お花畑

齋藤雅彦

小説

1,698文字

お花畑に女の人が倒れていた。エキゾチックな顔だち。よく見たら魔法使いだった。なぜ魔法使いだとわかったかというと、それらしいハットとマントを着用していたうえに、かたわらにやはりそれっぽいステッキが転がっていたから。肩に手をかけ、ゆさぶると、目を開けた。吸い込まれそうなブルーの瞳。魔法使いは二、三秒、うつろな目をさまよわせてからはっとした表情になり、がばっと起き上がって言った。

「ごめんなさい。寝ちゃって」

 立ち上がり、スカートのしわをなおしている魔法使いに僕は、「あの、写真いいですか?」と言った。あまりに美しかったので写真におさめておきたいと思ったのだ。すると魔法使いは、「身内だけの集まりなので、写真は困ります」とこたえた。カメラを取り出すためリュックを下ろしかけた僕は、背負いなおして言った。

「ああ、集会があるんですね」

「集会っていうか、まあ。……すみません、仲間が心配してると思うので」

「ついて行っていいですか」

 すかさず僕は言った。魔法使いの集会に参加できるチャンスなんて、いまを逃したら二度とやってこないだろう。

 魔法使いの顔に明らかなおびえが走った。

「部外者が来るのは、ちょっと……

「起こしてあげたんだから、ちょっと見るぐらい、いいでしょう」

 僕は苛立って言った。わざわざツェッペリンの一〇〇周年記念ウォッチを売ってまでここに来たのだ。土産話の一つもなしに帰れない。

 無言で魔法使いは歩き出した。沈黙を承諾ととらえ、僕は後ろにしたがった。

「ところですごくきれいなブルーアイズだけど、北欧出身?」

「カラコンです」

「あー、カラコンだったのかぁ。僕の職場の事務員にもカラコンしてる娘いますよ。事務職がカラコンって、あまり感心しないでしょ。ねっ。その娘は残念ながらあなたのような美人じゃなくてね。しかも陰で気に入らない先輩や後輩の悪口ばかり言ってるんですよ。僕はそういうのは女性にありがちな保護欲求由来のものととらえているから許容できますけどね。

 男性で陰口を言ったり上司に告げ口したりする人は保護されたいという欲求ももちろんあるんだけどそれに加えて強い承認欲求というのがあるわけですよ。同僚をこき下ろすことで自分がいかに頑張っているか、優れた人間であるか、会社のことを考えているかをアピールしているわけ。現状に不満があるか劣等感が強いため常に他者をけなしたり批判したり威嚇したりしていないと自尊心が保てないというのもあるね。自己顕示欲はあるけど自己顕示欲に見合うだけの実力がないからそうなっちゃう。たちの悪いことに同僚には上司の陰口や会社の不平不満を言ったりするんだよね。なぜなら上司や会社に媚びるようなことを同僚に言うと、つまはじきにされてしまうおそれがあるから。陰口はさらに自分を脅かす存在を追い込む効果があるしストレス発散にもなるからやめられないんだな。いずれにしても、組織を機能としてではなく共同体ととらえていることに問題があるんだよね。

 女性度の高い女性は他者を貶めるようなことは言わないけど、男性度の高い女性は他者を貶める発言が多い。男性度の高い女性は競争的だから。仕方ないんだよね。深くものごとを考える能力のある人間は全体の二割くらいしかいないから。これは遺伝子と母体の環境で決まってしまうんだ。種がよくても畑が弱ってたら駄目だ」

 魔法使いが急に立ち止まり、振り返って言った。

「コミケに何しに来たんですか?」

 きつい、とげのある口調だった。

 僕は面食らった。面食らい、混乱して、へどもどしているところに、革のビキニをつけ、両手にトマホークをさげた戦士らしき女の人が、警備員二人を伴って近づいてきた。

 

 夜風を浴びながら、砂浜まで歩いた。

 警備室に連れて行かれ、正直に経緯を話したが、閉場時間近くまで拘束された。

 どうしていつもこうなってしまうのだろう。

 砂浜に体育座りになり、海をながめた。

 花火の上がる音がした。花火大会があったことを思い出した。

 会場の方向に目をやると、連続花火をバックに、箒に乗った魔法使いの群れが隊列を組んで、海の向こうに飛んで行くのが見えた。

 次の集会は、海外のようだ。

2020年11月12日公開

© 2020 齋藤雅彦

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