路上生活

齋藤雅彦

小説

554文字

「無愛想な店員だな」

 若い女性店員が注文した品を置いて去ると、鉄道会社の役員だという男はぼそり、つぶやくように言った。

「でもおっぱいはでかい」

 わたしはレジに入った女性店員を横目で見て言った。

「たしかに」

「それに美人だ」

「そうだな」

「目を楽しませてくれたのだからよしとしよう」

「俺は心も楽しませてもらいたいね」

「それは贅沢というものだ」

 喫茶店を出て、しばらくおたがい無言で歩き、駅に着くと、男があわただしく人の行き交う構内を見渡して言った。

「幸せとは何だろうか」

 わたしは少し間を置いてこたえた。

「幸せとは何かなんてことを考えずにすむ環境に身を置いていることだ」

「では貧乏人でも金持ちでも幸せになれるということだな」

「そうだ」

「世のなかは平等にできているってわけだ」

「いや、貧乏人でも幸せにはなれるが、快楽は金持ちでないと得られない」

 男は少し考えるような表情を浮かべてから口を開いた。

「それはブスでも幸せにはなれるが、快楽は美人でないと得られないに置き換えることができるな」

 そう言ってから男は、内ポケットからスマホを取り出してふたことみこと話すと、「ロータリーに迎えが来ていた。俺はこれで」と言って頭を下げた。

「どうも、ごちそうさま」

 わたしは男を見送ってからコインロッカーに向かい、寝袋を出して、路上生活に戻った。

2020年11月12日公開

© 2020 齋藤雅彦

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