病み系

齋藤雅彦

小説

1,101文字

コロナウイルスフィーバーで、ひと足早い春休みに突入して三日目、一念発起し、持っているすべてのマンガをブックオフに売りに行こうと部屋を出た僕はロビーに、白いレースのリボンを頭につけ、クラシカルな黒いワンピースを着た女の人が、膝を抱えてうずくまっているのを発見したので親切心を発揮して近づき、「大丈夫ですか?」と声をかけたら女の人、顔を上げて、「風が強かったので」とこたえたからそこで立ち去るべきだったんだけど立ち去らなかったのは女の人が眼帯をしてるのが気になったからで、僕は眼帯を指差し、「眼病ですか?」とたずねたら女の人は、「中二病です」とこたえてからレジ袋に入れたマンガに目をとめて、「それ、どうするの?」と質問してきたので、「売るんです」と言ったら、「どうして?」と、さらに質問してきて、面倒だなあと思ったけど、「もうマンガは卒業しようと考えたので」と真面目にこたえたら、「中学生?」とさらにさらに質問してきて、いつもの僕なら逃げ出しているところなんだけど逃げなかったのは女の人がきれいだったからで、それで僕は、「そうです。もうすぐ三年」とこたえたら、女の人は、「ほんとの中二かよ」と言って笑ったから僕も笑ったら、「どうして笑ったの?」と真顔になって質問してきたから、「つられちゃって」と言ったら、「あなた、共感力ないって言われたことない?」って質問してきて、質問ばかりで疲労してたんだけど、「よく言われます」ってこたえたら、「べつにいいんだけどね。共感できても理解ができなかったら意味ないから。共感と理解は別もの。共感って相手の脳波とシンクロすることなの。難しく感じるかもしれないけど、高度な能力じゃない。犬でもできる芸当。まあ、あなたは理解する能力もなさそうだけど」と言ったから僕はむっとして、「おねえさん、病み系でしょう」とかましたら、女の人は、「そうだけど、何か?」とすまし顔で言ったので僕は逆にエスカレートしてしまい、「病み系って、単にこらえ性がないのを病み系ってカテゴライズしてごまかしてるだけなんだよね。要するにストレス耐性のない社会の落ちこぼれの方便」てな言葉を浴びせたら、涙目になっちゃったので、やべー言いすぎたと思ってたら、急に、きっとした目つきになって、「理解とは、汎用性……人間のタイプは汎用型か特化型かどちらかしかない……あんたみたいに胎児期に過剰な男性ホルモンと女性ホルモンを両方いっぺんに浴びたエーエスディーが脊髄反射的に発した言語なんてわたしの心には刺さらないってーんだよ!」なんて言うから僕はもう切れて、レジ袋を振り上げたら、レジ袋も切れてマンガが床に散らばった。

2020年11月20日公開

© 2020 齋藤雅彦

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