コメンテーター

齋藤雅彦

小説

1,274文字

 嬉しい、楽しい、悲しいなどの反応的感情、または驚きなどの反射的感情を一次感情と呼ぶ。怒りが入ってないじゃないかって? 怒りは一次感情のカテゴリーには入らない。なぜか。怒りにはもととなる感情があるからである。怒りのもととなる感情は、不安や不満、劣等感など。だからストレートな怒りなんてものは存在しない。ゆえに怒りは、二次感情と呼ばれる。

 どこの職場にも、とくに若い奴にすぐキレる古参社員がいるが、キレている原因は実は若い奴の仕事ぶりではなく、若さに対する嫉妬、ちょっとした態度への違和感、自分の地位に対する不満、未来に対する不安、家庭での居場所のなさから来るイライラだったりするのは本人よりも、若い奴のほうがよくわかっていたりする。自分に八つ当たりしているだけだと。だから若い奴は冷静だが、本人は自分は仕事を優先していると自己欺瞞している、いや、そもそも怒りの本当の原因、要因がわかってないからいつまでももやもやし続ける。

 これはそんな男の物語である。

 いや、そんな男の話を書くのは不愉快なので、まったく関係のない男の話をしよう。

 

 5Gの遅延速度は1000分の1秒以下です。

 1000分の1以下ときいてもぴんと来ないかもしれませんが、これは、可愛いダンス部員の割合(可愛いチアリーディング部員だともっと下がりますが)と同じくらいです。

 スマホから顔を上げると、和装の男がコーヒーカップを持って立っていた。一つ目だった。目が一つという意味の一つ目。

「むかし、顔写真に目、口を上下逆さまにするなどの加工を施したものと、加工してないものを子どもに示し、反応を見る実験が行われた。女の子は加工を加えた顔写真にはあまり反応しなかったが、男の子は強く反応したそうだ。

 男の子は先天的に人の顔への親和性が女の子より劣っている。ゆえに顔に対して集中力が続かず、変わった姿形に注意が向いてしまう。女の子より男の子のほうが虫が好きだったり、妖怪、怪獣が好きだったりするのはその副産物としての効果だ。ミニオンズが男の子にウケるわけだ。この傾向は動物を狩るのにも有利となったはずだ」

 アイスティーをひと口飲んでからKは、「まあ座ったらどうですか?」とうながした。男は優雅な動きで椅子を引き、腰かけた。

「一つ目小僧だ。小僧って年じゃないんだが、本名なので突っ込まないでくれ。で、どうかな。出られるか? テレビに」

 Kは人差し指で頭をかきながら、「残念ですが、欲しいのは妖怪なんですよ」とこたえた。

「妖怪だろうが。一つ目だぞ」

「目が一つってだけでは」

 真一文字に口を結び、がっくりと肩を落とした男にKはこう続けた。

「かわりにどうでしょう。いまワイドショーの文化人枠に空きがあるんですよ。コメンテーターでよければ紹介しますが」

 しばらく男は一つ目をさまよわせてから、「できるかな。わたしに」とつぶやくように言った。

「むしろ向いてるかと思います。ギャラは妖怪枠よりだいぶ下がりますが」

 男はすっかりぬるくなってしまったであろうコーヒーを飲み干し、ため息をついて、二、三度首を縦に振り、「引き受けよう」と言った。

2020年11月11日公開

© 2020 齋藤雅彦

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