第56章

根津權現裏(第57話)

焚書刊行会

小説

1,912文字

芝公園にて凍死体で発見されるという最期をむかえた「破滅型の私小説作家」藤澤淸造の代表的長編の電子化テキスト

 ると、ほんりになったのか、あしみだしてりしきっているあめは、そこここけんとうはんしやして、まるでぎんせんてつらねたようになっていた。わたしはいきなり、やぶじやひらくとそれをかざして、つかれもなにわすれて、とおりのほういそいででてきた。
 てみると、それでなくともさびしいあたりは、いまはもうしずまっていて、かいていのようにひっそりとしていた。あいだやぶってきこえるものとったら、一こう宿しゆくしやほうえている、いぬこえぐらいのものだった。わたしはちょっとげてみると、にはかぞえられるほどのけんとうが、これもまたむそうにまばたきをしていた。
 ときわたしは、みやくつように、わたしひだりあしいたんでくるのをはっきりかんじた。はっきりかんじられてくると、なにいままで、わたしおうこうじんまえていたのではあるまいし、はじめからおわりまで、じっせいしているにはあたらなかったのだとおもったが、しかし、そううことはあとまつりだった。だから、ときにはけいに、わたしこころちは、うえからふたでもされたようにくらくなってきた。それと、時雨しぐれやされてきたが、わたしひととおして、一だんみてくるのをおぼえた。だからわたしは、えりきあわそうとおもって、むねほうをやると、あぶなかいちゆうれていたざっしよが、ずりちそうになっていた。それをうちほうしこんで、そして、えりなおして、まるでかせづけられたものが、あるくようなあしりでもって、わたししずかあるいてきた。
 なかにも、になるのはおかのことだった。──おかのことをおもうと、むねいたりにされてくるのだ。
 おかが、はっきようあまりになったものだとうことは、もううたががない。そして、げんいんは、かれ宿しゆくしつちくのうしようと、まんせいこうえんとにあるのだ。かれびんぼうゆえにそれをおこたっていたあいだに、いっぽうびようせいだいあっしてきて、ついにかれをして、きようしんけいすいじやくおとしいれてきたのだ。だからかれあたまあとために、あのばくれつだんでもるような、けんじようたいになっていたのだ。たまたまへ、かれあたまへ、みやせいけんしらろうえいしたことがおもいかえされてきたので、それがかれためにはまさにてんされたもののようになって、とうとうばくはつしてしまったのがこんけんなのだ。それにそうない。
 ってきて、くまでこううまれついていたかれは、あいかれきとってくわえてやればやるはずわたしものが、ひんきゆうてんからして、じんかれびようじようようだいかんなどにづかず、またづいたところで、すすんでそれがにんあたってやるほどのゆうっていなかったのにたたられて、かれはついにななくともいのになおんでいかねばならなかったのだ。いまになるとわたしは、じんみやうらもうなどとはおもわない。えば、かれけんとうしやとして、にはわたしたちだいしやそうぞうすべからざるいくさいおくそくはたらいていただろうからだ。ちようそれは、ぶんうしないかけていてもなお、おかぶんくしようとねんじていたのとどうように、かれきよくに、ぶんまもることをのみいられただろうからもないことだ。すくなくともわたしは、「はいぐんしようへいだんずべからず」とうのとおなにおいて、みやうらめたではない。そうひまがあったら、わたしいっ退いて、ぶんげんむちうち、ぶんのうげんあざけるのにくはない。
 ただえば、かれはそれまでに、どうしてりようこうじようとはしなかったのだろう。かれおちいて、りきでもってりようなかったことはわかっているが、そうしたらかれは、ぜんびよういんたずねるなり、または、とくかいぎようつけるなりしなかったのだろう。とは一おうおもうものの、かれにもそういたましいことはなかったのだろう。なるほどけんでは、ぜんりよう(※りようしんりよう)をかんばんにしているところはないではない。だがそうったところは、しんさつけるにしてからが、かなりはんつづきまなければならない。がいましのんでそれをして、ようやくのおもいでしんさつけることはても、それはほんのばかりでには、えがたいいくじよくかたじけのうさせられることをかくしてかからなければならない。つまりには、一かいしんさつけるほうしようとして、ぶんじんかくうものを、あますなくじゆうりんされなければならない。だから、これがなんらのほこりもたないにんげんには、えてしのべるかもれないが、いやしくもに、いくぶんそんがあり、しんしているものには、とてとてえうるところではない。おそらくはかれも、いたましさのまえに、だんあたまなかなまりへんとうにゆうされ、ちくせきされてくるようなつうい、だんはくひようわたるようなあんられながらも、なおえてそれをなさなかったのだろう。いくぶんけいけんがあるだけに、わたしだけにははっきりそれがわかってくる。

2020年11月9日公開 (初出 日本図書出版 大正11年発行 単行本

作品集『根津權現裏』第57話 (全60話)

© 2020 焚書刊行会

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