい、すっかり遅くなってしまいました。

 さっさと帰宅しようと思い、私は自習室を出ました。ふと廊下の奥を見ると、光が漏れていました。もしかすると、まだ木口はあそこにいるのだろうかと思い、私は教室に向かいました。少し近づくと、中から何人かの笑い声が聞こえてきました。さらに木口の話し声もしました。耳を澄ます必要もなく、廊下にいても聞き取ることができそうでした。

 私は廊下に設置されているベンチに座り、木口の会話を盗み聞きしようと思いました。恥ずべき行為とは理解していたものの、当時の私は木口という人間を知りたい一心でした。

「あんたさ、岡野と一緒にいるの、やめたほうがいいよ」

 その声は、木口ではない別の女子生徒でした。私は耳を疑いました。岡野を否定する言葉を、初めて聞いたのです。まさか岡野に限って。私は酷く動揺し、怒りのようなものまで湧いてきました。なぜか、自分自身を否定されたような気持ちになりました。

 他の女子生徒は、自習室を出ていくときと同様に、しっかりと後に続いて岡野沙希を否定し始めました。私は震え、心は行き場を失いました。帰ろう。とにかく場を離れようと立ち上がったところで、木口の声がしました。

「沙希はね、いいひとだよ」

 私はまた、耳を疑いました。

 考えてみれば、友人を庇うのは普通なのかもしれません。しかしあの木口が言ったことに私は驚いたのでした。周りの女子生徒は木口の言葉で静まり返り、木口はなおも岡野を擁護し続けました。

 すっかり混乱した私は再び自習室にこもりました。そしてどういうわけか、木口に連絡をしました。『一緒に帰らないか』と送りました。私は卑しくも、せめてもの罪滅ぼしのつもりでした。

 するとしばらくして、木口から『いいよ』と帰ってきました。私はその時に至ってようやく、一緒に居た他の女子生徒たちはどうするのだろうと考えました。やはり一人で帰る旨を連絡しようと思った時、ドアが勢いよく開かれ木口がやってきました。

「お待たせ、帰ろうか」

「あ、他の人たちは」

「みんなバラバラに帰ったよ。家の方向違うし、用事ある子は先に帰ったし。いろいろなのさ。君はずっと勉強してたの」

「・・・・・・そうだよ」

 帰る道すがら、木口から様々なことを聞きました。家族のこと、趣味のこと、聞いてもいないことまで木口はいろいろと話しました。相変わらずとらえどころのない人間でしたが、そこに不快感や黒い感情はもうありませんでした。

 もしかすると、私は岡野が好きだったのかもしれません。木口が岡野を庇ったことに、感謝していたのだと思います。

 家が近づいてきて、私たちの話題はお互いの交友関係についてでした。私は水井との日常を話し、既に水井から聞いた話ばかりだと叱られました。それが終わると、木口がいつものように、次々とエピソードを披露しました。

「さっきのみんなは、仲良しなの」

 私はそんなことを聞きました。

「ううん。仲良しじゃないね。むしろ・・・・・・敵かな」

 私は三度目、耳を疑いました。

 そして自らの卑しさと、消えたはずの黒い感情が再び滲むのを感じていました。

「敵」

「うん。恋敵だし、普通に人としても敵。言ったでしょ、私暇だったんだ」

 私は打ちのめされました。己の悲惨さを表に出さないように堪え、ごまかすことに終始しました。

 そして木口を、人間を、いえ、この世の中を見失ったのです。

       ※

 テスト明け、鍵原から会いたいと連絡が来た。僕は彼に会うか非常に悩んだ。

 鍵原は僕を素敵だと言った。あれから、テスト中、自宅にいる時、僕は鍵原の言葉を考え続けた。ただそれは鍵原の影響というよりも、人はいずれ幸福に向かうと教えてくれた彼女の影響が大きかった。一度は鍵原のことなど忘れようとしたが、彼女の言葉でもう一度考えてみようと思ったのだ。

 僕はようやく幸福に向かっているのかもしれない。『素敵』すなわち善の行動をしたのなら、僕はようやく忌まわしい過去を清算し生きていくことができるのかもしれない。いつかの夜のような、自らを殺める行為をせずとも済むかもしれない。そう考えていた。

 生きる希望が湧いてきたのだ。もはや死ぬしかないと思っていた僕に差した光だった。

 僕は鍵原に会うという選択をした。

 待ち合わせ場所は、例のカフェだった。先についたのは僕だった。店員に通され席に着いた僕は、肘をつき店内に流れる音楽を聞きながら、持ってきていた本を開いた。

 ふと、優雅である気がした。なぜだろうかと考えた。そして、優雅とはすなわち余裕なのではないかと結論を出した。このような僕の思考の流れもまた優雅であって、時に沿う命の流れを感じ取ることができているのだと思った。つまり優雅は道の先にしかないのであって、だからあの時、もう金を借りないことを決断した鍵原が優雅に映ったのだと考えた。

 五分程度して誰かが店内に入ってきたのがわかった。顔を向けると、鍵原だった。少々気まずそうな顔をしていたが、そんなことよりも、顔にできた大きな痣が気になった。左目も腫れているようだった。しかし顔は晴れやかで、どうにも、その不和というか齟齬が芸術のようである気がして、僕の優雅さに対する自信が、早くも揺らぐのを感じた。

「待たせてごめんね、久野君。そして、来てくれてありがとう」

 鍵原はそう言って座った。僕は気圧されたように、少し身を引いた。

 何もかも、この前までの鍵原とは違って見えた。僕のわずかな心境の変化など、無意味だとさえ感じられた。

「・・・・・・君は、なんだか変わったね」

 思った通りに、僕はそう言った。ほとんど降伏宣言ともとらえられるようで、惨めな気持ちになった。

「そうかな。でももし変わったとするなら、久野くんのおかげだよ。君との出会いのおかげ」

 鍵原は屈託なく笑って、そう言った。続きを聞こうとしたところで、間が悪く店員がやってきた。僕らは各々コーヒーの注文を済ませた。その間の鍵原の表情やしぐさも、この前とはまるで違っていた。

「・・・・・・僕の何が素敵だと思ったの」

 核心に触れる質問に、鍵原は照れ臭そうにこめかみの辺りを指で掻いた。

「君が、ゴミ拾いをしているところを見たんだ」

「ごみ、拾い?」

 心当たりがなかった。大学へ来てから、いや、今までだって学校での行事を除いてボランティアなどに従事したことはなかった。

「そう。大学の構内で新聞をベンチに置きっぱなしにした人がいたんだ。君はそれを見ていて、残された新聞を拾ってちゃんとゴミ箱に捨てたんだ」

「・・・・・・それで」

 説明されて、その時の記憶が微かに思い出された。

「だから、きっとこの人は素敵な人だと思ったんだ。わざわざ自分のものでもないゴミを拾うなんて、そうそうできることじゃない」

 僕は再び絶望の淵に叩き込まれた。

 優雅さとは余裕などではなく、清廉であることだと知った。鍵原という男の、優雅さは本物だった。いかに痣を作ろうと、借りを作ろうと、それは罪ではなかったのだ。むしろ彼は幸福を奪われた側の人間だった。純粋に生きていただけなのだと知った。

 僕は観念して、痣のこと、金を借りたこと、これまでの生活。あらゆることについて聞いた。やはり僕の予想どおり、鍵原は奪われ続けてきた人間で、しかしその中でも奪うことなく、ただじっと耐え続け幸福に向かっていた人間であることを知った。

 彼には、罪がなかった。あの時感じた優雅さは本物だった。あの時初めて、僕は優雅を知ったのだ。

 僕は鍵原に対し抱いていた優越感を恥じた。金を借りに来る、貧弱な男。人に金を借りる罪、貧弱な罪、人を利用する罪、僕と同じかそれ以上にひどい奴。そんな風に思っていた自分を今すぐに消してしまいたいと思った。

 もう、笑うしかなかった。

 これまでのように、ただ笑って恥辱と絶望にまみれるのだ。

 そしてまた、僕は死ぬことを決意した。

 

       ※

 

  本当に死のうと思います。私はあまりに多くの罪を犯してきました。

自らのくだらない自尊心のために人を欺き、裏切り、決めつけ、そして人から逃げてきました。

 もはや私には、死しかありません。

 どうか、許してください

 私は本当に、卑しい人間なのです。

       ※

 『遺書』とファイル名を変更し、僕はパソコンを閉じた。

 今夜、彼女は友人の家に遊びに行っており、帰ってこないことになっていた。

 死ぬなら今日。昼間、鍵原は笑顔でまた今度などと言っていたが、僕にはもう鍵原に会う資格もない。別れ際、見下していたことを心の中で謝罪した。

 僕は以前と同様、キッチンに行き錠剤を手に取った。新しく彼女が買っていたもので、まだ一粒も飲まれていなかった。僕は蓋を開け、覚悟を決めて、薬

を飲み干そうとした時、ポケットに入れていた携帯が振動した。

 僕は震える手で、必死に薬を飲もうとした。

涙がこぼれ、目の前が曇って見えなくなった。携帯はなおも振動し続けていた。

 死ぬのだ。早く。

 自分に言い聞かせて、何度も薬を口に放り込もうと試みる。しかしあと僅か、そうすることができない。とうとう僕はビンを置き、勢いそのまま携帯を取り出した。

 彼女か、鍵原か。涙を拭って画面を見ると、全く予想していなかった名前が表示されていた。僕は驚き、思わず電話に出てしまった。

「よう、久しぶり。元気にしてたか久野」

 数年前と変わらない、水井の声だった。僕は驚き絶句した。

「おいどうした、もしもーし」

「あ・・・・・・すまない」

「おう、良かった。ちょっと今帰ってきててさ、飲んでるんだよ。お前も来ない?」

 水井の呑気な声が僕の判断を狂わせた。

 死が遠ざかっていく。

 僕はまた死ねないのだと思った。

「・・・・・・いくよ」

「お、やったぜ。んじゃ待ってる。えっと店は・・・・・・」

 その後水井から店の場所を聞き、僕は身支度をした。

 着替えている間、靴を履いている間、彼女に連絡している間、ずっとぼんやりと、先ほどまで自分が死のうとしていたのだということを思い返していた。

 まだ十数分しか経っていないのに、とても昔のことように感じられた。

 僕は家を出た。空を見て、9月だということを思い出した。残暑を感じ、月の輝きに惹かれた。妙な気分だった。ひどく沈んでいるはずなのに、しかし世界を知ったばかりの、無邪気な喜びのようなものもあった。

 店に到着し、僕は少し緊張しながら水井のテーブルへと向かった。すぐに水井は僕に気が付き、手を振った。僕もそれに返した。そしてもう1つ、懐かしい顔があった。

「変わんないね、あんた」

 岡野だった。ぶっきらぼうにそう言って、けれど年月を少し感じさせるような大人びた笑顔を向けてきた。そこには僅かながら、愛想があった。

「まあね。2人も変わらない」

 僕は水井の横に座った。

「俺なんてますますイケメンになってモテまくって困ってるよ」

 水井は言って、ビールを一気に飲み干した。それから水井は僕の分の酒も注文してくれて、3人で乾杯をした。さっきまで死のうとしていた人間が乾杯しているなんて、そんなおかしな話はないと思った。

 僕らは久々の再開ということもあって、しばらくお互いの近況を報告しあった。酒が進み、僕は段々と愉快な気分になっていった。

「いやそれにしても、岡野に彼氏がいないとは」

 水井は相変わらず浮ついた話が好きなようで、いきなりそう言った。

「悪い?」

「いやいや、誰もそんなことは。ただ意外だって話さ」

「そうかな。私そんなにモテそう?」

「僕に聞くな。そういうのはよくわらかない」

「そういやお前は彼女いるのか」

 しまったと思った時には遅く、まんまと自分から窮地に追い込まれてしまった。言いたくはなかったが、嘘をつく理由が思い付かず白状した。水井と岡野は驚いていた。

「写真ないの」

「写真とか、とらないね。一枚も」

 水井は心底残念そうな顔をした。

「あんたの彼女か、なんかわからないけど、可愛いんだろうなと思う」

「可愛い」

 そういえば僕は彼女の容姿を考えたことがなかったことに気がついた。衝撃的な出会いから始まり、気がつけば彼女と交際を始めていたのだ。

「どうなんだよ」

「……あまり、考えたこともなかった。でもそういえば、街で1人でいるときに声をかけられることは多いと言ってたね」

 だからちゃんと守ってね。彼女が口癖のようにそう言っていたのを思い出した。

「まじか、いいなあ」

 水井は大きくため息をついた。岡野はにやつきながら、僕を見ていた。僕は話題をなんとか変えようと、気になっていたことを聞くことにした。もう自殺のことは頭になかった。

「なあところで、木口は呼ばなかったのか」

 僕が言うと、水井と岡野は顔を合わせ何やら相談しているようだった。

「・・・・・・あのさお前、木口とそんなに仲良かったのか」

 水井の言葉に違和感を感じつつ、僕は頷いた。

「まあ、それなりに会話をしてはいた」

 あの放課後の一件以来、僕は木口と距離をおきたいと考えていたが、水井や岡野といる手前そうもいかず、結局一緒にいる時間は多かった。卒業まで木口という人間を測りかね、大学へと進んでからは会っていなかった。

「そうか・・・・・・」

「岡野がいるなら呼びそうだと思っていたんだが」

 僕は歯切れの悪い水井ではなく、岡野に向かって言った。

 岡野はハイボールを一口飲んで僕を見つめ、少し間をおいた。

「・・・・・・あー、実は私。あの子あんまり好きじゃないんだよね」

 僕は言葉を失った。体を鷲掴みにされてぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような、恐ろしい感覚に襲われた。今言葉を発したのは、本当に岡野なのかと信じることができなかった。

「そう、だったのか」

 なんとか振り絞って、僕はそう言った。

「やっぱ気がついてなかったのかよ」

「水井、お前も」

「当たり前だろ。クラス全部だよ。今もすごいんだぜ、ほら」

 そう言って水井は木口と思しき、濃い化粧と奇抜な髪型をした人物の、SNSの写真を、僕に見せてきた。

「なのに、岡野はなんで一緒に」

 僕は聞かずにはいられなかった。

「え、そりゃまあなんとなく。成り行きで。そういうのってあるでしょ、とりあえずってやつ」

 よくわかってしまった。僕は控えめに、頷いた。

「でもお前は本当に木口と仲良さそうだったからさあ、俺らもなかなか本音言えなくて、さっきもどうしようかと思ってた」

 それから水井と岡野は木口を一頻り否定した。僕はあの頃のように一歩下がった心持ちで2人の話を聞いていた。

 その時僕はおかしな光景を見た。木口を否定する2人が、とても生き生きとして見えたのだ。僕と同じであるはずなのに、鍵原や彼女とはまるで正反対の人間であるはずなのに、そこには力強い生命があった。木口も、岡野を否定していたあの女子生徒達も皆、強烈な生の香りがあったのだ。

 僕は今度こそ本当に答えを見つけた気がした。

思わず噴き出して、踊りたい気分にさえなった。

「お前は結構鈍そうだもんな」

 水井が僕を見て言った。僕にはもう、恐れも罪悪感もなかった。

「ああ、そうだね。僕は、何も知らなかったよ。何一つね」

 卑しい。それが僕だった。

 

       5

 

 僕は理解した。過去の、罪の清算などできるわけもなかったのだ。

 過去は、罪は、消えない。人の幸せを奪った事実は消えない。

 だが、ただ消えないだけだ。

 そうした人間が、幸福を奪われるなどと決まったわけではない。それは自分次第なのだ。

 だからこそ、罪を犯した人間は弱くなることが許されない。いや正確にいえば、許されるが、そうなったら終わりだ。僕はあと僅かと言うところで、この事実に気がついた。

 僕は理解した。僕にはもはや、生きる以外の選択肢などないということを。

 偽の生。

 僕は偽の生を行くのだ。弱くなることの許されない、内側に抱えた闇を曝け出すことの許されない、飾った生命で道を行くのだ。罪人は強くあらねば死んでしまうだけだ。

 幸福も不幸も行末は全て自らで決める。ただ、すべてはそうするだけなのだ。

 彼女のために罪を清算したい。いや、そうではなかった。

 そんなことは不可能だったし、初めから考えてなどいなかった。僕は死なないために、果てしなく膨れ上がる自尊心のために彼女を利用したのだ。

 僕は生きる。

 彼女のために生きるのではない、あくまで、生きるために彼女といるのだ。

 

        ※

 

 昼ごろ、ようやく彼女が帰ってきました。僕は料理を作って、待っていました。

 彼女は料理を見るなり、大変嬉しそうに、ありがとうと僕に言ってくれました。

 そして、僕は勇気を振り絞り、彼女にパソコンを誤って壊したことを告げました。

 彼女は呆れつつも、仕方ないと言って許してくれました。

 ご飯を作っていたのはそのためのご機嫌とりかと聞かれたので、半分そうだと答えると、彼女は楽しそうに笑いました。

 皿を洗っていると、彼女は私に、なんだか変わったねと言いました。

 僕はただ、否定しました。

2020年11月12日公開

© 2020 Tachibana

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