ホーム

齋藤雅彦

小説

563文字

通学途中、駅のホームで、わたしを凝視している中年サラリーマンがいるなと思ってよく見たらわたしだった。

 そんな馬鹿な、わたしはここにいる、だいいちわたしは男ではない、中年でもない、女子高生だと自分に言いきかせたが、どう見てもその中年サラリーマンは自分なのだった。

 中年サラリーマンが近づいてきた。

「僕じゃないか、何やってるんだ。こんな所で」

 ショックでわたしは、言葉を発することができなかった。

「まさか僕の前に現れるとはね。……とにかく家に戻ろう。まいったなぁ、今日会議なのに」

 わたしの手が、中年サラリーマンの汗ばんだ手に包まれる。振りほどこうとすると、中年サラリーマンは声を荒げて言った。

「いい加減にしろ! 君は僕なんだぞ」

「どうしました?」

 若いサラリーマン三人組がわたしたちの間に割って入った。

「いや、彼女は……

 中年サラリーマンが説明しようとする。

「お知り合いですか?」

 三人組のなかの先輩っぽいのがわたしにきいた。

 わたしは首を横に振った。

 先輩っぽいのが、後輩っぽい二人に目くばせした。中年サラリーマンは、二人に両側からがっしり肩をつかまれ、先輩っぽいのに先導される形でホームから消えた。

 電車に乗り込むと、一気に力が抜けた。わたしはバッグからコンパクトミラーを取り出して開いた。わたしが映っていた。わたしはわたしだった。もう大丈夫。

2020年11月28日公開

© 2020 齋藤雅彦

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