人間は、欠けているものをべつなもので埋め合わせようとする生きものだ。

齋藤雅彦

小説

600文字

スーパーから出ると雨だった。傘はなかった。レジ袋を両手にさげ、濡れながら歩いていると、街路樹の根元に、妖精がうずくまっているのを見つけた。若い雌の妖精だった。羽が濡れて、飛べなくなっていたのだ。周囲を見まわし、誰もいないことを確認してから妖精をポケットに入れ、持ち帰った。

 濡れた服を脱いでから、妖精の身体をタオルで拭いた。妖精は、美しかった。八頭身で。バストは小ぶりだった。たしか成長しすぎるとバストのシンメトリー度がそこなわれるため、大きいバストの妖精は敬遠され、小ぶりの種が主流になったのだときいたことがある。

 妖精は何を食べるのだろう。まあ人間と同じものを食べるのだろうとドーナツを与えたら、顔の何倍もの大きさのそれをぺろりとたいらげた。きっと甘いものが好きなのだ。手についた砂糖をなめると、横になり、眠ってしまった。妖精の胸が上下するのを見ながら、僕も眠った。

 妖精との蜜月は半年ほど続いた。妖精だけをながめて暮らす日々だった。スマホもパソコンも、テレビも見なかった。

 ある日、元カノから連絡があった。近くに来ているから会いたいと。元カノには未練があった。僕は会った。再び、つき合うことになった。

 帰宅すると、妖精がぐったりしていた。何も食べなかった。体温が低くなっていた。妖精は、僕の手のひらの上で、ふーっと長い息を吐くと動かなくなった。

 悲しくはなかった。ただもう、生きものを飼うことはないだろう。

2020年11月11日公開

© 2020 齋藤雅彦

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