ハードボイルド

齋藤雅彦

小説

1,415文字

俺の名はジョニー・パッコリー。職業は探偵。駅の近くのコンビニの二階に事務所をかまえている。

 どんな依頼が来るのかって? 最近は浮気調査ばかり。心おどる仕事じゃないが、仕方がない。選り好みしてたら飯が食えない。

 依頼者のほとんどは男性。もちろんみんな金持ち。

 金持ちであること以外の特徴? 説明するよりも実際に見たほうがいいだろう。

 ちょうどそれらしき男がやってきた。俺は笑顔を作り、迎えた。

 男は気おくれした様子だった。お決まりのパターンだ。すがりたい気持ちと、プライドを保ちたい気持ちとの葛藤の表れ。

「どうされました?」

 俺は笑顔を崩さずに言った。男はおずおずと口を開いた。

「妻が、浮気をしているようなんだ」

「なるほど。ご心配なく。秘密は厳守しますので」

「わかっている。ここの評判はそれとなく耳にしている」

「ありがとうございます。奥様の写真などはお持ちでしょうか」

 やや間があってから、男が言った。

「本題に入る前に、わたしの話をきいてもらえないかね」

 一瞬俺は身がまえたが、うなずいた。告白欲求は精神状態が不安定な証拠だ。ふんだくれるかも。

 咳ばらいをしてから、男は話し始めた。

「わたしは州議会議員をしていた。いまは不動産業をしている。

 議員に戻る気はないね。レベルの低い大衆に支持されても虚しいだけだ。いずれにしても、組織、団体を維持しようと思ったら嫌な奴にならざるを得ない。悪人になれない奴は政財界から淘汰される。わたしは悪人になりたくない。

 妻はわたしの元秘書だ。わたしとは二五歳違い、もちろんわたしのほうが上だよ。 

 わたしに性的な魅力があるかどうかは見ればわかると思うがね。女にモテる愛妻家はいない。そう。わたしは妻を愛しているんだ。

 妻がわたしと結婚したのは親に対する反発からだ。一人っ子の女の子によくいる反抗期が遅れてやってきたタイプなんだろう。親が不快に感じるようなリベラルなことをあえてやる。まあ母親もべたべたしすぎだったんだ。

 そうだな。母親が子どもを愛するのは有性生殖をする生物に備わった本能だ。しかしな、子離れできない生物は人間だけだ。そこが厄介なんだ。

 ところで君は霊を見たことはあるかね。ない? 霊を見る人は外部にばかり目を向けるタイプだそうだ。自己の内部に目を向ける人は霊を見ない。妻はよく霊を見るらしい。自我形成が未熟なんだよ。他者も自分と同じ意思を持った人間であると認識できて初めて人は人を騙すことができる。妻はわたしを騙せていると思ってるんだ。

 十代のころの妻は地味なタイプで、友だちはおたくばかりだったそうだ。本当はアニメもマンガもあまり好きじゃなかったらしいが、一人になってしまうのが嫌だから合わせていたそうだ。

 妻は実は派手なグループに憧れていたんだ。で、半年前の同窓会でアメフト部だった奴に口説かれ、つき合い始めていまに至る。そいつの名は、ジョニー……

 さりげないふうを装って俺は立ち上がった。

「失礼、おかまいもせずに、喉が渇いたでしょう。アイスコーヒーでよろしいですか?」

 男がジャケットの内側に手を入れた。俺はとっさに机の引き出しを開けてベレッタを握った。男がリボルバーを取り出した。俺は飛びずさった。

「死ね!」

 ばきゅーん。

 ばきゅーん。ばきゅーん。

 逃げながら俺も応戦する。

 どたどたどた。

 ばきゅーん、ばきゅーん。

 がらがらがっしゃーん。

 ばきゅーん。

 ばきゅーん。

 ばきゅーん。

 男の額にヒットした。

「うっ……やられた」

 ばたっ。

                                  おしまい

2020年11月18日公開

© 2020 齋藤雅彦

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

ハードボイルド

"ハードボイルド"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る