正義感が行きすぎると倫理観を失う(飯テロ改題)

齋藤雅彦

小説

1,003文字

彼女ははたちの女の子。非正規雇用の戦闘員。駅まで徒歩一〇分のワンルームマンションでひとり暮らし。朝六時半に起きて三〇分で身じたくをすませ、七時ちょい過ぎに家を出る。今日はシンプルだが、トレンドをおさえたデザインのブラウスにロングスカート。そして小さめのリュック。荷物が少ないということは整理整頓ができるということ。身じたくも早い。つまり彼女はなかなか気のきいた女の子。

 彼女は改札を出て、いつものように朝食兼おやつのボローニャソーセージサンドを買いにコーヒーショップに入り列に並ぶ。すると横から中年男が割り込んでくる。よくあることだ。彼女は不快感をあらわにすることもなくただ黙って順番を待つ。中年男の番になる。中年男がボローニャソーセージサンドを注文する。店員が、ボローニャソーセージサンドは品切れだとこたえる。中年男の額に太い血管が浮かぶ。

「どうしてないんだ」

「人気メニューでして」

「人気メニューだったらなおさら多めに材料を仕入れておくべきだろう。君ね。わたしは水にさらしてしゃきっとしたレタスとクリーミーなチェダーチーズ、無添加のボローニャソーセージをはさんだ軽く焼いて表面のかりっとしたバゲットにかぶりつくためにわざわざ朝の忙しいなか並んだんだ」

 中年男が振り返って言う。

「なあ、あんたもそうだろ。ボローニャソーセージサンドが目当てだろ。おかしいじゃないか。あんな美味いものが品切れなんて。ボローニャソーセージサンドをひとかじり、口いっぱいにひろがるレタスとチェダーチーズとボローニャソーセージの三重奏。いや、バゲットもあるから四重奏か。それをよく冷えたアイスティーで流し込む。眠気が一気に覚める。わかるだろ。あの感覚。あんたもあの感覚の虜なんだろ。そうなんだろ? な? なっ⁉︎

 怒りで脳がオーバーヒートしているのだろう。不適当な言葉を口走っている。もちろん記憶力も低下しているはずだから、あとから反省もできない。この男は普通の客ではなくテロリストだと判断した彼女はためらわず中年男のあごを蹴り上げ、ひと仕事終える。

 さて、おしゃれで気のきいた彼女がなぜ戦闘員などやっているのだろう。親も戦闘員だったから? 子ども時代にいじめられた経験から強くなりたくて?

 人間は原因があって行動しているのではない。快原則に則って行動しているのである。彼女が戦闘員をやっているのは、男のあごを蹴り上げるとすかっとするからである。

2020年12月1日公開

© 2020 齋藤雅彦

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