ハープ

齋藤雅彦

小説

747文字

傷心を癒しに、海に行った。浜辺で、人魚がハープを弾いていた。

「お上手ですね」

 声をかけると、人魚はハープを弾くのをやめ、やや警戒する感じで僕を見上げた。

「あ、どうぞ続けてください。僕もギター弾いたりするんですよ」

「いえ、もう飽きたので。……あの、このへんにビジネスホテルかなんかありますか?」

「ご旅行で」

「家を追い出されたんです」

「はあ。どうしてまた」

「わたしは人魚国の王女なのです」

「それはそれは」

「父である国王が、国王であることに疲れ、これからは民主主義でいこうと考えて、選挙をしようと言い始めまして」

「ほうほう」

「わたしはそういうの嫌なので、反対したら出て行けと」

「民主主義、いいじゃないですか。選挙、大いに賛成だなあ僕は。選挙権を得てから投票は一度も欠かしたことないんですよ」

……よく、わかりません。なんで選挙に行くんですか?」

「国民の権利だから」

「違うでしょ。周りの人が行くからでしょ」

「そんなことは」

「いまの世の中いまの生活に不満でもあるの?」

「そりゃあ……ないけど……

「現状に満足しているのに選挙に行く必要あるの? 権威のある人の意見に流されてるだけなんじゃないの?」

「それはその……あ、海から誰か来ましたよ」

 半魚人ふうの男が海から上がり、僕をちら見してから人魚に近づき、何やら耳打ちをすると、海に戻った。僕はどうしたのか、といった表情で人魚を見た。

「誰も投票に来なかったので結局王政を維持することになったそうです。候補者も最初から乗り気じゃなかったみたい。それではさようなら」

 そう言うと人魚は海に入り、盛大にしぶきを上げたかと思うと、かなたに消えた。

 僕は浜辺に残されたハープを手に取り鳴らしてみた。するとハープはとけ始め、砂に吸い込まれてしまった。なぜだか切ない気持ちになった。

2020年11月11日公開

© 2020 齋藤雅彦

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