森のパン屋さん

齋藤雅彦

小説

840文字

わたしは森のパン屋。お客は熊さんや、りすさん。熊さんは蜂蜜でお支払い。りすさんはどんぐり、くるみでお支払い。

 まあ、当然赤字だよね。

    *

 あれ。熊さんとりすさんが、けんかしてる。さっきまで仲よくパンを半分こして食べていたのに。

 どうしたの、けんかは駄目だよ、って間に入ったら、りすさん。

「だって、熊さんが、神様なんていないって言うんだもの」

「いるわけないだろ。だいいち見たことあるの?」と熊さん。

「そりゃ……ないけど」と、涙ぐむりすさん。

 わたしはりすさんに言った。

「神を否定されてむきになるのはお前の信仰心が足りないからだ」

    *

 人はいかにして高度な自我を獲得するのか。

 他者も自分と同じような心を持っていると認識できるのは、他者を騙そうと考えた結果である、と言った人がいる。

 誰が言ったのかというと、ほかならぬわたしである。

 ばれない嘘をつくためには、他者にも自分と同じ心が備わっていることがちゃんとわかっていなくてはならない。

 つまり、高度な自我獲得とは、そういうことである。

 パンが作れなくなった。資金が底をついたのだ。

 冬がやってきた。

 熊さんが、飢えて死んだ。遺体は、りすさんと半分こした。

 わたしは毛皮でセーターを、内臓で漢方薬をこしらえた。

 りすさんがどのように活用したのかはきいてない。興味もない。

 雪が降り始めた。

 窓を開け、雪をながめていると、熊さんの幽霊が現れた。熊さんは、開口一番こう言った。

「神はいた」

「あ、そう」

 熊さんはわたしの素っ気ない返事に拍子抜けしたのか、取り繕うように、「パン屋、やめたんだね」と言った。

 わたしは漢方薬屋に商売替えしたのだ。

「もうかってる?」

「パン屋よりはね。漢方薬は腐らないから」

「漢方薬やろうと思ったのは、何きっかけ?」

「りすさんの所にも行ったの?」

 君きっかけだ、とはさすがに言えなかったので、わたしはさりげなく話題を切り替えた。

「りすさんは神の使いだ。霊になった僕が訪ねてくなんて恐れ多くて無理」

 そう言い残し、熊さんは消えた。いつの間にか、雪がやんでいた。

2020年11月18日公開

© 2020 齋藤雅彦

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