炎上

齋藤雅彦

小説

1,144文字

 制服や眼鏡のよさは、なまの個性を殺してしまうことだろう。どぎつい個性も制服や眼鏡で親しみやすい存在に変わるのだ。もちろん制服の種類、眼鏡のデザインにもよるが。

 たとえば、千手観音なんてのがある。あれはとてもインパクトがある。だが、セーラー服を着せ、眼鏡をかけさせたらどうだろう(腕がたくさんあるから着せるの大変だ、なんて古典的な突っ込みは無用。袖なんかない。両サイドに切り込みが入っていてかぶせるタイプになっているものとする)。

 さて、イメージできただろうか。セーラー服と眼鏡だけで、とたんに親しみやすいキャラクターに変化したでしょう。

 と、こんなしょうもないことを考えながら中華料理チェーン店のカウンターでビールを飲んでいると、仏像顔の女子二人組がやってきて、斜め後ろのテーブル席に座った。 

 仏像顔というのは、けなしているのではなく、ほめ言葉である。人間は中性的な顔だちを美しいとみなす傾向にある。仏像は中性的につくられている。

 ところで仏頂面という言葉があるが、あれは仏の知恵を具現化した仏頂尊の威厳に満ちた表情が無愛想ともとれることから、マイナスの意味として広まったらしい。

 語源からすると、仏頂面もそう悪くはないのではないかと思ったかたもおられるのではないか。

 仏像顔の一人は色白。もう一人はオリエンタルな小麦肌だ。

 肌の色はメラニンの作用と皮膚の厚みで決まる。メラニンは二種類ある。ユーメラニンとフェオメラニンである。黒くするのはユーメラニン。フェオメラニンはユーメラニンの劣化版である。

 二人は五分ほど迷って、火鍋と石焼き麻婆豆腐を注文した(断っておくが、わたしは二人をじっと観察しているわけではもちろんない。着席時にちらっと見てからは、きき耳を立てているだけである)。

「わたし猫舌なんだよね」

「わたしも」

 猫舌が火鍋と石焼き麻婆豆腐とは。なんと大胆なチョイス。

 新生児は、舌を動かして母乳または人工乳を飲む。猫舌は、新生児のスタイルから成長していない証拠である。舌が先に迎えに出てしまうため、熱っ、となるわけだ。

 火鍋がセットされたようだ。少しして石焼き麻婆豆腐が、石の焼ける音を放ちながら運ばれてきた。

「中学のときの同級生がモデルやってるって、前に話したでしょ」

「うん。きいた」

「そのコのツイッター、炎上してた」

「えー、まじで」

「ほら、見て」

……あー、こういう系のノリね。はいはい」

「結局SNSってのは仲よくしたい人たちがメインのものなんで。仲よし感、安心感を破壊するような人間が叩かれるのは当たり前なんだよね」

「そうそう。自律的な大人の反応を期待するほうがそもそもの間違い」

「ねえ、鍋、炎上してない?」

「え? うわー!」

「火、弱くして」

 なかなか食べ始めないが、猫舌なんだからこれでいいのだろう。

2020年11月17日公開

© 2020 齋藤雅彦

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