第54章

根津權現裏(第55話)

焚書刊行会

小説

1,769文字

芝公園にて凍死体で発見されるという最期をむかえた「破滅型の私小説作家」藤澤淸造の代表的長編の電子化テキスト

 ところで、よわったのは、までいってもだからだ。いましんけいすいじやくが、どうてんからおこってくるものかとうことをかんがえるにつけても、わたしぶんげんあきれてしまう。くらあたまってみても、それにたいするしきらしいしきかいなのだから、なさけなくなるのだ。わずかにわたしあたまそこをはたいて、りだしてたところでは、それはしんろうやまたはどくしよ、それに、れんじつれんすいみんそくくらいのものなのだ。そうだ、ほかにもひとつある。それはしゆうかんせいしゆいん(※いんけいあいによるしやせい)からもくるものだとぐらいのものなのだ。おそらくはほかにもまだまだあるだろうとはおもうが、それがすこしもわたしにはわからないのだ。
 で、いまの四しやいてかんがえてみるのに、わたしってかぎりでは、かれとくにこれとって、かぞえるにるほどのしんろうらしいしんろうっていなかった。このたびけんもっとちかかんないにおけるしんろうえば、それはあのふさわかれたことくらいのものだ。ところでかれしんしんともにちこんで、いすがるようにしていたふさなるものを、かれほうからすすんでわかれるようにしたのだから、わたしに、かれしんけいすいじやくせしめるほどふかゆうしゆうなりつうさなりがあったものだとおもわれない。
 つぎどくしよだが、がんらいかれは、さほどどくしようほどのどくしよではなかった。だいかれは、どくしよしたくとも、どくしよするにるほどの、しよせきらしいしよせきっていなければ、よしまたそれはぞうしていたとしたところで、それにしんしやしているかんっていなかったから、これももんだいではない。だい三はすいみんだが、これとてもかれは、かんごとをしていたわけではないから、れんじつれんすいみんそくがちになるようなはずがなかった。すくなくとも、わたしっているかぎりではそうだった。だから、のこる一しゆいんだが、はともに、かれしんでなければわからないことだ。ただわたしは、さきにもったとおり、かれじよせいたいして、いっそうしゆしやだった。したがってかれは、わたしなどとちがって、おいらんいんばいいにいくとうこともまれだった。てんからすいそくすると、よしかれしゆいんすることはあっても、それがちよくせつこんしっかんいんをなすほど、しかはげしかったものとはおもわれない。だから、わたしはまたまでくるときづまってしまった。もううえくらかんがえをめぐらしたところで、ないそでれないのとおなしきてこようはずがない。がそうかとって、ままにしてしまうにもなれないところから、なおもそれをおもいつづけていると、ちようせられたむずかしいにしているそばから、まだかまだかとって、うるさくかいとうさいそくされているようないらたしさをおぼえてきた。
 で、わたしあたまうっとうしくてたまらなくなったので、おもわずつむって、あたまゆうると、ふとときわたしこころはないっうつってきた。がもなくそれがえたとおもうと、こんはそれにかわって、はっきりおかかおあらわれてきた。とどうに、わたしさがしあててはうしない、さがしあててはうしなって、こころとおくしていたなんもんが、ちようむすれたいとのようになって、するするとけてきた。とうのはほかでもない。かれじつかれはなからして、こんのようなことをじやっしていたのがはっきりしてきたからだ。つまりかれは、ねん宿しゆくしつだったちくのうしようと、まんせいこうえんとのために、ぜんしんけいおかされてきたけっが、こんしっかんになったのだ。それに相違ちがいない。そうおもうとわたしむねときようちよう(※せまくけわしい道)たるやまのぼりつくして、きやっとおくつらなるへいを、一ぼううちおろしたときのようになってきた。
 ところで、そうとわかるとこんは、かれは、いままでにそれをりようしなかったのか。そうったふうに、おこたるとうことは、やがていのちくするのにひとしいしっかんを、なにゆえおこたっていたのか。それともかれは、どうらなかったのだろうか。それがさらあたらしくうたがわれてきた。がしかしそれは、とおあめのようにぐとれてきた。そして、あとにはみなそれはびんぼうゆえおこたっていたのだ。どうつうりぬいいたが、びんぼうゆえかたなくおこたっていたのだとうことがはっきりしてきた。はっきりするとわたしには、それがひとごとのようにおもわれなかった。びようしつにはいくぶんそうはあっても、じつあいつうは、げんざいわたしめつつあるところのものだからだ。またわたしはそれとづいたせつには、かれしようがいを、わたしわたししんうえるようなかんじにたれてきた。

2020年11月7日公開 (初出 日本図書出版 大正11年発行 単行本

作品集『根津權現裏』第55話 (全60話)

© 2020 焚書刊行会

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

私小説 純文学

"第54章"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る