Birthday

齋藤雅彦

小説

722文字

娘がいた。娘は賢かった。有名国立大学を出て、会計事務所で働いていた。恋人はいない。美人だったから言い寄ってくる男はけっこういたが、ひとりでいるのが好きだった。趣味は海外旅行とグルメ。

 ある週末、娘は仕事を終え、行きつけのイタリアンレストランに入った。まだ空は明るかったが、テーブル席はふさがっていた。カウンター席に座り、ワインを飲みながら食事をした。満腹になり、モニターの映画を見ていたら、酔いも作用していたのだろう。少しうとうとしてしまった。

「お疲れのようですね」

 隣に、スーツ姿の男が娘をのぞき込むような格好で座っていた。男がこの世のものでないことはひと目でわかった。

「誕生日おめでとうございます」

 男はグラスを上げて言った。いつの間にか、手元にシャンパンのつがれたグラスが置かれていた。

「そういえば今日誕生日だった」

「誕生日を忘れる人はいないでしょう」

「本当に忘れてたの」

 娘はシャンパンをひと口飲んでこたえた。

「それは年をとる恐怖からくる防衛機制のせいです。おいくつになられたんで?」

「三十」

「結婚願望は」

「ひとりが好きなので」

「子どもは欲しくないんですか」

「わたしが作らなくてもほかの人が作ります」

「でもあなたの子どもじゃないでしょう」

「子どもは親のものではありません。そもそも人間は誰の所有物でもありません。わたしは全人類レベルでの見方をしています。わたしの直系の子孫は絶えても種としての人類が繁栄すればそれでいいのです」

「大量殺戮兵器によって絶滅してしまうかも」

「それだったらなおさら子どもを作る必然性はないでしょう」

……結局生まれ変わっても極端に走るだけか」

 男は天井を仰いで言った。闇が訪れた。誰もいなくなった。すべてが闇に包まれた。

2020年11月12日公開

© 2020 齋藤雅彦

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