中華街

齋藤雅彦

小説

1,268文字

売り上げを手にすると、まっすぐ闇市場に向かい、金貨を購入してから残った金で紹興酒を飲み、シメにフカヒレのスープを食べる。これが陽(ヤン)のルーティーンだった。

 陽のなりわいはカタツムリの養殖加工。あまり知られていないが、フランス料理に用いられているカタツムリのほとんどは中国で養殖、ボイル加工された輸入品だ。

 どうして金貨にするのかって? マネーロンダリングだよ。陽が卸していたのは養殖が禁止されている外来種だった。作物に深刻なダメージを与えるだけでなく、人が死ぬおそれのある寄生虫がついてる。

 なぜそんな種をあえて養殖してたのか。成長が早いうえにめちゃくちゃでかくなるからだ。

 いや、陽は金持ちになりたいわけじゃなかった。よくある話だが、陽には難治性の病気を抱えた妹がいたんだ。病いは待ってはくれない。こつこつやってる場合じゃない。陽は妹が緩解したら、そんな違法ビジネスからは足を洗おうと思っていた。

 だがある日、やらかしちまった。カタツムリの相場が上がり、市場の金貨を全部買い占めてもまだ懐に札が残っていた陽は、調子に乗ってフルコースを頼み、さらに店の客全員にビールをふるまった。

 すっかりできあがって店を出た陽の前に、殺気を身にまとった三人組が現れた。

 ところであんた、女のきょうだいはいるかい? いない? ああ、一人っ子世代だよな。じゃあ幼馴染みは?

 このあいだ、幼馴染みと結婚した男が、幼馴染みと結婚にまで至るカップルは二%しかいないと自慢げに語ってた。

 気になって調べてみたら、この二%は、結婚相手を子どものころから知っていたと回答した数字らしい。つまり、家が近所で、幼稚園のころから一緒に遊んでたみたいな、誰もがイメージする幼なじみ同士が結婚する確率となると、さらに低くなるわけだ。

 なぜ幼馴染み同士が結婚することがきわめてまれなのか。

 幼馴染みに恋愛感情を抱いたことは?

 ない? なぜ?

 そう。きょうだいみたいなものだからだ。

 幼いころからよく知ってる異性に性欲を刺激されることはまずない。インセストを避けるための本能だ。

 これがきょうだいみたい、じゃなくて、実際のきょうだいだったら?

 あり得ないだろう?

 しかし、そんなあり得ないことをする人間がたまにいる。

 あいつらは、やってたんだ、きょうだいで。

 三人組をけしかけたのは俺さ。

 ああそうだ。ほれてたんだよ。奴の妹に。初めて会ったときから。

 奴が死んで、嘆き悲しむ妹の前に、白馬の王子様が登場ってシナリオだった。

 ところが。

 妹は妊娠してた。それを知った俺の熱はたちまち冷めた。

 ちょうど香港が返還されるタイミングだった。俺は店をたたんで、日本に戻った。

 罪の意識? ないね。奴らは自然に逆らうことをしてたんだから。俺は、神に代わって罰してやったんだ。

 まあ俺も罰は当たったみたいだがな。両方とも義足だよ。足のつけ根からないんだ。糖尿でね。

 だいぶ話が脱線しちまった。ウチは中華街でも数少ない日本人が経営してる店だ。味ももてなしも手は抜かない。

 しかしあんたももの好きだね。日本の中華街を取材しにわざわざ中国からやってくるなんてさ。

2020年11月28日公開

© 2020 齋藤雅彦

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

純文学

"中華街"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る